表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2nd Nightmare  作者: 白川脩
歩美編
35/57

第2話


騒動の発祥地であるイベント会場を観察できる建物の中で、会場に侵入する方法を考えている歩美と茜。


しかし、中々良い案は浮かばなかった。


「どうしたものかしら…。あの数を殲滅しながら乗り込むのは、いくらなんでも2人じゃ無謀だし…」


イベント会場の付近を彷徨いているゾンビ達を見て、困ったように呟く歩美。


「上から行けば良いんじゃないの?」


茜が不意に、そう言った。


「上?」


「ここまで来たみたいに、建物の上から侵入すれば良いじゃない」


それを聞き、歩美は鼻で笑う。


「それは無理ね。周りに低い建物が1つも無いわ。唯一あるのは、7階建てのビルだけ。そこから飛び移るとしたら、骨折じゃ済まないわよ」


「ふーん…」


再び、考え始める2人。


しばらくすると、歩美が思い出したように、こう言った。


「…地下から行けば良いじゃない」


「地下?」


「高い場所ばかり移動してきたから忘れてたわ。どこかから地下に潜って、会場の真下から地上に出れば良いのよ」


「会場の真下って…出られる場所があるの?」


「何かしらあるでしょう。早速行くわよ」


「無計画ね…。今に始まった事じゃないけど…」


「うるさい」


2人は今居る建物から出て、裏路地に出る。


すぐ近くに、マンホールを見つけた。


「丁度良いわ。ここから入りましょう」


「はぁ…。また今回も地下のネズミになるのね…」


「慣れてるでしょ?」


「そりゃもうね…。それより、どうやって蓋を開けるつもり?素手でどうにかなる代物じゃないわよ」


「これを使うわ」


歩美は小さなプラスチック爆弾を取り出す。


「あら、便利な物持ってるのね」


「当然よ。どんな扉でも開けられるマスターキーだからね。これは」


「開けられると言うよりは、壊せると言う言い方の方が正しいんじゃないの?」


「どっちでも良いわ。…離れなさい」


爆弾をマンホールの蓋に設置し、離れて起爆する。


蓋は木端微塵になり、地下への入口ができた。


「急ぐわよ。ランナーが駆けつけてくるわ」


「ランナー?初めて聞くわね」


「通常のゾンビの変異体よ。和宮町にも居たと思うわよ?動きが俊敏な奴」


「そう言えば、居たような気もするわね」


「そいつよ。…ほら、噂をすればなんとやら」


大通りの方から走ってくる数体のランナーを、指差す歩美。


「へぇ…。反応早いわね」


「聴力が発達しているのよ。…話は後。行くわよ」


「えぇ」


2人は飛び降り、地下に侵入した。



「…あら、思っていたより臭わないわね」


予想していた汚臭がしない事に驚き、呟く茜。


「ほとんどが雨水なんだと思うわ。それなりに透明だし」


「なるほど…。でも、やっぱり泳げと言われたら嫌悪感が出てくるわね…」


「大神結衣と綾崎梨沙には感謝しておきなさい」


「そうするわ…」


2人は茜の銃に付いているフラッシュライトの光だけを頼りに、地下を進んでいく。


しばらく進んだ所で、歩美が立ち止まり、耳を澄まして辺りを見回した。


「…何か聞こえなかった?」


「何かって?」


茜も立ち止まり、歩美に訊き返す。


「…正面から聞こえたのよ。カサカサって」


「カサカサ…?嘘でしょ…?」


震え声の茜。


「どうしたのよ」


「だって…下水道でカサカサって言ったらもう…奴しか居ないじゃない…!」


「もしかしてゴキ…」


「いや!言わないで!お願いだからその名前だけは言わないで!」


「そ、そう…」


「歩美!これ貸すからあんたが照らしなさい!私は目をつむってるから!」


「は、はぁ…?」


「万が一巨大化したアイツなんかが出てきたら、私正気を保っていられる自信が無いわ…!」


茜はそう言って歩美に自分の銃を押し付けるように渡し、回れ右をする。


「仕方ないわね…。わかったわ」


茜の虫嫌いを知っている歩美は渋々承諾し、茜の代わりに正面を照らす。


「…あ」


すると、いつの間にか正面に、茜が先程口にした、巨大化した"ソレ"が居た。


「な、何…?何か居るの…!?」


「…えぇ、まぁ」


「何が居るのよ!?何なのよ!?」


「…見ない方が良いわよ。あんたの予想通りだから」


「ッ…!?早くやっちゃいなさいよッ!!」


「はいはい…」


歩美が引き金を引こうとした瞬間、ソレの触覚がぴくりと動く。


「…流石に気持ち悪いわね。ここまでデカいと」


歩美はソレが動き出す前に、銃弾を5発撃ち込む。


