嫌いなものは突然に
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住民と話してみて新たな疑問点が生じたものの、そちらについては手の施しようがないため、当初の予定通りヴァールハイト領の復元のための小会議を開く。
「話を聞いてみた感じは耕せさえすれば後の管理はなんとか出来そうだったわね。
時々魔法の介入が必要そうだけど、それは持ち帰って検討してもらうとしましょう」
「じゃあ、耕していきますね。
外側は魔物が出ると言うことだったので中央の畑から終わらせた方がいいですか?」
「そうね。あ、種をまくにはすこし時期が早いから今のところ耕すだけでいいわよ」
「わかりました」
ということで、私たちは中央からそんなに離れていない場所にある畑に来た。
すこし移動しただけなのだが、それでも手がつけられていない畑は多く、目の前にある畑ももの寂しさを漂わせている。
今は冬なので草が青々と生い茂っているということはないが、それでも枯れ草やらが畑を覆っており、手で耕すのは大変そうである。
そんなことを考えていると、イグネイシスさんがしゃがみこみ、土を手に取ってじっとそれを観察しだした。
「どうしたんですか?」
「土を見てる」
見ればわかる。
いきなりどうしたんだと聞きたかったんです。
「イグは今、土の中に病原菌がないか探してるのよ」
私の疑問にはイグネイシスさんではなくベルさんが答えてくれた。
さすが覚醒後のベルさんは違う。
ってそうではなく。
「病原菌?」
「そう、この領で蔓延した疫病について調べてみたんだけど、その原因が未だにわかってないみたいなの。症状は魔力暴走に似ていたらしいんだけど、そんな病気知らないし……
発病者が出なくなってから9年くらいたってるからもう見つけられないと思うけど、もしわかったら報告出来るから。
ここは畑作を主軸として成り立っていた領地だからもしかしてと思って。……で、どお?」
「……いや、土壌から感染する病気はなさそうだな。食中毒とかは別として」
「そう……やっぱりもう分からないわよね。
でもとりあえず畑を耕すことで疫病にかかることはなさそうね。
ただ、何が起こるか分からないから注意していきましょう」
「わかりました」
さて、じゃあこの枯れ草とかを撤去していくかな。
そしてそれぞれが、領の復元のために魔法を駆使し出して数十分。
私はベルさんとイグネイシスさんが畑を一生懸命耕して行くのを眺めながら、覚えたての錬成魔法で柵やら鍬を作ることに勤しんでいた。
そしてその傍らには大きなミミズが置かれている。
私は傍らのミミズが間違っても視界に入らないよう遠くを見つめる。
……なぜ、こんな状況になったのか。
一つはベルさんとイグネイシスさんの連携に私がついて行けなかったからなのだが、あと一つが問題だった。
私……このうねうねした生き物が苦手なのである。
今さらとか言うなかれ。
その事に気づいたのがついさきほどなのだから。
遠くを見つめていたのだが、うねうねとこちらに近づいて来ているような気がして、その恐怖に耐えられす、そばに置かれたミミズを見る。そして無意識にひきつった頬を揉みほぐす。
……私の言い分どうか聞いてくれないだろうか。
つい、つい数ヶ月前まではなんともなかったのだ。
だから畑を耕すというこのうねうねにを見かけても仕方のないこの仕事をやるとなったときもなんとも思わなかった。
畑を耕した経験は無いけどなんとかなるだろうとも思っていた。
しかし、だ。
いざ耕して見て数分後、私は出会ってしまう。高速で土壌が耕されているため空中に取り残されてしまっていた彼……ミミズに。
そして恐怖のフラッシュバックが起こった。一周目のクレア・フロワールの記憶だ。
なぜそんなことになったのかは割愛するが、一周目の私の服のなかに……今、隣にいるミミズくらい大きなミミズが入ってきたのである。
こう、背中にヌルッと。
……思い出した抱けでも気持ち悪い。ぞわっとする。
そう、そうなのだ。あぁ、この記憶さえ戻らなければ大丈夫だったのに……
ミミズが悪くないのはわかっている。
頭ではわかっている。ミミズは畑を豊かにしてくれる存在なのだから、いてくれることにたいして感謝するべきだと……
しかし感情が邪魔をする。
「思い出したくなかった……」
こんな記憶、仕事の邪魔にしかならない。
私は"忘れろー、忘れろー……"と、念をかける。
しかし思い出してしまったものは忘れられない。
でもミミズが嫌いなままでは仕事の邪魔……ということで、他の仕事をしている間はこのミミズを傍らに置き、なんとか慣れさせることになったのだ。
すまんな、ミミズ……私のトラウマ克服を手伝ってくれ。
私がこんなことになったのは一周目の世界で君の仲間が私の服のなかに入ってきたせいなんだからこれくらい許してくれるよな。
そしてそんな日が一週間ほど続いた。
私はその間、柵や鍬などを作り続けていた。
もちろんそれだけではなく、ミミズが湧いてこない仕事……例えば、井戸の掃除だったり、道をきれいにして舗装したりをしていた。
あと、ステルの師匠は錬成魔法は使えないそうなので、私もまだまだ勉強し始めたばかりなのだが、ステルに錬成魔法を教えたりした。
そして、一週間ほどたった今……
「おい、ガキ」
私はイグネイシスさんに呼ばれて振り返る。
そして、
「はい…………ひょっ!」
飛んできたミミズ(おもちゃ)を凍らせることなく避けた。
「……うん。まぁいい、今日からお前も畑耕せ」
「りょ、了解ですぅ……」
なんとか合格をもらえたようだ。
あ、ちなみに今のは『私がミミズを嫌いなりにも共生出来るかテスト』である。
先ほどのようにイグネイシスさんが……時にはベルさんが突然私に向かってミミズ(おもちゃ)を投げてくるのである。このミミズ(おもちゃ)は私が教えた魔法でステルが作ったらしいのだが、それはそれは精密に、本物そっくりに作られており、正直恐怖でしかなかった。
あのねちゃねちゃ感も再現しているのだからもう本物なのか、おもちゃなのかわかったもんじゃない。
最初の頃はミミズ(おもちゃ)をみた瞬間魔法で殺してしまったり、勝手に氷の魔力が出てきて冬であることも合わさり回りが氷ってしまったりしたのだ。
しかしここ数回はミミズ(おもちゃ)を殺すことなく避けることができている。進歩、進歩。
私はやっとこれで足手まといでなくなるとほっと胸を撫で下ろした。
……決して、決してもうミミズ(おもちゃ)が飛んでこないことに対する安堵からではない。
次回の投稿は29日(土)を予定しています!




