閑話:苦手を克服するために
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~ギルバート視点~
やっほー。レイリストの父であり騎士団長のギルバートでーす。
いやー、なんか久しぶりな感じがするよね。レイリストとルミリアは定期的にクレアちゃん家に遊びに行ってるらしいけど?俺仕事忙しいんだよ……
え?仕事サボってそう?
んなわけあるかっての、大変なんだぞ騎士団長って、いやほんとに。部下優秀だから逃がしてもくれない。
まぁ、どれくらい忙しいのか、騎士団の仕事から説明していこうかな。
騎士団ってね、何班かに別れて一日の半分は見回りやらなんやらの実動をして、もう半分は訓練みたいなことしてるんだよ。
でね、騎士団長って見回りとかの実働にはあんまり行かない代わりその報告書を読んで、問題があったりしたらそれに対する作戦とか誰に行かすかとか考えなきゃいけない訳だ。まぁ、それは仕方ない。
問題は訓練よ、俺さ、団長なんて管理職になってるわけだからはっきり言って教える立場っていうのかな?
基本的に部下が訓練してるのの見回りなの。お気づき? じゃあ自分の訓練いつするんだよ、っていう……
書類とか山積みなのに自主トレしなきゃいけねーし、もう泣きそうなくらい忙しい……
そう、忙しいの。
ほんと、今、俺の目の前にいるやつはそれわかってる? ねぇ。
「アルベルト……」
「わかってる。と言うか俺も忙しい」
「知ってる……」
知ってるよ、お前が忙しいことくらい。『王弟』で『公爵』で『王宮魔術師』なんだから。
騎士団長とか比べ物にならん忙しさだろ?想像しただけでも過労死しそう。
「じゃあ何でここにいるんだよ……」
「俺の休憩時間が今しかなかったから」
「やっぱり完全にお前の都合なんじゃねぇか」
「だから今お前の仕事手伝ってやってるだろう……ここ計算違う」
「直してといて。
なんだよ、忙しいのにわざわざこっちまで来て俺の仕事までして……なんか頼み事か?」
「あぁ」
え、まじかよ。
珍しい……
アルは魔法の天才だ、本人はそんなんじゃないというが...
まあそうでなくても頭もいいし、基本やることなすことそつなくこなす……ある一点を除いては。
え、まさか……
「俺に剣術を教えてほしい」
…………
「……はい?」
「俺に剣術を教えてほしい」
「……聞き間違えじゃなかった。
え、お前剣術の……というか武術全般、壊滅的な才能だったと記憶してるんだけど」
「そうだな」
そうなのだ。このアルベルト、魔法においては天才と称されているが武術の才はからっきし……
この国では武術よりも魔法の方が有利、というか優遇される傾向にあるし、魔法を使うやつが武術をやる必要もない、みたいな感じなのでやる奴が少ないいということもあり、アルが武術の才があろうと無かろうとどうでもよかったのだ。
が、
「そりゃまたなんで……」
「……クレアが……」
何故だと問うと、アルベルトはなぜか気まずそうに目を反らし、クレアちゃんの名前だけだして口を閉じてしまった。
クレアちゃん?
あぁ、お前クレアちゃん大好きだもんな。この前の誘拐事件のこともあるしクレアちゃんを守れるほど強くなりたいって?
…………
……それだったら、才能の無い武術一生懸命伸ばすより、才能のある魔法極めた方が早いような気がするのは俺だけだろうか。
正直魔法を極めることがどれだけ大変か知らないが、アルベルトの武術を鍛えるのも相当大変だと長年の付き合いだから知っているのだ。
現に今までアルベルトだって武術の才が無かったとしても、何もしてこなかった訳じゃない、人並み、いや人並み以上には努力しても、やはり苦手なのだ。
するとアルベルトが意を決したように話し出した。
「この前……クレアが、私みたいになりたい、と言ってくれたんだ」
「おぉ、よかったじゃねーか」
嬉しかったろうなぁ、その時のアルベルトの顔見たかったわー……
「で、それがどうしたんだ?」
「……それを言われたあと……色々あってな。数年前まで私と兄上は王座に就くかで揉めてただろう?その事をクレアに話すことになったんだ」
「は?なんじゃそりゃ、どういう状況なんだ、それ?」
「まぁ、それはどうでもいい。その時、兄上が武術はギルバートくらい強いと話してな……」
「え?……あぁ、」
陛下は強い。武術だけの試合でも俺も下手したら負ける。
それに加えて魔法もあるのだ、言い方は悪いが殺し合いになったら絶対に俺死ぬ。
まぁ、守る対象が強いに越したこと無いから別にいいんだが、騎士団長より強くなるのはやめていただきたい。切に。団員の前で負かされでもしたら威厳無くすから、まじで。
「その時のクレアの目が……」
「目が?」
「なんというか尊敬の眼差しというか、キラキラと光っていて……」
「うん……」
「私が武術ができないと知ったら軽蔑されるんじゃないかと……」
…………
「大丈夫……だろ……」
……多分。
言葉だけとはいえ、フォローしたはずなのになぜか部屋の気温が一気に下がった。
いや、気分的にとかじゃなくて本当に。
「ちょっ、アルベルト!魔力!魔力漏れてるっ!」
「思い返せば……クレアにギルバートを騎士団長だと紹介したときもキラキラした目でみていたような気がする..」
知らんしーー!!
「いや!そんなこと、そんなことなかったって、気のせいだって!大丈夫だって!
寒い寒い!凍る!魔力抑えて、ほんとに!頼むから!」
そこまでいうと少し落ち着いたのか、アルベルトが漏れ出す魔力を抑えてくれた。
いやまじで寒かった、魔導師怖い。
「……ということで俺に剣術を教えてほしい」
「ということで、じゃねぇよ……
俺も忙しいって言ってるだろ、お前も忙しいんだろ。いつそんな時間とるんだよ……」
というかなぜ俺……
いや、公爵しかも王弟ともあろう人が気軽にもの頼める人とか数限られてるの分かってるんだけどさ……
「俺が仕事を減らす」
「そんなこと出来るのかよ……」
「出来る。元々俺の仕事は俺じゃなくてもできるものが多い、特に王宮魔術師としての仕事はな」
アルベルトの話によると、王宮魔術師としてアルベルトがやっている仕事は人数さえいればなんとかなるんだとか。
「いやでも俺が忙しいことに変わり無いんだけど……」
「俺が手伝う」
「え……」
「お前が今忙しくなってるのは騎士団の体制の変更……クレアが拐われてから考えられている騎士団への魔術師の採用の件があるからだろう?
頭の固くてプライドの高い魔導師は騎士から話を持ちかけられたところで聞く耳を持たんと聞いた、なら私が魔導師と話をしよう。幾分かスムーズに仕事ができるようになるんじゃないか?」
「アルベルト……」
「元々私の娘の誘拐が引き金となって出た話なんだ……その手助けくらいするさ。
もうすぐ引き継ぎか終わる、そしたらお前の手助けと訓練を開始させてもらえないだろうか?」
そうか……それなら……
「あぁ、いいぜ、やってやるよ」
「恩に着る、よろしく頼む」
「いい、いい、あと仕事の手助けついでにもう一つ頼んでいいか?」
「なんだ?」
俺は大きく息を吸って頭を下げた。
「俺に魔法教えてください!!」
「……はい?」
それから俺がアルベルトに剣術を、アルベルトが俺に魔法を教えるという特訓が開始した。
お互いを特訓する時間が少ないものだから、いつの間にか比例するように地獄のような特訓になっていて、みている人に恐怖を与えてしまうのだがこれはまた別の話。




