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2nd Nightmare  作者: 白川脩
恭子編
18/57

第1話


隔壁の外である、町の郊外の南東部。


恭子と亜莉紗は、そこに向かっていた。


「恭子さーん…。待ってくださいよぉ…」


「…もっと早く歩きなさい。もたもたしていると日が暮れてしまいます」


体力の無い亜莉紗が足を引っ張っており、2人の侵入は予定よりも少し遅れていた。


「私運動は苦手なんですよ…。それなのにこんなジャングルみたいな地形の中を歩くだなんて…」


「早くしなさい。置いていきますよ?」


「無理なモノは無理なんですよーだ!」


「………」


「あっ…」


「…ふふ。亜莉紗さん?」


「い、今行きまーす!」


亜莉紗は駆け足で、恭子の元に到着した。


「…そろそろ件の場所に着きますわね」


「こんなフック1つで、本当にあんな大きい隔壁を登れるんですかね…?」


「登れるかどうかでなく、私達は登るんですよ」


「はーい…」


それからすぐに、2人は目的の場所に到着したが、1つだけ、予期せぬ問題が発生していた。


「…待ちなさい。見張りが居ます」


「…ほんとだ」


崖際に、1人の見張りが見えた。


2人は一旦、近くの茂みに隠れる。


「どうするんですか?言っておきますけど、私は自衛隊さんを手に掛けたくはないですからね」


「それは私も同じですわ。殺さずに何とか乗り切りましょう」


「でも、どうやって?」


「あなたも考えなさい」


「はーい…」


亜莉紗は適当に返事だけを返したが、不意に、アイデアが浮かんだ。


「…そうだ。別の場所に陽動すれば良いんですよね?」


「えぇ。…何か思いつきまして?」


「これを使って、上手くやってみせますよ」


亜莉紗はそう言って、肩に掛けているクロスボウを手に持った。


「それは…」


「クロスボウですよ」


「弩ですよね?」


「あー…そうとも言う…かな…」


亜莉紗は苦笑いを浮かべながら、クロスボウに矢を装填する。


「…やっぱりやる気ですか?」


「違います…。こうするん…ですよ!」


亜莉紗は離れた場所にある大きな木の枝を狙い、引き金を引いた。


射出された矢は、狙った枝に命中し、枝は折れて地面に落ちる。


見張りの隊員はその音を聞き、その場を離れて様子を見に行った。


「ささ、今の内ですよ」


「へぇ…。たまには使えますのね…。たまには」


「(こういう扱い…もう慣れてるもん…)」


2人は見張りが居なくなった隙に、隔壁の元へ向かった。



「さて、始めますわよ」


「待ってください。このフック、どうやって掛けるんですか?」


「わかりませんの?投げて引っ掛けるんですよ」


「え、投げて…?」


「こんな風に…」


恭子はフックを勢い良く投げ、隔壁の頂点に引っ掛ける。


「ね」


「ね…って、どんな肩してるんですか…」


「お忘れですか?私はもう人間ではありませんのよ?」


「………」


亜莉紗は反応に困り、誤魔化すようにフックを投げる。


しかし、フックは頂点には全然届かず、簡単に弾かれて落ちてきた。


「…届く気がしないです」


「時間はありませんわよ?見張りが戻ってくる前に上手く掛けなさい」


「そー言われてもなぁ…」


再び、挑戦する。


しかし、結果は同じで、フックは亜莉紗の足元に落ちてきた。


「うお危なッ!」


「…もう良いですわ。私の背中に掴まっていなさい」


恭子はそう言って、フックから伸びているロープに手を掛ける。


「え、良いんですか?」


「あなたにもたつかれて、見張りに見つかるよりはマシですわ。ほら、早くなさい」


「えへへー。お願いしまーす」


恭子の背中に嬉しそうにしがみつく亜莉紗。


「それじゃ、しっかりと掴まっていなさい」


「はーい」


登り始める恭子。


半分程登った所で、亜莉紗がこんな事を言い出した。


「恭子さん、良い匂いがしますねー」


「…え?」


「シャンプー何使ってるんですか?凄く良い匂いします」


「…今はそんな事どうでも良いでしょう」


「気になるなー。教えてほしーなー」


「ちょ、ちょっと!動かないでください…!」


「あ、今なら何をしても抵抗できませんよね?何をしちゃおっかなぁ~?」


「ひゃあっ!どこを触ってるんですの!?」


「えー?どこも触ってませんけどー?…あ、恭子さん結構大きい」


「あまりふざけてると振り落としますよ…!?」


「優しい恭子さんがそんな事するワケ無いじゃないですか~」


「………」


「わぁッ!ごめんなさい!揺らさないで揺らさないで!」


恭子は亜莉紗の悪戯に耐え抜き、何とか登り切る事ができた。


隔壁は2メートル程の厚さがあり、フックを回収した後、2人は隔壁の上で一息つく。


そして、外側に居る見張り達に見つからないように体勢を低くしながら、内側の町の様子を見渡した。


「…思ったよりも、荒れてますね」


「もう結衣達は侵入したのかな?」


2人が町を見ていると、遠くの方の空に、丁度降下している所であった茜と歩美の姿が見えた。


「あ!茜さんと歩美さんだ!」


