君のいない世界で (2)
祝100話(≧∇≦)
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今日も引き続き翔視点でお送りしますので、よろしくお願いします!
どこかから落ちてきた見知らぬ封筒。
それがどこからか落ちて来たのかと、周りを見回す。本棚からかとも思ったが、こんなものを置いた記憶もない。
美羽なら知っているかとも思ったのだが……
「もう、翔なに? ゲームの邪魔しないで」
そう言われて美羽の方を向くと、美羽が持っているゲーム機の上にも俺が今手に持っているものと同じものが乗っていた。
美羽もそれが何か知らない様子で、「何これ?」と言いながらそれを邪魔そうに払い落とす。
「俺じゃない、なんだこれ?」
「ええ?」
俺がそう言うと、美羽が珍しく素っ頓狂な声を上げ、ゲームを一旦停止させ、それを手に取る。
俺も一旦美羽の隣に戻ってそれに目を移す。それは白い紙で作られた封筒で、裏の封のところには青色で紋章のようなものが刻まれていた。
「なんだこれ……?」
「『異世界への招待状』」
「は?」
何を言い出したのかと隣を向くと、美羽は既に封筒を開け、中にあった物を読み上げているらしかった。
中になにか変な物が入ってたらどうするんだ、と注意しようかと思ったが、俺もなんとなく気になってそれを開く。
「『異世界への招待状』……」
そしてその中には美羽が言った言葉と同じものが書かれていた。
そして読み進めて見ると……
「……んー。これは私達が異世界に行く権利を得ましたよって言うこと?」
「まぁ、そう書いてあるな。……あとは送迎者がくるのを待てってことか
でも異世界ってなんだよ……誰かのイタズラか?」
そう思って真っ先に思い浮かべるのは、美羽の小説の担当編集者さん。
担当である美羽だけでなく俺とも長い付き合いになるその人は、時々しょうもないイタズラを仕掛けて来るのだ。先週も原稿の〆切とかでここに来ていたので、その時にまた何かしたのだろうか……と。
しかし一週間もそのイタズラに気づかないことなんて今までなかった。1日くらいたったらいつも向こうからメールでネタバレをしてくるし。
だが、その担当さん以外にこの家に訪れた人が思い浮かばない。
どういうことだ、と頭を捻る。
そして、送られて来たものが本当に美羽のものと同じか見比べようと思い、美羽に声をかけようとしたとき……
床が明るく光り出した。
「なんだこれ!」
「……まさか本当に異世界にいけるのかしら」
「は!?」
美羽が至極落ち着いた様子で、ありえないことを言い出した。やはり今日は疲れてしまったのかもしれない……しかし床は更に明るく光り出す。
担当さんのイタズラにしては手が込みすぎているし、どんな原理なのかもわからない。
そして俺はありえないとを思っていたことを、身をもって体験することになる。
あまりの眩しさに目をきつく閉じた時、手を誰かに強く引かれたような気がした。
そして気がつけば……目の前にはキラキラと輝く銀髪を靡かせる少女と、少し離れたところに少々小柄な可愛い少年が立っていた。
驚いて見開いた視界の片隅には、美羽いることに安堵しながらも、周りの景色に気をとられそちらを向くことが出来ない。
ここがどこなのか知らないが、少なくとも自宅でないことだけは分かる。
見たことも無い幻想的な世界であることに加えて、自身の身体は水の上、近くには虹色に輝き淡い光を放つ水がわき出ている。
一瞬夢かな? と思った。しかし強い風と、冷たい空気がそれを否定する。
少女の方に再び目を向けると、まぶしいのか目を細めていることがわかった。
次第になれてきたのかゆっくりと瞼が上げられた。そしてその澄んだ青色の瞳がこちらに向く。
……見とれた。そういうのが最も相応しいと思う。
人に知られれば怒られてしまうかもしれないが、あえて美羽にだけ言い訳をするのであれば……それは目の前の"人"に見とれたのではなく……そう、言うのであらば目の前の"絵"に見とれたと言う方がしっくりとくる。
それほどに目の前の少女は人間離れした風貌なのだ。それは後ろにいる少年にも言えることだが、まるで二人とも作り物のよう。
やはり夢なのかもしれない。
しかしそんなふわふわとした心持ちは、次に放たれた少女の言葉で一瞬で地に着いた。
「……二人とも老けた?」
その言葉によって。
「「……は?」」
美羽と声が重なった。美羽も目の光景に見とれていたのかもしれない。
しかし第一声が「老けた?」では変な声も出るだろう。
しかも失礼にも程がある。俺も美羽もどちらかと言えば若い方でいまだに二十代と間違われるんだが……というか老けた? って……まるで昔の俺達を知ってるような物言いだ。
この子はいったい……
「「……どちら様?」」「翔と美羽であってるよね!?」
俺は隣の美羽と顔を見合わせる。
今日はよく美羽とシンクロする日だ。さすが記念日と言って言いかもしれない。
……ん? にしても何でこの女の子俺たちの名前知ってるんだ?
