転機の日
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その後、機嫌のなおったレイ様と、また何気ない話をしていると部屋の扉が叩かれた。
メイドさんが扉を開けるとそこには私とレイ様のママが来ていた。
さすがにママ友の長ーい話も終わっていたようだ。
「あら、もう起きちゃったのね
もっと寝ててもいいのよ?」
近くに来たママにそう言われたのだが、今5時くらいだから、私たち軽く2時間はお昼寝してる。
いつもより結構長めのお昼寝だ。
「クレア様、うちのレイリストと遊んでくださってありがとうございました。
レイリストはやんちゃですから、大変だったでしょう?」
ママと一緒に部屋に来ていたレイ様のママもこちらに来て、なぜかそんなことを言われた。
にしても……近づいて見るとさらに可愛いなぁ、レイ様のママさん……レイ様完全にお母さん似だね。
「そんなことない」
そう言ってレイ様はそっぽを向いてしまった。
待ってこっちも可愛い……
これこそまさに両手に花だな。
いや、私のママも相当可愛いから両手に花以上。
この人たちを花に例えるならレイ様とレイ様のお母さんはヒマワリ、うちのママはカスミソウ……いやスズラン……
うーん、悩む……
「その通りです。えっと……グラディウス夫人、むしろ私の方がこけてしまうところを助けていただいたのです!」
レイ様のお母さんの名前を言おうとしたら、わからなくてすごく他人行儀な呼び方になってしまった……
しかもそれは相手にも気づかれてしまったようで、
「まぁ、クレア様、そんな他人行儀な呼び方をなさらないでくださいませ……と言っても自己紹介をまだしていませんでしたね。
私、ギルバートの妻のルミリアと申します。私の夫はギルおじ様と呼ぶように言ったと伺っています。
どうぞ私のこともルミリアおば様とお呼びください」
そう言って私に笑いかけるグラディウス夫人、もといルミリアおば様。
「わかりました!
それでは私のこともどうか敬称など付けずお呼びください、ルミリアおば様!」
私もお言葉に甘えて早々に呼び方を変えされていただいた。
そして欲が出てしまった。ついでに私のことはクレアって呼んでほしいなぁなんて!
いやだって、ギルおじ様は私のこと"ちゃん"付けだし、レイ様も"クレア"って呼んでいるのだ。
ルミリアおば様からだけ"様"付けされるだなんて嫌だ。
「よろしいのですか?
そうですねぇ……ではひとつのわがままを言っても?」
「なんでしょう?」
「私もあなたのお母様のようにクー……いえ、クーちゃんとお呼びしたいのです」
わがままってなんだろう? でも困っているような感じじゃないから敬称付けずに呼んでくれそうだなー……
何てことを考えていたら、こんな素晴らしい提案をされた。
な、なんと!
そう言って天使のような笑顔を見せるルミリアおば様。
ま、まぶしい!
この一家全員眩しく見える!
「是非!是非、そう呼んでいただきたいです!
よろしければもっと砕けた口調で話してください!」
もちろんNoなんて返事するわけないでしょう!
そしてこの際である。私はルミリアおば様ともっと仲良くなりたい、敬語なんていらないと追加注文をさせていただいた。
「いいんですか?
じゃなくて……いいの?」
「はい!」
もちろん!
私は心のなかでおもいっきりガッツポーズを決めた。
家柄が家柄なので仕方ないのはわかっているのだが、会う人会う人硬い口調なので息がつまりそうだったのだ。
そして話題は先ほど言った『私がレイ様に助けてもらった』件に。
「なるほど、それでレイリストはクーちゃんを助けたのね。
かっこよかった?」
「なっ……!」
話を聞いたルミリアおば様がそんな質問をするとレイ様が慌て出したが知ったこっちゃない。
……いや、かわいい。レイ様を満面の笑顔で見つめて、その姿を脳内で連写し大切に保存する。
「はい!とってもかっこよかったです!」
「ちょっ……!」
「ふふ、そう……」
天使のような笑顔を浮かべてレイ様の頭を撫でるルミリアおば様と顔を真っ赤にして口では嫌がっていても強くは拒まないレイ様……
眼福。
脳内にあるカメラの連写音が止まらない。
素晴らしい、素晴らしすぎる……
可愛い、可愛い、可愛い。
え、ヤバイ尊い、発狂しそう。
頭のなかで二人を拝む。
前世では美羽が推しを見て悶えてるのを笑いながら見てたけど、結局は私も同類なのか美羽に染められたのか……
今日少しだけ一緒に過ごしてみて分かったのだがらレイ様は結構シャイというか恥ずかしがり屋らしい。
私がレイ様のことを誉めたり、ルミリアおば様が普段のレイ様のことを話すとすぐに顔を赤くしてしまうのだ。
可愛い。
「さて、リリアナさん、そろそろいいんじゃないですか?」
「そうね、旦那様とギルバート様が待ちくたびれてるかもしれないわ」
話が一通り終わり、私がそんなことを考えているといきなりルミリアおば様がそう切り出した。
いったいなんのことだろう?
