なんでここで
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『人を見た目で判断してはいけません』
前世からよく言われたものだ。
怖そうな見た目でも話してみたら優しい人だったりもするし、すっっごい美人なのに重度の腐女子だったりもするのだ。
そう、だからつなぎを着た男爵もいるだろう。
というか私もやっぱり公爵令嬢なんだなって実感してしまったよ。
当主が出迎えることもあるよね、出迎えてくれるひとが当主であるという選択肢が頭からスポーンッと抜けていた。
ヴァールハイト領は人手不足って言われているんだからなおさら……つなぎは予想外だけど。
「あんたがここの領主か?」
「あ、はい。他領の方とお見受けしますが何か……?」
「今回、王宮魔導師としてこちらの領地を復元する任をうけたの。
先に王都から連絡が届いてはいないかしら?」
イグネイシスさんとベルさんは特に驚いた様子もなく話を進めていき、男爵に陛下から授かった書状を男爵に渡す。
男爵がその書状を読み始めると次第に顔が驚きの表情へと一変していく。
「おうきゅうまじゅつし…………王宮魔導師!?
支援者が来てださるとは伺っていたのですが、まさか王宮魔導師の方が来てくださるなんて……!
長旅でお疲れでしょう……お出迎えをすることも出来ず申し訳ございません、どうぞ中に!
って、重ね重ね申し訳ないのですが、掃除にも手が回らずとても汚く……」
「いえいえ、領内が大変なのだから気にしなくていいわ。失礼するわね」
そう言ってイグネイシスさんと、ベルさんは屋敷の中へと入っていく。
何をしたら良いのかわからず、二人の後ろでひっそりと待機していた私もその後を追う。
中はピカピカとまでは行かずとも、男爵さんが申し訳なく思う必要はないほどにはきれいにされていた。
私たちは応接間に通され、ソファーに座る。
ソファーに座ったとたんに埃が舞い上がってしまったことは仕方ないと思っておこう。
それから私たちは(正確には全部ベルさんが)男爵に今後の予定を伝えた。
明日から畑を耕していくことや、領民と話して管理が可能だと思われる範囲に種をまくこと。
また、魔物が領内に入ってきているため神玉の様子を確認すること。それにあたって王都から教会の人間が来ること(まだ来てなかった)などだ。
「そこまでしていただけるだなんて……!
ありがとうございます。感謝の言葉しか伝えることができません。
民達もきっと喜びます」
「まだ始まってもないんだからお礼はこの領が元通りになってから聞きましょう。
ただ、まだ教会の方が来ていないのならばその方達が泊まる部屋を確保しておいた方がいいわ。空いている部屋を教えてちょうだい、後で私がきれいにしておきましょう(魔法で)」
「そ、そんな訳にはいきません、お客様……しかも王宮魔導師の方に……!」
「大丈夫、魔法でやれば一瞬だもの。
ただ、よろしければ私たちが休む部屋も貸していただきたいわ、狭くてもいいし、私とクレアちゃんは相部屋でも大丈夫よ」
「もちろんです! 客室が……あ、すぐに掃除をさせますので……」
「何度もいうけど掃除は大丈夫よ……魔法でやれば一瞬だから」
「な、なにからなにまで申し訳ございません……」
「気にしないでちょうだい。
あ、そういえばさっき"小麦が無い"と話してたわね。今日はもう遅いだろうけど、王都から沢山持ってきたの。後でその食物庫に入れておきましょう。
クレアちゃん、後で頼める?」
「あ! わかりました!」
今まで物珍しさに回りを見渡していた私は驚きながらもそう返す。
そういえば小麦とかも沢山空間に入っている。さっき困っていたときに渡してあげればよかった。
後で食物庫がどこにあるのか聞かないと……
「な、なんと……!
心より感謝いたします。
して……あの、申し訳ございません。
なぜこの様なところに私の娘と同じ年頃のお嬢さんが……」
今まで気づかなかったのか、それとも気づいていて聞くタイミングを逃していたのか男爵が私を不思議そうに見つめながらそう聞いてくる。
「あんた娘いんのか」
しかしその質問に返ってきたのはイグネイシスさんのそんな言葉。
でも私も思った。私と同じくらいの娘さんがいるのか、後で話したりできるかな?
「あ、はい、今年12になったのです」
え、同い年だ!
