世の中には見た目で判断できるものとできないものがあります
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しばらくすると畑が見えてきた。
……いや、それは畑"だった"ものだ。
広大な土地に広がるそれが畑だったということはわかる。
そこには柵の残骸などはあるものの、野菜も耕された形跡もなく、土は枯れ草に覆われ、所々木のようなものまで生えていた。
「本当に手が回ってないのね。何年放置されてるのかしら……
魔法を使っても完全に再生させるには時間がかかりそうね、種まきまではする予定だけど、その後の管理がちゃんと出来ればいいけど……」
"種まき"と聞いて、現在私が空間魔法で収納している大量の種たちを思い浮かべる。
部屋ひとつを埋めるほどあった多種多様のそれをこれからすべてまいていくかと思うと気が遠くなりそうだ。
しかしもちろん種をまけば草を抜いたり、水をやったりとその世話がいって、収穫もしないといけないわけで……
「私たちは全部土地を再生させて、種をまいたらこの領からでるんですよね?
その後の支援とかはないんですか?」
「うーん。これからも支援は続いて行くかも知れないけど……
とりあえず、この領の人たちと会ってみないと判断もできないわ。もしかしたら耕す労力が無いだけで、その後の作業は出来るかもしれないし」
そっか……
定期的に私たちが来れたら水やりとか草むしりとかも一瞬で出来るのにな……
「とりあえず今日はヴァールハイト男爵の屋敷で休むんでしたよね。
そういえばイグネイシスさんはどこまで行ったんでしょうか?」
先程から道の両側には荒れた畑ばかりで、見通しがいい場所のはずなのだが、先に歩いていったイグネイシスさんがいつになっても見当たらない。
いつの間にか追い越してしまっただろうか?
「あ、イグのことは気にしなくていいわよ。きっと今頃はもう男爵の屋敷についてるわ」
え! うそ!?
「早くないですか!?」
なんで馬車より人の方が早いんだ……!
「そんなこともないわよー。
ほら、魔法使ったらめちゃくちゃ早く走れたりするじゃない。身体強化とか。
最近ずっと馬車に乗ってばかりだったからストレス発散がてら走ってるのよ」
あ、そっかそっか。
それはそうだわ、魔導師が魔法の存在を忘れてしまっていた。
「だから、私たちは男爵邸の前辺りで合流ってことになるかしら?
あ、そういえばヴァールハイト男爵の邸宅がどんなものか来たことがないから分からないけど、王都にある邸宅と比べないであげてね?」
「え、いや、さすがに……」
正直"王都の邸宅"と聞くと思い浮かべるのは公爵邸やレイやオリビエの家。
さすがに比べれない。
ただ、私的には家とか住めればいいから。豪華さ大きさ関係ナッシング。
「あー、まあ公爵邸に比べたらどこも小さいものね……
ただ、そうじゃないのよ。たぶん大きさ的には普通だと思うんだけど問題はメンテナンスがされてるかどうか……
どれだけきれいな家でも1年放置したら痛むって言うし……きっと先の病気の蔓延では領主も大変だったはずなのよ。きっと一部屋一部屋メンテナンスなんてする暇なかったはずよ。一人娘も疫病にかかったって話だし、絶対それどころじゃなかったはずだし、きっと今でもメンテナンスどころじゃないわ。
大地がこんなだから領主である男爵の生活はもしかしたら王都の平民の生活水準より下だと考えておいた方がいいかも……」
そんなことを聞いてから十数分後。
周りの畑は領に入ったばかりの場所に比べると比較的しっかりとした畑となり。
少し丘を登ったところにある、見た目は大きな屋敷へとついた。本日の目的地である男爵邸だある。
たーしかに、ボロい。
いや、良いようにとらえよう。
とてもレトロな感じがする。
私、結構好きよ、その壁に蔦がはってるその感じ。ちょっとひび割れたレンガ。
……うん。
「まあ……おしゃれと言えないことも無いわ」
「いや、わざとそうしてる訳じゃ無いものはただボロいだけだろ」
どこから現れたのが、馬車を降りた私たちの横から、イグネイシスさんの呆れたような声がかかる。
「……わざとかもしれないでしょ」
ベルさんは突然イグネイシスさんが現れたことに驚いた様子もなく、フォローするものの……
「そうは言うけど、あの蔦ってわざとやるんだったら大変なんだぞ。
虫は湧くし、ほっといたら窓まで覆うから毎年夏には剪定して、屋根まで上がったらトイが痛むからそこまで延びたらわざわざ屋根に登って撤去しないといけねぇし」
「……なんでそんなに詳しいの」
「前、じいちゃんが話してた」
「じいやぁ……」
一瞬で論破された。
「というか、遅い。
待ちくたびれた。さっさと入るぞ」
そういってイグネイシスさんは、戸惑う様子もなく門をくぐり、扉へと歩いていった。
ベルさんも戸惑うことなく、イグネイシスさんに着いて行ってしまったので、私は慌てて二人の後を追う。
イグネイシスさんが、入り口のところにあった鈴? をならすと、中から誰かが走ってきた。
ヴァールハイト家の執事さんだろうか?
「はい! お待たせいたしました。
何かご用でしょうか?」
ヴァールハイト家の執事さんだろうか? とても低い姿勢で、礼儀正しい。
しかしなぜだろう、執事さんかな? とは思えど、執事さんには見えない。
いや、なぜって理由はただひとつ。"執事服を着てないから"だ。
邸宅の中から出てきたのは燕尾服とかではなく、とても動きやすそうな……"つなぎ"を来た男性。
あ、庭師さん? 庭師さんかもしれない。ほら、人手不足だから。色々な仕事を掛け持ちしてるのかも……
そんなことを考えていると男性の後ろから、
「旦那様ー!
東の食物庫の小麦があと少ししかありません!」
という女性の声がかかり……
「今日はもう暗い!
まだジャガイモはあるだろう、今晩はそれでしのいでくれ!」
と、目の前の男性が振り返り、後ろにいるであろう女性に大きな声で指示を飛ばしていた。
次回の投稿は12月21日(金)を予定しています!




