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2nd Nightmare  作者: 白川脩
恭子編
22/57

第5話


突如現れたリーパーとの交戦を始めようとしている恭子。


お互いに動き出そうとしない状況がしばらく続いたが、リーパーがナイフを回して逆手に持ち、恭子に向かって走り出した事によって、戦闘は始まった。


リーパーが繰り出した斬撃を軽く避け、左手による手刀で反撃する。


その手刀を、身体を後ろに仰け反らせて避けるリーパー。


そして、二本のナイフで挟み込むように、恭子の首を切断しようとする。


恭子はリーパーの両手首を掴み、外側に捻って関節を極めようとする。


しかし、リーパーが恭子の腹部に蹴りを放った事により、両者は一度、お互いに距離を離した。


「なるほど…。少しは骨のある相手という事ですね」


嬉しそうにそう呟き、蹴られて汚れた腹部の部分を手で払い、今度は自分から歩み寄る。


リーパーは二本のナイフを回しながら、余裕な態度で恭子の攻撃を待つ。


その態度が気に入らなかったのか、恭子は目を細めて鼻で笑い、突然風のような速さで距離を詰めた。


反応が遅れたリーパーの懐に潜り込み、顎を狙った右掌底、それを避けた所に顔面を目掛けた左掌底、そして完全にバランスを崩した所に、左右の足による二段回し蹴りを放つ。


一段目の蹴りは辛うじて避けたリーパーであったが、流れるような二段目の蹴りまでは見切る事ができず、その蹴りは首にクリーンヒットした。


その時恭子の左足に伝ってきたのは、リーパーの首の骨が折れた感触。


数秒間は立っていたものの、すぐに崩れ落ちるように倒れ、そのまま動かなくなった。


「期待外れでしたわ。所詮は出来損ないですわね」


倒れているリーパーに向かって吐き捨てるようにそう言い、恭子は亜莉紗の元へ。


「終わりましたわ。行きましょう」


「えーと…。お腹は大丈夫なんですか?蹴られた時、こっちにまで鈍い音が聞こえて来ましたけど…」


「問題ありません。少しかすった程度ですから」


「いやぁ…モロに入ってたけどなぁ…」


二人は展望台に向かい、その場から離れようとする。


その時であった。


突然背後から、一本のナイフが亜莉紗に向かって飛んでくる。


「ッ…!?」


反応が間に合わなかった恭子は、ナイフを弾く事ができない。


恭子は亜莉紗の背中に覆い被さるようにして、彼女の代わりにナイフを背中で受け止めた。


「きょ、恭子さん…?いきなりどうしたんですか…?」


「ふふふ…。スキンシップ…ですわ…」


「はぁ…?何を言って…」


亜莉紗が言葉を言い切る前に、恭子は地面に崩れ落ちた。


「恭子さ…ん…」


恭子の背中に刺さっているナイフを見て、亜莉紗は彼女の行動の意味を理解する。


「死んだんじゃ…なかったの…?」


歩み寄ってくるリーパーを見ながら、亜莉紗は震えた声でそう呟いた。


リーパーは恭子に蹴られた際にサングラスが取れ、それまで隠れていた左目のおぞましい傷が露出する。


それは一層、亜莉紗の恐怖心を煽るものであった。


「(まずいまずい…!私なんかが勝てる相手じゃないし…。でも、今逃げたら恭子さんが…)」


悠長に考えていられる時間は少なく、リーパーはもうすぐ目の前まで迫ってきている。


「(他に…道なんて無いよね…)」


亜莉紗は立ち上がり、クロスボウを構えた。


「(やってやる…!)」


同時に、走り出すリーパー。


二本のナイフによる大振りな斬撃を、亜莉紗は横転で避ける。


そして間髪入れずに、リーパーの後頭部に矢を放つ。


亜莉紗の矢は命中したが、リーパーに大したダメージは無いらしく、頭部に突き刺さった矢を平然と引き抜き、亜莉紗に向かって再び歩き出す。


撃破は絶望的と思われるこの状況で、亜莉紗には1つだけ、リーパーを仕留める策があった。


矢尻が赤く塗られてあり、導火線と爆薬がくくりつけられている矢を取り出し、それを装填する。


「(絶対に失敗できない…。なにがなんでも当ててやる…)」


真正面から撃っては当たらないと判断し、なんとか隙を作ろうと考える亜莉紗。


リーパーは亜莉紗の事を相手にすらしていないらしく、彼女の行動を気にもせずに、倒れている恭子の元へと歩いていく。


その油断は、亜莉紗にとっては好都合であった。


背後に回り込み、先程装填した矢の導火線に火を点け、リーパーの首を狙って引き金を引く。


