旅立ちの日
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そしてやって来た旅立ちの日。
城では忙しなく馬車へと荷物がつまれていた。
「クー、くれぐれも体には気をつけるんですよ」
「はい、お母様」
「道中は特に気を付けるんだぞ、5つ目の山にはワイバーンも出る。焦らず対処するんだ。」
「わかりました、お父様」
そんな中、私は何度目になるかわからない、そんなやり取りをしていた。
途中からオリビエやルミリアおば様、ギルおじ様もやって来てみんなに色んな激励をもらった。
しかしそこにレイの姿はない。
「ルミリアおば様、レイは?」
そう聞くと複雑な顔をするルミリアおば様とギルおじ様。
「実は……昨日レイが俺に『仕事を長期休みたい』って言いに来てな……」
思い出すのは昨日の会話。
そっか。旅に出るんだったら騎士のお仕事も休まなきゃいけないよね……
さすが、行動が早い。
「騎士団に正式に入隊したとはいえレイリストは人員不足の時の派遣員みたいな感じだったから大丈夫だと言ったんだが……
朝起きたらこんな置き手紙が……」
そう言って、ギルおじ様は懐から封筒を取り出して私に対して見せる。
え? 置き手紙……ってまさかもう旅に出たとかそんな。
いやいや、それはいくらなんでも行動が早すぎ……
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旅に出る。
一年くらいは戻ってくるつもりないけど心配はしなくていい。
レイリスト
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そのまさかだった。
え、まじで!?
本当にもう旅に出たの!?
いきなり!?
昨日の今日で!?
行動力ありすぎかよ!
結構グラディウス家は放任主義なところがあるけど、さすがにこれはギルおじ様たちも心配し……
「あいつ時々思いきったことするんだよなぁー。感心するわー」
「クーちゃんもいなくなっちゃうのにレイリストもだなんて、しばらく寂しくなるわー」
「そうだなー」
てなかった。いや、ちょっとはしてるかも知れないけど。
え、軽くない? まじか。
「ってことで、あいつどっか行っちまってな。
見送りには来ないらしい、すまん!」
「あ、いえ。……大丈夫です」
今日見送りに来ないということは昨日聞いてたし……って、騎士団の休暇をもらえることとかも全部見越して、あの時から今日の朝までには出るつもりだったのか!?
じゃあレイはもう王都の外……
驚きを隠せないんですけど……
レイの突然の旅立ちにはオリビエやお父様たちもびっくりしていた。
そんな中、ギルおじ様とルミリアおば様は通常運転。
いや、あなたたちはちょっとは取り乱して下さい。
そんなことを思いながらも、刻々と時間は近づく。
ベルさんとイグネイシスさんもいつの間にか馬車の近くに来ていて、その回りには白いローブを来た人が沢山集まり、挨拶をしていた。
おそらくあの白い人たちはベルさんの診療所で働いている人だろう。
聞くところによるとベルさんは大きな診療所を開いているらしい。
ベルさんの診療所では直した怪我のレベルだけでなく、収入や職業も考慮した金額を患者に請求しているらしく、高度の医術や治療魔法に縁のほとんどなかった平民もそれらを気軽に受けれるようになった。
さらに、この国で医学を学んだり、治療魔法を会得した人のほとんどがベルさんの診療所の支払い方法で国中に広がったことで、国の死亡率は大幅に減少。
こういった敬意も踏まえ、その方法を一から確立し、自信も多くの人を救ってきたベルさんはまさしく聖女なのである。
ちなみになんと、イグネイシスさんはベルさんの診療所の副院長らしい。
それを聞いたときの驚きといったらない。ベルさんが仲が悪いなんてことはないって言ってたけど本当なようだ。
院長と副院長の長期不在、二人が遠征に出ることは珍しくないだろうけどやっぱり不安だったりするのかな……
「副院長、もの壊したりしたらダメですよ!」
「誰かに喧嘩ふっかけないで下さいね!」
「お腹が空いたからってそこら辺に生えてるキノコ食べちゃダメですよ!」
「うるせぇ! 俺がなにしようが俺の勝手だろうが!」
「「「ダメなものはダメですよ!!」」」
「大丈夫よ、みんな。私が見張っとくから」
「「「院長!」」」(尊敬の眼差し)
「頼んでねぇ!!」
耳をすますと聞こえてくる、そんな言葉。
イグネイシスさん、部下にまでなんて心配されてるんだ……
でもその会話からは親しさが伝わってくる。
部下さんたちはとてもしっかりしているようだ……
それから、荷物がすべて運び込まれるまで見送りに来てくれたみんなと話していると、陛下がこられた。
そしていよいよ旅立ちの時。
陛下にも激励の言葉をもらい、私はベルさんたちと一緒に馬車に乗り込み……馬車はヴァールハイト領に向けて走り出した。
次第に城から遠ざかっていく。
ベルさんが『寂しい?』と聞いてくれたので少しだけ……と答えた。
先ほどレイが旅に出たということを聞いたからだろうか。
それ以上に負けていられない、とそう思っていたりする。
「寂しいなんて思う暇があったらこれからのことでも考えとけ。
王都から出たら魔物が速攻襲ってくるんだぞ」
そんな私にイグネイシスさんが発破をかける。
「もう! イグはなんでそんなことしか言えないの!?
ちょっとは気遣いの言葉くらい言いなさいよ!」
「ガキにかける言葉なんてねえ」
「イグ!」
また口喧嘩を始めてしまった二人を見て吹き出す。
本当に仲が良いんだなぁ。
……でも『ガキ』って言われるのはイラッとするな。
とりあえずイグネイシスさんに『ガキ』と呼ばれないような人になろう。そうしよう。




