選択の先
投稿が遅くなってしまい申し訳ありませんm(__)m
生徒会室に向かう途中。殿下とステルがぶつかってしまったが、あれこそがゲームでのステルと殿下の出会いである。
あの時、ゲームでは三つの選択肢が現れる。
ただ、今日のステルのようにすぐにその場からいなくなる選択肢はひとつだけ。
あと二つの結果はさして変わらないのでまとめさせてもらうと《その場に留まる》という選択肢だ。
そしてこの選択で何を選ぶのかが好感度以上にもう一人の攻略者……スプリットとの出会いと今後のストーリーが大きく変わってくる……らしい。
しかしスプリットルートのストーリーが、どのように変わるのかということを話すにあたり、知っておいてほしいことがいくつかのある。
まずはスプリットの婚約者についてだ。
お忘れかもしれないが、ゲーム同様、スプリット・ハンスには現在も婚約者が存在する。
そして私は今世で、スプリットともその婚約者ともあまり関わっていないので彼らはゲームと何ら代わりない姿だと思っておいてほしい。
そしてこのスプリットの婚約者、シンディ・キャロルという人物は私達と同い年で、Sクラスには入れなかったものの相当の力の持ち主であり、Sクラスの一個下のAクラスではトップの成績らしい。
その情報と平行して知っておいてほしいのが、寮は2人一部屋で上のクラスから順に部屋を割りふられる。ということと、Sクラスの女子は現在奇数で、Aクラスのトップの成績の子とSクラスの誰か一人が相部屋になる、ということである。
そしてここはゲームにすらなる世界。
世の中上手くできている。
そう、シンディ・キャロルとステルはルームメイトなのだ。
美羽は言った。
「あー、二人の関係? うーん、上手くいけば親友でライバルね」
と。
今日の選択肢はスプリットとのシナリオだけでなく、シンディとの関係にも大きく関わってくるのである。
今日ステルはぶつかったあとすぐにその場を立ち去った。
この選択肢をえらんだ後ステルは、真っ直ぐ寮へと帰り、静かに涙を流す。
しかし涙がまだ収まっていないうちに、シンディが帰ってくるのだ。
シンディ・キャロルという人物は、姉が活発なせいか、比較的物静かで優しい少女である。
シンディは涙を流すステルに驚きながらも、彼女を励まし、ここから二人は友情を育んでいく。
そしてこの場合のスプリットとの出会いだが、これが案外普通で、翌日生徒会として収集がかかり、そこで自己紹介を受けるというものである。
そしてこの時のスプリットはシンディが婚約者なのだと言うことをはなし、ステルはシンディをよろしくとたのまれる。
要はこの場合のステルからみたスプリットは"シンディの婚約者"という立ち位置なのだ。
対して、今日の選択でその場にとどまるという2つの選択肢を選んだとしよう。
この場合、ステルは殿下に「品がない」などと冷たい一言をいただき、立ち去られる。
しかしその一言のせいか、ぶつかった相手が殿下だったせいか、少しだけ頭が覚めたステルはとぼとぼと廊下を歩いていく。
そしてこのまま帰ると同室の少女にまで迷惑をかけるかもしれないと、だれか人気のない、静かなところを探した末、行き着いたのが図書室である。
そこでステルはスプリットに
「この学院では実力さえあれば認められます。悔しければ、悲しければ……涙など流さず自分を磨きなさい」
などと言われる。
この時ステルはスプリットを"カッコいい人"だと思い。翌日正式に、生徒会の集まりでスプリットと会うことになる。
しかしこの場合、スプリットは婚約者のことは話さず、代わりに「元気になったようですね」と言葉をかける。
シンディとの関係が明らかになるのはずいぶんと時間を置いてからになるらしい。
さて、これが今回の選択で変わる大まかなシナリオだが、お分かりいただけただろうか。
あった瞬間からこの人はシンディの婚約者だと知っているか、しばらくたってからその事実に気づくのでは雲泥の差があるだろう。
現に前者の場合、スプリットルートに入ってもシンディを気遣う気持ちがあり、迷いや葛藤が見受けられる。
スプリットとの絡みよりもシンディとのやり取りが多くなるので、スプリット推しの美羽からすれば物足りなく悲しい展開なのだ。
だが後者の場合だとシンディのことを知るのはずいぶんと後になるわけで、そのルートに入ったステルの言動や動きには全くもって迷いがなく、色んなスプリットを見ることができるそうだ。
カミングアウトされたあとも、シンディとの友情もあまり育めていないからか、あまり気にする様子ではなかったらしい。
だから美羽にとって今日ステルがすぐに走り去ってしまったというのは残念なお知らせなのである。
その事実を知った美羽はしばらくしばらく顔を両手で被い天を仰いだ。
私はそんな美羽を見ながら紅茶を口に運んだ。
しかし、そんなに残念なのかぁ、と思っていたのもつかの間。
美羽はパッと顔を隠していた手を離し、その手は勢いよくレイの肩を掴んだ。
「レイリスト!」
「な、なんですか?」
レイは突然のことに驚きながらも冷静に持っていたカップをソーサーに置く。
私は固まっていた。しかし、頭の中では警告音が鳴り響いていた。
「あなたがスプリット様を落とすしかないわ!」
「ブッ……!」
「はい?」
含んでいたお茶を盛大に吹いてしまった。
いや、嫌な予感はしていたのに、飲み込んでいなかった自分を呪う。
「え、ちょっ、なにしてんのクレア。
汚いなぁ、もう。はいこれ使って良いから」
「あ、ありがとう……」
レイが差し出すハンカチを素直に受け取りながらも、それどころじゃないと美羽を見る。
「何言ってるの美羽!」
「……そうですよ。まぁ、やろうと思えばできますけど、彼も一応侯爵子息ですし、理由もなくそんなことをするのは危険です」
「……え?」
「というか美羽さんスプリットになにか恨みでもあったんですか?」
「……あら、なんだか話が噛み合ってないわね」
伝わっていない……
伝わっていない!!
美羽の腐女子会話が!
それもそのはず、この世界はボーイズラブという概念はあまり浸透していないのだから。
レイに伝わっていないのならば、こちらが構えられる盾も多くなる。
「ふっふっふっ、無知なレイリストに教えてあげましょう。私達の世界にはBLって言ってね……「あ゛ぁーー! あー! あー!!!」
しかし美羽の攻撃がはやい。
あぁ、転生してまでこの言葉を言うことになるとは思わなかった。
だが迷いはない。やらなければやられてしまう。
だから……
「お願いだから私のレイリストを汚さないで……!!!」
私はそう叫んで、それと同時にレイに覆いかぶさるように抱きついた。
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