すると、命中した箇所から白い体液が噴出し、ソレは動かなくなった。


「や、やったの…?」


「えぇ。もう動かないわ。行くわよ」


「ちなみに…まだ他にも居る…とか無いわよね…?」


「…さぁね」


「うぅ…。一旦戻らない…?」


「ダメよ。そんなに遠い距離じゃないし、すぐに到着するわ」


歩美の返答を聞いた茜は、泣きそうになりながら彼女の腕にしがみつく。


「嫌だぁ…。戻ろうよぉ…歩美ちゃん…」


「何よ気持ち悪いわね…。くっつかないでよ…」


歩き出した歩美に、茜はソレの死体を見ないように顔を背けながらついていった。


「…いつまでくっついてるつもり?」


「だって…またアイツが出るかもしれ…きゃあっ!今何か聞こえたわ!」


「幻聴よ。何も聞こえなかったわ」


「そんな事ないわ!カサカサっていったわよ!」


「重症ね…」


そんなやり取りをしながらも、2人は地下を進み続ける。


すると今度は、別の生物が2人の前に現れた。


「嫌ッ!何か居る!前に何か居るわよ!」


歩美の肩に顔をうずめ、喚く茜。


「…これも強烈ね」


足が15対の30本ある巨大化したソレは、歩美がフラッシュライトで照らした途端に逃げ出し、あっという間に目の前から姿を消した。


「な、何?何が居たの…?」


「…足がたくさんあったわね」


「いやーッ!」


逃げ出すと同時にソレが落としていった細長い足を避けて通り、2人は更に奥へと進んでいった。


「歩美!出口よ!」


しばらく進んだ所で、茜が正面に見えたハシゴを指差して心底嬉しそうにそう言う。


しかし、歩美は首を横に振った。


「まだ会場の下には到着していないハズだわ。もう少し進みま…」


「嫌だッ!もうたくさんだわ!絶対これ以上進まないんだからね!」


「はぁ…?」


「さっさと脱出するわよ!まだ地上でゾンビを蹴散らしていた方が何千倍もマシだわ!」


「あんたねぇ…」


「どうしても進むってんならあんた1人で進みなさい!私は地上に出るわ!」


何が何でも地上に出たいらしい茜を見て、歩美は溜め息を吐いてから、プラスチック爆弾を取り出した。


「仕方ないわね…。どこに出るかはわからないけれど、ここから地上に戻りましょう」


「やった!歩美ちゃん大好き!」


「だから抱きつくなって言ってるでしょうが!気持ち悪いわね…!」


「んもう…。照れなくたって良いのに…」



歩美がハシゴを登り、地上への出口を塞いでいる蓋に爆弾を設置する。


「起爆するわよ。離れなさい」


「はーい」


少し離れ、爆弾を起爆する。


すると、地下に潜んでいる多種多様の大量のソレが、爆発音を聞き、2人が居る元に一斉に向かった。


その移動の際に発するカサカサという不快な音は、2人の耳にも聞こえてくる。


「あら…こっちに向かってくるわね…。茜、急いで…」


歩美が後ろに居たハズの茜に話し掛けようとした時には既に、茜は地上へのハシゴを登っていた。


「歩美!早くしなさい!」


「はいはい…」


歩美は苦笑を浮かべ、茜に続いて地上へのハシゴを昇った。



地上に出た途端に、辺りに居たゾンビに囲まれる2人。


そこは、最もゾンビの数が多いと思われる、会場の目の前の大通りであった。


「何とか会場には辿り着けそうね。思ったよりも近いわ」


「歩美、この穴どうやって塞ぐ?」


「…大丈夫よ。多分、地上にまでは出てこないと思うわ」


「多分!?多分じゃ困るのよ!」


「いいから行くわよ…。本当に面倒臭いわね…」


2人はゾンビの間を縫って進み、会場の敷地内に侵入する。


「…あの建物に登るわよ。辺りの状況を確認したいわ」


「あれ倉庫?どうやって登るの?」


「よじ登るのよ」


「あ…そう…」


「先に行ってるわよ」


歩美は窓や排気管などの手を掛けられる部分を利用して、倉庫の上に登る。


「やれやれ…」


茜も歩美の見様見真似で、倉庫に登った。


「さて、目標はあそこにある会場よ。見えるわね?」


「見えるけど…。ゾンビしか居ないじゃない。本当に津神麗子に関する情報があるっていうの?」


「それを探しに行くのよ」


「見つかると良いわね…」


歩美は倉庫の上から、会場への道筋を探す。


「会場の建物の上に行けそうね。ここから渡れそうだわ」


「上に行ってどうするのよ?」


「さっきから質問ばかりね。私を怒らせないで貰えるかしら」


「あら、怒らせるつもりはなかったんだけど。勝手に怒らないで貰えるかしら」


「へぇ、私に逆らうの?」


「尻尾を振るのは嫌いなのよ」


「…ま、そうでしょうね」


「…でも」


「?」


「尻尾を振る少女ってのには…興味があるわね…。ほら、犬耳で、若干頬を赤らめて…ね?」


