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模擬戦


ブクマ&評価ありがとうございますm(__)m


 


 思いの外チームを作る人が多く、模擬戦は全員で同時に始めることができたのだが、模擬戦が始まったあとのSクラスの生徒の動きは様々だった。


 始まると同時に詠唱を唱え始める者、距離をおき一瞬躊躇ってから詠唱を始める者……そして、始まっても微動だにせず余裕の表情を浮かべる者。



「お疲れ、クレア。なんか珍しく怒ってたね」


「……レイ」


「にしても同じ魔法科の生徒でもスタートでずいぶん差が出るねー。

 せっかくハンデあげたのに」



 こちらに向かってくるレイはセリフその後に「(笑)」とでも付いていそうなほど楽しそうだ。


 私は小さくため息をついて、じとっとした目でレイを見る。



「……私からしてみればこの形式の模擬戦の時点で武道科に多大なハンデを与えてるような気がするんだけど」


「わかってるよ。モービット君達がそれに気づいてない……というか知らないことには驚いたけどね。

 でも学院長がこの形式でやればいいって言ったんだし仕方ないでしょ。

 たしかに最初っからハンデをつけてたら貴族のプライドが傷つくし、かといっていちいち説明してたらそれはそれで面倒だからね……今の状況について貴族達はただの売り言葉に買い言葉てこうなったと思ってればいいよ」


「…………」



 これから何をするにも貴族のプライドを考慮した行動をしなければいけないのか、と気が重くなる。


 私は先程からモービット君達にも他の皆にも言わなかったことがある。それが、隠れた魔法科の生徒のハンデについてである。

 というのも私達魔導師はこういった狭い空間で騎士と戦うと決まった時点で、大きなハンデを相手に払っているのだ。


 覚えているだろうか、魔導師の天敵は騎士なのである。それがなぜかと言うとこう対面で戦うとなったとき、私達魔導師は魔法を繰り出すまでに詠唱などのタイムラグがあるのにたいして、騎士は速攻で攻撃を加えることができるからだ。

 だから私達魔導師が騎士とか武術を得意とする人と戦う時は、その攻撃がすぐに届かないような遠くから密かに攻撃することが必須なのだがこれを一から貴族の……しかも魔法を崇高とした人に教えるとなると骨が折れる。


 いつぞやか私は思った。『魔導師の戦い方って卑怯だな』と。皆が皆私のように思うとは限らないが、そう思った私が教えるのだ。不敬だと思われても仕方がない。

 しかもあの模擬戦の前にこの事を言おうものなら、モービット君達が調子に乗るのか怒るのかそれとも静かになるのか全く予想が出来ない。



「まぁ、無詠唱で魔法を連発できるクレアのならまだしも、彼らにはこの30秒のハンデは必要だったと思うんだけどな。本当短い位だよ……ほら、うちの生徒が動き出したとたんに終わったところがいくつか……」



 瞬く間に終息する模擬戦を見て、私とレイは顔を見合わせ、大きくため息をついた。




 *****




「でも驚いたな。ステル嬢って強いんだね。クレアが『守って守って』って言うからもっとか弱い女の子かと思ってた」



 模擬戦が早くも終了したところに素早く移動し、怪我をしていないかの確認と生徒達の移動をしていた時、レイがステルが戦っている方を見てそんなことを口にした。



「……え? ……ステルはか弱い令嬢だよ?」



 私もそちらに目を向け数秒後眺めた後、スッと目をそらし反論した。


 しかしレイはステルの方から目を反らすことなく、小さく首をふり感心したように続けた。



「……いや、か弱い令嬢は刃がついてない武器だからって腕で受け止めて近距離で魔法放ったりしないよ」


「……か弱い令嬢、だよ」


「後で跡形もなくきれいにできるとはいえ、汚れることも気に止めないあの戦いぶりは中々だと思うよ」


「…………そういうところもまたいいよね」


「というかなんか戦い慣れてる感じがする」


「……私の話聞こう?」



 レイが私の言葉を全然聞いてくれない。ガン無視だ。ステルは間違いなくか弱……いや、か弱……か弱い令嬢だったはずなんだけどな、ゲームでは。



「ねぇ、クレア、ステル嬢ってどんな魔法の鍛練してるの?」



 なんかどっかの誰かと重なるんだよなぁ、と小さくレイが呟く。



「……ステルの魔法の先生、私の師匠みたいな教え方するんだよ」


「え、あれと? それはすごいね、道理で…昔のクレアに似てると思った。……ほら、あのぶっとばされても起き上がってくるあの感じ。クレアだわぁ……」


「か弱い令嬢を私と一緒にしたらいけないと思う」


「もう"か弱い"から離れなよ……絶対か弱いとかっていう部類から程遠い人だから。

 ほら、もう顔にまで擦り傷作って……」


「…………うん。そうだね、わかった。

 "か弱い"という認識は改める。よく考えて見ればか弱いって"弱く頼りない"とかって言う意味だもんね。

 確かにステルはそれから程遠いかもしれない。ステルは周りの人のために率先して動けるような強い子だよ。

 そう、だから、ステルは"か弱い令嬢"なんじゃない。"可愛い令嬢"なんだよ!」


「ふーん。……ってあの二人本気で戦い初めてないか? 本気で戦うのはいいけど、ちょっとこのままだと大怪我しそうだなぁ。ちょっとあの二人止めてくるね」


「え?」



 そう言ってレイはステル達がいる方へと歩いて行った。まぁ、走っていく程危機的状況ではないのだろう。

 私が自分の世界に入っている間にヤバイことにでもなったのかと思ったが、遠目に見た感じステル達も楽しんでるというか即止めないといけない感じても無い。

 というか止めにいかなくてもあのスピードで向かっていったらつく頃には時間になっている。


 ……逃げたな、この話題から。



「……もうっ」



 私はその声に小さく苛立ちをぶつけ、生徒達の様子を見て回る。怪我をして体に異常が出た人はいないようだ。少し離れたところからモービット君が「認めない……!」という声が聞こえるが、今私が行ってもさらに気を荒立たせるだけなので放っておこう。


 ベルさんとイグネイシスさんには今度なにか差し入れをしなければ。いいことだけど結局大きな怪我をする人が出なかったから無駄足を踏ませてしまった。



 まぁ、取り敢えずこれで模擬戦は終了だ。


 ちょっと荒業過ぎたようなきもするけど、これでSクラスの生徒達が自分の実力を知って、少なくとも武道科の生徒への認識を改めてくれるといいんだけどな……


 ……結局ほとんどのところは武道科の生徒の勝ちだった。やっぱりハンデが大きかったかな……いや、まず魔法が当たらない人が多かった。やっぱり学外に出る前に命中率を上げないと話にならない。私は魔物に傷つけられた生徒なんて見たくないぞ……先が思いやられる。


 私は誰にも聞こえないように小さくため息をついた。



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