雨音が鳴り響く日に
誤字報告をしてくださった方、本当にありがとうございますm(__)m
"ザーッ……"
「……んんーっ……よく寝たー!
……ん?」
おはようございます。ミミズが大嫌いな転生者、クレア・フロワールでございます。
やっと畑を耕せるようになったことで調子に乗って魔力を使いすぎ、気絶するように眠りについたのは昨日のこと。
そして先ほど目を覚ましたのだが、なんということか。外は生憎の雨のよう。これでは畑を耕しにいけない。今日はお休みになりそう。
しかもしかも。
手持ちの時計を見るとなんということでしょう。
現在朝の5時半……
「……えっ、うそ」
昨日早く寝付いてしまったからかその分早く目が覚めてしまったようだ。
しかもいつもなら余裕で二度寝をする時間なのに全然眠くない。
少し歩こうと身支度を整えて部屋の外に出る。
人様の家を勝手に歩き回るのもどうかと思うが、歩き回っていると物音がする場所があった。
どうやら調理場らしい。私は一つだけ明かりのついているその部屋を覗いてみる。
中ではステルが一人で料理をしていた。十中八九作っているのは私たちの朝食だろう。こんな早い時間から……私はつい感嘆の声をこぼす。
「あれ、クレア様?
どうされたんですかこんなところ……しかもこんな早い時間に!」
ステルは私に気付き、驚きながらも手を止めて私に走りよろうとする。
「いいよ、いいよ、続けて!
ちょっと目が覚めちゃって歩いてたの。すごいねステル、こんな時間から朝食作ってたんだ……」
「そうなんです。領の皆さんに配ったりもするので!
でも料理は好きなので朝は早いですけど楽しいですよ?」
「そうなんだ……あ! 今なにか私が手伝えるようなこと無い?」
「え!? そんな、クレア様に手伝っていただくなんてそんな恐れ多い……」
「いいの、いいの。今は居候させてもらってる身なんだからちょっとはお手伝いくらいしないと。
それに今日は雨が降ってて畑を耕しにも行けそうにないんだ。
ね、なにかない? 味付けとかはなれてないから皮剥きとかだと助かるんだけど……」
「あ、ありがとうございます。
な、なら……」
そう言ってステルはじゃがいもを持ってきた。
その量に一瞬固まるが、やってやろうではないかと精を出す。
しかしこの世界にピーラーと言うものは無いので包丁でやるしかない。それに慣れていない私は今度ピーラーを作って世の中に売りだして貰おうと心に決めながら、このままでは日がくれてしまうと思い魔法でパパッと皮を剥いた。
ステルはそんなことに魔法が使われていることに驚きを隠せないようだったが、まぁ魔力が大量にあるからこそなせる技だと思って欲しい。
そんなこんなで朝食を作り終わり、皿を食堂に並べているとイグネイシスさんも食堂に来た。
今日は雨が降っていて畑が耕せないのでベルさんは寝たいだけ寝させることにしたらしい。
しかしそんなのんびりとした朝は一瞬にしてあわただしく変貌する。
本当に突然のことだった。
「あ……」
"ガッシャーーン"
「ステル!?」
調理場から料理を運んでいる途中、ステルが倒れたのだ。
額に手を当てても熱があるわけでもない。
訳がわからず私はただ、ステルの名前を何度も呼が、反応は無い。
すると食堂からイグネイシスさんと男爵が出てきて、イグネイシスさんはベルさんを呼びに、男爵はステルのもとへと走る。
それから一分もしないうちに、髪を大雑把に一つに結んだベルさんが来て、ステルを部屋に運ぶように指示を飛ばし、ベルさんとイグネイシスさんはそちらに向かった。
そしてその後、ベルさん達には「疲れが貯まっていただけだとおもうわ、大丈夫よ」と言われたけれどその日はステルの事が心配で魔法の書を読み進めることも出来なかった。
~イグネイシス視点~
倒れた令嬢のことをひどく心配するガキをベルがなだめつつ、部屋に押し込む。
笑顔でガキの背を押すベルは化粧もしておらず、髪もボサボサ。いつものキチッとした外見はどこへやら。
……ってそのキチッとした外見を作ってるのは俺だが。
