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2nd Nightmare  作者: 白川脩
結衣編
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第2話


奈々から聞いた安全と思われる拠点へと、彼女を連れて移動を始めた結衣と梨沙。


幸い、その拠点は裏通り沿いにあり、奈々を連れて大通りを突破するという2人が最も恐れていた事態は回避する事ができた。


「さて、どっちかな?」


建物を出て、左右どちらに進めばいいかを奈々に訊く結衣。


「こっちです。私が先導しましょうか?」


「それはマズいかな」


「え?どうして…」


奈々が理由を訊こうとした瞬間に、細い路地から1体のゾンビが現れる。


そのゾンビを、結衣は後ろ回し蹴りで沈め、奈々にこう言った。


「先頭は私が歩く。しんがりは梨沙ちゃんに務めて貰うから、キミは真ん中で道を教えてくれれば助かるよ」


「わ、わかりました…」


3人は結衣が言った通りに並び、移動を始めた。


「あの…」


歩き出してすぐに、奈々が前を歩く結衣に声を掛ける。


「どしたの?」


「あなた達は…どういう方なんですか…?警察や軍の人には見えないし…」


「あー…。私達は…そうだね…」


素性をどう説明すれば良いのか、悩む結衣。


すると、代わりに梨沙が奈々にこう答えた。


「ただの民間人よ」


「み、民間人…?」


「そう民間人。このナイフは拾ったの。結衣さんとは知り合いでね。遊びに来たら、いつの間にかこんな事になってたわ」


「梨沙ちゃん…その説明は無理があると思う…」


「何がです?その銃も拾ったんでしたよね?」


「いつからこの日の本は大型リボルバーを拾えるような物騒な国になったんだい…?」


「今日です」


「あっ…そっか…」


2人の会話に、奈々も苦笑を浮かべる。


そんな彼女の様子に気付いた結衣は、本当の事を話す事にした。


「私達は、ある人から依頼を受けてこの町に来たんだ」


「依頼…ですか?」


「この町をこんな風にした犯人をとっ捕まえるって依頼さ。目星はついてるらしいからね」


「って事は、やっぱり警察関連の方なんですか?」


「んー。むしろ警察の敵…かな」


「え?」


「まー私達の事は気にしないで。少なくとも、キミの味方ではあるからさ」


「わ、わかりました…」


奈々は釈然とはしなかったものの、それ以上の追求はしなかった。


しかし…


「おっと、また出やがった。おらっ」


「………」


突然現れたゾンビに真正面から近付き、容易く首の骨を折る人間を、やはりただの民間人とは思えなかった。



「そろそろ大通りに出ちゃうけど、隠れ家はどこだい?」


「あ、ここです。この雑居ビルの3階にあります」


「ここなんだ。…随分と補強されてるね」


ビルの出入口に使っていたと思われる扉は、数枚の木の板で補強されており、他にも、窓や排気口など、全ての侵入口にゾンビに対する対策がなされていた。


「集まった人達で協力して、絶対に破られない拠点を作ろうという話になったんです」


「この程度じゃ、奴らの攻撃は防げないと思うけど?」


窓に張り付けられた木の板をコンコンと叩きながら、梨沙がそう訊く。


「こっちの入口は、そこまで警戒していなかったので、補強も簡単に済ませたんです」


「こっちの入口?」


「正面ロビーは、もう少しまともな補強になってますよ。案内しますね」


奈々は扉を開け、建物の中に入っていく。


「…随分と無警戒ですね」


「よっぽど自信があるんじゃない?自分達が作った砦にね」


2人も、彼女に続いた。



奈々についていきながら建物の中を観察していると、梨沙がとある事に気付く。


「(全然荒れてないって事は、ここをゾンビに突破されたワケではないみたいね)」


正面ロビーに作られたバリケードの元に歩いていく梨沙。


「(…よくもまぁ、ここまで作ったものだわ)」


ソファーや机や棚が積み重なってできた防壁。


防壁の正面には大量の刃物がくくりつけられており、また、防壁の前の地面にも、有刺鉄線が撒かれていた。


「(ここまで作っておいて、どうして彼女はこの建物から出たのかしら…?)」


梨沙は心の中でそう呟き、結衣と共に食料の備蓄を確認している奈々を横目で見た。


そんな彼女に、結衣は梨沙と同じ考えを抱いていたらしく、食料の確認を終えた後、その事を訊いた。


「ねぇ、奈々ちゃん。どうしてキミはこの建物から出たんだい?こんなに強力な防壁まで作ったのに」


「食料の問題です…。ここに居たのは全員で6人だったので、集めた食料は1日も持たなくて…」


「それで、あの店に食料を探しに出た…って事?」


「はい…。6人全員で探しに行きました。でも…すぐに無謀だったと気付かされました…」