射出された矢は、リーパーの首に突き刺さった。


「(当たった…!)」


矢を引き抜こうとするリーパー。


しかし、それよりも、矢にくくりつけられた導火線が燃え尽きる方が先であった。


爆薬に火が燃え移り、リーパーの首元で凄まじい爆発が起きる。


「(やったかな…?)」


硝煙の中、目を細め、リーパーの生死を確認しようとする亜莉紗。


しばらくして視界が良くなった時、亜莉紗の前に立っていたのは、首から上が無くなっているリーパーの姿であった。


「(え…?あれ…死んでるん…だよね…?)」


呆然と、リーパーの身体を見つめている亜莉紗。


しばらくすると、リーパーは亜莉紗の方に身体を向け、ゆっくりと歩き始めた。


「なんで…?なんでよ…!?」


恐怖心に刈られ、パニック状態の亜莉紗は、引きつった苦笑いを浮かべながら、ひたすら距離を離そうと後退りをする。


リーパーが突然走り出して距離を詰めてきたが、亜莉紗は反応できずに、首を掴まれ、そのまま持ち上げられた。


同時に、リーパーの胸部にある傷が広がり、そこから目玉が露出して、亜莉紗を睨み付けるように見る。


視力はその目玉でも機能するらしく、頭部を失った所で、リーパーに致命的なダメージは無かった。


「う…あ…」


どれだけもがこうが、リーパーの手の力が抜ける事は無い。


亜莉紗の意識は、徐々に遠のきつつあった。


しかし、亜莉紗の意識が本当に無くなりかけたその時、リーパーの手の力が、突然すっと抜ける。


亜莉紗の身体は地面に落ち、彼女は咳き込んだ後、必死に呼吸を整える。


呼吸が落ち着き、亜莉紗が正面に視線を向けると、そこには、リーパーの胸部を背後から右手で貫いている恭子の姿があった。


「恭子…さん…?」


亜莉紗の声は届かなかったのか、恭子は返事を返さずに、リーパーの胸部に左手を突き刺す。


そして、リーパーの身体を縦半分に引き裂いた。


更に、飛び出てきた心臓を鷲掴みして、握り潰す。


引き裂かれた時点で絶命していたが、心臓を潰したと同時に、リーパーは倒れて動かなくなった。


「恭子さん…」


まだ動くのは辛い状態であったが、恭子が生きていた事が嬉しくて、亜莉紗は弱々しい笑みを浮かべながら彼女の元に歩いていく。


しかし、恭子は亜莉紗には目もくれずに、リーパーの亡骸を押し潰すように叩き始めた。


狂ったように、何度も、何度も。


「恭子さん…!もう死んでます!それ以上やっても…」


恭子の顔を見て、言葉を失う亜莉紗。


彼女の目の黒目の部分が、真っ赤になっていた。


生命の危機に陥った事により、彼女が有している特殊な細胞が暴走していたのである。


そして、亜莉紗を見るなり、突然彼女の首に両手で掴みかかる。


「や、やめ…て…!」


恭子に亜莉紗の声は届いていないらしく、彼女は手を離す所か、更に力を込めていく。


「恭…子…さ…」


亜莉紗は抵抗する事も出来ずに、がくりと崩れた。


動かなくなった亜莉紗の身体を投げ捨てるように離す恭子。


そして、突然呻き声を発してうずくまり、その場に吐血した。


「(身体が…熱い…!)」


細胞が異常なレベルで活動している事による、全身を襲う燃えるような感覚。


「(亜莉紗…さん…)」


意識はあるものの、身体が言う事を聞かない。


その時、先程までは一体すらも見当たらなかったゾンビが、ぞろぞろと二人の元に集まってきた。


「(こんな…時に…!)」


目の前に居るもの全てに襲い掛かる暴走状態である恭子は、ゆっくりと立ち上がって、近くに居たゾンビの頭をもぎ取る。


戦闘の意思は彼女には無く、身体が勝手に動く中、彼女はゾンビを惨殺していく。


最早、完全に人間とは言えない、圧倒的な力であった。


しかし、半数程殲滅した所で、恭子の身体が突然崩れ落ちるように倒れる。


そして、その場に大量の吐血をした。


「(身体が…限界のようですね…)」


全身の細胞の暴走に身体が耐えきれなくなり、意識が遠のいていく。


「(ごめんなさい…。亜莉紗さん…)」


ゾンビ達が迫りくる中、恭子の意識は眠るように落ちていった。


意識を失っている二人に、群がるゾンビ達。


その時、突然、ゾンビ達の動きがぴたりと止まる。


どこかから、雄々しい狼の遠吠えが聞こえてきた。


第5話 終



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