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2nd Nightmare  作者: 白川脩
結衣編
17/57

第16話


葵がその場から去り、10分程が経過する。


傷の痛みもあってしばらくぼーっとしていた結衣であったが、再び気を失っていた梨沙が目を覚まし、彼女の呻き声を聞いて結衣は我に返った。


「梨沙ちゃん。大丈夫かい?」


「大丈夫では…ないですね…」


「まぁ…そうだよね…。しばらくここで休んでいなよ。ここなら敵は来ない…と思う」


梨沙を安心させる為にそうは言ったものの、結衣自身その言葉に確信は無かった。


当然、梨沙はその事に気付きはしたものの、何も言わずに目を閉じる。


「それなら…良かった…」


それは結衣の好意を無下にしたくないという、梨沙なりの気遣いであった。


結衣はその気遣いを嬉しく思い、照れ臭そうに笑う。


その時、その場に居るもう1人の人物が、呻き声を上げながら目を覚ました。


「おーおー。やっぱり頑丈だねぇ、キミ」


結衣は冗談っぽくそう言いながら、目を覚ました雲雀の元へ歩いていく。


雲雀は結衣を見て一瞬目を尖らせたものの、すぐに力が抜けたかのように溜め息をついて、表情を和らげた。


「…悪かったな」


雲雀のその発言に、結衣は目を細める。


「…こいつは意外だね。キミから謝罪の言葉が聞けるとは」


「殺したければ殺せ。恨んだりなどはしない」


「へぇ?」


「力の無い人間は死んで当然だ。煮るなり焼くなり…」


雲雀の言葉を遮るように、結衣は手を差し伸ばした。


「立てるか?」


雲雀はその手を、不思議そうに見つめる。


「おいおい…」


苦笑を漏らす結衣。


「そんな目で見られても困るな…。ほら、掴みな」


雲雀は怪訝な様子ではあったものの、その手を取って結衣に引っ張られながら立ち上がる。


そして、こう訊く。


「…何故だ?」


「何が」


「綾崎と言い、神崎葵と言い、何故私を生かす…?お前もそうだ、何故私に手を差し出した?」


「そうだねぇ…」


結衣は気だるそうに息を吐き出しながらそう言って、考える素振りを見せる。


「別に深い意味は無いさ。ただ、手を差し出したかったから、差し出した。それだけの事よ」


「………」


今度は雲雀が、何かを考え込む。


「どうした?」


「お前らは…敵を助けて何がしたいんだ?そんな事したって、また命を狙われるだけじゃないか」


結衣はその問いに少々驚いた様子で、雲雀の顔を見た。


そして、今度は本当に考え込む。


「何がしたい…とかじゃないんだよなぁ…。そもそも、敵って認識が間違ってるのかも」


「敵…じゃないのか…?」


「何というかな…。例えば、そこら辺で蠢いてるゾンビ共は間違い無く敵。でも私にとって、キミやもう1人の津神の手下の子は、一言で敵とは言い切れないんだ」


それを聞いて、雲雀は1つの答えを出す。


「…人間は敵じゃないと言いたいのか?」


「いんや、津神は敵だ。十中八九ね」


「………」


難しい顔になって、再び考え始める雲雀。


そんな雲雀を見て、結衣はおかしそうに笑い出した。


「そんなに難しい事じゃないよ。勘みたいなモンさ」


「…私にはわからない。麗子様だって私だって、同じ敵じゃないか」


「そう言われちまえば、まぁそうなんだけどね」


「…??」


「ははは!ま、いつかわかるさ。私達の周りに居る愉快な連中とツルんでればね」


「………」


「その前に…」


結衣は言葉を切って、離れた所に居る梨沙に視線を移す。


「あの子にも、何か一言言ってやったらどうだい?」


雲雀は結衣と一緒になって梨沙を見ながら、結衣に訊き返す。


「綾崎に…何をだ?」


「そりゃ私に訊かれても困るな。自分で考えな」


結衣はそう言って、エレベーターに向かって歩いていく。


「おい、どこへ行く?」


「仲間の様子を見てくるよ。キミは梨沙ちゃんと一緒に居てくれ」


「はぁ…?何故私が…」


「いーから。さっきの疑問の答えが出るかもよ?」


「おい待て…!」


「じゃあね~」


結衣は雲雀の呼び止めを無視して、エレベーターのスイッチを押す。


すぐに到着したエレベーターに結衣はそそくさと乗り込み、いたずらっぽい笑みを浮かべながら雲雀に手を振って見せた。


「………」


雲雀はエレベーターの扉が閉まっていくのを呆然と眺めた後、梨沙の方に顔を向ける。


目を閉じていたので起きているかはわからなかったが、雲雀は彼女の元へと歩いていく。


「…おい」


「何?」


すぐに返答が返ってきた事に、雲雀は少々面食らう。


「な、何だ…起きてたのか…」


「起きてちゃ悪い?」


「いや…別に…」


いきいきとしている戦闘の際と異なり、もじもじと気恥ずかしそうな彼女に梨沙は思わず小さく笑う。


「何よ。どうしたの?」


「苦手…なんだよ…。人と普通に話すの…」


「そうなの?戦ってる時はやけにいきいきしてたけど」


「戦ってる最中の軽口は何とも思わない。どうせどっちか死ぬんだからな」


「なにそれ…」


呆れたように、鼻で笑う梨沙。


雲雀は何を話して良いのかがわからず、梨沙から視線を外して気まずそうに黙り込む。


そんな彼女を梨沙は面白がるように見ていたが、雲雀が重い口を開いて、話を切り出した。


「傷は…大丈夫なのか?」


「傷?」


訊き返す梨沙。


「苦しそうに見えるからな」


「そりゃ苦しいわよ。主に、誰かさんに胸を蹴られたせいでね」


