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2nd Nightmare  作者: 白川脩
最終章
52/57

第2話


「葵…説明しなさい…!」


歩美の怒声。


葵はニヤニヤと笑みを浮かべながら答える。


「取引をしたのよ。ウイルスと引き換えに、あなた達を退けるという内容のね。安心して、命までは取らないで上げるから」


「やっぱり…そうだったのかよ…」


悔しそうに、また、寂しそうにそう言ったのは結衣。


「考え直してください…!葵さん…!」


説得の言葉を掛ける恭子であったが、葵は苦笑を浮かべて首を横に振る。


「残念だけど、もう決めた事なの。私はあなた達の敵よ」


「そんな…」


ショックを受け、言葉を失う恭子。


結衣も同じく、何も言わずに俯いている。


歩美は怒りと驚きが混ざった複雑な表情で、葵を見つめている。


ただ1人明美は、一同のやり取りをつまらなさそうに見ていた。


彼女にとっては、どうでもいい事。


確かに葵が敵に回るのは厄介な事であるが、障害は全て捩じ伏せるまでという考えの彼女にとってはそこまで重要視する事ではない。


葵はそんな明美を、面白そうにじっと見つめていた。


そして、口を開く。


「良い機会ね。やっと証明できるわ。私とあなた、どっちが上なのか」


その言葉に、明美は不機嫌そうに答える。


「お世辞のつもり?嫌味にしか聞こえないわ」


「あら…それは残念…」


葵は楽しそうに笑いながら、刀を鞘から抜く。


「いずれにしろ、私はあなたと戦う必要があるわ。お世辞かどうかは、すぐにわかる事よ」


「…そう」


リボルバーM500を取り出し、その銃口を葵に向ける。


葵は相変わらずニヤニヤと笑っているだけ。


余裕が見て取れる、いつもの笑み。


明美以外の3人は、ただただ面喰らっている様子。


「あら…そんな顔しちゃって。よっぽどびっくりしたのね」


麗子がそう言った。


それに対し、歩美が視線を葵から麗子に移し、口を開く。


「…一番敵に回したくない人物ですもの。あんた1人なら、なんとかできたと思うのだけれど」


「それは大変ね…。一体どうしてくれるのかしら」


「…今考えてるわ」


忌々しそうに答える歩美。


すると、明美が一歩踏み出して、構えていたリボルバーの撃鉄を引き起こしながら歩美にこう言った。


「考えてどうするってのよ。敵は目の前に居るんだから、やる事は1つでしょう」


「それは…」


そうだと言いかけた所で、結衣が明美の隣に並んだ。


「確かにその通りかもね。葵さんが相手ってのは気が引けるけど、この4人ならなんとかなるかも」


「あんたまで…」


「私もそうしますわ」


恭子も、2人と同じ答えに辿り着いた。


「考えた所で何か良い策が浮かぶとも思えませんし、ダメもとでも立ち向かってみる方が潔いのでは?」


「死ぬ事すらも厭わないような言い方ね」


横目で恭子を見る歩美。


恭子はくすくすと笑い、静かに頷いて見せた。


「相手が相手ですもの」


「…なるほどね」


歩美は呆れたように力なく笑った後、麗子と葵に身体を向けた。


「待たせたわね。意見が纏まったわ」


「うふふ…。やっぱり面白いわ…あなた達…」


「…そりゃどうも」


4人は一斉に走り出した。


麗子に向かっていったのは、結衣、明美の2人。


結衣の飛び蹴り、明美の掌底。


その2つの攻撃が同時に放たれたが、麗子は結衣の飛び蹴りを下がって避け、明美の掌底を手で捌く。


2人はすぐに一歩下がって、リボルバーを構えて麗子の身体に銃弾を撃ち込む。


銃口の向きで銃弾の軌道を読み、異常なまでの反射神経でそれを避ける麗子。


装填してある弾を撃ち尽くす2人。


結衣は素早くシリンダーの薬莢を捨て、慣れた手つきで新しい弾を込める。


明美はリボルバーをしまって、素手で麗子に攻撃を仕掛ける。


潜り込むように接近し、鳩尾を狙った右手による掌底。


それは避けられたが、間髪入れずに左手でフックを放つ。


それも避けられ、今度は顔面に右ストレート。


そのストレートを待っていたかのように、麗子は片手で受け止める。


ぎりぎりと明美の手を握り締め、ニヤリと笑う。


手が潰れてしまう程の怪力であったが、明美はニヤリと笑い返す。


その様子を麗子が不穏に思った時には既に、結衣のリボルバーから銃弾が発射されていた。


首の左側、頸動脈の部分を撃ち抜かれ、麗子は大きくよろめく。


その隙を見逃さず、明美は素早く接近して、先程は避けられた掌底を再び鳩尾に放つ。


