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2nd Nightmare  作者: 白川脩
恭子編
21/57

第4話


夜が明け、町を朝日が照らそうとも、恭子と亜莉紗が隠れているトラックのコンテナの中にまでは光が届かず、2人は朝になった事に気付かない。


そんな中で、恭子は何に起こされたワケでもなく、不意に目を覚ました。


自分の肩に寄りかかっている亜莉紗の身体をそっと離し、左足に力を入れて立ち上がり、右足を恐る恐る地面に着け、歩いて外に出る。


そこで初めて、恭子は夜が明けた事を知った。


「(無事にやり過ごせたようですね…)」


トラックの側を彷徨いていた1体のゾンビを、右足で蹴りつける。


蹴られたゾンビの末路は述べるまでも無いが、恭子はゾンビを蹴った自分の右足を見て驚いた。


「(もう治ってる…?)」


右足を前後左右に捻ってみるが、異常は無い。


通常の人間ならば有り得ない事ではあるが、人外の力を持つ彼女の回復力により、彼女の右足は一晩で元通りになっていた。


「恭子さん…?」


そこで、恭子が起きた少し後に目覚めた亜莉紗が、恭子の元にやってくる。


「おはようございます、亜莉紗さん。よく眠れましたか?」


「まぁそれなりに…。あの…足は…」


平然と右足を地面についている恭子を見て、亜莉紗は驚いた様子で訊く。


「御覧の通りですわ。ゾンビを蹴りつける事ができる程度には回復してます」


「完全回復って事ですか…?」


「ふふ…。あなたが持ってきて下さった添え木が効いたのかも」


「いや…添え木にそんな効果は無いです…」


亜莉紗は苦笑いを浮かべながらも、恭子の復活を喜んだ。



想定外ではあったものの、恭子の足が治った事で、2人は津神麗子の捜索を再開する事に。


「今日はどこに行くんですか?」


「まず先に、あなたの空腹を解決しますわ」


「え?」


恭子にそう言われ、それまで感じなかった空腹感に突然襲われる亜莉紗。


「…そーいえば、何も食べてないっけ」


「探せば何かしらあるでしょう。近辺を探しますわよ」


「わかりました」


2人は病院から離れ、大通りに出た。



夜が明けた事によってイリシオスの脅威は無くなったが、大通りを彷徨いているゾンビの数に変わりはなく、2人は思わず足を止めた。


「やっぱり大通りは沢山居るなぁ…。どうするんですか?恭子さん」


「殲滅させる事は不可能ではありませんが、寝起きでそのような重労働はしたくありませんわね。別の道を行きましょう」


「別の道?」


「こちらです」


近くの裏路地に向かった恭子と、彼女についていく亜莉紗。


すると途中に、古ぼけた看板が特徴的な小さなバーを見つけた。


その店の前で、恭子が立ち止まる。


「…入ってみましょうか」


「はい?」


「バーにだって、食べる物くらいはあるでしょう」


「わざわざバーなんかじゃなくても良いんじゃないんですか…?ほら、コンビニとかでも…」


「良いから、行きますよ」


「あ、待ってくださいよ!」


恭子が施錠されている扉を蹴破り、2人は店内へ。


店内は綺麗に片付けられており、2人は外観とのギャップに少々驚いた。


「中は綺麗なんですね…」


「外観だけで判断するのは良くない事ですよ。私はむしろ、寂れたような雰囲気の方が好きですが」


恭子はそう言ってカウンターの中に入り、ずらりと並んでいる酒瓶を吟味するように見始める。


恭子の酒好きという意外な一面を目の当たりにして、苦笑を浮かべる亜莉紗。


「恭子さん…さてはそっちが目当てなんですね…」


「何か仰いまして?」


「い、いえ別に…。私、店の奥を見てきますね」


亜莉紗はそう言って、カウンターの奥にある扉を開け、奥に入っていった。


店の奥では店主がそこで生活をしていたらしく、ベッドやテレビなどの一通りの家具が置いてあった。


「(…これで良いか)」


亜莉紗はダンボールの中に無造作に積まれているカップ麺を1つ取り出し、台所へと向かう。


そこで、ウィスキーの瓶を手に持った恭子がやってきた。


「食べ物は見つかりましたか?」


「一応。…それ飲むんですか?」


「いけませんか?」


「別に良いですけど…。酔っ払わないでくださいよ…?」


「ふふ…。私は強い方なのでご心配なく…」


「そーですか…」


戸棚からコップを取り出し、ウィスキーを注ぐ恭子を見ながら、亜莉紗は電気ポットでカップ麺にお湯を入れる。


「恭子さん…?それウィスキーですよ…?」


「はい?」


「わ、割らないんですか…?」


「…亜莉紗さん。あなたウィスキーを割るんですか?」


「いや私は飲まないですよ…。でも、ウィスキーって割って飲む物じゃないんですか?」


「ウィスキーと言ったらストレートでしょう」


「へ、へぇ…」


亜莉紗はベッドの上に腰掛け、恭子は窓の桟に腰掛けた。


「それで、この後どうするんです?」


「手掛かりが無い以上、その質問にお答えするのは難しいですね。私は病院を利用しての感染拡大という予想を立てていたのですが…それは間違っていたという事が昨日判明しましたから、正直お手上げですわ」


