ちょっと待って! (4)
ブクマ&評価ありがとうございますm(__)m
公爵家に着くと、私達は自室に入って、扉を閉めて鍵をかけ、風属性の防音の魔法で外に音が漏れないようにした。
この魔法の難点は外からの声も聞こえない所なのだが、まぁ家の中だし大丈夫だろう。
「厳重だね……」
いつもより大変なお話をしますから。
今までもこういう話をするときはかの魔法使うべきだったかな。
まぁ、いいや、誰にもばれてないし。
「今回は……ちょっと長くなるかもしれない」
「うん。役に立てるかはわからないけど」
それから私は、話し出した。自称神様と話してきたこと。
クレア・フロワールも成瀬さくらも同じ魂、同一人物だったらしいということ。
気絶している間にみた夢は一周目の自分の記憶だったこと。
どんな記憶をみたのかまで話したからずいぶんと長い間話すことになってしまった。
そして思い付く限りのことを話した後、ずっと静かに聞いてくれていたレイが口を開いた。
「一つ言っていい?」
「なに?」
一気に話過ぎちゃったかな……自分でも意味がわからないというか、理解しきれていないのに、当事者でもないレイが一回聞いただけでわかるわけないよね。
自分が説明上手だとも思えないし……
「よかったね」
……?
「よかった?」
なぜかレイはそう言って、優しく微笑む。
「何が?」
……あ、誘拐されたときの話しもしたから、そうならなくてよかったね。ってこと?
「あぁ、違う違う」
私がよく分からないという顔をしていたのか、まるで考えてもいたことを読み取るように、そう言ってくる。
「クレアの一周目の過去はね、確かに……うん。言っては悪いけど可愛そうだなって思うよ。誘拐されたときの話なんて、今クレアがそうならなくてよかったって思ってる。
でもそこじゃなくてさ……
ほら、前にクレア、本当は自分は公爵様たちの子供じゃ無いって言ってたでしょ?」
「あ……」
そういえばレイに転生者だってこと話したときに、そんなことも言っちゃったような気がする。
「でも、さっきクレアはクレア・フロワールも成瀬さくらも同じ魂、同一人物っていったでしょう?
それってクレアが本当の本当に公爵家の令嬢……公爵様たちの子供ってことだよね?
だから…………って、泣かないでよ!?」
歪む、世界ではレイが慌てているのがわかる。
やっぱりレイは天才なんだと思う。普通こんな現実的じゃない話されてすぐに理解できるはずがない。
レイ凄い、と思うけれど今はそんなに深く考えることが出来ない。
レイに言われて気がついた。かつて私は本来のクレア・フロワールの居場所を奪ってしまったという罪悪感で涙を流したが、そんな必要なかったのだ。
だってクレア・フロワールも成瀬さくらも同一人物だったのだから。
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
いつか流した、悲しくて申し訳ない涙とは違うものが、私の頬を濡らした。
嬉しくて、嬉しくて、どんどん涙が溢れてくる。
泣きながらもついつい笑みがこぼれる。昔悩んだ私がバカみたいだ。
どこかにずっと抱えていたもやがきれいさっぱり取り払われて、とても清々しい気分になる。
よかった。
本当に。
よかった。
「……クレアって結構泣き虫だよねー」
レイが見かねて、そんなことをなんていいながら、自分の裾で私の涙を拭いてくれる。
……こういうところ、昔と全然変わらない。
「うるさいー……」
でもその優しさが気恥ずかしくて憎まれ口を叩く私も、昔と変わらないな……と思った。
そして私の涙が落ち着いて来たので、気を取り直して、真面目な話。
いや、今までも真面目な話だったんだけど。
「ねぇ、レイ。一周目の私の話を聞いてどう思った?」
「……どう、とは」
「ヒロインいじめそう?」
「クレアはどう思ったの?」
私……私は……
「やらないと思う」
「でもクレアの記憶のなかでも、ヒロインに魔法を向けてたんでしょう?」
ううっ、そうなんだけどさ……
「何か理由があると思うんだよね……」
ゲーム脳のクレアしか知らなかった私は、色恋沙汰の嫉妬とかだろうと思っていたんだけど……
記憶を取り戻した現在。一周目の私が、そういう理由でヒロインをいじめたり、ましてや魔法を向けたりはしそうに無い。
そもそもゲームのクレアと設定が違いすぎる。
殿下の婚約者になったのだってクレアがわがままをいったから、とかそういうのじゃなかったし。
それに一周目の私は……なんというか魔法バカだった。
習に6日城に行って魔法の書を読み、覚えた魔法はその日中に試しに使って、出来たら次。みたいな。
師匠がお父様だったからか、師匠みたいに暴力て……実践的な鍛練はしてなかったから、実際強いのかどうかは不明だけど……あ、いや、今よくよく考えてみたけど、一周目の私、魔法バカというよりファザコンだな、魔法をたくさん覚えるのも何をするのもお父様に誉められたいがため……ある意味尊敬するよ。
魔法学院で何かあったのだろうか。お父様が大好きな一周目の私がお父様を困らせるようなことしない気がするんだけど。
そう、残念ながら、自称神様がいったとおり、なぜかすべてのことは思い出せなかった。
それが顕著なのが、学院に入ってからのこと。
というか12歳から上の記憶がちょっと曖昧。
自称神は何かきっかけか何かがいるとかなんとか言ってたけど適当過ぎる。なんだきっかけって。
それも学院のことを思い出すきっかけっていうと……学院に行くかどうかしないと無理なような。
ただ行くだけならいいけど、通えってなると。それってすなわち……
……うん。ちょっとこの問題は保留。
今私が思い出している一周目の記憶は少なくも無いけど多くもない。
私が一周目で繊細に覚えているのは12歳までの記憶と……
私が処刑されるその瞬間……くらいかな。
あぁ、起きたとき寂しかった理由はこれか。
なんでこんなところだけ覚えてるんだ。
でも大丈夫、みんなは私にこんなに冷たい目を向けない。私を一人にしたりしない。
それにお父様のその顔はね。自分を攻めてるんだよ。
私はその記憶を鮮明に掘り起こして改めて決意した。
私は絶対にこんなことにはならないと。
「ねぇ、クレア。ごめんけど俺そろそろ帰っていい?」
「え? あ、ごめんもうこんな時間か!」
時計を見ると既に7時ごろ2時間以上話し込んでしまった。
やっぱり長くなっちゃったなぁ。
「じゃあお見送りするね!」
もう時間も遅いのだから、早くしなくては……と、私は魔法を解いて足早にドアに向かった。
「あ、ちょっと待ってクレア!」
ドアを開ける前にレイが制止の言葉を発したのだが一歩遅く、私は勢いよくドアを開けた。
「どうかし……え、」
ドアの目の前にお父様がたっていた。
「え、あれ……お、お父様?」
なんでここに?
「レイリスト、クレア」
するとお父様はとても低い声で、私たちの名前を呼んだ。
あれ、なんか……
「……こんなに遅い時間まで成人した男女が2人、鍵のかかった部屋で一体何をしていたんだ?」
珍しくお父様が本気で怒っていらっしゃる。
その後、レイも私もこってりと怒られ、1ヶ月の間、お菓子を食べることと、お互いの家に行くことが禁止にされてしまったのであった。




