実力テスト
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教室内が疑問を表す声でざわつく。
そんな中、ただ一人、レイだけは不思議がったりはせず、相変わらず悠々と席に座っている。
それもそのはず、これからやることは職員会議によって正式に決まったものであり、すでに王様の許可も得ているのだから。
というか、この実力テストの言い出しっぺが私とレイなので知らないはずもない。
ただ言い出したのも、正式に決まったのもずいぶんと最近なので生徒達には広まっていないのだ。
教室内がざわつき出してから数秒後、落ち着いた雰囲気のドレスを身に纏った女子生徒が手をあげた。
この子はたしかカルメリーナという名前だったはずだ。
「カルメリーナさん、どうかしましたか?」
「えっと、じ、実力を計るとおっしゃいましたがそれは入学前の試験でもう既に測定済みなのではないでしょうか……?」
やっぱりそこが気になるよね。
「そうですね。確かに皆さんはもうすでに試験を受けてもらっています。
しかしあんなテストだけでは皆さん自身の実力を図りきることが出来ないのです」
令嬢子息の機嫌を損ねないようにそう言わせて貰ったが、実は正確にはこれまで行われていたテストの方法に問題を感じ、正確な実力がわかっていないことによる再テストなのだ。
ちなみに入学前の試験ではどのようなことが行われていたのかと言うと、魔法の歴史やら原理やら単純な知識を問うペーパーテスト、ステータスの確認。動きもしない木の人形が時間内に何体倒せるか、などだった。
昔からこの方法でやっているそうで、ここの教師は全員ここの卒業生ということもあり、このテストに何の疑問も抱いていなかったそうだ。
しかし私やレイは違う。特にレイは他国にある魔法学院へ見学に入る機会があったらしく、この国のテストの精度の低さを感じてしまったそうなのだ。
仮に今この学院で行われている実力テストで高得点が叩き出せたとしても、実戦ではほとんど役にたたないということが予想できる。
知識などいくら書き出せたとしてもそれはピンチの時にこそ使えなければ意味が無く、動かない敵など寝ている時か、既にとらえて簀巻きにして柱にくくりつけているとかそんな場合くらいだからだ。
むしろあの試験で高得点を叩き出し、ここにいるSクラスの生徒達が最も危険だとレイは危惧していた。
この学校では、授業の一環として魔物狩りに校外遠征に行くこともある。成績優秀、実力有りとされているこのSクラスは最も早く。
確かにこのクラスにいる生徒は魔力も有り、才能もあるかもしれない。それはステータスを見ればわかる。
しかし、自惚れは自分を殺す。あのテストで高得点を取り、実は実力なんてないのに、実力があると調子に乗られる事ほど危険だ。と。
まぁ、私もその意見に大きく賛同しておこう。
しかも現に、上級生の中には校外遠征中に大怪我をおった人は少なくないそうなのだ。
しかもその怪我の原因のほとんどは"実力的には"簡単に倒せる魔物によるもので、生徒の"油断""不注意"が原因だとされている。
ただ、本当にそうと言い切れるか疑問なところだ。だって、いくら弱い魔物でもこちらの攻撃は当たらず、向こうの攻撃を交わすことも出来ないのであれば、負けるから。
しかし、学院側の言い分も完全に否定できない。なぜならその生徒達は実力を見誤り、相手を見下し、その結果油断し、注意を怠った……のかもしれないから。
まぁ、結果私が、私とレイが何を言いたいかと言うと、この学院の実力テストで得られる結果はあんまりあてにならない、ということと、生徒には正確な自分の実力を知ってもらいたい、と言うことだ。
来年度からは私達の案が採用され、また違う試験が用意される。しかし今年度はもう一度新入生全員にテストを受け直してもらうなんて出来ない。
そこで特例として、私が担任をするこのクラスでだけ特別に再度テストを行うことになったのだ。
しかも人数が少ないからこそできる特別仕様。
なのでこれからやるテストがボロボロだったとしても成績を落とすとかクラス替えを要請するとかそんなことはしない。
「ということで、ひとまず試験会場に行きましょう。
皆さんその場にたってください」
そう言うと、クラスの皆が不思議がりながらもゆっくりと立ち上がる。
そして全員が立ち上がったことを確認する。
「今回問うのは"実戦力"入学前試験でもやったと思いますがそれとは全く違うものです。
ルールは後程お話ししますので騒がないでくださいね。
それでは……"テレポート"!」
その言葉と同時にクラス全員の足元に魔方陣が構築され、次の瞬間にはこの学院の闘技場に立っていた。
ちなみに皆を立たせたのは尻餅をつかせないための配慮だ。
「……なんでわざわざ"テレポート"?
もっと少ない魔力で連れてこれる魔法あったでしょ……というか"リンク"まで……」
レイがぼやきながら、こちらに歩いてくる。
まぁ、一言言わせてもらうとすべては生徒になめられないための一手である。
"テレポート"なんてそうそう使える人いないからね。
「さて、レイ、リスト様、始めましょうか。
武道科の皆様は?」
「後ろ」
後ろ!?
あ、ごめんなさい気づかなかった。
私の後ろには武道科の人達がポカーンっと口をかけながらもきれいに整列して立っていた。
レイに集めてもらっていたのだ。
「ごめんなさい武道科の皆様。お待たせいたしました」
「い、いえ……大丈夫……です」
私はタタッとSクラスと武道科の両生徒が見える場所に動き声を張り上げた。
「これから1-Sの生徒と武道科生徒で模擬戦をしていただきたいと思います」
「「「え?」」」
Sクラスの生徒から驚きの声が上がる。しっかり説明していなかったのだがら無理はない。ちなみに武道科の生徒は昨日が登校初日だったためある程度は説明済みだ。
魔法科の生徒には前日に申し訳ないが、連絡手段もなかったので許してほしい。
そしていきなり模擬戦を行うなんて危険だと言う声もあるだろう。
しかし短時間で安全に(?)実力を図るためにはこれが一番手っ取り早いのだ。
少し前の私だったら錬成魔法でゴーレムでも作って戦わせていただろうが、生憎と今はまだその魔法を習得しきれていないのでやむ終えない。
「それではルール説明をします」
「……魔法科の生徒、理解しきれてない人ばっかりだけどいいの?」
「……」
……良しとします。
理解していようと、していまいとやります。
というか武道科の生徒と模擬戦するっていったらするんだよ。それ以外に言いようもない。
まぁ、ルール説明してたら追い付いてくれるでしょう!
「……こんなのが担任なのかぁ」
「わからないところがあれば挙手してくださいね!」
隣のレイの言葉ももろもろ放置し、私はルールを発表しだした。