「でも、調べたと言っても地下だけじゃないですか。他の場所を調べてみれば、何か見つかるのでは?」


「その可能性は低いと考えられます。そもそも、私の予想は地下を調べる前から外れていたワケですし」


「…?」


「病院に着いた時にわかりました。感染拡大に利用したと仮定するのなら、もっとゾンビの数が多いハズだと」


「まぁ確かに…。多かったと言えば多かったけど、大通りとかに比べれば全然でしたもんね」


何となく、そう言った亜莉紗。


しかし、それを聞いて、恭子は何かを思い付いた。


「大通り…ですか」


「え?」


「亜莉紗さん。大通りにゾンビが多いのは、何故だとお考えで?」


突然訊かれ、返答に困る亜莉紗。


「それは…えーと…そういえば何でだろう…」


「…多い場所から流れてくるからですよ」


「あ、そっか…」


恭子は呆れたように溜め息を吐いてウィスキーを一口飲んだ後、話を続ける。


「大通りを移動していれば、ゾンビが多い場所は見つけられるハズです。無論、それなりのリスクはありますが」


「多い場所…どんな建物なんでしょうかね?」


「例えば、沢村さんと神崎さんの担当である町の中央のイベント会場ですね。なんと言いましても発祥地ですし、一番怪しいと言えば怪しいですが…そこはお二方に任せましょう」