そして私たちが母親に連れられ向かったのはリビング。
ここになにかあるのだろうか?
昼にここにいたときはいつもと変わったところは無かったけど……
「お願いします」
ママがそう声を掛けると後ろからついてきていたメイドさんが扉のところに来て扉に手をかけた。
そして……
開かれた扉の先にはいつもとは違う、豪華に飾られたリビングがあった。
中央にはまた豪華なケーキと料理があり……
待ちくたびれたというようなパパとギルおじ様、しかしその顔は満面の笑顔で……
「誕生日おめでとう、クレア!」
その言葉でママ達が私のためにサプライズで誕生日会を開いてくれたのだとわかった。
驚きで固まる。
だって一切そんなそぶり無かったのだ。
あんなに盛大な誕生日会開いといて、もう一回するとも思えなかったし……
それにすごく嬉しかったけどなぜギルおじ様達も私の誕生日会に参加……だけでなく準備もしてくれたのだろう?
疑問に思ったのでギルおじ様に聞いてみると。
「アルが一生懸命クレアちゃんの誕生日会のことを考えてるのを知ったから人数は多い方がいいだろって参加させてもらったんだ!
俺がクレアちゃんに会いたかったって言うのもあるし、レイリスト達もクレアちゃんに会わせたかったしな!」
という答えが帰って来た、
なるほど、そうだったのか。
「本当はレイリスト達とはこの前会うはずだったんだけど……あっ」
そこまで言ってギルおじ様は話を止めてしまった。
『やってしまった』みたいな顔をして、おそらく次に続く言葉は……
「もしかしてレイ様達はこの前の私の誕生日パーティーにも来られていたんですか?」
そうギルおじ様に聞くとパパと顔を見合わせて複雑そうな顔をした。
ああ、やっぱり……
「私が誘拐されたから……お会い出来なかったんですね…… 」
「ご、ごめんクレアちゃん、思い出させる気は無かったんだ」
ん?ああ、そうか、きっとみんなは私にとってのあの日の記憶……誘拐されたことは思い出したく無いこと、恐怖の記憶だと認識しているのだろう。
まぁ普通はそうだろうが……
「大丈夫です」
「え?」
「大丈夫です。あの日のこと思い出しても」
「本当に? 無理し無くてもいいんだよ?」
ギルおじ様だけではない、私の回りにいたみんなが心配そうに私を見つめているのが分かる。
でも無理なんてしていない、確かに私にとってあの日は初めて誘拐されて、寒くて怖い思いをした日であることに代わりはないけど……
「だって皆様が助けてくださいましたから」
私にとってのあの日は……初めて大勢の人の前で挨拶をして成功した日であり、初めて魔法を使った日であり、
そして、クレア・フロワールの父アルベルトと母リリアナを"私"の家族だと実感させるきっかけとなった大切な日なのだ。
「目を覚ましたとき……パパとママが目の前で眠っていました。あんなに嬉しくて、安心出来たのは初めてです。
そのきっかけを作ってくれたのが、あの出来事なら……私はあの日を怖い日だなんて思いません」
私はきっとあの日がなければ、これからもずっとずっと、自分の中にあるもやを放置して「クレアは私ではない」と心のどこかで思い続けていたことだろう。
今は……そうだね。今もほんの少しだけ、ゲームのクレアに申し訳ない気持ちはある。
でも今、この時のクレア・フロワールは私なのだ。私のパパとママはこの二人だ。
あの日は私の転機の日。大切な日だ。
そして私が笑うとパパ……を押し退けたルミリアおば様とママが私を力一杯抱き締めてくれた。
それからは食事を食べて、たくさん話した。きっとこの前の大きなパーティーよりこんなパーティーの方が私は好きだなぁ、また開いてほしいなぁなんて思いながらいつの間にか私は眠ってしまっていた。