銃撃に怯んでいた麗子は避けられず、明美の掌底を直に喰らった。


派手に転倒したものの、麗子はすぐに立ち上がる。


「中々やるわね…」


そして2人を見て、嬉しそうに笑みを浮かべた。


明美と結衣は、お互いの事を横目で見る。


「…大神結衣。噂通りの良い腕ね」


「そっちこそ。思っていた以上だ」


お互いに称賛しあった後は、麗子に視線を戻す。


それまでは黒かった麗子の瞳が、赤い色に変わっていた。


「それじゃ…始めましょうか…」 



一方、葵に向かっていったのは、歩美と恭子の2人。


2人は銃をしまって、素手で接近する。


それに応えるかのように、葵も刀を鞘に納める。


先制したのは、既に細胞を昂らせている赤い瞳の恭子であった。


手始めに軽いジャブを顔面に放つ。


すると、葵はその小振りなジャブを素早く受け止めて、恭子の身体を後ろに投げ飛ばした。


まさか最初の攻撃を止められて投げられるとは思っていなかった恭子は反応が遅れ、受け身を取れずに背中から地面に落ちる。


葵は恭子を追わず、続けて向かってきた歩美に視線を移し、身構える。


自分が知っている中でもかなりの手練れである葵の眼光に歩美は一瞬怯んだが、慎重に、かつ大胆に接近して攻撃を仕掛けた。


歩美は左手でフックを放つ振りをしてフェイントをかけ、突然身体を左方向に回転させながら左足による水面蹴り放つ。


少し反応が遅れたものの、葵はその蹴りを下がって避ける。


先程初手から投げ飛ばされた恭子を見た歩美は、初手から大振りな攻撃を仕掛けた。


しかし、大振りな攻撃を避けられたその応酬は当然大きく、葵に主導権を渡してしまう。


水面蹴りを放った歩美が立ち上がる前に、葵は仕掛けてくる。


放ってきた攻撃は、顔面への前蹴り。


歩美はその蹴りを横に飛び込むように避け、そのまま素早く立ち上がる。


葵は追撃を狙ったが、背後からの恭子の接近に気配で気付き、素早く振り返る。


恭子は葵の顔面に掴みかかろうと手を伸ばす。


それを避けながら先程と同じように彼女の手を掴み、投げようとする。


しかし、恭子は自分の腕を掴んだ葵の手を逆の手で掴み返し、ニヤリと笑った。


「同じ轍は…踏みませんわよ…!」


ぎりぎりと力を込めていき、葵の腕を握り締める。


身動きが取れない中、更に歩美が接近する。


そして放ったのは、頭部への命中を確信した後ろ回し蹴り。


葵はその回し蹴りを掴まれていない手で受け止めたが、その衝撃はかなりのものであり、思わず表情が苦しいものへと変わる。


それでも痛みに耐えながら、その手で更に恭子の首に手刀を入れる。


恭子がその手刀を避けたと同時に一瞬力が抜け、その隙を見逃さずに葵は彼女の手を振りほどいた。


距離は一旦離れ、戦闘は仕切り直しになる。


「流石ね、ご両人。見事な連携だったわ」


歩美の蹴りを受け止めた事により、まだじんじんと痛んでいる手をぶらぶらと振りながら、楽しそうに笑う葵。


恭子と歩美は、苦笑を浮かべていた。


まだ彼女が本気を出していない事を知っているからであった。


「(葵さんの実力は…)」


「(こんなものじゃないわ…)」



結衣と明美対麗子の戦いと、歩美と恭子対葵の戦い。


一度仕切り直しとなったその戦いが再び始まろうとしたその時、エレベーターの扉が開いた。


思わず、全員がそちらを見る。


エレベーターから降りてきたのは、梨沙、亜莉紗、茜、亜莉栖の4人。


そして遅れて現れたのは、麗子の部下であった少女、深雪と雲雀であった。


「結衣さん…!」


辛そうに身体を引きずるように歩きながら、梨沙は結衣の元へ。


「梨沙ちゃん…!?何やってんだ!戻れ!」


亜莉紗は亜莉栖の前に立ち塞がるようにしながら、クロスボウに矢を装填している。


茜は、恭子、歩美の2人と対峙している葵を見て、怪訝な表情でそちらに歩いていった。


「姉…さん…?」


「…来ちゃったのね」


苦笑する葵。


そして深雪と雲雀の2人は、何も言わずに麗子の元へと歩いていった。


「麗子様…」


深雪が麗子の名前を呼びながら、スナイパーライフルを彼女に向ける。


「…どうしたの?」


無表情で、深雪を見つめる麗子。


深雪の隣に居る雲雀も、既に目を赤く光らせている。


「あなたを殺す…!」


静かながらも強い口調の、深雪の言葉。


それを聞き、麗子は上機嫌に笑い出す。


そして、赤い瞳で深雪と雲雀を交互に見てこう言った。


「やってみなさい…!」


第2話 終



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