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2nd Nightmare  作者: 白川脩
結衣編
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第8話


展望台の東階段に、刃物と刃物がぶつかり合う金属音が、何度も響き渡る。


麗子を追い掛け、階段を駆け降りていった結衣と別れ、その場に残った梨沙。


「二流だな。まだ経験が浅いだろう」


突然現れた麗子の部下である影村雲雀という少女が手練れである事は、梨沙は戦い始めてすぐにわかった。


「経験ね…。確かに浅いけど、それがどうしたって言うのよ」


「貴様、そんな腕で私に勝つつもりで居るのか?」


「えぇ。経験も大事だけど、それよりも重要な事はいくらでもあるわ。そこで上回れば良いだけの話」


「言うは易し…だな」


「論より証拠。…行くわよ」


一気に距離を詰め、斬りかかる梨沙。


雲雀は左手のナイフで梨沙のナイフを弾き、右手のナイフで梨沙の首を斬り裂こうとする。


梨沙は身体を少し仰け反らせ、あえて攻撃をギリギリで回避し、主導権を渡さないよう再び攻撃を仕掛ける。


ナイフを横に振り、雲雀の首を狙う。


後ろに下がり、容易く避ける雲雀。


避けられる事は想定済みであった梨沙は間髪入れずに、雲雀の脇腹辺りを狙って右足でサイドキックを放つ。


そのサイドキックを、雲雀は知っていたかのように左足で蹴り返し、梨沙の腹部にサイドキックを放つ。


その見事な切り返しに梨沙は反応できず、雲雀の攻撃は命中した。


腹部を蹴られた事による苦痛に耐えかね、思わずその場に膝をつく梨沙。


そんな彼女に、雲雀は攻撃をせずに、嘲笑を浮かべながらこう言った。


「大丈夫か?休憩にして欲しいなら考えてやらん事も無いぞ」


「それは…どうも…」


雲雀の嫌味を聞き流し、呼吸を整え、立ち上がる梨沙。


蹴られて汚れた腹部を手で払い、雲雀を睨み付ける。


その目付きが気に障ったのか、今度は雲雀が自ら攻撃を仕掛けた。


梨沙に接近し、ナイフではなく右足による回し蹴りで攻撃する。


頭部を狙って放たれたその攻撃を梨沙はしゃがんで避け、勢い良く立ち上がりながらナイフを振り上げ雲雀の胸部を狙う。


その攻撃をサイドステップで避けた後、梨沙の脇腹辺りを狙ってサイドキックを放つ。


その蹴りを、梨沙はナイフを持っていない右手で受け止める。


そして、雲雀の腹部を狙ってサイドキックを放った。


先程と似たような展開。


しかし、梨沙が蹴られた時とは異なり、雲雀は片足を掴まれている。


その結果、梨沙のサイドキックは、動く事ができない雲雀の腹部に直撃した。


衝撃に耐えかね、転倒する雲雀。


「大丈夫?休憩にして欲しいなら考えてあげない事も無いわよ」


梨沙は先程の雲雀と同じように、嘲笑を浮かべながら彼女にそう言った。


「頭に来る物言いだな…!貴様の性格を疑うぞ…!」


「いや…あんたもさっき…」


「う、うるさい…!」


腹部への攻撃が直撃したにも関わらず、雲雀は少しも弱った様子を見せずに、すぐに立ち上がる。


「…タフな奴」


梨沙は思わず、そう呟いた。


「今の程度で倒れる程ヤワなら、私はとっくの昔に死んでいる」


「倒れたじゃない」


「そういう意味じゃないッ…!立ち上がれなくなると言う意味だ!」


「はいはい…」


会話が終わり、先に仕掛けたのは再び雲雀。


走って接近し、二本のナイフを左右から挟み込むように同時に振る。


右手のナイフは自分のナイフで弾き、左手のナイフは右手で掴んで止める。


お互いに片手しか使えない状況になり、二人は至近距離での斬り合いを始めた。


斬りかかっては弾かれ、弾いては斬りかかる。


鳴り止まぬ、けたたましい金属音。


攻防がしばらく続いた所で、雲雀が突然梨沙の足元を狙ってローキックを放つ。


蹴りは梨沙の膝の側面に命中し、彼女は崩れるように膝をつく。


その隙を見逃さず、梨沙の首にナイフを突き刺そうとする雲雀。


梨沙は掴んでいた雲雀の左手を放し、ナイフが首に刺さる寸前で何とか雲雀の右手首を掴み、攻撃を止める事ができた。


しかし間髪入れずに、今度は自由になった左手の方のナイフで梨沙の首を狙う。


それよりも早く、梨沙は雲雀の右手を内側に捻って関節を極めた。


その結果、雲雀の攻撃は梨沙の首へ届く前に止まる。


動きが止まった雲雀の腹部に、梨沙はナイフを突き刺そうと振りかぶる。


しかし、雲雀が素早く梨沙の頬を膝で蹴りつけた事により、梨沙の攻撃は中断された。


「ッ…!」


倒れる梨沙。


立ち上がらせる間も与えずに、馬乗りになって梨沙の喉元に右手のナイフを突き刺そうとする雲雀。


梨沙は思わず自分のナイフを手離し、両手で雲雀の右手を掴んで止める。


「そろそろ…死んで貰おうか…!」


「お断り…よ…!」


睨み合う二人。


両手で押し返そうとしている梨沙に対して、雲雀は片手。


徐々にナイフは喉元から離れていったが、雲雀はもう片方の手にもナイフを持っている。


当然、それも突き刺そうと振りかぶる。


両手どちらも使えない梨沙。


しかし、彼女は雲雀がもう片方の手を振りかぶったのを見て、ニヤリと笑った。


突然両手の力を抜き、身体を横にずらす。


雲雀の右手のナイフは、梨沙の首から数センチずれた地面に突き立てられる。


それと同時に梨沙は、梨沙が突然力を抜いた事によりバランスを崩している雲雀の背中に両手を回して身体を抱え込むように持ち、身体をぐるんと反転させて逆に馬乗りになろうとする。