「む、むぅ…」


困ったように俯き、唸り声を上げる雲雀。


「まぁ、別に恨んでたりなんてしないわよ」


梨沙のその言葉に、雲雀は驚いた様子で顔を上げた。


梨沙は続ける。


「戦って怪我をしたからって、相手を恨む筋合いは無いわ。私があんたより弱かった、ただそれだけの事じゃない」


「………」


怪我をさせた張本人である雲雀は、賛同も否定もできない。


ただ気まずそうに、項垂れていた。


からかっているつもりは無いのだが、梨沙にはそんな彼女が面白く見えてしまう。


「そんなに落ち込まないでよ…。むしろ、自分の弱さを身に染みて知る事ができたわ。感謝したいくらいよ」


「感謝って…敵に感謝してどうする…」


力無く笑う雲雀。


その"敵"と言う単語に、梨沙の表情が少し鋭くなる。


ずっと目を閉じてぼーっとしてはいたものの起きてはいた梨沙は、先程の雲雀と結衣の会話を聞いていた。


「…あんたにとって、敵ってなんなの?」


「…は?」


予想外の質問に、雲雀は顔を上げて梨沙の顔を見る。


「結衣さんと話してたじゃない。ちょっと気になってたのよ」


「聞いてたのか…?」


「まぁね。それで、どうなの?」


「敵か…」


雲雀は迷わず答える。


「自分にとって邪魔な存在だ。だから殺し合うんだ、敵同士」


「邪魔な存在…ね。じゃあ訊くけど、あんたにとって結衣さんは邪魔な存在?」


雲雀は眉をひそめる。


「…何?」


「結衣さんはあんたにとって敵なんでしょ?だったら邪魔な存在って事になるじゃない。無論私だって、そうなるし」


「いや…それは…」


「それは?」


雲雀は困ったように、再び項垂れる。


彼女には答えが浮かばなかった。


結衣や梨沙が敵だという認識は持っているものの、邪魔な存在なのかと訊かれれば、今はそう思わない。


そこで初めて、雲雀は自分の中の矛盾に気付く。


そしてまた、敵だと思っているハズの梨沙を目の前にして、戦意が全く湧いてこない事にも疑問を抱いた。


それは彼女が弱っているから、と考えるものの、まだ戦えるであろう結衣と話していた時にも戦意は無かった。


雲雀は自分自身の考えがわからなくなり、やり場の無い苛立ちを覚えた。


「わからん…私は何がしたい…?」


思わず呟く。


「思い込んでるだけよ」


梨沙の一言。


雲雀は、はっと目を見開いた。


「自分の考えが絶対だと思う事は誰にだってあるわ。私も、結衣さんに会うまではそうだった」


何も言わずに話を聞く雲雀。


「でも、結衣さんの話を聞いて、こういう考え方もあるんだっていう風に思ったの。それからは、今までの偏見は捨てて、色んな考え方をするようになったわ」


「偏見…。それは…私にも言えるんだろうか…」


「そうでしょうね」


梨沙は即答した。


「敵とは邪魔な存在だって意見はわかるわ。それには私も同意する。でも、私が思うに、あんたは1つ勘違いをしてるわ」


「勘違い…?」


「敵は敵でしかない。それは何があっても覆らない、という事」


雲雀は頷く。


「それはそうだろう。敵が味方になるとでも?」


「そんな極端な話じゃないわ」


梨沙はそこで、雲雀のもう1つの誤解に気付く。


「…敵と味方以外、どんな関係があると思う?」


「敵と味方以外…あるワケ無いだろう。殺すか殺されるか、この世界はそういうモノだ」


梨沙は"やっぱり"と言った様子で、溜め息をついた。


「…家族は居ないの?」


「両親は殺された。妹が居るが、どこで何をしているのかも知らない」


「友達は?」


「そんなモノは居ない」


「あっそ…」


「何だ。何故そんな事を訊く」


「別に。ただ、何となく訊いただけよ」


「はぁ…?」


「とにかく…」


梨沙は痛みに耐えながら、身体を起こす。


そして、雲雀を見てこう言った。


「私があんたの友達になってあげるわ。そして、世の中敵味方だけじゃないって事を教えてあげる」


「と、友達だと…?そんなモノは必要ない…!」


「うるさい。とりあえずこの町出たら、ケーキでも食べに行くわよ」


「ケ、ケーキ…?私は甘いモノなんて…」


「じゃあ蕎麦でも牛丼でもなんでも良いわ。とにかく行くわよ」


「な、何で…」


「理由なんか無いわよ。行きたいから行くの。良いわね?」


まくし立てる梨沙に、雲雀は困惑を隠せない。


「どうして…そこまで…?」


「別に。深い意味は無いわ」


「嘘を言え。意味も無しにそこまでする奴が居るもんか」


「強いて言うなら…」


梨沙は雲雀を見て、小さく笑う。


「あんたの事、気に入ったの」


「は、はぁ…!?」


生まれて初めて言われたその言葉に、雲雀は思わず声が大きくなる。


「愚直でバカな癖に、変な所は気にする。見ていて面白いわ」


「き、貴様…!バカにしてるのか…!」


「ふふ…。そうかもね…」


梨沙は面白そうに、くすくすと笑う。


雲雀はそんな彼女の笑顔を見て、複雑な心境になる。


しかし、悪い気分では無かった。


「(友達…か)」


ふっと、小さく笑う雲雀。


それを見逃さなかった梨沙が食い付く。


「何よ。いきなり笑い出して。気持ち悪いわね」


「う、うるさい…!気持ち悪いとか言うな…!」


「ふふ…。ごめんごめん…」


再び笑う梨沙。


雲雀もまた、その笑顔を見て嬉しそうに笑った。


第16話 終


最終章に続く。



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