「あ……!」
少女は一瞬考え込んで、『忘れてた』みたいな顔をした。
しかし正直そんな顔されても……と言う感じだ。
すると目の前の少女は分かりやすく慌て出す。
……というか結局この子は誰なんだ?
「あ、あのね!
私、成瀬さくらです! わかる!?」
そんなことを思っていたら少女が自己紹介を……
「……は?」
成瀬、さくら?
こいつは何を言っているんだ、冗談にしてはたちが悪い。
「お前……」
「待って、翔」
変な冗談を言うな、そう口にしようとしたら美羽に止められた。
「美羽……」
「うーん。もしかしたら本当にさくらかもしれないじゃない」
「そんなわけ……」
だってさくらは……死んだだろう?
今はもう亡き友人を思い浮かべ、目の前の少女を見る。似ても似つかない……この少女かさくらなわけがない。
「じゃあ何で私たちの名前を知ってるの?」
そう言いながら美羽は少女にぐっと近づいた。
「ちょっ……」
得体も知れないやつに近づくな、危ないだろう!
「翔は黙ってて……君も」
そう美羽は少女の後ろにいた……いや、いつの間にか美羽と少女の間を塞ぐように立っていた男の子に向かっても声をかける。
「ねぇ、いくつか……質問をしていい?」
「うん、もちろん! なんでも聞いて!」
俺が呆気にとられている間に美羽は少女と話し出した。
その間には少年が立っていたのだが、ゆっくりと場所を少女の隣に移す。
俺も美羽の隣に立つと、なんでも聞いてくれと答えた少女は、弱々しく眉をさげて俺達をなんども交互に見る。
「……なんでクレアの方が不安げなの?」
「ヤバい、ピンチだよレイ! ううっ、痛恨のミス! こんな初歩的なことに気づかないなんてっ」
と言う会話が聞こえてくる。そして少女は突如としてふらふらとその場に座り込んだ。
よく見ると、今まで気づかなかったが、その顔はぐったりとしている。
「……大丈夫か?」
「あー……大丈夫です。たぶん魔力が無くなっただけですから……すぐ復活するので、しばらくお待ち下さい」
周りが薄暗いからか顔色も悪く見え、そう声をかけると、少年の方が落ち着いた様子でそう答え、少女の手を取って虹色に輝く泉に入れた。
「今なんだが、ワクワクする単語が聞こえたわね……"魔力"とか」
…………。
なんだかよくわからないが、俺の隣に立つ猛獣のハートに火が着いてしまったことだけは確かだろう。
しかもその直後に少年が"ウォーム"という魔法を俺達にかけ、実際に魔法が存在することを決定付けたことで、俺は自身が異世界に来たのだと言うことを、改めて実感することとなった。
そしてそれから数分後、少女は本当に元気になり、それから小一時間ほど少女の話を聞いた。
地球で死に、ゲームの世界に転生たのだと言うことや、自分はさくらなのだと信じてもらうため、高校時代のあんなことやこんなことも。
俺のことにいたっては子供の頃の黒歴史も語られ……まぁ、それはいい。
ありえない。ありえないことだ。
しかし……彼女はさくらなのだと、俺は受け入れた。
……作り物のような、非の打ち所のない美少女なその風貌にのみ、絶大な違和感を抱きつつ。
あと1,2話ほど翔視点でお送りしたいと思います。
次回の投稿は7日の予定です。よろしくお願いしますm(__)m




