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2nd Nightmare  作者: 白川脩
エピローグ
57/57

最終話


歩美が寄越したヘリコプターに乗って町から脱出した一同。


怪我人は全員歩美の息がかかっている病院へと運ばれる予定であったが、怪我人の内のほとんどの人物がそれを断った。


その中で断らずに素直に病院へ治療を受けに行ったのは、梨沙と亜莉紗の2人だけ。


治療の後、休眠を取った2人が目を覚ましたのは、病院に着いてから実に8時間後の事であった。


時刻は午後3時。


梨沙はベッドから半身だけを起こし、窓の外をぼーっと眺めていた。


そこから見える近くの公園で、小学生と思える子供達が駆け回っている。


そんな平穏な光景に、少し前まで生きるかの死ぬかの状況を経験していた梨沙は違和感を覚えた。


まだ1日すらも経っていないというのに、一連の騒動の事が遠い昔の事のように、更には、夢であったのではないかとすら思えてしまう。


彼女が呆然としていると、同じ部屋のベッドで寝ていた亜莉紗が目を覚ました。


「おはようございます、亜莉紗さん」


「ふわぁ~…。おはよー…」


まだ少し寝惚けているらしい亜莉紗は、曖昧な口調で返事を返す。


それを見た梨沙がおかしそうにくすくすと笑っていると、病室の扉が開き、2人の少女が姿を現した。


「綾崎さん…!」


嬉しそうな声で梨沙を呼びながら無邪気に駆け寄ってきたのは、結衣と共に助けた少女、桜庭奈々であった。


「奈々ちゃん…!どうして…」


驚いている梨沙に、もう1人の現れた少女、桜庭飛鳥が説明した。


「沢村さんが教えてくれたんです。突然私の携帯に電話がかかってきて、綾崎さんがこちらの病院に居ると。そしたら奈々がお見舞いに行くと騒ぎ出しちゃって…。療養中に申し訳ないです…」