「………」


「6人の内の1人は、私の姉だったんです。お姉ちゃんは、囮になると言ってゾンビを引きつけてくれて、そのまま行方がわからなくなっちゃって…」


「キミのお姉さんが…?」


「今はもう、生きているのかすら…。他のみんなも、道中でゾンビに襲われて…」


「キミとその友達だけ逃げ延びて、あの店に避難した…と」


「そういう事です…。でも、避難できたと思ったのが間違いでした。潜んでたゾンビに襲われて…あの子は…」


我慢できずに、泣き出す奈々。


「(食料…か。こればっかりはどうしようも無いよな…。こういう状況って、大体は何かしらの障害が祟って、神様は立てこもり続ける事を許しちゃくれないからね…)」


結衣は奈々の頭を優しく撫で、彼女を慰めた。


傍ら、1人で建物の内部を見回っている梨沙。


彼女は、もう1つ発見をした。


「(…このバリケード、変ね。使われた形跡が無いわ)」


くくりつけてある刃物に汚れは無く、それはこの建物にゾンビが侵入していない証拠であった。


「(立地的には確かに気付かれにくい場所だけど…彼女達、よっぽど運が良かったのね)」


と、梨沙は心の中で呟いたが、すぐに考えを改めた。


「(運が良いワケないか…。もう生きていないんだから…)」



その後、奈々が落ち着くまでしばらく休憩した後、3人は再び話し合いを始めた。


「さて…。まずは奈々ちゃんを脱出させないとね」


「だ、脱出…?そんな…どうやって…?」


「私達は下水道の中を泳いでこの町に来たの。酸素ボンベは往復分ぐらいは容量があるから、キミが使う分ぐらいなら残ってるハズだよ」


奈々はそれを聞き、何かを考え込むように押し黙る。


「…どしたの?」


「酸素ボンベは…1つだけですか…?」


「いや、梨沙ちゃんが使った分も置いてあるハズだけど…?」


「そう…ですか…」


奈々はハッキリとしない様子であったが、梨沙が彼女が考えている事を言い当てた。


「お姉さんの事?」


「…え?」


「まだ生きてるかも…って思ってるんでしょ?」


奈々は図星を指されて驚いたが、強く頷いてみせる。


「…はい」


「…どうします?結衣さん」


訊かれた結衣は、即答した。


「それならやる事は決まってるよ。お姉さんを探そう」


「…ですよね」


「でも…」


結衣は言葉を切って、窓の外に目を移す。


「探すのは明日にしよう。…そろそろ日が沈む」


それを聞き、昨日歩美から聞いた話を思い出す梨沙。


「イリシオス…でしたっけ」


「そ。私達だけならまだしも、奈々ちゃんと一緒ってんじゃ危険過ぎるからね」


「じゃあ、今日は朝までここで過ごすんですか?」


「うん。多分、ここが一番安全だと思うからね。でも、食料だけは少し調達しよう。そろそろっつっても、完全に日が没むまでまだ1時間程はある」


「わかりました」


裏口へと向かう結衣と梨沙。


「奈々ちゃんはここで待っててね。日没までには戻ってくるからさ」


「はい…。お気をつけて…」


奈々が見送る中、2人は建物を出た。



「さて…。とりあえず大通りの方に出てみますか」


裏通りを歩き始め、2人はひとまず大通りへと向かう。


「食料となると…やっぱりコンビニ辺りかな?」


「その手の店を探せばあると思います。まぁ、既に漁られた後だったとしたらわかりませんが…」


「漁る間も無くやられちまってるさ。なるべく近い場所を狙おう。日没したら、どんな目に遭うかわかったもんじゃないからね」


「そうですね」


大通りに到着した2人は、少し離れた場所にコンビニを見つける。


「丁度良い。あそこにしよう」


「結構ゾンビが居ますが…正面突破ですか?」


「正面突破はしないよ」


「ではどのように?」


「強行突破!」


結衣はそう言って、ゾンビの群れの中に走っていく。


「同じようなものでしょう…」


梨沙は溜め息を吐いた後、結衣を追い掛けた。


「邪魔をするなら容赦しないよ!命が惜しけりゃ道開けな!」


大量のゾンビに一切怯む事なく、猪突猛進の結衣。


「結衣さん!そんな事してたらいつか囲まれますよ!」


梨沙も何とかついていってはいるものの、結衣と違って冷静に状況を判断している梨沙は、現状があまり好ましくない事に当然気付いている。


梨沙は結衣を止めようとしたが、結衣に立ち止まる様子はなかった。


「(と言っても、こんな道のど真ん中で立ち止まったとして、それもそれで瞬く間に囲まれるだけか…)」


梨沙は説得を止め、危険を承知しながらも、走るスピードを上げ、結衣の隣についた。


「あと少し…駆け抜けるよ!」


「はいはい…!」


辺りに居たのはただのゾンビだけではなく、変異体である個体、通称ランナーの姿も何体か見え、ランナー達は通常のゾンビ達とは比べ物にならないスピードで2人を追い掛ける。


