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2nd Nightmare  作者: 白川脩
歩美編
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第8話


イベント会場を後にして、結衣が言っていた公園へと向かう二人。


地下から脱出する予定であったが、茜が猛反対し、比較的ゾンビが少ない裏口から移動を開始する事になった。


「なんとかしなさいよ」


「何の事?」


「虫嫌い」


「そんなの無理よ。姉さんも母さんもそうなんだし、神崎家に代々伝わる事なんだから」


「無駄な遺伝ね…」


「でも、私の美しさは遺伝子の突然変異と言えるわね」


「言ってなさい…」


群がってくるゾンビを銃で沈めながら、裏通りを進む二人。


一通り掃討して銃をしまった歩美に、茜が思い出したようにこう訊いた。


「ねぇ、そう言えばまだ訊いてなかったんだけど、結衣ちゃんは何て言ってたの?」


「いつの話?」


「会場の建物の中を探索してた時に、結衣ちゃんと連絡をしていたじゃない。その話よ」


「あぁ…。恭子達が公園で見つかったという話よ。何でも、恭子が殺されかけたとか」


「え、恭子ちゃんが?」


「小賢しいマネをするクリーチャーが居たらしくてね。彼女の体内の細胞を暴走させたらしいわ」


「そんな事できるの?」


「説明は割愛するわ。今からその公園に向かうのは、津神麗子の目撃情報の確認ってのが主だけど、恭子の様子が気になるって事もあるのよ」


「へぇ…。亜莉紗ちゃんは無事なの?」


「えぇ。見つけた時には恭子と一緒に気絶していたらしいけれど、特に怪我をしたというような報告は無かったわ」


「そう…。それなら良かった」


茜の質問に答え終えた歩美は、結衣と連絡を取ろうと無線機に手をかける。


「…ま、何となくわかっていたけれど」


結衣からの応答は無く、歩美はすぐに諦め、再び結衣の報告に出てきた公園を目指して歩き出した。



歩き続ける事約10分。


断続的に現れ続けるゾンビを仕留めた所で、茜が溜め息をついてこう言った。


「…ねぇ、いつになったら着くのよ?」


「まだ歩き始めてそんなに経ってないでしょうが。私の記憶が正しければ、結衣が言っていた公園は町の東側にあるわ。確か大きな展望台があったから、目印には困らないハズよ」


