ぐぅ
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ヴァールハイト領
それはこの国の東にある山と森林に囲まれたヴァールハイト男爵家が統治する領地らしい。
昔は農業が盛んな土地だった。
しかし、10年くらい前、謎の疫病が流行った。
最初は国もその疫病を直すために色々やっていたのだけれど、送り込んだ聖魔術師や医者まで疫病にかかり死んでしまった。
これ以上は無理だと、それからは食材やら医療品の支援だけ、あとはこの領地を丸々閉鎖したそうだ。
しかし数年前ほど前にその疫病はピタッと収まり、それからは一度もその病気にかかっている人はいないらしい。
しかし疫病が収まった今でも人手が全然足りず大地はぼろぼろ。もう人だけの力ではどうしようもないほど。
ここ数年、ヴァールハイト領で疫病が沈静化していることや、他の領地に広がってもいないことからもう危険は少なくなっているのではないか。ということで魔導師を送り込み、魔法でヴァールハイト領地すべての大地を復元するということになったらしい。
「でもまだ何か残ってるかも知れないから一応聖魔法中級以上、浄化の魔法が使える魔導師で、水属性か大地魔法が使える魔導師を派遣することになったの。
しかも領地いっこまるごとの復元だからね、相当の魔力量と、水魔法も大地魔法も中級か上級が使えた方がいい……ってなると、結構ハードルが高くてねぇ、私たちが行くことになったの」
「なるほど、そういうことだったんですね。
今その領地の人たちは?」
「まだその領地にいるわよー。
もう閉鎖はされて無いんだけどね、元々山と森に囲まれて他の地域と交流も少なかったし、閉鎖されてからはもっとね……
しかも神玉の力が弱まっているのか、その領地に行く途中の森に魔物が出るようにもなってるらしくて、ヴァールハイト領に行く人もいなければ出れる人もほとんどいないわ。全滅してないのが不思議なくらいよ」
「ま、魔物まで……」
「まぁ大丈夫よ!
ただひとつ大変なこととしたら、結構遠い地だから馬車に長時間乗らないといけないことね、身体中が痛くなっちゃうわぁ。
まあ、それは聖魔法でちゃちゃっと直せばいいんだけど、精神的なストレスはどうしようもないものぉ」
「……へぇ、そうなんですね」
私はついつい空返事を返してしまう。本当に『あぁ、そうなんだ。実際そうなったことがないからわかんないなぁ』なんて思いつつ。
そんな思いが伝わってしまったのか、少し間が空いたあと。
「…………あら? そういえばクレアちゃんって公爵令嬢よね?
もしかして長旅とかしたこと……というより魔物を見たこと無い?」
「…………あはは、」
「あらー。それはアルベルトさんも心配するわぁ……」
その通り。先ほども言ったと思うが、私は王都から出たことがない。
それだけでなく、馬車での移動だったら最長でも30分くらいの場所にしか行ったことが無い。(誘拐されたときは除く)
正直王都の外とかほとんど未知の世界。王都の外の情報とか家庭教師の先生のお話と、有名な領地の書類のみの知識となりますので。
もちろん魔物なんか見たこと無い。
なぜなら人が住んでいるところは基本的に神殿に置かれている神玉によって守られているから。
王都には神殿だけでなく城にも置かれているのだがそれは置いといて。
「……私、生きて帰れるでしょうか」
王都の外は危険だ。
神玉の力がおよぶ範囲は、この国全てとかそんなに広くない。
私はこの話を聞いたときに、虫コナー○゛……と思ったのだが、まぁ、そんな感じだ。
なんでも神玉を中心数キロの間はその守護域に魔物は入れないらしい。
時々我慢強いのかなんなのか入ってきてしまうやつもいるそうだが、その虫コナー○゛的な役割をしてくれる神玉があることで領地は比較的安全なのだ。
神玉の効果は数キロと言ったが、これは大体の目安だ。神玉の大きさにもよるし、離れれば離れるほどその効力は少なくなり魔物が出てくる。
王都で言うと安全だと言えるのは王都をぐるっと囲んでいる塀まで。
そこを出て数十メートル歩いただけで魔物が出てくるらしい。(レイ情報)
「まぁ、生きては帰れるわよ、私たちも騎士も付いてくれるし。それになにかあったら私がどんな怪我だって治してあげる。
聖女と呼ばれる由縁を見せてあげるわ!」
そう言って大きな胸を張るベルさん。その姿は妖艶の一言
しかし……
「聖女?」
聖女……聖女?