「じゃあ、どうするんです?」


「その質問には答えかねる…と、先程申し上げたハズですが?」


「あ、そーいえば…。すみません…」


「まずは大通りを移動して、ゾンビが多い場所を探しますわよ」


「うーん…。地味だけど、それしか無いですよね…」


取るべき行動が決まった2人は、もう少しの間休憩してから、外に出る事にした。


「…ところで亜莉紗さん」


「なんです?」


「お湯を入れてからかなり経過していますが、あなたはふやけた麺がお好みなんですか?」


「え!?うわぁッ!忘れてたぁ!」



休憩を済ませた2人は、建物から出て、近くにあった外階段を登って屋上に行く。


「いくらなんでも、闇雲に探すのは良くありませんわ。何か目星くらいは探しておきましょう」


屋上への扉を蹴破る恭子。


ふと、亜莉紗がこう訊いた。


「あの、恭子さん。昨日この町に来た時に私が扉をピッキングで開けましたけど、恭子さんが壊した方が早いんじゃないんですか?」


「それはそうでしょう」


「え、じゃあ何で…?」


「だって疲れますもの」


「へ、へぇ…」


端の方に行き、町を見渡す2人。


「やっぱり中央の方に集まってますね…。大通りは歩けなさそう…」


「そちらは見なくても良いですわ。私達は別の場所を探すのですから」


「あ、そうでした」


恭子の隣にやってくる亜莉紗。


すると、東部にある大きな公園を見ていた恭子が、気になるものを見つけた。


「…亜莉紗さん。あの公園、見えますか?」


「公園…?…あぁ、ありますね。公園がどうかしたんですか?」


「展望台のようなもの、あるでしょう?」


「…ありますね」


「そこに、誰か居ません?」


「え?」


目を細め、遥か遠くにある展望台を凝視する亜莉紗。


しかし遠すぎて、そこには何も見えない。


「いや…ちょっと遠すぎて…何とも…」


「津神麗子が居ますわ」


「へぇ…。良く見えますね…」


少しの間展望台を眺めた後、亜莉紗は突然恭子を見て大声を上げた。


「津神麗子って津神麗子じゃないですかぁッ!」


「何を言ってますの…?とにかく、あの展望台に向かいましょう。彼女があそこで何をしているのかは不明ではありますが…」


呟くようにそう言いながら、恭子は地上への階段の元に歩いていく。


「(っていうか津神麗子さんに会って大丈夫なのかな…?いきなり殺しにかかってきたりなんて…ないよね…?)」


亜莉紗はそんな不安を抱きながらも、恭子を追い掛け、走り出した。



「さて、最短ルートで行きますわよ。しっかり付いてきて下さい」


「最短ルート…?」


「大通りを突破します」


「はぁえぇッ!?」


狼狽する亜莉紗を無視して、恭子は大量のゾンビが彷徨いている大通りを走り始める。


「うえぇ…。やっぱり私にはあの人のパートナーは荷が重いって…」


ボヤきながらも亜莉紗は走り出し、ポーチから爆竹を取り出して火を付け、それを離れた場所に投げる。


大半のゾンビが炸裂している爆竹の元に向かったが、数体は亜莉紗の進行方向に残る。


どう切り抜けようかを考えていた時、先を走っていた恭子が立ち止まって銃を取り出し、残ったゾンビの頭部を全て撃ち抜いた。


「そーいえば、銃も使えるんでしたっけ」


恭子に追いついた亜莉紗が、彼女が手に持っている銃を見てそう訊く。


「遠距離の戦闘はこちらの方が有利ですからね。無論、接近戦ではこんなもの役に立ちませんが」


「恭子さんの右手の方が銃弾より強力ですからねぇ…」


「おべんちゃらは後で聞きますわ。急ぎましょう」


「はーい」


大通りを駆け抜ける2人。


途中、何体かのゾンビが2人の行く手を阻んだが、全て恭子の手に弾き返された。


しばらく進んだ所で、恭子が立ち止まる。


「わぁびっくりした!どうしたんですか?」


ぶつかりそうになった亜莉紗が、恭子の視線の先を辿る。


そこには、強靭な肉体を持っている、戦闘能力に特化した生体兵器"D-07 タンク"が居た。


「ま、まずいですよ!あいつはその辺のゾンビとは比べ物にならない…って聞いてねーし!」


亜莉紗の話を聞きもせずに、タンクに向かってゆっくりと歩いていく恭子。


「邪魔ですわ」


そう言って、タンクの胸部を右手で殴りつける。


胸部にぽっかりと風穴が開き、恭子はそこから手を突っ込んでタンクの心臓を掴み、握り潰す。


5秒持たず、タンクは恭子に倒された。


「行きますわよ、亜莉紗さん。何をぼーっとしていますの?」


「(もうあの人1人で良いんじゃないかな…)」


亜莉紗は恭子に葬られたタンクの傷を、恐ろしいものを見るような目で見ながら、恭子の元に向かう。


「あの、恭子さん」


「何ですか?」


「私帰っても良いですか?」


「何故?」


「私居なくても良いと思うんです」


「そんな事ありませんわ。あなたも何かの役には立っているでしょう。多分」


「いや、帰りたい」


「ダメです」


「えー…」



ゾンビの妨害をかわしながら大通りを進み続け、2人は恭子が津神麗子を見たという展望台がある公園に到着する。


展望台は公園の中央にあり、公園自体もかなり広いので、まだそれなりに距離があった。


「公園の中には奴らが居ませんね…。恭子さんが見た津神麗子に何か関係してたりとか…?」


歩きながら辺りを見回し、亜莉紗が呟く。


「彼女にゾンビを操る能力があるとでも?」


「…なワケないですよね」


「えぇ。ゾンビを操る能力なんて考えられませんわ。ゾンビを操る能力はね…」


「その言い方は、何か引っ掛かってるって感じですね」


「…1体も居ないというのは有り得ませんわ。彼女が…津神麗子が何かをしているというのは間違い無いハズです」


「例えば?」


「自作の兵器を操り、公園を警備させている…とか」


恭子がそう言った途端、彼女の足元に、どこかから飛んできた1本の小振りなナイフが突き刺さる。


「な、何…!?」


恭子の背中に隠れる亜莉紗。


「………」


目を閉じて、全神経を集中させる恭子。


しばらく何も起きなかったが、突然恭子が、亜莉紗を背後に突き飛ばした。


「な、何するんですか…!」


「離れていなさい。来ますわ」


「え…?」


亜莉紗が言葉の意味を訊く前に、近くにあった木の上から、何かが恭子の頭上に飛びかかる。


恭子はバク転をしてその場から素早く離れ、飛びかかってきたその何かの攻撃を避ける。


「…新顔ですわね」


黒いマントに身を包み、顔を覆うように着けているのは黒いバンダナ、唯一覆われていない目元には赤いサングラス。


兵器にしては異様な身なりをしている"D-13 リーパー"は、両手に持っている大振りのナイフを器用に回しながら、恭子に歩み寄っていった。


「恭子さん…!そいつはかなり危険です…!」


過去の騒動でリーパーを見た事がある亜莉紗がそう言うが、恭子に退く気は更々無い。


「大丈夫ですわ。先程のような瞬殺はできそうにありませんが、問題はありません」


右手を握って力を込め、指を鳴らす恭子。


するとリーパーが、持っている2本のナイフの1本を恭子の足元に投げ、拾えと指で指図する。


「………」


恭子はナイフをしばらく見つめた後、それを拾い上げる。


そして、リーパーに向かって投げ返した。


「私には不要ですわ。あなたがお使いなさい」


言葉が通じたのかは不明だが、リーパーは受け取ったナイフを持ち直し、恭子に向かってゆっくりと歩き出す。


「ふふふ…。始めましょうか…」


恭子は静かに笑い、身構えた。


第4話 終




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