死にたくないので
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私は固まった。そして頭の中を様々な情報と考えが駆け巡る。
目の前にいる少女はヒロインである。そうかも知れないと思って接するべきだろう。
ステル、辺境の男爵の令嬢。これだけではあまりにも決め手にかけると思われるが、長年の魔法の鍛練と、実戦によって見えるようになった魔力が更なる情報を私にもたらす。
目の前の少女の魔力の流れは整っている。これは魔力操作がきちんとできているからこそ。
それは少なからず目の前の少女が魔法を学んでいるということを表す。それは少女が魔法を教われる環境にあることを意味し、成人の儀を終えても王都に収集されることなくこの領にとどまっている理由がつく。(もちろん魔法の才がなかったということも考えられるが)
そして容姿。ゲーム中はヒロイン視点であるため、攻略者の顔とかは何度も何度も出てくるが、自身の顔が登場することもまずなかった。
しかも、私がやっていたゲームにおいてヒロインの顔は出てこない、正確には目元が。時々あるだろう、いい感じに髪とかで目が隠れてるあれ。スチルなどもいい感じに目元が隠されていた。
しかし、だ。目元以外の情報は得られる訳だ。髪の色とか。
で、その髪色なのだが、珍しい髪色なのだ。ピンクブロンドっていうのかな? 多分パーティーとかに行ったら『素敵な髪色……』って会場がざわつくぐらいには珍しい。そんな髪色の人が同学年に何人もいるとは考えにくい。
……そういえばゲームでヒロインがパーティーに参加したとき回りの令嬢がざわざわしてたのってそういう理由もあるかも。
嫉妬か。無い物ねだりしてもどうしようもないのにね。あ、私の銀髪は頑張ったらいつかなれるかも知れないからねだってても良いぞ。
という事で、目の前にいる少女がヒロインであると私は考えることにした。
これまでにかかった時間はものの2秒。そして私はさらに1秒ほど頭を高速回転させてある決断をした。
行動に移してしまえば、もう後戻りすることは出来ない。
「はじめまして! 私、クレア・フロワールって言うの。これからしばらくの間よろしくね!」
「えっあ……よ、よろしくお願いいたします」
「そんなに緊張しないで。
実は私たち同い年みたいなの。だからよかったら仲良くしてもらいたいなぁ……なんて。
あ、いきなりごめんね。その……あの……よかったらあなたのことステルって呼んでもいい?」
「え、あっ……えっ、も、もちろんです」
「わぁー! よかったぁ。
私のことも気軽にクレアって呼んでいいからね!」
「く、クレア、様……」
「うん! よろしくね、ステル!」
その後、ステルに魔法を教えている先生も加わり、みんな一緒に食卓を囲んだ。
ステルは魔法の才をいくつか持っていて、専門魔法の錬成魔法の才能もあるそうだ。私は心中で『あー、そういえばヒロインも錬成魔法使えたなぁ』なんて思いつつ話を聞いていた。
ステルの魔法の先生は黒いローブのフードを深く被っていてなんとも不気味な人だったのだが、ステルが小さな頃からお金も取らず魔法を教えてくれているらしく、男爵もステルもとても信頼しているようだった。ステルの先生は、男爵が改めてお礼を言ったりすると「その代わり私の実験場所を提供してもらっていますから」と答えていた。
広大な土地がないと出来ない研究もあると師匠が言っていたことを思い出しつつ、そういえば私師匠に魔法教えてもらってたけどお金とか払ってないな……とか考えていた。
晩餐は問題なく進んだ。王都に憧れているというステルに王都の話などをして楽しく過ごすことができた。
男爵の家で出されたのは野菜が少しだけ入ったスープと……芋? をマッシュしてお湯でかさ増しさせたようなもの。
正直お腹いっぱいになんてならなかったし、すぐにお腹がすきそうだが我慢である。この領にいる間は領民と同じ食事をしよう、というのは来る途中皆で決めたことだ。
晩餐が終わると泊まる部屋に案内してもらった。どうやら以前は使用人が使っていた部屋のようだ。客室は後から来る教会の人たちに取っておくらしい。
部屋数は沢山あるので、ここでは私とベルさんも別々の部屋。
さて、久しぶりの一人である。
にしても驚きである。なんでこんなところにヒロインが……
いや、なんでこんなところにもなにも自分の家なのだからいて当然なのだが、こんなに早く会うことになるとは思わなかったのだ。
なに? 魔法学院に私がいくことはなさそうだから今会っとけって?
固まりつつも笑顔を崩さなかった自分を誉めてやりたい。
ステルがいい子で、途中から普通に楽しかったんだけどさ。
私はもう学校に行くことはないだろうからヒロインとは会うことはないかもしれないとすら思っていたのに。
して、なぜ私があんな行動をとったのかということなのだが、少し説明しておこう。
私は今まで、ゲームの登場人物とは極力関わらないようにしてきた。……そうしようと最初はちゃんと思っていた。
しかしこれまでにちゃんとそれが実行出来てきたかといえば答えは"否"である。
特にレイとか。
問題はないと思っているけど。
ただレイ以外にも、避けられないものは避けられないと学んだのだ。
殿下とも初めてのお茶会の前に話してからは城で会えば露骨にさせるわけにもいかず少しは話すし、スプリット……とはあまり話したことはないけど妹のオリビエと仲良くしている以上全く関わりが無いとも言えない。
なんでそんなことになっているかと言うと、一つは無視したりするのは感じが悪いだろうし失礼だ、と言う人目を気にした考え方があるからだと言えるだろう。
そしてもう一つは……可愛い子は眺めていたいし、いい子とは友達になりたいと言う"欲"を押さえきれなかったからだ。
うん。
……こればっかりはどうしようもないよね。どうしようもないんだよ。
ってことで、私は純粋にステルと友達になりたい。
可愛いし。
え? 納得できない?
可愛いから話しかけてみた、とかそういうノリだ。
……これナンパだ。
違う。違うんだよ。違うくないけど違うんだ。
うーん。そうだなぁ。
…………あ! そう!
ちゃんとした理由、ある!
えっとね。これからステルと私がどういう関係になろうがステルはこの先15歳、魔法学院高等部に入る年になったら絶対に王都に行かないといけない。
私は魔法学院に入らなくていいとしてもステルは入学して、殿下とスプリットの後輩、レイの同級生になる。神様が運命がなんたらかんたらって言ってたからこれからどうなるかわからないけど、少なからず攻略者達と接点が出来て、将来の王妃とかになる可能性もあるわけだ。(私がそれを邪魔する気はないし)
となると今、関わらないように関わらないように心がけて、ツンツンした態度をとり、無視しちゃったりなんかして"怖い人"というイメージがついたらどうなるだろう。
それは将来的にプラスになるイメージだろうか。……否!
私とステルは学校でこそ会わずともパーティーとかで会うことはあるだろう!
そんなときに怖がられたらどうするんだ。回りが私がステルを虐めているとか言い出しちゃったらどうする!?
そして話は飛躍し、いつしか私がステルの命を狙っていると噂されるようになり、そして死刑へ……!(※被害妄想も甚だしい)
私はそんなことにはなりたくない……!
死にたくないんだー!!
……ってことで、別に親友とまではならなくてもいい。
ただ、怖い人と認識されることだけは避けようとちょっと強引ながらも先ほどの対応をとったのである。
次回の投稿は25日(火)の予定です!