是非ともお話したいなぁ。後で会えるか聞いて見よう。
「12ということは先の疫病を乗り越えられたのですね。
あれば子供は特にかかりやすかったと聞いていますが……」
「そうなんです。娘も疫病には感染してしまったんですがなんとか……
妻は疫病で亡くなってしまいましたが……
……で、あの」
男爵さんは再び不思議そうに私の方を見つめる。
イグネイシスさんの「当然の疑問だわな」という呟きが聞こえてくる。
そういえば自己紹介をする暇もなかった。
ベルさんもイグネイシスさんも『同僚です』と言う様子はないからここは自分で名乗るべきなのだろう。
えっと、ここには王宮魔導師としてきてるからそれを第一に言うべきなのかな?
「私も今回、こちらの領を再生する任を承りました。
王宮魔導師のクレア・フロワールと申します。以後お見知りおきを」
最近王宮魔導師になったばかりなので王宮魔導師として名乗るのは初めてである。
なんだか気恥ずかしい……
「え、王宮魔導師!?
それは大変申し訳ございません……!」
「大丈夫です。最近王宮魔導師になったばかりですし」
「そ、そうでしたか……まだお若いのに王宮魔導師とは…………………………ん?」
私が王宮魔導師だと言うことに、驚きの表情を浮かべていたのだが、男爵はそこまで言って時間止まったかのように固まり、次第に額に脂汗が浮いてきた。いったいどうしたのか。
「ど、どうかしましたか……?」
「い、今、クレア……フロワール様とおしゃいましたか……?」
「あ、はい」
「ま、まさか……あの、つかぬことをお伺いしますが公爵令嬢様だったり……?」
「あ、家名だけでわかるものなんですね。そうなんです、一応これでも公爵令嬢で……って男爵!?」
なぜか男爵はものすごい勢いでイスから立ち上がっ……たと思えば、すぐにしゃがみこみ、頭を床につけ。
「こともあろうに公爵家の方を"お嬢さん"などと……申し訳ございません。申し訳ございません。何卒お許しくださいませ!」
と、泣き出しそうな声で訴え出してしまった。
……えー、どうしたら良いんだこれ。私それくらいで怒こらないよ。なんなら私のことガキって呼ぶ人もいるのに……
イグネイシスさん「あーあ、泣かしたー」じゃない。泣かしてないって。不可抗力だよ。
その後謝り倒す男爵を『それくらいならなんてことありません。ガキって呼ばれるよりはましですよ』となだめた。
ちなみにその時、私のことを"ガキ"と呼ぶイグネイシスさんをチラッと見たが、どうでもよさそうな顔をしていた。
それから、ベルさんたちは部屋の掃除へ、私は食料をおろすため食物庫に案内してもらった。
ヴァールハイト領地の食物庫は東西南北に一個ずつ大きなものが建てられていたのだが、もうそのなかにはほとんど何も入っていなかった。本当にギリギリの生活をしていたということが見受けられる。
私が王都から持ってきた食料は小麦や干し肉、芋や調味料などの日持ちのするものばかりだが、結構な量だと思っていた。しかし全て出してもそれぞれの倉庫が半分埋まるくらいの量しかならなかった。
案内してくれた人は、これだけあれば優に1年は持ちます。と泣いて喜んでくれたのだが、領民すべてをこの食料で養うとなると、今まで通り、切り詰めた食事しかできないだろう。
早く畑を元通りにして、ヴァールハイト領の皆さんが心置きなく食事ができる日がきますように……と願わずにはいられなかった。
そんなことをしていると、夕飯の時刻となった。
男爵にとって、私たちの訪問は突然のことだったと思われるのだが、ちゃんと私たちの分まで用意してくれたらしい。
そして私はここで出会う。いや、会ってしまったというべきだろうか。
「す、ステル・ヴァールハイトと申します。こここ、この度はこのようなところまでおこしいただきありがとうごじゃいましゅ!」
「噛んじゃった!」と目の前であわてふためくその姿はなんとも庇護欲をくすぐられ、その容姿は質素な服に身を包まれていても可愛い、美少女である。オリビエとはまた違った可愛さだ。なんとなく伝わってくる天然感が作り物じゃなかったら最高だよ。……いや、これ多分天然だな、オドオドした感じとか父親そっくりだわ。
あぁ、なんと可愛いのだろう。こりゃ惚れても文句は言えんよ攻略者たち。可愛いもんこの子。
いや、違うかもしれないよ? まだ確定じゃないんだ。私の記憶違いかもしれないし、思い込みかもしれない。
ただ、『ステル・ヴァールハイト』なんとしっくりくる名前だろう。そんな名前だったような気がする。
少なくとも彼女の名前は『ステル』だった。
あ、彼女っていうのは……
……ゲームのヒロインのことである。
次回の投稿は23日(日)を予定しております!
よろしくお願いしますm(__)m