「展望台なんて、どこにも無いじゃない」


「えぇ。つまり、まだまだ全然近付いていないという事ね」


「はぁ…。嫌になってきちゃうわ…」


「ほら、愚図ってないで行くわよ」


「はーい…」


再び歩き出す二人。


その時、複数のおぞましい叫び声が、二人の背後から聞こえてきた。


「…今度は何よ?」


「今のは恐らく、ランナーが獲物を見つけた時に発する雄叫びみたいなものね」


「獲物?」


「今の状況で言うと…私達の事ね」


そう言って、振り向きながらデザートイーグルを取り出し、こちらに走ってきていた三体のランナーを撃ち抜く。


「多分さっきの戦闘の時の銃声を聞いて、集まってきたのね」


「呑気に推察してる場合?囲まれそうよ」


茜の言葉通り、近くを徘徊していたランナー達が銃声を聞き付けて次々と集まってくる。


歩美は慌てる事なく辺りを見回し、状況を判断する。


「茜。走るわよ」


「どこへ?」


「いいからついてきなさい。…良い運動になるわよ」


「はぁ?…ちょ、待ちなさいよ!」


近くにあった三階建ての雑居ビルに向かって走り出す歩美と、それを慌てて追い掛ける茜。


ランナーからの、逃走劇が始まった。



「さて…どうするか…」


ビルに入り、扉を閉めて辺りを見回す。


右手側には階段があり、正面には通路が続いていた。


「上に登っても、逃げ場が無くなるだけなんじゃないの?」


茜の意見に、嘲笑を返す歩美。


「真っ直ぐ進んで奥に逃げ込んでも同じ事よ。それだったら、上の方が幾ばくかは有利になるわ」


「有利って?」


「それは…」


歩美が質問に答える前に、背後にある扉がランナー達によって叩かれる音が聞こえてきた。


「…説明は後。とにかく行くわよ」


「…そうね」


階段を駆け上がる二人。


しかし、途中にある踊り場に到着した時、隣のビルから、二体のランナーがガラスを突き破って飛び移ってきた。


「ちっ…。大した奴ね…!」


歩美は舌打ちをして、飛び掛かってきたランナーの首に腕を押し付けて動きを止め、素早くデザートイーグルを取り出して顎の下に銃口を突き付けて発砲し、仕留める。


茜は走ってきたランナーの腕を掴んで頭を二回横に蹴り払い、続け様に腹部を蹴りつけ、最後に階段の下に向かって身体を投げ放った。


「全く…。アクション映画のスタントじゃないんだから…。ゾンビは大人しく歩き回ってなさいよ…」


「最近の映画のゾンビは、歩いている方が珍しい気がするわね」


「迷惑な話ね…」


そこで、下の階から扉が破壊された音が聞こえてきたので、二人は会話を止めて再び二階へと向かった。


二階に到着して、再び選択を迫られる二人。


「上に行く?それとも…」


「上よ。最上階に着くまで、ひたすら階段登りよ」


「…ねぇ。その判断、何か根拠があるの?」


茜がそう言ったと同時に、階下から五体のランナーが駆け上がってくる。


二人は銃を取り出し、そのランナーを一瞬で全滅させた。


「いいから黙ってついてきなさい」


「はーいはい…」


三階に向かう為、再び階段を駆け上がる二人。


今度はランナーが飛び込んでくるような事は無かったが、階段を登りきった所で、通路の奥から四体のランナーが走ってきた。


「先回り…ね」


「そんな知能が?」


「動物みたいなものよ。獲物を確実に狩る為、集団で襲い掛かる。当然、回り込みだってするわ。狼やライオンだって、そういった行動を取るでしょう?」


「ふーん…」


銃を構え、引き金を引く。


しかし二人は、先程五体のランナーを仕留めた際に、装填してある弾を全て撃ち切った事を忘れていた。


銃から発せられたカチッという音を聞くと、二人は焦る事なく銃をしまい、こちらに走ってくるランナーに向かって歩き出す。


先頭の二体の頭部を二人同時に横から蹴りつけ、壁に叩きつけて仕留める。


続けて襲ってきた二体のランナーは先程とは逆の方向から同時に蹴りつけ、二体の頭をぶつけて仕留める。


最後の一体には、二人で同時に顔面を突き刺すように蹴りつけて仕留めた。


「どこかに屋上への階段が無いかしら。そこで迎撃すれば、多少は楽になると思うのだけれど」


「結局戦うのね…。かなり居たし、逃げるってのも一つの手じゃないかしら?」


「迎撃しきれなかったら、そうするわ」


「…いや、最初からそうすれば良いじゃない」


「私のプライドに反するわ」


「面倒臭いわねコイツ…」


「何か言った?」


「別に…」


通路を進んでいき、屋上への道を探す二人。


その時、途中にある部屋の中から、三体のランナーが現れた。


二人は突然の出現にも怯む事なく、先頭のランナーを蹴りつけて部屋に押し戻し、自分達も部屋に入っていく。


三体のランナーはすぐに立ち上がって二人に襲い掛かるが、二体は部屋に入る際にデザートイーグルの再装填を済ませておいた歩美に一瞬で頭を撃ち抜かれ、もう一体は茜が蹴り飛ばした丸椅子が頭部に直撃し、絶命した。