しかし、予想外の事態が発生した。


「(しまった…!階段だ…!)」


階段の側に居るという事を忘れていたらしく、下への階段がある方へと身体を反転させた梨沙は、雲雀と組み合ったまま階段から転げ落ちていった。


下の踊り場まで落ちて、二人はすぐに立ち上がる。


しかし、二人共に身体の至る所が痛む状況であったのでそのまま格闘続行というワケには行かなかった。


「随分と無謀な真似をするじゃないか…。打ち所が悪ければ死ぬ可能性だってあったぞ…」


「今居る場所が階段だって事を忘れてたのよ…。あー痛い…」


「ふん。バカだな」


「………」


「何だその目は!」


「別に…」


梨沙は笑いを堪えながらも、戦闘の事について考える。


まず彼女は、先程落とした自分のナイフが何処にあるのかを目で探す。


「(上か…)」


梨沙のナイフは階段の段の上には見当たらなかったので、先程まで二人が居た一つ上の踊り場に落ちていると推測した。


しかし雲雀の二本のナイフは、雲雀の足元に一本、階段の段の上に一本落ちている。


「(参ったな…。何とかナイフを取りに行かないと…)」


ナイフを用いた接近戦闘には自信がある梨沙であったが、何も持たない素手での戦闘は経験が少ない。


師である雪平彩による指導が全く無いワケでは無かったが、それは最低限必要な護身術程度の物であった。


そんな梨沙の弱気な様子に気付いたのか、雲雀はナイフを拾ってここぞとばかりに接近してくる。


「ナイフが無ければ木偶の坊と言うワケか。所詮は素人だな」


「えぇ。今がチャンスよ。やれるもんならやってみなさい」


それでも態度が一切変わらないのは、気に入らない相手はとことん見下し、絶対に負けたくないという、プライドが高い梨沙の性格が表れていた。


それに対して喜怒哀楽が激しい雲雀は、梨沙の言葉ですぐに火が点き、ナイフを逆手に持ちかえて梨沙に急接近する。


右から左へとナイフを振り、そのまま左足による水面蹴りへと繋げる雲雀。


梨沙は上半身を仰け反らせてナイフを避け、水面蹴りを左足で蹴り返す。


攻撃を止められた雲雀は、怯む事なく素早く身体を反転させ、右足で梨沙の腹部を蹴りつける。


その右足を、両手で受け止める梨沙。


雲雀の動きを封じたと思い込んだ梨沙は彼女の脇腹を蹴りつけようとする。


しかし、その蹴りが命中する前に、倒れている状態から左足を伸ばして放った雲雀の外回し蹴りが、梨沙の顎に命中した。


「ッ…!?」


平衡感覚を失い、ふらつきながら後ろへ下がり、壁にもたれかかる梨沙。


「(これは…まずい…わね…)」


揺れる視界に、苦笑を浮かべる梨沙。


その苦笑に、雲雀は嘲笑を浮かべる。


「呆気ないものだな。これで終わりか?」


「慢心するのは…早いんじゃないの…?」


「口の減らない奴だな。その態度はどういう自信から出てくる?」


「さぁね…。生まれつきでしょう…」 


「そうか。なら、来世ではもっと謙虚な性格になるがいい」


「だと良いわね…」


鼻で笑う梨沙。


それと同時に、雲雀が走ってきてナイフを梨沙の胸部に突き刺す。


梨沙は両手で彼女の手を抑えようとしたが、勢いには勝てず、止める事はできなかった。


梨沙の手をするりと抜け、ナイフが梨沙の胸部を捉える。


カキン、という、金属音が鳴り響いた。


「なッ…!?」


雲雀の手に伝わってきたのは、柔らかい肉を突き刺した感覚ではなく、硬い金属のような物に弾かれた感覚。


「さっきの…お返しよ…!」


雲雀が動揺している隙を見逃さず、梨沙は彼女の顎に全身全霊をかけた左フックをお見舞いした。


避ける事も防ぐ事もできずに攻撃を喰らい、派手に転倒する雲雀。


立ち上がろうとはしたものの、見事に決まった梨沙の左フックは雲雀の脳を揺らしたらしく、彼女は立ち上がれずにそのまま気を失った。


それを確認した梨沙は、安堵の溜め息をつき、壁に寄りかかったまま崩れるように座り込む。


「(…本当にあるのね。こんな事)」


服の襟から手を入れて、ナイフが当たった胸元を探る梨沙。


「(…ありがとう)」


町から脱出する際に奈々がくれた鮮やかな青色の石のお守りは、梨沙の代わりにナイフを受け止めた事により、ボロボロになっていた。


それを、大事そうに再び服の下に入れる。


「…さてと」


梨沙はゆっくりと立ち上がり、一つ上の踊り場に向かい、落ちている自分のナイフを拾う。


そしてそのナイフを持って、気を失っている雲雀の元へと向かった。


第8話 終



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