驚きを隠せずに
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今日はベルさん視点でーす!
~ベル視点~
「えっ! お二人って幼なじみなんですか!?」
「そうよー、正確には主従関係かしら? イグは私の従者だったの。
イグの家系がうちの従者の家系でね、イグが魔法学院の中等部に入って離ればなれになった3年間以外、生まれたときからずーーーーーっと一緒よ」
「従者!?」
王都を出発してはや1週間。
最短ルートでヴァールハイト領に向かっている私たちは今日まで毎晩夜営をしていたのだけれど、初心者もいるなかで直行することは無理だろうということもあり、元々予定されていた中間地点にある領地で一晩だけ休ませてもらうことになった。
前々から伝えていたためか、それはそれは盛大に歓迎された。
久しぶりにゆっくりと湯船に浸かり、久々にベッドで寝ることができる。
遠征に往くことは珍しく無いとはいえやはり疲れる……
遠征事態が初めてのクレアちゃんの疲労は私たち以上でしょう。
しかしさすが最年少で王宮魔導師になっただけはあるわ。
魔物の対処だなんて、もう一人でも大丈夫なんじゃ? と思えるほど。私は戦闘があまり得意ではないから教えを乞いたいくらいだわ……
というかクレアちゃん無詠唱で何個の魔法が使えるの?
今までに詠唱している様子をみたことが無いんだけど……
まあいいわ、あのセヴェール様が認める子だもの、普通の子じゃないわよね。
私とクレアちゃんは今日は一緒のお部屋にお泊まり、久しぶりに心置きなくのんびりと紅茶を飲んでいると。『ベルさんとイグネイシスさんってどんな関係なんですか?』という話になった。
旅が始まって一週間。
私とイグは毎日なにかしら喧嘩をしているわけだが、仲が悪いわけでは無い。
まぁ、不思議な関係だとは思う。
同じ王宮魔導師ではあるが、一応イグが先輩で私が後輩、しかし診療所では私が院長でイグが副院長。
本当に仲は悪くないんですか? どっちが立場的に上なんです? なんで同じ職場に? これまでに幾度となくそういう質問を受けたから。
で、その答えが、冒頭のもの。
といっても、これをいうとさらにこんがらがる人が多い。幼なじみなのはいいが、主従でもあると聞くとそうなるだろう。
ただ、どんな関係と聞かれるとこう答えるのがやはりしっくり来るのだ。
ちなみにイグは今はあれだけど、昔は私に敬語もつかってたし、私の実家であるクラーレ子爵家に仕え、その名に恥じないよう教育を受けていたれっきとした従者なのよ?
そういうとクレアちゃんはさらに驚いた顔をする。
いまの姿からはそうは見えないでしょうね……今日なんて、部下のみんなにもダメって言われてたのにも関わらず、領地について早々ガラの悪い人たちと喧嘩していたし……
はぁ、なんであんなに育っちゃったのかしら。昔はそんなことなかったと記憶しているのだけど。
まぁ、そんなこと言ったってどうにもならないわね。
でも、どうでもいいわ。今日だってなんで喧嘩なんていていたのかって、あのガラの悪い人たちが一人の女性に集って怖がらせていたからだったし。
根は優しいのよ、根は……
少し私たちについて話しましょう。
私の家、クラーレ家は北大地、もっというなら広大な山脈を領地とする家である。
領地はとても広いのだが、そのほとんどは標高が高い所にあり、種を植えることのできる時期なんてほんのわずかな、とても貧しい領地だった。
土地的にはこれから向かうヴァールハイト領よりも悪い、ただ広いだけの本当に貧しい土地なのだ。
もちろんそんな領地を占める領主の家、いわゆるクラーレ家が裕福な訳がない。
しかしクラーレ家に仕える人たちは、やさしく忠義に溢れる人ばかりだった。
イグのお父様もお母様も、お祖父様もお婆様もずっと私の家に仕えてくれていた。
貧しいながらも楽しい生活を送っていたし、貧しいとはいえ飢えるほどでもなかった。
しかし8歳の時、私が魔力暴走を起こす。
今まで魔力持ちすらほとんど生まれなかった辺境の地でだ。
クラーレ家のみんなは大慌て、もうクラーレ家内だけでなく、従者も領民も大慌てだったと聞く。
それでなんとか見つけて来た魔法の師。ただ、この師が……うん、いい人ではなかった。
こんな辺境領地の領主が裕福な訳がないのにも関わらず、私の師は王都でもあり得ないくらいの指導料を請求したのである。
しかし私のお父様は頑張った、頑張ってしまった。
回りの領地を渡り歩き、一生懸命お金を集めて、集めて、集めて……その魔導師にお金を渡し続けた。