「………」


歩美は呆れたように溜め息を吐き、倉庫の近くにある電柱に飛び移った。


「(伝線を伝うのは…得策ではないわね)」


電柱から、真下に停めてあるバンの上に飛び降りる。


「(次は…あれね…)」


水の代わりに血が溜まっている噴水の上に飛び移る。


続けて近くの木の枝に飛び付き、勢いをつけて別の木の上に飛び移る。


そして、目的地である会場の建物に、隣接している建物の窓の縁に飛び付き、そのまま建物の上によじ登った。


「ふぅ…。こんなものね」


髪をかき上げ、茜が居る倉庫の方を見る歩美。


茜はこちらを見た歩美を見て、彼女の意図を察した。


「今度は私の番…ってワケね…。良いわ、やってやろうじゃない」


茜は鼻で笑い、歩美が最初に飛び移った電柱に目をつける。


しかし、茜はすぐに、別のものに視線を移した。


「…違うわね。私が思ってるルートの方が近い気がするわ」


茜が見たものは、倉庫からは少し離れた場所にあるトラック。


そして、助走をつけ、トラックに向かって大きくジャンプした。


「わぁっとッ!?」


ギリギリではあったものの、何とかトラックには届いた茜。


彼女が飛んだ高低差はおよそ4メートル程あったが、トラックが衝撃を吸収した事により、彼女へのダメージは微々たるものであった。


「何かしら…この感じクセになりそうね…」


空中に飛び出す際に心地よい感覚を覚え始めている自分に、苦笑を浮かべる茜。


「さて次は…」


茜が辺りを見回して次の移動先を探していると、耳に掛けてある無線機から、歩美の声が聞こえてきた。


『茜。聞こえる?』


「えぇ。どうしたの?」


『辺りを見てみなさい。少しずつ暗くなってきてるわ』


「…あら、ホントね」


『感心してないで急ぎなさい。一息つける場所を見つけておいたわ。早く来なさい』


「煽らないでよ。今行くわ」


茜は通信を終え、トラックから飛び降り、歩美が居る建物の下に着地する。


すかさず辺りに居たゾンビが集まってきたが、茜は素早く建物の壁を蹴って2メートル程よじ登り、その先にあった排気管を掴む。


そして排気管から窓の縁へ移り、歩美が居る元に到着した。


「待たせたわね」


「えぇ。寝ようかと思っていた所よ。ついてきなさい」


聞き慣れた歩美の嫌味を気にせずに、茜は彼女についていく。


歩美が見つけた場所とは、今居る建物の屋根裏にある、使われなくなった機材などをしまっておくスペースであった。


「こっちの窓から入れるわ。この中なら、奴らも気付かないハズ。会場の捜索は、明日の日が出てからの方が良いわね」


「はぁ…。やっと休めるのね…。アクロバティックな1日だったわ…」


2人は窓から屋根裏に入り、中の安全を確認する。


敵は居らず、2人は安全地帯を確保する事に成功した。


「ねぇ、寝袋とか無いの?」


固い地面に、不満を覚える茜。


「あるワケ無いでしょう。イベントの会場として使われる建物よ?」


「そりゃそうだけど…。このままじゃ寝れるワケがないわ」


「何か探しにいく?時間は無いけど」


「それはそれで面倒だわ。何か無いかしら」


茜は今居る屋根裏の中を歩き回る。


しばらくして歩美の元に戻ってきた茜は、大きな赤いカーテンを手に持っていた。


「これを敷けば多少はマシになるわ。私ってば天才ね」


カーテンを敷き、その上に寝転がる茜。


「はぁ…これは中々良いわねぇ…」


「そうね。思ったよりも良い寝心地だわ」


「でしょ?かなり厚いから柔らかい…って何よ何よ何よッ!?」


いつの間にか隣に寝ていた歩美に気付き、飛び起きる茜。


「何を騒いでんのよ」


「急に隣に寝ないでよ!びっくりするじゃない!言っておくけど、私にはそういう趣味ないから!」


「どの口が言ってるのよ…」


「いーからどきなさい!それは私が見つけたものよ!」


「良いじゃないの。私にも使わせなさい。こういうものは共有するべきよ」


「独占欲の塊みたいな奴が何をのたまわっているのかしら…!?」


「うるさいわね。ほら、寝るなら今の内なんだから、さっさと寝るわよ」


「…今の内?」


その時、外から、何かの雄叫びが聞こえる。


「…始まったわよ。奴らの叫び声が激しくなるのは夜になってから。それを子守歌にしたくないんだったら、今の内に寝ておく事ね」


「…なるほどね」


茜は不機嫌そうに、歩美の隣に寝転がった。


「背に腹は代えられない…ってヤツね」


「地面に寝れば良いんじゃない?」


「うるさいうるさい…」


第2話 終




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