「謝る事なんて何も無いわ。素直に嬉しいもの」


「そう言って頂けると助かります。…でも、不思議なんですよね」


「不思議?」


「私、沢村さんに携帯の番号を教えた覚えが無いんです…。どうして知ってたのかな…」


「………」


歩美なら人の携帯電話の番号を調べるくらい朝飯前だろうと思った梨沙であったが、口には出さずに苦笑だけを浮かべた。


そして、目の前にやってきた奈々の嬉しそうな顔を見てすぐに、ある事を思い出す。


「…奈々ちゃん。私、あなたに謝らないといけない事があるの」


「謝らないといけない事…?なんですか…?」


「…これの事」


梨沙は首に掛けているペンダントを外し、それを奈々に見せた。


「…あなたから貰ったペンダント、壊しちゃったの。折角貰ったのに、本当にごめんなさい」


梨沙のその言葉を聞き、奈々はすぐにこう返した。


「良いんです」


「…え?」


「綾崎さんが生きて帰ってこられたんだから、そのペンダントは役目を果たしたって事じゃないですか。だから、私はそれで満足です」


奈々の嬉しそうな笑顔。


それを見た梨沙も、思わず笑みをこぼした。


そんな幸せ者の梨沙を見て、亜莉紗が溜め息をつく。


「(良いなー梨沙ちゃん…。お見舞いに来てくれる人が居て…)」


そして倒れるように再びベッドに寝て、こう呟く。


「みんな薄情なんだから…」


「誰が薄情ですって?」


聞き覚えのある声が聞こえ、驚いて辺りを見回す亜莉紗。


入口の扉の前に、いつの間にか深雪が腕を組んで立っていた。


「い、幾島さん…!?」


「せっかく見舞いに来てあげたのに、薄情呼ばわりとはね。やっぱり帰ろっと」


「ま、待ってぇ!今のは嘘!嘘!」


慌ててベッドから出て、深雪の腕をがっちりと抱き込むように掴む亜莉紗。


「あ、あんた元気じゃん…」


「そんな事はないよ!弱っている亜莉紗ちゃんには優しい看病が必要なの!」


「いたた…!わかったから引っ張るな…!」


賑やかになり始めた病室に更に2人の人物が現れる。


1人は受付の看護婦の必死の呼び止めを無視してやってきた亜莉栖。


「お、お嬢ちゃん…。さっきからずっと言ってるけど、ここは病院だから犬はちょっと…」


「犬じゃない。イヴ」


「いやそうじゃなくて…」


そのやり取りの最中、当の本人であるイヴは亜莉栖の足元で大きなあくびをしている。


背中の傷もふさがり、ウイルスの影響も完全に消え、イヴはすっかり元気になっていた。


そして現れたもう1人の人物。


「綾崎」


亜莉栖と一緒にやってきた雲雀は、両手に大量の袋を持って梨沙の元に歩いていく。


「影村…?」


「見舞いに来たぞ。これは差し入れだ」


そう言って、両手の袋を梨沙の近くの机の上に置く。


その中には、大量のケーキ、蕎麦、牛丼が入っていた。


「…なんで牛丼?」


「お前言ってたじゃないか。牛丼でも蕎麦でも良いから食いたいって」


「そんないやしんぼみたいなセリフ言ったかしら…?」


「約束しただろうが!私は覚えてるぞ!」


「なんかちょっとズレてるような気もするけど…まぁいいわ。沢山人が居るから丁度良かった」


大勢の見舞い客に、先程まで静かだった梨沙と亜莉紗の病室は一転して賑やかになった。



一方…


病院に居ない人物達、結衣、恭子、茜、沢村姉妹の5人。


ほとんどの人物はそのまま別れ、ふらりと消えていったが、結衣だけは仮住まいしているアパートへと帰った。


錆び付いているぼろぼろの階段を登り、部屋の鍵を開けて扉を開ける。


「ただいまー」


「おかえりなさい」


すぐに声が返ってきて、結衣の妹、大神玲奈が部屋の奥からやってきた。


「…また派手にやられたね。鼻血凄いよ」


ぼろぼろになっている結衣の姿を見て、苦笑を浮かべる玲奈。


「え?鼻血まだ出てる?」


「固まってなんか凄い事になってる」


「…とりあえずシャワー浴びるわ」


「その方が良いよ」


結衣はリボルバーやら弾薬やら非日常品の数々を机の上に置き、風呂場へと向かう。


その最中、思い出したように玲奈の左腕を見ながら彼女にこう訊いた。


「お前、怪我はもう大丈夫なのか?」


「お陰様でね。そんなに深い傷でも無かったし、後遺症も大丈夫みたい」


玲奈はそう言って、結衣に左腕を突き出すようにして見せる。


「そりゃ良かった」


安堵の笑みを浮かべ、再び風呂場に向かう結衣。


「お腹は?何か作ろっか?」


玲奈が冷蔵庫を開けながら訊く。


「頼むわ。なんか適当に作っといて」


「適当にって…そういうのが一番困るんだけど…」


「んー…じゃあそうだな…。パラパラに炒めた米とか食いたいかも」


「チャーハンね…じゃあ作っとくから」


「しくよろ~」


風呂場の前の洗面所で服を脱いだ際に、忘れていた痛みが全身に駆け巡る。


「いっててッ…!」


麗子に殴り付けられた胸部は痣になっており、腹部には雲雀との交戦で負った痛々しい刺し傷。


それでも結衣にとってはその傷は、病院に行くまでの傷ではなかった。


「(まぁ…いつもみたいに飯食って寝てりゃ治るか…)」


そのまま風呂場に行き、シャワーを捻ってお湯を出す。


「ぎゃあぁぁぁッ!!」


「…またか」


台所に居る玲奈は結衣の悲鳴を聞いて、呆れたように溜め息をついた。



10分後…


「いつも言ってると思うんだけどさ…怪我してる時はシャワー止めた方が良いんじゃないの?」


「大丈夫だ。死にゃしねぇ」


「あっそ…」


玲奈が作ったチャーハンをぱくぱくと食べる結衣と、それに向かい合うように座る玲奈。


「それで…どうだったの?」


玲奈がテレビのリモコンを手に取り、テレビの電源を入れながら聞く。


