パートナー決め
ブクマ&評価ありがとうございますm(__)m
最近投稿が遅くなってしまってすみません。本日はレイリスト視点でお送りしますのでどうぞよろしくお願いいたします。
~レイリスト視点~
俺はクレア・フロワールという人物をよく知っているつもりだ。
だてに昔から一緒にいない。
旅に出てからの数年は会ってもいなければ手紙のやり取りなんかもなかったが、それでもそんなもの関係ないと言えるくらいにはクレアのことを知っている。
そもそも彼女は転生者であるがゆえに昔から精神年齢が高かったのだろう。
だからだと言うべきなのかなんなのか、クレアはこの数年で強くなり知識こそつけど、精神的に成長しているとは言いがたく、内面にある思考やらなんやらは子供の頃と変わらないのだ。
……少なくとも俺はそう思っている。
少なくとも今だけはそう思っていなければ、これから俺はクレアとどう接すればいいのだろう。
あの時クレアは何が起こっているのか理解できていない俺を置いて、美羽さんと口論をしつつさらに俺の頭を抱える腕の力を強めた。
もう話の内容なんて一切入ってこない。
その時間は数秒だったのか数分だったのか……
顔色ひとつ変えず俺から離れて行ったクレアに俺はいつも通り接することができていただろうか。
まぁ出来てはいたのだろう。次の日からもクレアの様子に変化はなかった。
こういうことが度々あるから困るのだ、クレアも冷静な時は「近づきすぎない方がいい」とか貴族らしくまともなことを言うことがあるが、それでも一緒に行動していると何の警戒もなく部屋に呼んだり、無邪気に抱きついて来たりする。
俺も時々昔のように手を繋ぐように仕向けることがあるが、この手を繋ぐという行為にすらこっちは相当緊張するし、火照りそうなのを必死に耐えているというのに……全くたちが悪い。……さらに俺もクレアがいきなりそんなことをしてきても嫌ではないのだからさらにたちが悪い。
まぁ、それはそれとして、最近は他にもクレアに関して頭を悩ませなければいけないことがあるのだ。
クレアが抱きついてきたことに関しての問題はもう置いておくことにする。自分一人でどうこうできる話ではないし、嫌でもないし、誰かになんと言われようがレイリストにはすでにそれをひと蹴りできるほどの権力はすでにある。
だからそれはまぁいい、まぁいいとして……問題は最近クレアが俺とステル嬢をくっつけようと、いや、イベントを起こさせようとしてくるのをなんとかして止めさせられないだろうか、ということだ。
なぜそんなことをするのかと不思議でならない。
クレアたちの言っているゲームとは人間関係が大きく変わっているし、考え方もそれぞれが得ている権力だって違うだろうから、少しばかり安心してしまう気持ちもわかる。でも油断は禁物だ。そしてそれはクレアだって言っていたのに。
だいたいどこからどうやって冤罪をかけられるのかわからないのだ。心配要素は少ない方がいい。
……俺はできる限りのそれになりたくない。
どうしようかと小さいため息がこぼれる。
ゲームのことを聞いて、それを少しずつ理解していくうちに思ってはいた。
自分はクレアに近づくべきではないのだ、と。
ゲームと比べればクレアを取り巻く環境は大きく変わっているだろう。しかしクレアが悪役令嬢になる要素が無くなったわけではない。
確かにクレアは現在婚約者もいないため、誰かを取り合うだなんてことにはならないかもしれない。
しかしクレアは今、殿下の変わり……といってはなんだが、俺という攻略対象の近くにいる。婚約もしていなければ恋人でもなく、クレアは俺のことをそういう目で見ていないだろうし、クレアは俺のことを"幼なじみ"だと言い張っているが……他のひとからみればどう写るのか。
それがわからないほど俺は周りが見えていないわけではない。
しかも美羽さんに聞くところによると、"幼なじみ"という関係も、他のゲームではよくヒロインのライバルポジションになるらしい。
だからもしかしたら、今度もクレアは冤罪をかけられて、悪役令嬢という存在になってしまうかもしれない。
クレアがまたそんな運命を辿ることになるのなら俺はクレアから離れた方がいい。それに俺は気づいていたし、わかっていた。
……でも。そんなこと出来なかった。したくなかった。これは本当に俺のわがままだ。
なら全力で守ると誓った。なにかあったらどんな力を使ってでも逃げようと決意した。
そしてもうひとつ。クレアには言っていないがクレアとの関係を絶ちきらない変わりに、ヒロインには関わらないと決めたのだ。
だから俺はクレアにステル嬢のことを頼まれても、隙を見てオリビエに任し、席も変わった。
それなのに……まぁ、俺が勝手にやっていることだからということもあるが、俺がこれだけ考えて動いているのにことあるごとに「ステルとこの仕事やって来て」とかいいながら仕事を渡してきたり、パートナー学習では「ステルが一人になりそうだったら誘ってあげてね」って言ってきたり……
クレアは本当に運命を変えるつもりでいるのかと疑いたくなる。
というか、そもそも、好きな人に他の女性を紹介されているようで……
と、そんなことを偶々クレアのいない研究室にいた美羽さん達にこぼしてしまった。美羽さんのとなりには数日前に来た翔が座っている。
実は二人は俺たちの補助だけでなく、フロワール家でも開発も手掛けつづけているので、学院に入るというのは珍しく、ここ数日の様子を話す流れでついつい心のうちが漏れてしまったのだ。
「いや、もうそれは"自分はステルに興味がないから応援するな"ってクレアに言うしかないわね」
「……」
そして帰って来た返答に、だよなぁと心のなかで呟く。
「まぁ、あいつも何かに集中してると周りのことが見えなくなるところがあるからな、端的かつ簡潔にそう言うしかないと思うぞ?」
美羽さんの言葉に隣に座っていた翔が加勢する。
「……も?」
「いや、ほんと、似た者同士の二人をまとめてた高校時代の俺に感心してるよ」
「え、誰? 翔の周りにそんな子、あの子以外にいた?」
遠くを見つめる翔の顔を見て、あぁと納得する。
"も"って美羽さんのことか。
「まぁ、言ってみて何も変わらなかったら相談しなさい、少年!」
その言葉に俺は複雑な表情を浮かべる。
直接クレアに言うというのは一番手っ取り早くはあるのだが、なかなか難しい選択だ。実際、クレアに言おうとしたことがない訳じゃない。
でもクレアのことだ。
「あんなにかわいくて、心もきれいで、頑張りやさんで優しい良い子なのに! 信じられない!」
とか言いそうで、どうもはっきりと言うことが出来なかったのだ。
でもこう何度も考えていると本当に自分はあきらめて他の女の子を勧められているようでいやだ。……間違ってないし。
やっぱりここははっきりと言おう。俺の理性のためにも。
「……わかりました。やっぱりはっきりと言うことにします」
「はーい。頑張ってねー」
決意を新たにして立ち上がると美羽さんにまるで他人事のように応援される。
それに苦笑いを浮かべながら次の授業があるホールへと向かう。
今日は重大なパートナー決めがある日だ。きっとまたステル嬢についてなにかお願いされるのだろうと、すこし憂鬱な気分になりながらもその時にしっかり言おうと前へと進む。
今日はゲーム的にも大切なイベント。新入生歓迎会のためのパートナー決めがあるのだ。
レイリスト視点が長くなってしまったので二つに分けます。
次は来週に投稿できると思うので少々お待ちくださいませm(__)m




