閑話:親バカ
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~クレア父視点~
私はギルとともに書斎に来ていた。
この前の拉致事件について話すためだ。
本来家では話したく無い内容であるし、あまり思い出したくない事件なのだが……職場で私たちが二人きりになることなんてまずないし、何より仕事が山積みにされていて落ち着いて話も出来やしないので致し方ない。
「そういえばお前陛下達には会ったのか?」
「あぁ、休暇が終わったら一回来いとお達しが来ていてな、陛下にも宰相にもこってりと絞られたが最後には労りの言葉をいただいた」
思い出しただけでも身が凍えそうだがな。陛下を怒らせると怖い……
宰相は基本怒っているが今回はまた説教が長かった……数日分の体力を使い果たした気分だったな……
「でも説教だけでよかったじゃねぇか。命令違反したわりには……というか命令違反したのにそれだけですんでよかったな。
まぁ元々心配もしてたもんなー……
まぁ、誰も死なず帰ってきたんだ"終わりよければすべてよし"だな」
「そうだな……
騎士団長には本当に世話になった、感謝してもしきれない
本当にありがとう」
「いいってもう、こっぱずかしい。
ほれ、さっさと本題に入るぞ」
あぁ、そうだな。
私は椅子に座り直し姿勢を正した。
部屋の中にほのかに緊張が走る。
「森のなかでお前にフードの男については話したよな。
そのフードの男だが、お前たちがここに帰ったあと捜索したが発見は出来なかった……
捜査は継続しているが見つからないと考えた方がいいだろう」
「そうか……」
「人が大勢いた中からクレアちゃんだけを拐ったんだ、今後も狙われる可能性があると見ていい。
しばらくはクレアちゃんの周りの警護を強化するように」
「当たり前だ」
あれから家の警護も十分に見直し強化した。これにはやり過ぎなんてないのだ。なんなら城よりも安全な屋敷になったのではと自負している。
「今後はパーティーのときの警備も強化する。
二度とパーティー会場を襲おうなんて考える気も起きないようにしてやるよ」
「感謝する」
それから長い時間、ギルとこれからの対策の話をし、いつの間にか話はあの夜のことになっていた。
あの火の花のことについてだ。
「あの日のあとお礼もかねてセヴェール様のところに行って聞いてみたのだが、やはりあのような魔法はないらしい」
「え、じゃあやっぱりクレアちゃんが創ったってことか?
いや、もしかしたらクレアちゃんを助けてくれた魔導師が他にいたのか?」
いや……
「セヴェール様はあの火の花を見た瞬間"転移"で打ち上げ場所に行ったらしい。
そこにはあれを打ち上げている娘の姿があったそうだ」
「え、あ、見たんだ……」
「あぁ、
そのあと倒れこんだクレアに歩みより"ヒール"と"ウォーム"をかけていると私たちが来たのだそうだ。
そして……娘の身体にはすでに切れていたが"ウォーム"がかかっていた形跡があったらしい」
ギルバートはその話を聞くとへぇー……と何かを思い出すように顎を指でさすり、
「俺さ、盗賊のただの不注意だろうって思って今まで黙ってたんだが……
盗賊が話すにはあの小屋は古びてこそいるものの、あんなに大きな穴は空いてなかったらしい。かといって壁をぶち抜くような音は聞こえなかったんだと」
「……ほぅ」
「…………」
「…………」
…………
「……なぁアルベルト、今さらだけどさ、お前の娘うちの息子と同い年だから三歳になったばっかりだよな?」
「そうだが……」
再び沈黙。
おそらくギルバートも私と同じ事を考えているはずだ『ありえない』と。
ここまでの話から推測するとクレアは私たちを森に導いたあの火の花だけでなく、防寒の魔法"ウォーム"、音消しの魔法"ミュート"を短時間のうちにやってのけたということになるからだ。
「……公爵家は秘伝の魔法の英才教育でもしてるのか」
「…………いや、そんなものは……」
無い……
そう言おうとして、思い出した。
「そういえばリリアナが、クレアのお気に入りは魔法の書だと言っていた」
「お気に入り……?」
「魔法の書を持ってくると喜ぶがら結構前から読み聞かせの本の代わりに一緒に見ているらしい」
リリアナか魔法の復習にもなる、と次から次へと魔法の書を書庫からもって出ていたのを思い出す。
「え、魔法の書ってあの魔法の書だよな?素質があるやつが声に出して読んだら魔法発動する……」
私は首を軽く縦にふった
「……危なくね?」
「クレアは声も出さす真剣に眺めているし、リリアナも魔法の復習が出来て嬉しい……と言っていた」
「そ、そうか……
にしても魔法の書を眺めてるねぇ、もしかしなくてもお前の娘しっかり読んでたんじゃねぇの?」
「やはりそうなのだろうか……」
「でもあのくそ難しい本を三歳にもなってない子供が理解してるとは思えないけどなー
いや、天才っていうのはそういうもんなのか?」
わからん。
「だがもしそうなら、リリアナが魔法の書を読ませていなかったら今頃クレアはどうなっていたのだろうな……」
考えるだけでも恐ろしい。
殴られていたかもしれない、傷つけられていたかもしれない、もしかしたら……殺されていたかもしれない。
今外で遊んでいる、あの子の温もりを、二度と感じることができなかったかもしれないのだ。
「にしてもお前変わったなー」
「ん?そうか?」
「お前が誰かをそんなに溺愛すること想像もできなかったしなー。リリアナさんの時も溺愛って感じだったけど、あのとき理性はまだ残ってたもんな……
でもいま……」
「……何が言いたい」
「……いや、親バカだなぁと思って」
「…………」
……まぁ、
否定はしない。
確かに私が変わったというのも頷ける。親バカ云々は置いといたとしてもだ。
以前までの私は王弟であること、公爵であること、いろんなことを考えてずっと威厳を保つことばかり考えていた。
しかしクレアが居なくなったときに思ったのだ。"私はこのままずっと娘に自分を偽り続けて接して行くのだろうか"と。
これまでのわたしが嘘だとは言わない。しかし分厚い仮面を被っていたように思う。クレアにもリリアナにも。
だからこれからは私の気を許すもの、せめて妻と子供の前では威厳なんて捨て去ろうと思ったのだ。
「まぁいいや、ところで相談なんだけどさー」
「ん?なんだ」
「クレアちゃんの婚約者にうちのレイリストどうよ」
…………
は?
「ふざけてるのか」
ケラケラと笑いながら、"だよなー"何て言うギルについイラッと来てしまったのは仕方のないことだと思う。
「娘は誰にもやらん」
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