余談だが先ほど寝起きの悪いベルがなぜそんなに早く現場に行けたのかというと、ベルは『急患』という声には敏感に反応し、すぐに覚醒するのだ。まぁ、それを知ったとしても日常的に使うわけにはいかないので寝起きが悪いのは本当にどうにかして欲しいところだが。
ガキを部屋に押し込み終えるとベルも自室に入って扉を閉め……るのを無理やり止めて俺は中に滑り込む。
入ってくるなとギャーギャー騒いでいるが、そんなことは気にせず気になっていることを聞いく。「で? あの令嬢の本当の病名は?」と。
ベルは文句を言うのを止め、「やっぱりイグは誤魔化せないか……」と苦笑いをうかべる。
なにを当たり前のことを……一応俺お前の診療所の副院長なんだが。
なぜこんなことを聞いたというと理由は2つ。一つはガキが異変に気づかないとは思えないからだ。
あのガキの観察力は、目の前にいる人の体調が悪いことに気づかないほど低くない。ましてや倒れる直前まで近くいたのだから。
過大評価ではない。ガキと会ってから1ヶ月ほどしかたっていないが、魔物との戦闘や夜営をするにあたって観察力は無くてはならないものだ。何よりあいつはあの年ですでに魔力の粒子が見えているらしいし、それが出来るということは数えきれないほどの場数を踏み、自分を、相手を観察することを日常とし、それを続けたということだ。セヴェール様の弟子らしいが、一体どんな訓練をしてたんだ。
まぁそんな話は置いといて、もう一つの理由は、ベルがあの令嬢に魔法を使わなかったから。正直これが一番の決めてだな、ガキのこととかどうでもいい。
あの令嬢が本当に疲労で倒れたのてあれば、魔法を使えば一瞬で治るのに使わなかった。
魔法によって治らないものは2つある。一つは精神的な問題。もう一つは病気だ。
ちなみに疫病なども直接治すことは出来ない。しかし原因が分かればそれを取り払うことはでき、結果治るため、疫病が広がっている地域に聖魔導師が派遣されるのだ。
話は戻るが病気だった場合、下手に魔法をかけると悪化することがある。だから病気だと判断した場合気軽に魔法はかけられない。
だから令嬢に魔法を使わなかったということは、もはや原因は疲労では無いと言っているようなものなのだ。
しかしこれはただの考察である。実際にベルがなんと診断し、なにを思い男爵とガキには疲れだと伝えたのかは分からない。
「で? なんなんだ?」
再度回答を求めると、ベルは少し考えるような素振りをみせ……
「"魔力欠乏症"……かもしれないって思ったの」
そう、小さく呟いた。
「魔力欠乏症? また珍しい病気だな……」
魔力欠乏症とは言葉通り、魔力が欠乏する病気だ。魔法を使っていないのにも関わらず魔力が身体から漏れ出すのだ。漏れ出していてもその分回復していればいいのだが、回復量の方が少なければ体内の魔力は減る一方、この病気になれば魔力の回復が遅くなる、もしくは出来なってしまうため体内の魔力が欠乏するのだ。この病気は魔導師がなることが多いのだが、一般人もなることがある。
初期症状は倦怠感とか目眩とか……あ、過労とほとんど一緒なのか。
「魔力は漏れ出してたのか?」
「……出てた。ただ、微々たるものであれくらいなら私たちからも日常的に出てると思うわ」
「ん? じゃあただの疲労じゃあ……」
「……勘よ」
勘……
「勘!?」
「勘よ、悪い!?
私の中の何かが過労じゃないって言ってたの!
でもそんな理由で二人にまで言うわけにはいかないし……ただの疲労であればしっかりと休養を取ればある程度回復するはず。魔法を使わなくも明日1日寝たら目を覚ますでしょう。
でももし魔力欠乏症だったら……」
ベルは表情を暗くして、床を見つめる。
それも仕方のないことだろう。
この魔力欠乏症という病気は……治せない、治療法が無いんだから。
魔力欠乏症になってしまった者は……いずれ昏睡状態に陥る。栄養も取れず……緩やかに命を落とすのだ。
「ただの杞憂であればいいな」
「ええ……」
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