できてしまった借金は到底返せるはずのない額。少なくとも税金では絶対に無理。何代も何代も何代にもかけてありとあらゆる場所に返していかないといけないくらいの額だ。
しかしその魔導師があり得ないほどの高額を請求しているということを、私たちは知ることも出来なかった。
私たちは遠くにある王都まで出向くことなんてなかったし、クラーレ領の周りの領地だって裕福ではない。
魔力持ちが生まれることもクラーレ領同様に少なく、魔法の師をとることなんてなかったのだ。
結局私たちがそれに気づいたのは私が王都で働き始めたころ。
その人は疾うの昔にいなくなっているし、どこにいるかも知らない。
超高額な指導料を請求されたことは、今思い返せばただただ腹がたつが、私は助かっているし、魔法自体はきちんとおしえてくれたのだから訴えることも出来ない。
しかし一回くらい殴ってもいいだろうと思っている。
返せないと思われた借金は診療所で稼いだお金と王宮魔導師としてのお金で返済することが出来た。
返せて無かったらもっともっと殴らなくては。
とりあえず私は金銭的な問題を抱えつつも魔導師となった。
それから私は少しづつではあるが魔法を覚えて行った。
しかし数年後の成人の儀において、クラーレ領にもう一人魔法の才を持っていた者がいることが分かる。
イグネイシス・ハイレン、私の家に代々仕えてくれている家の息子であり、私の従者、さらに言えば側近の男の子だった。
イグが自分のステータスの報告を静かに切り出したあの日のことを今でも忘れない。
時が止まったのかと思うほど静かだった。みんなの心は一つ、『えっ……?』だ。
本来ならば喜ぶべきだろう。
そして本来ならは自分の家に仕えている従者くらい、主人が金を出して家庭教師をつけるべきなのだ。
しかし、クラーレ家にそんな金は無い。
イグは国が定める通り、王都にある魔法学院に強制収容されることになる。
しかし、ここで問題が起こる。
そしてごめんなさい、その問題とは私なのだ。
私は泣き叫んだ、私の黒歴史だ。
もう泣いた泣いた。駄々をこねまくった。『離れたくない、行かないで』と..
思いだしたくないくらいに恥ずかしい思い出だ。もうすぐ12歳なのにそんな泣くかと。
でもあの時のイグと私は今みたいに毎日のように喧嘩なんてしなかったし、本当に誰が見ても仲が良かった。
私の大切な幼なじみがどこかに行ってしまう。そんなのいやだ、私も行く。
そう何度も言った。
でもそんなわけにも行かない。
私は魔法学院の中等部で学ぶべきことはすでに習得済みだったから。
魔法学院は税金と裕福な貴族たちからの寄付により成り立っている。そんな場所に必要の無いものが入学することなんて出来ない。
せめてクラーレ家が魔法学院に寄付などをしていれは多少のわがままは聞くのだろうが、こんな借金地獄、火の車であるクラーレ家が寄付なんてしているわけがない。
結局イグは泣き叫ぶ私を何度も振り返りながらも、王都へと行くことになった。
そして3年後。私は魔法学院高等部でイグと再会する。
私はイグをみた瞬間感動したわ、イグはその3年で背も伸びて、しかも顔まで男らしくなって、遠目からでイグだとわかった私を誉めてもらいたい。
そして私はイグを呼び止めた、きっと笑って、『久しぶり』って……言ってくれると思ったの。平凡な言葉でよかったわ、別に特別な言葉を待っていた訳じゃない。
でもあいつ最初に……なんて言ったと思う……?
あいつね……
『…………あれ、ベルってこんなに肉ついてたっけ?』
って言ったのよ……!
予想外の言葉だったわ。敬語以外で話しているイグも新鮮だったけど、それ以上に驚いたわ。
は? 肉?
と思ったわ。
あぁ……いいえ.言うだけだったらまだよかった。
言うだけだったら『なにいってるの?』で終わっていたもの……
それなのにあいつったら、私のところにゆっくりと近づいてきて……
私の胸を鷲掴みしたのよ……!!
あまつさえ数回もみ……ゴホン!
何事かと思ったわ!
感じたことのない感覚が……ゴホッゴホッ!
あぁ、もう。あいつと喧嘩するようになったすべての始まりはあれだったかもしれないわ。
今でも信じられない、なんだったのよあれ。
恥ずかしくて改まって聞くことも出来ないのだけど、どうしてくれるの、なんだったのあれ。
もう!
ごめんなさいね、こんなこと話して。
あー、こんな話いらなかったわよね。変なことまで思い出しちゃったわ。
あー、もう。顔が熱い。
どうしてくれるのほんと。
イグネイシスさんや……それはセクハラ(ーー;)




