今さら気にしても遅い話
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その後、意気消沈したり癇癪を起こしたりと、人それぞれの行動をしている生徒をなだめ、教室に強制送還した。
ここからはレイもこっちのクラスの一員……と思っていいのだろうか。レイの立ち位置があまりにも曖昧で、接し方がいまいちわからない。
いきなり移動してしまったから武道科の生徒を闘技場に取り残して来てしまったが、私が生徒をなだめている間にレイは武道科の生徒と話していたし……各自解散してくれると思っておこう。
そしてその後、後回しにしていた役員決めや生徒会役員の発表を行い、初日ということもあって早めの解散となった。
ちなみに生徒会役員はゲームではレイリストとステルだったのが、レイは副顧問になったのでステルとオリビエになった。……生徒会役員をゲームの登場人物で固めてくる辺り、ゲームは創作物ではなく実際に起こったことだとわかった今でも何らかの力が加わっていそうで怖い。
「さて、じゃあ私も帰……」
「ったらダメだよ」
「……そうだったね」
帰ろうとしていたらレイに引き留められた。……そういえば生徒会の顧問の引き継ぎがあったんだった。
二年生も今日は授業がないから早く終わるはずだけど、それでもまだ時間がある。
「じゃあ研究室でお茶でも飲みながら魔法の書でも読むかなぁ……」
「あ、クレア。俺もクレアの研究室で待っててもいい?」
軽くそう言いながらもどこかで申し訳無さそうなのはレイの研究室が入りたくても入れないからだろう。
仕方ないなぁ。というか……
「どうぞどうぞ。というかもういっそのことレイが必要なもの私の研究室に全部入れときなよ。仕方ないから私の研究室を自由に使うことを許可してあげよう」
「……え、」
その提案は、モテすぎて自分の研究室すら自由に使えない可愛そうな幼なじみへのちょっとした同情の気持ちでそんなことを言ったものだったのだが、それをきいた幼なじみは複雑そうな顔をして唸り始めた。
「どうしたの?」
「いや、嬉しい提案なんだけど……この学院の研究室ってベッドとかもあるし……生活スペースみたいなものだよね? いいの? 大丈夫なの?」
「大丈夫だよ? 私はあそこで生活するわけでもないし……というか前、私の寝室にまで入ってきたのに、そんなこと気にするんだね」
「気にするよ、あのときは仕方なく……普通は未婚の女性の寝室に立ち入るなんて言語道断なんだよ?」
「わかってるよそんなこと」
「……クレアのことだからいつかベッドでお昼寝とかしだしそうなんだけど」
「……それは否定しないけど。でもどっちにしろレイ私の研究室に入り浸ることになるでしょ? 一緒だよ」
「……いや、違うと思う。クレアは少し俺に気を許しすぎなんだよ……」
「えー、じゃあ荷物動かさないの? 自分の研究室に入る度に雪崩をおこすの? 大変だね」
「ぐっ……」
私の言葉に首をふり続けるレイに、拗ねたような声でそういうと、レイは腕をくんでしばらく考え込み、その後潔く頭を下げた。
「……いや、お願いする。ありがとう、助かる」
「うむうむ。最初からそう言えばよいのだよ」
結局荷物を動かすことになるのに、この時間はなんだったんだと思いながらも、まぁいいか……この話は終ったとばかりに私は研究室へと歩き出したのだが、なぜかこの話題は引き続き続いた。
「クレアはよく俺と距離が近いんじゃないかって、人に言われても『まぁ、幼なじみだから』って言うけど、世の幼なじみってみんなこんな感じなのかな? 俺オリビエとも多分"幼なじみ"っていう関係だと思うけど、オリビエだったら絶対クレアみたいなこと言わないよ」
「……えー? 頼んだら部屋に荷物くらい置かせてくれると思うけど?」
「………………………………いや、ない。絶対ない。ないないない」
レイがそんな疑問を口にしたので、少し考えてそう答えると強い否定が帰って来た。
そしてさらに「絶対ない」と否定し、私の荷物だったら置かせてもらえるだろうけど自分のは絶対置かせてもらえないと言う。
「そうかなぁ?」
まぁ、私の荷物は置かせてもらえるだろうけど。
