もしの世界と噂
ブクマ&評価ありがとうございますm(__)m
前回投稿した際、作者の不注意で誤って作成途中のこの話を投稿してしまいました。
なのでお手数ですが、前話の「選択の時」をまだ読んでおられない方はそちらから読んで頂きたいです。また、今日投稿した最近話の前半……いえ、4分の3あたりまでは『あれ、なんか読んだような……』と感じるかもしれませんがご容赦ください。
申し訳ありません。以後気を付けます。
『なんだ今のは!?』
「今のは……」
頭の中で流れる、記憶内のセリフと現在の言葉が重なる。
『で、殿下! お怪我は!? 申し訳ありません。私がついていながら……
(彼女は私のクラスの……いや、後ろ姿だけじゃ……とりあえず確認してみないと)
……先程の少女は見つけしだい、強く指導いたします。なのでどうか落ち着いてくださいませ』
『ふんっ、バカにするな。あれくらいで怒るほど私は気の小さい男ではない! 全く……さっきの服装は平民が着る物か……これだから教養の無い者は困る』
頭のなかでそんな映像が勝手に流れるというのはなんとも気持ちが悪いものである。
そして思う。なんだこの男、怒ってないとかいいながらめちゃくちゃ機嫌悪いんだけど。ヒロイン視点じゃなかったらこんなにも嫌な男になってしまうのか、と。
「あの、殿下……」
だから声をかけた。記憶みたいにイライラしてたら宥めようと思って。
だが。
「彼女……泣いているようにみえたが、何かあったのだろうか?」
帰って来たのはそんな言葉。
私は思った……誰だよ、お前!
おっと失礼。
どうやらいらない心配だったようだ。
現在の殿下の心は広い。……「黙ってて」みたいなことを言っても怒らないくらいには。
「……私のクラスの女の子かもしれません。明日話を聞いてみます」
「追いかけなくても良いのか?」
自分でもらしくない言葉だと思いながらも放った言葉にそう返されて、内心冷や汗をかく。
そりゃ、私だって追いかけたい。泣いているかわいこちゃんを放置するだなんて苦行以外の何物でもない。
しかしその思いはぐっとこらえ、少女、ステルが向かった方向とは逆方向へと歩き出す。
「そう……ですね。でも、一人になりたいときもあるかもしれませんし」
「そうか。……うん。そういうこともあるかもしれないな」
殿下はステルが消えていった方向を気にしながらも、頷いて先程と同じように私達を先導し始めた。
レイも私の行動を不思議がることなく、後についてくる。
どうやら、この場は何だかやり過ごせたようでほっと息をついた。
***
そして、やって来た教室棟の最上階にある生徒会室。
そこで私とレイは出される書類を次から次へと読んでいた。
「お、多い……」
「すまないな、二人とも。本当だったらもう少し余裕を持ってやるものなのだが……」
そう、申し訳無さそうに言う殿下に、これくらい大丈夫だ、とレイは余裕の表情で返す。
ただ、余裕なのはレイだけで、私は全然そんなことない。
前の記憶があるのだから、書類とかを見たらその内容も思い出すだろうと、正直余裕をぶっこいていたのだが、そんなあまっちょろいものではなかった。逆に、前の記憶とは所々違ったり、高度なことをしていたりするせいで、私の頭はショート寸前だ。
「それとこれが昨年の活動報告書だ。どういった流れで何をするのかもまとめてあるからこれにも目を通しておいてほしい」
「は、はいぃ……」
なんとか返事はするものの、私の頭は既にあまり働いてはいない。
「レイリスト、どうだ? 結構仕事があるだろう?」
「……予想以上ですね。一番近いのだと新入生歓迎会……と称した夜会がありますけどこれの準備はもう始まってるんですか?」
「ああ、まぁそれは毎年やることは差して変わらないからな。大体終わっている」
「なるほど。じゃあ次は三ヶ月後の全学年合同ダンスパーティーですね」
「そうだな。期間はまだあるんだが何せ規模が大きいから今頃から本腰を入れて行かないと間に合わない。
あと毎年少しだが変わった出し物をするようになっているから、それの参考がないか今スプリットが図書館に資料を集めに行っている」
「そうなんですね。……あ、でもそれの前に総会あるので、それの資料作りもしないといけませんね」
「ああ」
私がプスプスと頭をならしている横では既に仕事の内容を理解したのであろうレイと、殿下がそんな話をしていた。
私はしばらくそちら側には行けそうにありません。
そしてやっとの思いで一通りの資料を読み終わり、今後の予定を決め終わる頃には外はオレンジ色に染まっていた。
殿下いわく、この量の引き継ぎは普通2,3日はかけるらしい。それを一気にやったので、体力バカのレイ以外くったくただ。
しかし殿下はあと少し残っている公務をして帰らなければならないらしい。
それを聞いた私は王子とか重要な立場に生まれて来なくてよかったぁ、としみじみ思っていたのだが、そんな時「クレア嬢は王座に興味はあるか?」という不思議な質問を殿下がしてきた。
「え、ありませんよ」
即答だ。というか今、本当に今。王子とかに生まれて来なくてよかったと思ったのに「なりたいです」とか言うバカいるわけ無い。頼まれてもやらない。
食い気味に即答したその答えを聞いた殿下は困ったように、しかし嬉しそうに笑った。
「そうだろうと思った」
「どうかしたんですか?」
いきなりどうしたんだと思いながらそう聞くが、殿下にはさらに困ったように笑う。
「なるほど、あの話はクレア嬢の耳にすら入っていないのか。
やはり杞憂だったな。……なに、一部の貴族たちのなかで最近話題になっている話があってな。一応クレア嬢に確認しておこうと思ったんだ」
「噂ですか?」
全く心当たりがなかった私は首を傾げる。
いつもなら私の知らないことも知っているレイもなんのことだかわからないのか不思議そうな顔で私と殿下に交互に目を向けた。
「私の口から言うのもなんだが、一応知っておいた方がいいだろう」そう前置きを入れた殿下に聞かされたのは、いつぞやか聞いたこの国の、城の面倒くさい内情と似たような話。
最初に断っておくが、そんな話私は全くもって知らなかった。
聞いていないし、そんなことを言ったこともない。そもそも考えたことすら微塵もない。
誰だ……
私が王座を狙っているとか、私の方が王に相応しいとか言ったやつ!




