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2nd Nightmare  作者: 白川脩
最終章
55/57

第5話


茜を沈め、刀を抜かずに恭子と歩美に向かっていく葵。


彼女が刀を抜かない事に、2人は違和感を覚えた。


「(なんか…引っ掛かるわね…)」


その違和感の事を考える暇も無く、葵の回し蹴りが歩美を襲った。


「葵。戦う前に話をする気は無いの?」


「無いわ」


容赦のない、顔面を突き刺すような蹴り。


間一髪で避け、頬に蹴りがかすったその感覚に歩美の全身にぞわっと鳥肌が立つ。


「(喰らったら…ひとたまりもないわね…)」


葵の隙の無い動きに、歩美は反撃の機会を見出だせない。


「避けるだけじゃ、勝つ事はできないわよ?」


「戦わずに勝つ事ができるんじゃないかと思ってね」


即答してきた歩美に、葵は珍しく苦笑を浮かべる。


そして誤魔化すように歩美に殴りかかり、こう言った。


「…思い違いよ」


「それは…残念ね…!」


葵の攻撃を避け、そのまま流れるように後ろ回し蹴りへと繋げる。


葵は攻撃が空振った後なので、すぐには反応できないハズ。


その歩美の考えは、すぐに間違いだと気付かされた。


攻撃を空振った事など無かったかのように、両手で歩美の蹴りを受け止める。


そして麗子は左足で歩美の身体を唯一支えている彼女の右足を引っ掛けるように転ばせる。


為す術も無く、歩美は背中から転倒する。


そこにトドメの踵落とし。


しかしその攻撃は、恭子が飛び込むように放ったタックルによって阻止された。


奇襲に近いそのタックルに葵は反応こそできたものの、恭子と共に倒されてしまう。


お互いに素早く立ち上がったが、先に戦闘態勢を取れたのは恭子。


葵に主導権を渡さない為、恭子は全力で攻撃を仕掛けていった。


常人であれば一瞬でスタミナが尽きてしまうであろう連続攻撃。


葵はそれを捌いていったが、簡単なものではなく、しばらくもしない内に彼女の息は上がっていった。


「流石ね…!」


葵の一言に、恭子は驚く。


この状況でまだ口を開く余裕があるのかと、恭子は眉をひそめた。


そしてその一瞬の気の緩みを見逃さず、その時恭子が放ったストレートを前に出ながら避け、右手でストレートを打つ。


そのクロスカウンターは、見事なまでに恭子の頬に命中した。


「ッ…!」


予想外のクリーンヒットに動揺し、恭子は怯んで動きを止めてしまう。


すぐに攻め込む葵。


しかし、歩美がそれを遮った。


「させるか…!」


「甘いわよ…!」


横から接近してきた歩美に裏拳を放ち、それが命中するや否や、彼女の腕を取って四方投げを決める。


受け身を取れず、歩美は大きなダメージを負うと共に再び地面に倒れてしまう。


先程と同じような危機であったが、先程と異なり葵の攻撃を喰らった恭子には助ける余裕がない。


葵は歩美の胸部を、強く踏みつけた。


「ッぁ…!?」


「悪いわね。少しそこで寝てて貰うわよ」


一撃で戦闘不能になってしまった歩美から離れ、葵は恭子の元へ。


恭子はやっと先程の攻撃から回復し始めていたものの、まだ本調子では無い。


それを見抜き、葵は一気にたたみ掛ける。


先程恭子が見せた超人的なラッシュに負けずとも劣らない連続攻撃。


最初の方は捌いていたものの、途中で1発命中し、それ以降の攻撃は全て命中した。


最後の左フックを顎に喰らった所で恭子の赤い目が黒い色に戻り、彼女は膝から崩れ落ちる。


「KO勝ち…って言った所ね」


葵はそう言って荒くなっている呼吸を整えた後、麗子の元へと歩いていった。



「…あら。あっちは終わったみたいね」


明美と結衣の2人と交戦中の麗子が、こちらに歩いてくる葵を見てそう呟く。


その言葉と葵の姿に、結衣は絶望した。


「マジかよ…」


麗子1人でさえ勝利は厳しいと思っていた所にやってきた葵。


結衣の苦笑は、当然と言えば当然であった。


「へぇ…。まさかとは思うけど、あなた苦戦してるの?」


麗子の隣にやってきた葵がまだ立っている明美と結衣を見て、からかい気味に麗子にそう訊く。


「…すぐに片付くわ。遊んでただけよ」


少し不機嫌そうに、麗子はそう答えた。


そんな2人のやり取りを見て、結衣は苦笑を浮かべる。


「おい明美…。流石に勝ち目ねぇだろ…」


結衣が鼻血を手で拭いながら、明美にそう言った。


しかし、明美に焦った様子は無い。


彼女はただじっと、葵を見つめていた。


「(葵…)」


その様子に気付いた葵が、ニヤリと笑う。


「どうしたのよ。明美」


「あんた…何考えてんのよ」