神聖な事業を成した女性に与えられる称号。具体的にいえば、慈善事業にその生涯をささげたり、奇跡のような力で多くの人を癒したといったことをした人。
聖女の私の勝手なイメージをあげるのならば、清廉潔白、物静かでおしとやか……慈悲と博愛に満ちたお方……
私は目の前にある、素晴らしい谷間と惜しげもなく素肌をさらしているその姿を見る。
その姿は私がイメージする聖女とは程遠い(失礼)
しかし
「そうよ。いつの間にかそう呼ばれるようになったんだけどね。
こう見えても私、聖魔法の特級が使えるの。毒が回っていようと瀕死の状態だろうと治してあげるわ!
たとえ身体の半分が無くなっていようともね」
そう言って笑う姿も妖艶そのもの。
でも私は、ベルさんのその呼び名に納得してしまった。
きっとベルさんは多くの人を助けてきたんだろう。きっとベルさんを聖女ところか女神と称える人もいるだろうと。そう思った。
「まぁ、私も聖魔法以外はほとんど覚えれてなくてね。他の魔法で言うとー……中級の水魔法と風魔法がやっと使えるくらいなの。
だから私は後衛でみんなの補佐に回ることになっちゃうわ。守ってあげられなくてごめんね」
「いえ! とても心強いです。よろしくお願いします!」
ベルさんに向かって深く頭を下げる。
さっき合格? をもらったばかりなのに、最初の仕事から足を引っ張ってしまいそう。
でも……
「大丈夫よ。クレアちゃんあのセヴェール様と模擬戦してるって聞いたもの。
魔物に怯えさえしなかったら余裕だわ!」
「はい! 頑張ります!」
絶対に何かの役にたってみせる!
実戦でも役にたてるように今まで師匠にしごかれて来たんだもん!
魔物に使わずして何に使う!
「さーてと、ちょっと酔いが覚めちゃったわね」
あ、そういえばいつの間にかベルさんの話し方が間延びしなくなっていた。
顔からもちょっと赤みが引いているような……
「新しいお酒取ってこようかしら。
クレアちゃんはなにかいらない?」
「あ、いえ私はなにも……」
"ぐぅううううーー"
「…………」
……はい、盛大なの中の音でございますね。
なにか食べたいそうですよ、私のお腹が。はい。
周りが騒がしくとも、近くにいたベルさんには聞こえただろう。
「ふふふ、なにか一緒に取りにいきましょうか!
ついでにヴァールハイト領に一緒に行くもう一人も紹介するわ」
「お願いしますぅ……」
お腹の音ってなんで鳴るんだろう、周りが騒がしいからよかったものの、盛大になりすぎだよ……
確かに料理はまだ食べてなかったけど、ジュースは飲んでたのに、どれだけ食いしん坊なんだ。
は、はずかしいぃ……
聖魔法の解説!
現役聖魔法特級を使えるのはこの国ではベルさんだけです。
世界的に見るとあと一人、使える人がいます。
聖魔法・初級→痛みの軽減、かすり傷などの小さな傷の治療など
聖魔法・中級→少し大きめの怪我の完治、解毒・解呪(弱)など
聖魔法・上級→解呪・解毒、欠損部位の復元、広範囲同時の治療など
聖魔法・特級→瀕死の状態からの完全回復、呼吸・心拍が止まった状態からの蘇生(止まってから時間が経ったものは無理)




