前日
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そして、流れで乗せてもらった馬車なのだが。なぜか今日はちょっと気まずい。
というのも、いつもと違ってレイがなにやら考え込んでいるようなのだ。
なに考えてるんだろう? とレイの顔を見つめる。
すると、ふっ、と前を向いたレイと目が合った。
「…………」
「…………」
目があってから数秒。目が、それない。
そらすタイミングも逃した。
「な、なんでしょう……」
どうしよう……とちょっと挙動不審になっていた私に対して、レイはとても落ち着いた感じだったので、わざと合わしてるのかと思い、そう聞いてみる。
そして、わざと合わしていたのかどうかは知らないが、レイがゆっくりと言葉を発した。
「クレア、俺……明日クレアの見送りには行かない」
レイの口から発せられた言葉は、正直意外なものだった。
……あれ、態度には出さなくとも寂しがってはくれてるんだろうと思ってたんだけどな。
「…………え、来てくれないの?」
驚きなんですけど。なんてひどい幼なじみだ。
明日来なかったらしばらく会えなんだけどな……お見送りくらいしてくれればいいのに。
さっきレイも私がいなくなるのは寂しいって言ってくれたけど本当にそうなのか疑いたくなる。
「ねぇ、レイやっぱり―――――」
『そんなに寂しく無いんじゃ……』なんて、そんなことを笑いながら聞こうとしたのだが、私は口をつぐんだ。
レイの顔がなにかを決めたような。
そんな顔だったからだ。
え、なに―――――
「クレアは覚えてるかな……」
「何を……?」
「…………俺さ、いつかクレアに言ったよね『クレアが危ない所に行くなら俺もついていきたい』って」
「え……うん」
あれはいつのことだったか、レイに私のゲームとかのことを初めて話したときだろうか。
でも確かに言われた。覚えている。
「それが……どうかしたの?」
え、もしかして、今回の仕事について行きたいとかそういうこと?
え、行けるのかな。騎士もついてくるって言ってたけど、ついてくる人はもう決まってるだろうし、私が勝手に決めるわけには……
「今回の仕事には連れていけないかも……」
「……そんなことわかってるよ。なにより今の俺じゃ力不足だ」
「じゃあ……」
『いきなりどうしたの?』
そう聞こうとしたけれど、その言葉の前に、レイがゆっくりと話し出した。
「俺さ、あの時……きっとよくわかってなかったんだ、理解できてなかった。
俺はクレアを守れるって思ってた。自分はクレアより強いってどこかで思ってた。だから守れるって言った。俺が手伝えば絶対助けれるって。
…………でも実際、俺は何も出来やしない。
きっと俺よりクレアの方が強いし、クレアの方が色んなことを知ってる。
クレアが危ないところに行くなら俺もついて行きたい。……その思いは今でも変わらない。ずっと変わったことなんて無い。
他の誰でもない俺が……俺がクレアを守りたい」
「……レイ?」
「……でも今の俺はただの足手まといだ。
だから俺……
旅に出ることにする」
……
…………。
「…………はい?」
旅……?
「えっと……?」
「ちょっとそこら辺を一人で旅してみようと思ってる。
クレアは自分の興味があることしか知ろうとしないところがあるから、そこら辺をカバーできるようになるためにも色んなところの知識を吸収して……今よりもっと実戦を積んで、クレアを守れるくらい強くなって帰ってくる」
「…………私のため?」
「あたりまえでしょ、他に誰のためがあるの。
さっきも言ったけどクレアの仕事については心配してない。でもくれぐれも怪我はしないようにね」
「う、うん……」
旅……レイも旅に出るか……
「いつ……帰ってくるの?」
私は? これからどうすればいい? わからないこと、これから考えないといけないことが色々出てくるかも知れないのに……
「うーん。最低でも1年間は帰ってくるつもりはないかな……
クレアが言う、ゲームのシナリオがこれからどんな風に作用してくるのかわからない。だから正直それは心配ではあるんだけど……
でもだからこそ、今のうちに力をつけないといけない。俺は今まで騎士団で訓練したり、仕事をしたりしてきたけど、これじゃダメなんだ。
このままじゃ、なんの抑止力にもならない。今のままじゃクレアを守れない」
「レイ……」
「だから俺は旅に出る。
家の権力や、騎士団員としての功績なんかじゃない。
俺だけの、俺自身の力をつけて、もしクレアが危なくなったときに進言できるような、最悪クレアをさらって逃げれるほどの力をつける。
上手く行くかはわからないけど、やるだけやってみるよ」
そう言って私を見つめる幼なじみを、私は最高にかっこいいと思った。
「……ありがとう」
口からこぼれたのは、ありきたりな言葉。
でもその言葉のなかにはどう頑張っても伝えきれない思いが籠っていた。
せめて……と、最大の感謝を込めてレイに微笑むと、レイが頬を赤くして固まる。
そして、
パシッ
「いひゃっ……!」
なぜかほっぺたを両手で挟まれました。
そんなに痛くなかったけど条件反射で声が出てしまった。
ただ、そんなに私の声を気にすることなく。レイは話し出す。
「クレア、クレアもだよ」
「ふぇえ……?」
なにが……?
「王宮魔導師は一応国の力ではあるけど、その権力は時に陛下をも凌ぐ。
セヴェール様が良い例だ、この国を救えば救うほどクレア自身の力が増えていくはずだ。それがクレアの盾になる」
え、えぇーー。なんか言い方が反逆罪なことを企ててるように聞こえるんですけどぉ……
いや、でも確かにそれは一理ある。
「ん? でもそれって仕事をしてれば良いってことだよね……?」
「うん、そう。だから今回の仕事も……頑張ってね」
それは、仕事が決まってから色々な人に言われた言葉。
でもレイのこの言葉には他の人とは違う視点からの言葉が含まれる。
この世界で唯一、私が死ぬ未来を知っている人からの言葉。
「うん。頑張るね……レイも頑張って」
「うん」
それから一年後、レイが本当にすごい人になるのだが……それをこのときの私は知るよしもなかった。




