閑話:主と従者
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~イグネイシス視点~
「なんだか短く感じるわね今回の仕事。結構楽しかったわね、領の皆さんは優しいし」
「……まぁ、いつもの仕事に比べたらわりと平和だったしな」
帰路についてから早2日、雪が溶けたことで活発に動く魔物も増えていることから交代で見張りを置いている。今日は俺とベルがその役目、俺達以外は各々は明日に備え休息していた。
そんな中、特別話さなければいけないことがあるわけではないので冒頭の話をしていたわけだ。
今回の仕事に関してどうだったかと聞かれると、まぁ、比較的楽しかったと俺も答えるだろう。呪いという予想外の問題はあったものの、いつもは災害のあった地域に行って怪我人を直したり、戦場の後方支援をしたりと切羽詰まった仕事が多いから。
それに今回は……
「私知らなかったわー。イグって教えたりもするのも上手いのねー」
「……いつも部下に教えてるだろうが」
「皆はすでに基礎が身に付いてるじゃない。勝手が違うと思うわ?」
……確かに。何だかんだで診療所に入ってくるやつらは優秀なんだなと再確認はできた。
これも予想外だったのだが、俺は今回の仕事でダンスとマナーのレッスンっていうのを男爵令嬢にすることになった。最初はガキがあの令嬢にやっていたのを見ていただけだったのだが、魔法と違ってこっちは無意識に身に付いてしまっているのか、教えるとなるとしどろもどろとしていて見ているこっちがイライラしてくる有り様。
つい口を出してしまったものの、俺にとってダンスやらマナーというのは、現在の生活では使用することがほとんどない懐かしい分野。大変だったという一言に尽きる。
というのが俺の率直な感想なのだが、俺が指導者の立場になっているのを見て、俺の幼なじみは面倒な問題を掘り返す。
「イグは魔導師として弟子とかはとらないの? 教えるの上手なんだからとればいいのに。
クレアちゃんは別として、王宮魔導師で弟子をとったことないのイグだけよ? 早く誰かとらないと城のお偉いさんたちがまた『うちの孫はどうでしょう』とかって押し売りにくるわよ」
その押し売りは記憶に新しい。というか王都に帰ったら週一のペースで来るのだからたまったものではない。
ただ、ダンスやマナーと魔法っていうのは全くの別のものだと思うが……と思いながらも、俺の答えは決まっているのだから関係ないな、とその反論は脳内にとどめ、「とらない」という答えをベルに返した。
「どうして? 次世代の育成も王宮魔導師の大切な仕事よ?」
「どうでもいいな」
この国最強の"盾"と"矛"である王宮魔導師。その名を背負っている俺たちは後釜を作っていくことを命じられている。だから城の重鎮だかなんだか知らないが、そいつらの押し売りもきつく断ることができないから困ってしまうわけなのだ。
そして城とどまっているセヴェール様然り、各所に散らばっている王宮魔導師のほとんどが弟子をとっているだろう。そしてこれまでにそういったことをしたことがない王宮魔導師は俺だけだ。目の前にいるベルも、診療所を作る前から何人かに魔法を一から教えている。ベルの弟子ともそいつらに俺が教えるということもあるのだが、やはり師匠と弟子という関係とはまた別物。上司と部下というのが一番しっくり来る。
そのせいで、城の重鎮たちが自分の血筋で魔法の才能を持った子供を俺に預けようと押し売りしてきて面倒極まりないわけである。……しかしそれでもこれから先むやみやたらに弟子をとる気は無い。
「勿体ないわねぇ、教えるの上手なのに……」
「関係ないんだよな。俺、弟子にしたいやついるし」
俺がそう言うとベルは『はぁ?』という顔をする。
いるんだったら弟子にしろよ。とまぁ、こんなことを思っているだろう。
しかし弟子にしたくても出来ないのだ、まだ出会ってすらいないし、その子が魔法の才能をもっているかすらわからず、この世に生まれて来てすらいないのだから。
どうゆうことだと疑問に持つのであれば、これだけ言えばつたわるだろうか。
俺は従者でなくなったとしてもハイレン家の人間なのだ……と。
たとえその道に進まなかったとしても、その心は、この忠誠心はハイレン家特有のそれなのだ。何年も何年も……これからもずっと。
俺が仕える人はただ一人。俺の力を有するのもその人のみ。
俺はその人以外のために自分の力を使うつもりは一切無い。
だから俺が一から魔法を教えるとするのであればそれは……俺のたった一人の主の血をひく者だけだ。
そんなことを思いながら、俺は持っていた毛布にくるまり、寝転んだ。そして吐き捨てるように、
「お前早く結婚相手探せよ。もうすぐ俺ら30だぞ、仕事とか弟子のことまで気にしてたら婚期逃すからな」
と、言い放った。
「はぁ!?」
「俺に弟子が出来ないのお前のせいなんだからな……」
「ちょっ、なによそれー!」
ベルが、ギャーギャーと騒いでいるのを聞きながら俺は静かに目を閉じる。寝はしない、しかし少しは横になっていないと明日辛いのだ。
その時の俺は知らない。ベルが『誰のせいだと思ってるのよー!!』と心の中でも叫んでいることも、そもそもの問題が俺のせいでもあるということも。
ただ『40までには弟子ができてて欲しいな』なんて考えていた。
だから数日後、自棄になったベルに告白され、猛アタックを受けることなんて、わかるはずもないのだ。
読んでくださりありがとうございますm(__)m
次回の投稿は12日(土)の予定ですので、どうぞよろしくお願いいたします!