しかしそれでも、2人のスピードに追いつくような事はなかった。


目標のコンビニに到着すると同時に振り返り、結衣が追手のランナーを全てリボルバーで撃ち抜く。


「こいつらは私が食い止める。梨沙ちゃんは食料を頼むよ」


「了解です」


レジから袋を取り、食料の確保を始める梨沙。


「普通の奴らは良いけど…すばしっこい奴らが面倒だなぁ…」


騒ぎを聞きつけて次々と現れるランナー達を、1体1体撃ち抜いていく結衣。


弾切れの際は、ある程度距離が近い敵を纏めて回し蹴りで蹴り飛ばし、その隙に素早く装填を済まして再び迫り来るゾンビ達を銃撃で減らしていく。


しばらく結衣が猛攻を食い止めた所で、梨沙が戻ってきた。


「完了です。戻りましょう」


「よし、もう一丁走るよ!」


ゾンビの群れを上手く避けて通り、2人は来た道を戻り始める。


「っと…。これは…非常にマズいねぇ…」


逃走経路である裏路地への道を塞ぐかのように、数体のゾンビがそこに居た。


「どうするんです?もたついてる時間はありませんよ。変異体が集まってきてます」


「参ったねぇ…。奴らを殲滅しようにも、その間に囲まれちまう…。別の道を探した方が良いね」


そう答えて、辺りを見回す結衣。


「…あそこだ!行くよ!」


結衣は裏路地への道の近くにある、奈々と出会った飲食店へと走っていった。


結衣の考えはわからなかったものの、梨沙は彼女に迷わずについていく。


建物に入った結衣はホールの奥に行き、窓ガラスに銃弾を1発撃ち込んだ後、勢い良く蹴破った。


「ここを通れば裏路地だ。良い考えでしょ?」


「なるほど…。戦闘は避けられそうですね」


「そうでしょうそうでしょう。天才と呼んでくれたまえ」


「そうですね」


「…うん」


2人は窓を飛び越え、裏路地へと出て、奈々が待つ拠点へと急いだ。


「追手…大丈夫ですかね?」


走りながら後ろを見て、心配そうにそう訊く梨沙。


「大丈夫でしょ。万が一ついてきてるようなら、拠点に入る前に仕留めれば良いだけさ」


「…ですね」


止まる事なく走り続け、あっという間に拠点に到着した2人。


追手が居ない事を確認してから、建物に入って扉を閉めた所で、2人はようやく一息つけた。


「ふぅ…。何とか無事に終わったね。食料は大丈夫?」


「落としたりなんかしませんよ。1日分の食料しか入ってないから、そこまで重くはないですし」


「そいつは何よりってね」


正面ロビーに向かう2人。


すると、2人を心配していたのか、ロビーの中をうろうろと歩き回っていた奈々が、2人に気付いて嬉しそうな笑みを浮かべた。


「お帰りなさい。ご無事そうで、なによりです」


「そんじょそこらのバケモンにゃ、私達には指一本すら触れられないからね。当然の結果よ」


「結構、際どい局面もあったような気もするけどね…。はい、食料持ってきたわよ」


「お疲れ様でした。2階に毛布が置いてあるので、そこで休んでください」


奈々を先頭に、3人は階段を登って2階へと上がる。


「…奈々ちゃん」


階段を登っている最中、奈々の後ろを歩いている結衣が、彼女の名前を呼ぶ。


「なんですか?」


「スカート短いね」


「は、はい…?」


「見えてるよ」


「なッ…!?」


「嘘だよーん。でも、こうやって少し屈み込めば…」


「み、見ないでください…!」


「むはははは」


「(何やってんだか…)」


結衣の悪戯に、梨沙は呆れたような溜め息を吐いた。



2階に到着し、3人は各々適当な場所に座る。


「…暗くなってきたわね」


梨沙が窓の外を見て、そう呟いた。


「あの…暗くなると、何か起きるんですか…?」


奈々が心配そうに、そう訊く。


その質問には、結衣が答えた。


「話を聞いただけなんだけど、ゾンビとは比べ物にならない程凶暴なバケモンが居るらしくてね。そいつは、夜しか活動しないんだって」


「そんな…。ゾンビよりも凶暴…?」


「その様子じゃ、キミもまだ見た事はないみたいだね」


「夜は視界も悪いから尚更危険だっていう事で、拠点に籠もってたので…」


「そいつは賢明だったね」


その時、町のどこかから、雄叫びのようなものが聞こえてきた。


「何…?今の…」


眉をひそめる梨沙。


「…多分、例の奴」


結衣は窓際に立ち、暗くなり始めている大通りを見渡しながら、こう呟いた。


「日が沈んだ。…完全に」


第2話 終



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