初仕事に向けて
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激しい口喧嘩の末、気分を害してしまったイグネイシスさんはどこかに行ってしまった。
「ごめんねぇ、ほんと。あんなアホ猿が言ったことなんて気にしなくていいからね!」
「あ、いえ。それは大丈夫なんですけど……
えっと……お二人は仲が悪いんですか……?」
ヴァールハイト領は遠いところにあるって言ってたし、きっと少し長い期間一緒に過ごすことになるかも知れない。
大丈夫なのだろうか?
「あら、仲悪いようにみえた?」
「え、……はい」
「そんなことないから心配しないでー。
数分後には何事も無かったかのように話しかけてくるわ。気にするだけ無駄よ。
仕事についてもそう、私たち一緒の仕事に行くこと多いの。陛下も
私たちのことセットだとも思ってるんじゃない?」
え、そうなの?
喧嘩するほど仲がいいってやつか。
「……っと、これから用事があるんだったわ!
ごめんねクレアちゃん。じゃあ一週間後に会いましょう!」
用事を思い出したベルさんは帰っていき、ベルさんが言っていた通り 宴会もお開きになった。
そして次の日から私は、来る旅立ちの日に向けた準備を開始した。
ここで、とてもとても、とっても役立ったのが空間魔法の収納の魔法。
持っていくものをぽいぽいと空間魔法で作った収納ボックスに放り込んで行く。
この魔法は空間を作るときと開くとき時に魔力がかかるだけだから便利。作るときに相当の魔力をかけたからその容量も膨大。
旅途中や旅先でも魔法を覚えれるようにいくつか師匠に魔法の書を持っていくことを許してもらい、それもぽいぽいと空間に投げ入れる。
ちなみに出すときは出したいものを思い浮かべながら空間を開くだけ。入れたものを忘れたときはステータスで確認可能。楽~~~。
……という事で私自身の準備はものの一時間ほどで終わ……ったのだが、ヴァールハイト領にそれはそれはたくさんの食料などを持っていくそうで、それも収納。
ついでに天気がよくてスムーズに馬車で進むことが出来ても片道2週間はかかるらしく、その道中の食料やら夜営道具やらも収納することになり、何だかんだ準備に丸1日かかってしまった。
これだけ収納させられたのにまだ馬車で色々運んで行くらしいから大変だ。
空間魔法が無かったらどうするつもりだったのか……というか空間魔法があるからこんなにに持っていくことになった感が否めない。
準備が終わり、出発までに残ったわずかな時間は、淑女教育はお休みし、ヴァールハイト領についてや夜営の手解き、魔物についてお父様やセヴェール様に聞いた。
王宮魔導師の主な役割とかについては今は時間がないから、馬車でベルさんに教えてもらうことになった。
あと、さすがにぶっつけ本番で魔物と戦うのは怖かったので、冒険者ギルドに登録し、お父様と一緒に魔物討伐に向かったりもした。
さらっと流したが、そう、魔物討伐に行ってみた。
初戦はゴブリンだったのだが……正直に言おう。率直な感想……臭い。
あと気持ち悪い。怯えるとかはないけど、ただただ気持ち悪い。
近づかれる前に撃破したいところだ。
でも戦利品……戦利品というか討伐した証みたいなのはとらないといけないので、それも魔法で遠くからささっとやらせてもらった。
そのあとオークやらでっかい狼とも戦ったけど、わずかな緊張は感じるものの恐怖するということはなく難なく撃破。
あれ? 私実は強いんでない? ちょっと誇っていいんでない?