明美のその言葉に、麗子が反応を見せた。


じっと、横目で葵を見つめる麗子。


そして視線はそのままに、明美にこう訊く。


「…それはどういう意味かしら?」


明美は視線を葵から離さずに答えた。


「私達を殺すつもりなら、歩美姉さん達を沈めた直後に奇襲という事ができたハズ。なのにどうしてそうせず、軽口を叩きながら津神の所に歩いていったのかしら」


「………」


「あんたの目的は私達を殺し、津神からウイルスを貰う事じゃないの…?」


何も言わない葵。


次の瞬間、彼女は突然笑い出し、刀を抜いた。


「流石は明美、鋭いわね」


「ッ…!」


身構える明美。


結衣はもはや気力すら残っておらず、ただその様子を見ているだけ。


絶望的とも言える状況。


しかし、その状況は次の葵の行動によって一転した。


「…悪く思わないでね」


そう呟いた葵の刀が、麗子の胸部、心臓を貫く。


「…え?」


麗子は、何が起きたのかを理解できなかった。


それは結衣、明美の2人も同じであり、彼女達は葵の行動に面食らっているだけ。


そんな中、葵はニヤリと笑い、麗子に突き刺している刀を更に奥深く突き刺した。


「裏切って、更に裏切る。流石のあなたでも、予想できなかったでしょう?」


「何…故…?」


心臓を貫かれ、麗子は喋る事すらもままならない。


葵は笑みをそのままに答える。


「一番簡単な方法だからよ。あんたを殺す、一番の方法」


「最初から…私を殺す為だけに…!?」


「えぇ。そうよ。あんたは目障りなの。それだけの理由よ」


「ッ…!」


麗子の身体から刀が引き抜かれる。


鮮血が吹き出し、倒れそうになるが、なんとか立ち止まる麗子。


麗子の超人的な能力は、自身が作ったウイルスによるもの。


そのウイルスを身体全体に送る役目を果たしている心臓は、麗子にとって唯一の弱点とも言えた。


「死んで貰うわ。津神麗子。あんたさえ消えれば、私の目的は果たせるの」


迫ってくる葵に、麗子は刺された傷を手で押さえながら後退る。


「…なるほどね」


力無く笑って見せる麗子。


その笑みはもはや、意地とも言えた。


「まんまと騙されたわ。まさか、二重の裏切りをされていたとはね…」


自分に嘲笑し、麗子は何かを取り出す。


「…私の負けね。これは置いていくわ」


そう言って静かに地面に置いたのは、新型ウイルスのサンプルであった。


それを一瞥した後、葵は再び麗子に視線を戻す。


「随分と潔いじゃない」


「ふふ…。どうかしら…?」


会話をしている間、ずっと葵から離れるように後ろへと下がっていた麗子は、いつしか屋上の隅に立っていた。


そして、葵を見てニヤリと笑う。


「あなたに殺されるのは癪だわ。これが最後の…せめてもの抵抗よ…」


眉をひそめる葵。


「…自決ってワケ?」


「さぁね…。縁があったら、また会いましょう…」


麗子は背中から倒れ込むように、20階建てのビルの屋上から身を投げた。


「………」


目の前から麗子が消えたその光景を葵はつまらなさそうに見た後、彼女は刀を振って血を落とし、ゆっくりと納刀した。


「葵」


自分を呼ぶ声が聞こえ、そちらを見る葵。


そこには明美が立っていた。


「あら、どうしたの?」


「どうしたの?…じゃないわよ。こんな小賢しいマネをするなら、せめて私には教えておいてほしかったわ」


「うふふ…。敵を欺くにはまず味方から…って言うでしょ?」


「…あっそ」


そこに、結衣もやってくる。


「葵さん…」


「結衣ちゃん、大丈夫?鼻血出てるわよ」


「え、まだ出てます…?」


恥ずかしそうに鼻を手で拭う結衣。


その様子を見て、葵はくすくすと笑う。


「うふふ…。まぁ無理もないわよ。津神の攻撃を直に喰らったんだから。生きているだけでも儲けものよ」


「まぁ…身体だけは丈夫ですからね。私」


「それはなにより…」


2人が話をしている間、明美は麗子が置いていったウイルスのサンプルの元へと歩いていく。


「(これさえあれば…私は誰よりも…)」


それに気付き、葵が彼女の元へと歩き出す。


それと同時に、結衣が口を開いた。


「でも良かったですよ。葵さんが仲間であってくれて」


「………」


足を止める葵。


「…葵さん?」


その様子を不審に思った結衣が、彼女の名前を呼ぶ。


葵はしばらく黙り込んだ後、一言だけこう言った。


「…ごめんね」


「…え?」


明美の元へと再び歩き出し、彼女の背後に立つ葵。


そして彼女は刀を抜き、明美の背中に刀を突き刺した。


第5話 終



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