結衣は口の中のものをゆっくりと咀嚼して飲み込んだ後、質問に答えた。


「事件の首謀者、津神麗子は死んだ。その代わりに、他の組織が動き出しやがったよ」


「他の組織って?」


「PMC…とか言ってたな」


その名前に、眉をひそめる玲奈。


「PMCって…傭兵の派遣会社みたいな組織じゃなかったっけ?」


「さぁな。私は知らねぇ。でも、そのワケわかんねぇ連中が津神のウイルスを奪って消えたんだ。これから先、嫌な予感しかしないね」


「へぇ…」


「しかも、葵さんがそいつらに協力してるらしいんだよ。ヘリには彩さんも乗ってた」


「…は?」


知っている名前を次々と挙げられ、玲奈は思わずきょとんとしてしまう。


「彩さんと葵さんは昔ツルんでた事があったらしいけど…やっぱり詳しくは知らねぇ。ま、今後の展開に注目って感じかな」


「そう…。雪平さんと葵さんが…ねぇ…」


玲奈は半信半疑と言った様子。


結衣はそんな彼女の表情を見て、突然こんな話を聞かされては無理もないか、と思いながら、チャーハンの残りをかきこんだ。



そして残るは茜、恭子、沢村姉妹の4人。


恭子は、過去にバイオハザードが発生した榊原町という町の近くにある、白波町という町の一角にある小さなバーに居る。


恭子がそこで飲んでいると、不意に扉が開き、別の客が現れた。


「あら…」


「…ふふ。奇遇ですわね」


その客とは、茜であった。


「こんな所に居るなんてね…。もっと、高級そうな店で飲んでるのかと思ってたわ」


恭子の隣の席に座り、カウンターの向こうに並んでいる酒の瓶を吟味するように見始める茜。


「私はお酒が飲めればどこでも良いのですよ。それこそ、駅前の立呑屋でもね」


「あなたが立呑屋?それは笑える光景ね…」


「ふふ…確かに…」


くすくすと笑い、ウィスキーが入ったコップを口に持っていく。


茜はビールを注文し、出されたそれを一口で半分飲む。


そして、話を始めた。


「…PMCという組織、何か知らない?」


「Private Medical Company。被災地などに出向いて、被災者を支援すると言った事をしている民間医療会社よ」


その声は、いつの間にか背後に立っていた歩美のものであった。


「歩美…あんたいつの間に…」


「今来た所よ。危険人物をマークしてたら、こんな所に居るって情報を掴んでね」


驚いた茜に、歩美は店の奥で1人静かに鮮やかな紫色のカクテルを嗜んでいる明美を見ながら答える。


「………」


明美はちらっとこちらに視線を向けたが、すぐに不機嫌そうにそっぽを向き、カクテルに口をつけた。


「い、いつから居たのよ…」


「1時間程前にいらっしゃいましたわよ」


明美をまるで幽霊でも見るかのような目で見ている茜に、恭子が答える。


それを聞き、茜は気になった事を恭子に訊ねる。


「…あなた、いつから居るの?」


「えーと…今9時という事は、かれこれ4時間は経ちますかね」


「…それ何杯目?」


「4本目ですわ」


「………」


絶句している茜の隣の席に腰かけた歩美が、一連のやり取りを見て鼻で笑う。


「そんな話はどうでも良いわ。聞きたい事があるんじゃないの?」


「どうしてPMCに葵が協力してるのよ」


そう訊いたのは、離れた所に居る明美であった。


「PMCの創設者は雪平彩。昔彼女と共に戦った葵なら、協力する理由は充分にあるわ。それ以外にもあるかもしれないし、別に不思議な話じゃないでしょう」


「PMCの目的は?」


今度は恭子が訊く。


「いまいち掴めないわ。最近、連中は大量の銃器を仕入れて武装しているらしいけれど、何がしたいのかはわからない。津神のウイルスを欲しがっていた理由も、見当がつかないわ」


「どうせテロ行為でも企ててるんでしょう…。大量の銃器、人をゾンビに変えるウイルス、この2つでやる事なんて大体予想がつくわ」


茜が残りのビールを一気に飲み干してそう呟く。


歩美は注文した綺麗な緑色のカクテルを一口飲み、茜の言葉に答える。


「仮にそうだとして、理由が見当たらないのよ。奴等がテロ行為を起こしてまで得たいもの…。とは言え今回の津神のように、ほとんど気まぐれのような理由だったらわからなくても当然だけれど」


「表向きには医療会社、その本当の顔は生物兵器を所持している武装集団…。私も茜さんが仰る通り、そんな組織が企む事などロクな事では無いと思いますわ」


「その通りね」


恭子の言葉に、明美も賛同する。


歩美は深い溜め息を1つつき、こう言った。


「…とにかく、情報が少なすぎるわ。奴等が動き出すまでは何もわからないから、今はただ待つだけね」


「何か悔しいわね…」


「仕方がないでしょう。…だから、酒でも飲まないとやってられないのよ」


「沢村さん、そのような飲み方はあまりよろしくはありませんわよ?」


「良いんじゃないの?そのまま身体壊して死んじゃえば」


「誰が誰にもの言ったのか良くわからなかったわね。私の聞き間違いかしら」


「こんな所でまで喧嘩しないでよ!見てるこっちがイライラするわ!」


「まぁまぁ茜さん。そう声を荒げずに、今は楽しく飲みましょう。ね?」


「楽しく飲む?冗談はやめて頂戴、恭子。この世で一番憎い奴が居る中でどう楽しめってのよ。歩美姉さん、あなた帰れば良いのに」


「あんたは死ねば良いと思うわ、明美」


「だから…!あぁもう知らない!今日は潰れるまで飲んでやるわ…!」


「あらあら…ふふ…」


小さなバーに現れた4人の騒がしい客は、店が閉店する真夜中まで酒を酌み交わしていた。


最終話 終



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