その直後、部屋の中にある割れている窓ガラスから、二体のランナーが姿を現す。


そのランナーはすぐに歩美のデザートイーグルによって仕留められたが、歩美は割れている窓ガラスを見て舌打ちをした。


「どうやらあそこから侵入しているみたいね…」


「ここ三階よ?まさか壁をよじ登って来てるの?」


「奴らのさっきのスタント張りの動きを見たでしょう?僅かでも指をかけられる箇所があれば、どこだろうと登ってくるわ」


「見習いたいくらいね…」


再び壁を登ってきたランナーを歩美が仕留め、二人は部屋を出る。


通路に出ると、階段から上がってきた大量のランナーが、二人に向かって走ってきている光景が見えた。


「あら、私達思ったよりも人気なのね」


「冗談言ってる場合じゃないわよ…」


ランナーから逃げるように、反対方向に走る二人。


すると、通路の突き当たりの右手側に、屋上への階段が見えた。


「あったわ。屋上に行くわよ」


「いよいよ背水の陣ってワケね…」


階段を登り、屋上への扉の鍵を歩美がデザートイーグルで破壊し、扉を蹴破って屋上に出る。


しかし、屋上に出た二人は予想外の事態に遭遇し、揃って苦笑いを浮かべた。


「…茜。先客が居るわよ」


「そのようね…」


屋上には、既に大量のランナーが先回りして待っていた。 


二人は背中合わせになって、自分達を囲んでいるランナー達を見回す。


「どうするの?全員潰す?」


「建物の中の奴らも居るのよ?合わせて…まぁ30体と言った所かしら」


「別に逃げても良いわよ。私はあんたと違って安いプライドなんて持ち合わせてないし。持ってるのは崇高なる高いプライドだけ」


「あっそ…。なら、その崇高なる高いプライドとやらに訊くわ。どうするべきなのかしら?」


「それは勿論…」


四方八方から襲い掛かってくるランナー達。


二人は同時に、大振りな後ろ回し蹴りを放ち、全方向のランナーを蹴り飛ばした。


「…それは勿論?」


「…何て言おうとしたのか忘れたわ」


「あっそ…」


蹴り飛ばされたランナー達が立ち上がり、再び二人に襲い掛かる。


二人は同じ場所に居ては分が悪いと判断し、それぞれランナーを退けながら今居る場所から離れた。


「(多いわね…。せっかく補給した弾薬が、底を突く事になりそうだわ…)」


次々と襲い掛かってくるランナーをデザートイーグルで沈めていく歩美。


隙を見て慣れた手付きで再装填を済ませ、迎撃の手を緩めずに数を減らしていく。


「(茜は…大丈夫そうね…)」


離れた場所で次々とランナーを蹴り殺している茜を見て、歩美は安心して自分の戦闘に集中する。


移動をしながら戦っていた結果、二人はお互いの姿を確認できない程離れてしまった。


その事に先に気付いたのは茜。


「(あら?居なくなっちゃってるじゃない。怖じ気付いちゃったのかしら?)」


入口の陰に隠れてしまっているのだろうと思い、確認しようと向かう茜。


しかし、それと同時にランナーが襲い掛かってきた為、茜は確認を諦めて戦闘に戻った。


「(…ま、あいつなら大丈夫よね)」


そんな一方、茜の予想通り入口の陰の裏に居る歩美は、茜の方よりも多い数で絶えず襲い掛かってくるランナーに苦戦を強いられていた。


「(キリがないとはこの事ね…)」


迎撃が間に合わなくなり始め、ランナーの集団は徐々に歩美との距離を縮めていく。


そして一体のランナーの手が歩美の身体に触れる寸前で、歩美のデザートイーグルの弾が切れた。


「(しまった…!)」


その時、歩美の頭上で、一発の銃声が鳴り響く。


すると、歩美に手を伸ばしていたランナーの頭部が無惨に抉れ、崩れ落ちるようにその場に倒れた。


「誰…!?」


自分の頭上、入口の上を見上げる歩美。


そこには、乱雑に巻かれた包帯で顔が目元以外全て隠れている怪しい人物が居た。


その包帯の人物が歩美の目の前に飛び降りてきて、突然手に持っているリボルバーを歩美に向ける。


「(M500…)」


向けられたそのリボルバーを見て、眉をひそめる歩美。


その時、包帯の人物を警戒して様子を見ていたランナー達が、二人に飛び掛かる。


歩美は襲い掛かってきた二体の内、一体は顔面を蹴りつけて退け、もう一体は頭を両手で掴み、膝で顎を蹴り上げて仕留める。


包帯の人物は、大型リボルバーを片手で構え、三体のランナーの頭部を一瞬で撃ち抜く。


そして、襲い掛かってきたもう一体のランナーの首を、空いている方の手で鷲掴みにして、ぐしゃりと握り潰した。


その光景を見て、面食らったような様子を見せ、少し後退するランナー達。


また、その光景に動揺を隠せなかったのは、ランナー達だけではなかった。


「…どうやら、人間ではなさそうね」


「………」


苦笑する歩美に、包帯の人物は突き刺すような冷たい視線を一瞬だけ向けて、すぐにランナーの殲滅を始める。


「………」


包帯の人物の後ろ姿をぼーっと見つめていた歩美であったが、すぐにランナーが近付き、彼女を戦闘に引き戻す。


歩美は包帯の人物の冷たい目付きに、心当たりがあった。



その後、包帯の人物が加勢した事によって、その場に居たランナーはあっという間に全滅した。


「ねぇ。ちょっと」


ランナーを殲滅して、屋上から離れようと屋内へと歩き出した包帯の人物を、呼び止める歩美。


包帯の人物は見向きもせずに、歩き続ける。


「あんた、もしかして…」


歩美がそう言い掛けた瞬間、包帯の人物は突然リボルバーを歩美に向け、引き金を引いた。


「ッ…!?」


銃弾は歩美の頬にかすり傷を残し、虚空へと消えていく。


「余計な詮索はするな」


そう言って、包帯の人物は建物の中へと消えていった。


「………」


「知り合い?」


茜も戦闘を終えたらしく、包帯の人物と入れ代わるようにやってくる。


「見てたの?」


「あんたの頬が傷付いた辺りから」


「…そう」


「それで、知り合いなの?」


「…さぁね」


「さぁね…って、ハッキリ言いなさいよ」


「あんたが知る必要は無いわ」


歩美はそう言って、騒いでいる茜を無視して歩き出した。




「あら、思ったよりも早かったわね。…って、何その包帯?」


「…何でもないわ。さっさと行くわよ」


「挨拶は済ませたの?」


「別に」


「ふーん。助けてあげただけって事?」


「勝手に死なれてもつまらないわ。…そう言うあんたは、どうして加勢しなかったのよ」


「私が動くまでも無いじゃない。あの二人ならね」


「あっそ…」


第8話 終



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