「うん。というかこんな歳になって自室に異性が自由に出入りすることに許可をだす令嬢もそうそういないよ。クレアだけなんじゃない? 公爵様にこんなこと知られたら絶対怒られると思うんだよ(理不尽なことに俺が)」
「そんなことないって。レイたちが言語道断とかっていうのは貴族社会の常識から見てでしょ? そんなのいちいち気にしてたら息が詰まっちゃうよ。いいじゃん幼なじみなんだからさー……」
「また幼なじみ……確かに貴族社会からみた基準ではあるけど、俺もクレアも一応貴族なんだから少しは気にしないと……
というかクレアは翔とも幼なじみなんだよね? 今の俺の状況が翔だったとしてもクレアは部屋貸すの?」
レイは真剣な顔でそう聞いてくるのだが、私はそんなこととは全く別のところに気をとられる。
「え、うわぁ……レイこの前まで翔のこと『翔さん』って呼んでたのにもう呼び捨てするほどの仲になったんだ。オリビエと美羽もいつの間にか仲良くなってるし、友達と友達が仲良くなるのは嬉しいけど、私の知らないところで仲良くなられて私寂しい……!」
予定がギッチギチだったせいで翔たちを放置する形になっていたので仕方ないと言えば仕方ないのだが、やっぱり寂しい。仕事なんてボイコットしたくなってしまう。
だが、私のそんな心境などいざ知らず、レイは「はいはい、ごめんごめん」と流して話を続ける。
「で? どうなの?」
「軽く流された……うーん」
翔? 翔だったら?
えぇーーー? うーん。
……貸、す……かな。……あ、いや、貸すか? ちょっと物置くくらいならさせてあげると……あ、いやそれも時と場合によるかも。
翔は部屋を埋め尽くされるほどのプレゼントなんてもらったことなかったしなぁ。想像がつかない。
そう私が唸っていると、レイは勝手に理解したようにうなずいた。
「そうか……そっか、わかった。クレアが誰にたいしても危機感が薄いんだね……」
「まだなにも言ってない!」
「悩む時点でダメなんだよ」
な、なんだと……!?
え、危機感? 私危機感ないの? なんで? え、だって……何をどう心配するのさ?!
……いや、しかも誰にでもってわけではないからね!?
「……そんなこと言われたら部屋を貸す気が失せるんだけど」
「……前言撤回は受け付けません」
「もー、なんなの?!」
なんだかよくわからないことを色々言われたけど、レイはレイで私にたいしてだけなんか図々しいと思うのだ。絶対オリビエに対してはこんなんじゃ無い。なんなんだいったい。
ちなみにそんな感じの言い合いは話題をちょこちょこ変えながらも研究室に着き、レイの荷物移動を行いながらも続き、一段落して紅茶を飲みながらも続いた。
お互いの口から出るのは嘘偽りのない本当のことなのだが、怒っている訳でも喧嘩をしている訳でもなく、時々「あ、このクッキーおいしい」とか「クレア紅茶入れるの上手いよねー」などという会話も挟まれるせいで、このやり取りを第三者が見ていたらただ『仲がいいなぁ』と思ったことだろう。
そして、彼らのこのやり取りは昔から……それこそ、二人が王宮での鍛練の合間の休憩中にも頻繁に行われていたのだ。
はっきりと言おう。今さらなのだ、何もかも。
公爵令嬢で幼くから魔法の才を見いだされ12歳にして王宮魔導師となったクレア・フロワールと、幼くから剣術の才を磨き、勇者となって世界を救ったレイリスト・グラディウス。
二人の名前を一線で働く貴族達で知らないものはいない。そしてその二人の仲はその者達のなかでは有名な話だ。
だからこそ、二人は縁談の一つや二つあって当たり前の家柄と容姿、知名度をもっているはずなのにも関わらず、二人はこの国で、そういった話をされたことはほとんどない。
今さら人目を気にしてももう遅い。この国の重鎮と呼ばれる者達のほとんどは、彼女たちが、遅かれ早かれ一緒になると思って接し始めているのだから。
二人の縁談の話ですが、国外からはよく来ています。
しかしクレアの場合はお父様により国内外問わずブロックされるので、クレアの元にその話が届いたことは一切なく、レイの場合も家族がクレアとくっつくんだろう、と思っていたりするので、大体受け付けておりません。ただ、レイは国外からの縁談が多いので、丁寧に返事を書かないといけないことも多いみたいですね。




