結局は
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~クレア視点~
王都を出発して2週間。
私たちは馬車に揺られ続けた。中間地点にある領地で休ませていただいた、一晩以外はずっと夜営……
心行くまま休むこともできず、もうくたくた……
道はガタガタだし、魔物は出てくるし、魔法で身体とかはきれいにできるとはいえゆっくり湯船に浸かりたいし、もうほんと……
と、私は疲れきってしまっているのだが、やはり慣れていないだけなのか他の皆さんは全然疲れている様子をみせない。
馬車に揺られ続けただけあってもうすぐヴァールハイト領に着く。
もう夕刻だし、今日は早速仕事はせず、休むことになるだろう。
とりあえず今日はゆっくり休もう。
そして私たちは無事ヴァールハイト領に入った。
といってもまだ山の中だが、この山を越えると畑が広がっているらしい。
……しかし、領内に入ったにも関わらず、現在私たちの目の前にはゴブリンの首が転がっていた。
つい今しがた、馬車の目の前に現れ、騎士さんに討伐されたのである。
「話には聞いていたけど……本当に領内に魔物が入ってきているのね」
「こういうことって異例だったりするんですか?」
「いえ……確かに珍しいけど……
神殿の神玉があるでしょう?
丁重に扱っていてもなんらかの拍子に少し欠けちゃったりするときがあるの。
そのせいで効力も落ちるのか領内に魔物が入って来るときがあるわ。
ただ、神玉に傷がついたしまった時用のマニュアルがすべての神殿には置かれているから、直ちに王都に連絡が届いて、聖魔導師と教会の聖職者が派遣されるの。
それで聖職者がお祈りやらなんやらをした後は上級の再生魔法をかければ元通りになるわ。」
「え、そうなんですか?」
神玉、魔法で再生可能なのか。
でも、その前にお祈りしたりも必要だし大変そうだな……
「ヴァールハイト領から神玉が壊れたっていう知らせは届いていないけど、多分閉鎖されてたこともあって周りとの交流も少なくなってるし、人手不足とかで連絡が出来なかったのかも。
だから一応今回はそのつもりでこちらに来てるわ」
「え? でも教会の方こられてないですよ?」
今回の遠征に来ている人たちの中に教会の関係者がいるとは聞いていない。ベルさんも聖女と呼ばれてはいるものの、教会とはまったく関係ないし……
「教会の奴らとは別行動だ。
あんな平和ボケした軟弱なやつらは、俺らが通ってきたような険しい道通って来れねぇよ」
「こら! やめなさいイグ。
……ごめんね、クレアちゃん。気にしなくていいわ。ちょっと診療所と教会って仲が悪くて……
教会から派遣されているひとはもっと安全なルートでここまで来るわ。私たちよりも一ヶ月くらい早く出発してるからもう着いてると思うんだけど……」
「どうせ着いてねぇーよ。
あいつらどっかの領や町に行く度に布教とかで長居するだろうが」
「うっ、確かにそうだけど……
布教も大切な事なんだからそんなこと言ったらだめよ!」
イグネイシスさんが教会の人に対して辛辣な態度なんだけど……
なんで協会と仲が悪いんだろう?
イグネイシスさんが何か壊したとか? いや、それだったら仲が悪いっていうのとはちょっと違うか。
「もう着いてるかもしれないじゃない!
行ってみないとわからないわ」
「はいはい、そうだな。
じゃあおれはここから歩いていくから」
「はぁ!?」
イグネイシスさんは、『すぐそこだろ?』と馬車には乗らず、一人歩いていく。
一人で行動させるのは危険と判断したのか、騎士さんが一人イグネイシスさんを追いかけていった。
「もう……ああいう勝手な行動取ったらみんなに迷惑がかかるのに。
私たちは馬車で行くわよ、近いと言ってもまだちょっと距離もあるし」
そう言ってベルさんは馬車へと乗り込み、私はその後を追う。
「ベルさん、さっき診療所と教会の仲が悪いって言ってましたけどなんでなんですか?」
不機嫌真っ最中のイグネイシスさんがいなくなったので、これ幸いと気になっていたことを聞いてみた。
「うーん……クレアちゃんこの国で一番大きな宗教ってどんなのか知ってる?」
「えっ、……っと、たしか"パリター教"ですよね」
淑女教育で習ったそれをなんとか頭の片隅から引っ張り出して答えた。
ただどんなのかは知らなんだよね。
『長らく宗教色がうすい場所(日本)にいたのであまり気にしたことありませんでした』何て言えない。
「そう、王都にある神殿を管轄してるのもその宗教なんだけど、そこの教えのひとつに『この世に生を受けたものはすべて平等である』っていうのがあるの。
ちょっとその考え方では私の診療所のやり方が許されなくて、色々と難癖つけても来るのよ……」
「……『やり方が許されない』とは?」
「ほら、私の診療所の支払い方式って『怪我の度合いによってだけではなく、その人の収入や職業も考慮して請求せよ』でしょ?
これが駄目らしいわ」
「えっ! でも、その方法が広まったお陰でこの国の死亡率が劇的に下がったんですよね?!」
「うーん……そうなんだけど、宗教的にね。それまでは、怪我を治したいならみんな平等にお金を払って治療を受けるのが当たり前だったから……
ただそのやり方だと、やっぱり富裕層しか治療を受けられないから、私はあの請求制度を作ったんだけど確かに"平等な扱い"はしていないのよね。
私は間違ったこととは思ってないし、どんなひとでも"平等に"治療を受けれるような制度にしただけなんだけどね。やってよかったとも思ってるから、あんまり気にしないようにしてるんだけど、あまりにもしつこくって。
ありもしないことを言われたこともあったわ……でも関わらないわけにもいかないし、『苦しんでいる人たちを助けたい』っていう思いは一緒なんだから…………って、仲が悪いなりにも頑張ってるの。
ただ私のやり方が広まったせいで教会は布教が上手くいかなくなるわ、お布施の量も減少するわ、信仰心も低下するわ……って感じで、私が想像した以上の痛手を受けちゃったことにはちょっと申し訳なくって。それまで聖魔導師は教会が独占してたからね」
えー……宗教って怖いな。別にいいじゃん、どんなやり方であろうと、助かってるひとが沢山いるんだから。
怖いなー教会。めんどくさいわー……
「あ、でも、全員が全員、診療所を目の敵にしてる訳じゃなくて、ちゃんと『苦しんでいる人たちを助けたい』っていう思いで頑張ってる子達はいるからね!」
「これからくる人はそういう人なんでしょうか……」
「……うーん。まぁ、上のうるさい人たちがこんなところまでこれるわけないからちょっとは安心していいわよ」
「あ、よかったー」
でもどっちにしろあんまり宗教とは関わりたくないなぁ。と心の中で思いつつ、私は(あ……)とあることを思い出す。
すっかり忘れてた。
そういえば私……神様から『運命を守ってくれ』的なことを頼まれていたことを。
いや、でも思い出したけど、どうしようもないな。そんなこと言われてもなぁ。一周目の記憶が全部戻ったわけでも、ゲームの内容をよく知ってるわけでもないし……
と、暫し考え。
(うん、………………保留で!)
と結論付けた。
次回の投稿は12月19日(水)を予定しています!




