ちょっと待って! (2)
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「待って! ちょっと待ってクレア!
本気で言ってるの?」
なに言ってるんだ、本気に決まっているではないか。
こんなモヤモヤしか気持ちを放っておくことなんて出来ないし。
「……今すぐ?」
「今すぐ」
「……明日じゃダメなの?」
「明日になったら石は片付けられてるでしょう?」
「……え、石触るつもりなの?」
必要とあらば。頭が痛いのは嫌だけど、さっさと解決したいし。
「……さっき目が覚めたばっかりなのに?」
「これくらいの頭の痛さなんともないよ」
レイが小さく、失言した……と呟く。
失言とは何事か、いいこと聞いたよ、ありがとう。
「あぁ……もう。仕方ないなぁ。
でも、とりあえずクレア……着替えよう」
「あ、」
うわ、すっかり忘れていた。さっきまであんなに気にしていたのに。
いけない、いけない……
「レイ、じゃあちょっと出てってくれる?」
「言われなくてもわかってるよ……」
じゃあ俺は公爵夫人に伝えてくる……とレイは部屋を出ていった。
そのあとメイドさんがやって来て髪を着替えを手伝ってくれた。
おそらくレイが呼んでくれたのだろう。
そして、想像よりも早く支度が終わり……
やって来ました神殿。
今は午後4時頃。朝はガラーンとしていた神殿も今は人がたくさんいる。
そしてそのほとんどが平民の皆さん。
今、私達が乗ってる馬車が、すごく目立つ。
なにも考えていなかったけど……これ、私たち平民っぽく変装して来た方がよかったのでは。馬車を見る皆さんの目が、なんとも物珍しそう。
こんなところに私たちがいきなり来たら、邪魔だよね。迷惑だよね。
え、この注目されるなか、私は馬車をおりるの?
……無理。
「レイ……」
助けを求めようとレイを見ると、おそらく言いたいことは伝わっただろう。
でも、帰って来た返答は。
「……女は度胸だよ、クレア」
無理ー!!
レイは私のそんなに心の叫びに気づきながらも、励ましたりすることはせず、先に馬車を降りてこちらに手を差し伸べてくる。
その姿はまさしく王子様。
「でも倒れたりするかもしれないし……」
「クレア、石にさわりたいなら今日か来月しかない。
ここの神殿は6時には閉まっちゃうし、今日はもう一日中こんな感じだよ。ほら、行こう」
う、うわーん。
私は心のなかで泣きながらも、ゆっくりとレイの手をとって馬車を降りる。
一時間くらい前の私を殴ってやりたい。こんなに注目されるならあんなこと言い出さなかったのに。
「きれいだね、クレア」
レイが私を見てそう言ってくる。
一体何が……あぁ、神殿か。
「そうだね、真っ白できれいだなって私も思った」
「うーん、神殿じゃないんだよなぁ」
え、じゃあ何がきれいなの。
神殿綺麗ではないか、白い壁に、キラキラのステンドグラスがとても。
「あ、レイ……私、必要とあらば、石も触るつもりなんだけど、さっきも言った通り倒れちゃうかも知れない。どうしよう」
「あぁ、それは俺も思ったよ。
でも別に気にしなくていいよ、もしそうなったら俺が抱えて連れて帰るから」
「…………抱えて?」
『出来るの?』なんて聞かない。レイが力持ちなことは知っているから。
でも、この人混みの中を……抱えて歩かれる?
「それは……ご遠慮したいなぁ」
「俺もクレアが倒れるところとか見たくないかなー」
ああ、そう。……じゃあ倒れないようにしよう、そうしよう。
私たちが中に入ると、神官さんに『朝倒れてしまって、きちんと儀式が完了しているか不安なのでもう一度やってほしい』とお願いし、ありがたい長ーいお話から再度やり直しということになった。
その間レイは壁の花となっといてもらう。
「次の者、前へ!」
そしてついに私の順番。今まででは特に何かの思い出すとかは無かった。
やはり石にさわることが大切なのか……それとも石も関係ないのか。
そしてゆっくりと石に触れる。
シーンッ……
……なにも起こらない。
あー、石も特に関係なかったか。無駄足だったな、残念……
そう思って手を離そうとした時。石がまばゆく光り出す。
「え……!」
私はその眩しさに耐えられず目を閉じた。
「……一体何事……って、なにここ」
気がつくと私は真っ白な場所にいた。見渡す限り白く、何もない。
え、なに。どこかに召喚でもされたの?
レイや他の皆さんは……?
……ちょっと待って。何か分かるかもしれないと思って神殿には来たけど、どこかに召喚されるとかそういうのは考えてなかったぞ。
そもそもこれは召喚なのか?
術者とかもいないし……どこだここ。
"よく来た
偽りの運命に抗いし者よ"
突然の出来事に頭がついて行かぬまま、キョロキョロとしていると、突如どこからともなく声が聞こえてきた。
「……だれ?」
どこから声が……
" 私はこの世界の運命を作りし神だ "
運命を作りし神?
また中二病みたいな……
恥ずかしい、恥ずかしいぞ、この自称、神。
" 我が作りし運命は、あるものの行動により、いずれ無理矢理切り裂かれ、変わってしまう。
しかしそのようなことは許されぬ、なんとしてでも阻止、または正さねばならぬ "
「……はぁ」
なんか、よくわからんこと言い出したな……
" そなたは知っているはずだ
これから起こることを "
" 我らは以前人間の手によって変えられる運命を正すため、偽りの運命に抗ったそなたに賭けたのだ "
どうしよう、なんか声が増えた。
……というか、聞き捨てならない言葉が、賭け?
私に賭けたって言った? この……神の声(笑)
" 我らは死したそなたの魂を一度、別の世界に転生させた。
そなた自身、運命を無理やり切り裂かれ、魂にダメージを受けていたためだ"
" 力の満ちているあちらの世界で暮らすことで、そなたの魂はずいぶんと回復したはずだ "
" そして我らはこちらの時を戻し、あちらの世界で死したそなたの魂が帰ってくるのを待っていた "
" そなたはあちらの世界で知ったはずだ、偽りの運命による歪んだ世界の物語を "
…………ん?
「ちょちょ、ちょっと待って!
情報の整理をさせて」
ど、どういうことだ?
つまり私は、この神様によってクレアに転生させられたのか?
……いや違う、クレアが転生して成瀬さくらになって、クレアに転生したのか。
……ん?
「では、私とは?」
私は一体、どこの誰。
" クレア・フロワールだろう "
あ、はい。そうです。私がクレア・フロワールです……
じゃなくて。
「成瀬さくらは?」
" クレア・フロワールだろう "
……あ、はい。
なるほど、よくわからんけど一つだけわかったぞ。
……要は成瀬さくらは転生者だったと言うことでしょうか。
あんなに平凡だったのに、可愛くもなんとも無かったのに。
転生者って全員チートな訳じゃないんだね。
……成瀬さくらのときもちょっとチートがほしかったなぁ、なんて。