と、ちょっと調子に乗ってたら攻撃食らった……油断大敵とはまさにこの事……気を付けます。
でも骨が折れるとかそれくらいなら師匠との模擬戦で日常茶飯事。
聖魔法でちゃちゃっと治して、魔物は氷付けにさせていただいた。
振り返ったときにお父様が固まってだけど気にしない。気にしないったら気にしない。
そして旅立つ前の日はお父様たちが気を使ってくれたのかレイとオリビエと遊ぶ時間を取ってくれた。
「オリビエ~!」
「クレア様~!」
そして現在私とオリビエは愛の抱擁中。
だって旅に出たらオリビエと会えなくなる。
ちょっと遠いところにあるとは聞いてたけど、色々話を聞いていたらこの仕事、もしかしたら半年以上帰ってこれないかもしれないらしいではないか……!
初仕事なのにそんな大きな仕事まかせないでよ。
半年……半年もオリビエやお父様たちと会えないなんてそんなの寂しい、聞いてない……!
「なるべく早いご帰還をお待ちしていますクレア様……!
離れたところからですが、ずっと、ずっとお待ちしておりますわ……!」
「うん……!
私、私忘れないよ、オリビエのこと!」
「クレア様……!」
「オリビエ!」
ガシッ
と、再度抱擁をしていると、いつも通り用意された、お茶やお菓子を挟んだ向かいからストップがかかった。
「…………ほら、二人とも離れがたいのはわかるけどせっかく入れた紅茶冷めるよ」
レイは私たちの感動の別れ……と言ってもオリビエは明日のお見送りにも来てくれるらしいのだが、とりあえず感動の別れをものともせず、お茶を美味しそうにすすっている。
その姿はいつも通り、本当にいつも通り。明日私が仕事で遠くに行くってこと知らないんじゃないかって言うくらいいつも通り。
「……レイは私がいなくなっても寂しくないの?」
あまりにもいつも通りなので聞いてみた。
「寂しいよ」
え、寂しいの?
なんだ、寂しいのか。全然そんな感じしないんですけど。
ちょっと、いったそばからお菓子に手を伸ばさないでよ。
「とても寂しいと思っているようには見えないですね……」
オリビエも私と同じ事を思ったようで、言葉をこぼす。
「………………せっかく自由に過ごすこと公爵様に許してもらったのにしんみりするのももったいないだろ。
それに王宮魔導師が3人もいくんでしょ? これ以上安全な仕事も無いから心配もあんまりしなくていいし。
ほら、クレア。これ好きでしょ、早く食べないと湿気るよ」
そう言ってレイは私の口にクッキーを捩じ込む。
噛んだ時のサクサクの食感、口に広がるバターの香りと甘味。あぁ、幸せ……
じゃない。いや、好きだけど、好きだけども。
私はちょっとしんみりする時間も必要だと思うよ、あとクッキーはそんなにすぐ湿気ません。
でもおいしかった。ご馳走さま。
もう一枚いただこう。
それから美味しいお菓子といつも通りのおしゃべりに夢中になっていると帰る時間になってしまった。
オリビエとは最後もう一度しんみりとした空気になってしまったのだが、涙は明日に取っておこうと泣いてしまう前に馬車に乗り込んだ。
ちなみに今日はグラディウス家の馬車に送ってもらうことに。
少し遠回りになるがグラディウス家に帰る途中にフロワール家があるのでわざわざ呼ぶのが面倒だから乗せて、と冗談半分で言ったら乗せてくれた。
もっと言うなら面倒だったと言うより、迎えの時間を伝えるのを忘れていたというか、迎えのことすっかり忘れていたのだ。
長い距離歩かせてすまんの、グラディウス家のお馬さん。ちょっと距離が伸びるだけだから頑張って。
そんなささやかなエールを馬車をひくお馬さんに送ったと同時に馬車は走り出した。
空間魔法の簡単講座ー(゜∇^d)!
空間魔法・下級
→収納(下級の中でも高度なものは温度調整や、入れた時の状態を保つことが可能)、瞬間移動(目に入っている場所、数メートル)
空間魔法・中級
→収納(生物が生きたまま入れる空間を作ることも可能)
空間魔法・上級→長距離転移
空間魔法・特級
→自分が思うままの空間を作る(万物を飲み込むこと可能)