「…正直、あの侵入方法だけはお断りですね」


「そうですか?結構楽しそうだと思いますよ?」


「私は勘弁願いますわ…。さぁ、私達も行きましょう」


「りょーかいです」


2人は隔壁の一部にフックを掛け、降下の準備をする。


「恭子さん。またおぶってー?」


「自分で降りなさい。フックは掛かってるんだから、できるでしょう?」


「できなーい」


「…じゃあ一生ここに佇んでなさい」


「もう…ノリ悪いなぁ…」


2人はフックを伝い降り、町に侵入した。



慎重にロープを伝い降りた2人は、真下にある建物の屋上に降下する。


「このフック、回収しなくて良いんですか?」


「隔壁の外側からは見えませんし、このままでも問題は無いでしょう」


フックはそのままに、屋上の出口の扉へと歩いていく2人。


しかし、その扉には鍵が掛かっていた。


「亜莉紗さん。ピッキングはできますの?」


「ちょっとやってみます」


亜莉紗は針金を2本取り出し、鍵穴に刺して弄り始める。


すると、10秒もしない内に、亜莉紗は鍵を開けて見せた。


「簡単な鍵で良かったです。楽勝でした」


「手先は器用なんですね。そこだけは認めて差し上げますわ」


「(そこだけは…)」


「行きますわよ」


「ほーい…」


建物から出た2人は、裏路地に出た。


「先程見た様子では、ゾンビは大通りに集中しているようですわね」


「裏通りだけ通れば、交戦は避けられるってワケですね」


「言われなくてもわかります」


「ですよねー…」


裏路地を歩き始める2人。


「とりあえずどこに行きます?中心部にでも行ってみますか?」


「いえ、中心部は神崎さんと沢村さんに任せましょう。私達は、この近辺を調べますわ」


「この近辺…ですか。上から見た時は、気になる建物はありませんでしたが…?」


「節穴に話は訊いていませんわよ。これは私の意見ですわ」


「ふ、節穴って…。そろそろ泣きますよ…?」


「ご自由に」


「うぅ…。えげつない…」


2人は裏路地を抜け、大通りに出た。


辺りを彷徨くゾンビ達を、観察するように見る恭子。


「過去に私達が見てきた連中と同じようですね。となるとやはり、使われた生物兵器は沢村さんが製作したモノで間違いなさそうですわ」


「でも、新しい兵器も居るんですよね?イ…イリ…イリジウム…?」


「イリシオスですわ。ギリシャ語で、愚者を表す言葉。それが何を示唆しているのかは、わかりかねますが」


「え、恭子さんギリシャ語わかるんですか?」


「少しだけですよ?流暢に話せと言われたら、困ってしまいますわ」


「スペック高いなぁ…」


「なんの話です。…来ますわよ」


「ほえ?」


身構える恭子と、ぽけっとしている亜莉紗。


数体のゾンビが2人に気付き、歩み寄ってきていた。


「ど、どーします…?」


「無視ですわ。連中を倒した所で、意味はありませんもの」


「よ、良かった…。"ここら一帯を殲滅しますわよ"とか言い出すんじゃないかと…」


「お望みで?」


「とんでもない!」


2人はゾンビを無視して、大通りの端の方を走り始める。


「あの…。どこに向かってるんですか…?」


「先程屋上から見た時に目に入った病院です。ここ一帯の建物で、目立つ建物はあそこだけでしたからね」


「びょ、病院…?ゾンビうじゃうじゃ居るんじゃないですか…?」


「片っ端から片付ければ良いだけの事。違いますの?」


「違いますの」


「私に意見をするとは、その度胸だけは認めて差し上げますわ」


「(会話にならない…!)」


2人は病院へと向かい、ゾンビが蔓延る大通りを駆け抜けた。


第1話 終





登場人物



峰岸 恭子


27歳。殺人などの闇の仕事を何でも請負う殺し屋のような仕事をしていたが、過去に起きた生物兵器による騒動で死の寸前まで追いやられる。その際に騒動の原因となった人をゾンビに変えてしまうウィルスを接種した結果、奇跡的にそのウィルスが適合し、人である事を捨ててしまったが自我を保ったまま生き延びる事ができた。誰にでも敬語を使い一見淑やかな女性に見えるが、実際の所はかなり冷徹な性格で、感情が昂ると見境が無くなる事も。それでも自分が好感を抱いた人物に対しては優しく、面倒見が良いという一面もある。使用武器はハンドガン"M1911A1"。しかし、戦闘はほとんど持ち前の人外の力を用いて行うので、銃はあまり使わない。



上条 亜莉紗


20歳。元レディースという過去を持ち、自分が引き起こしたとある事故が原因で居場所を失い、その時に大神結衣と出会い彼女と同じ世界に足を踏み入れた。過去の名残である綺麗に染められた金髪がトレードマークであるものの、その見た目に反して弱気であり、相手が年下であろうと強気に出れない性格。しかし、過去の彼女を知る結衣いわく、本当はかなり冷たくて荒っぽい性格で、口調もキツいとの事。がらりと性格が変わったのは裏社会に入ってからであるが、その詳しい理由は誰も知らない。戦闘では少し頼りないものの手先が器用で物覚えが良く、ピッキングや乗り物の操縦など意外な所で活躍する事が多い。使用武器は自作のクロスボウや地雷など。



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