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2nd Nightmare  作者: 白川脩
結衣編
11/57

第10話


「イベント会場っつーと…」


茜から聞いた、地下研究所があるらしいイベント会場の建物に向かう道中、歩きながら結衣が不意に口を開く。


「歩美と茜さんが調べたハズだよな…」


「地下と言っていましたし、見落としたんじゃないですか?」


「何か理由があるのかねぇ…」


恭子と亜莉紗、結衣と梨沙、歩美と茜が立て続けに現れた事で、公園の付近一帯に居たゾンビなどは既に殲滅させられており、時間が経った今に至っても姿は無い。


しかし、ゾンビとは比べ物にならない脅威が、徐々に迫ってきていた。


「…今、何時?」


不意に、結衣が梨沙にそう訊く。


「えーと…。4時ちょっと前ですね」


自分の携帯電話で時刻を確認し、それを伝える梨沙。


同時に梨沙は、結衣が言いたい事を察した。


「そろそろ、避難する場所を探しますか?」


「そうだね。昨日の調子じゃ、奴らとやり合っても勝ち目は無さそうだし」


「思いっきり巴投げ決めてましたけど」


「撃退と撃破は違うのだよ。ワトソン君」


「ワトソンじゃないです」


夜を凌ぐ為に隠れる建物を探す2人。


「別にどこでも良いか…。屋根と寝床さえありゃあ」


「我儘を言わせて貰えるなら、シャワーでもあれば嬉しいですね」


「シャワーか…女の子だねぇ」


「…結衣さんもでしょう?」


「二十歳って、女の"子"って言うのかな?」


「え?えーと…成人してるから…言わない…のかな?多分…」


「そう考えると、私も歳取ったなぁ…」


「二十歳でそのセリフはどうかと思いますけど…」


そんなやり取りの後、2人は2階にあるベランダの窓が半開きになっている家を見つけた。


「何とか登れそうだね。鍵開けてくるから、ちょっと待っててよ」


壁に取り付けられているパイプを伝ってベランダに登り、家の中に入って安全を確認する。


「(異常無し…っと)」


ゾンビなどの脅威が無い事を確認し、結衣は玄関に向かって扉の鍵を開けた。


「お待たせー」


扉を開けた先で梨沙は待っていたが、彼女は結衣に反応を示さず、不安げな表情で辺りを見回している。


当然、結衣はその理由を訊こうとするが、訊かれる前に梨沙はこう言った。


「奴等、もう活動してますね…」


「奴等?」


「イリシオスの事ですよ。今、少し離れた所から雄叫びが聞こえてきたんです」


「雄叫び?」


耳を澄ます結衣。


タイミング良く、ここから少し離れた場所に居るイリシオスが雄叫びを上げた。


「まだ完全に日は沈んじゃいないけど…早出かぁ?ご苦労なこった」


「いずれにしろ、私達が取るべき行動は1つですね」


「だね。ささ、入って入って」


梨沙も家の中に入り、玄関の扉の鍵を掛け、2人は家の中を見回って侵入経路が無いかを確認する。


一通り見回った2人は、1階のリビングへとやってきた。


「問題無さそうです。…とは言え、こんな窓ガラスじゃ奴等の侵入は防げるワケが無いけど」


そう呟いて、側にある窓ガラスを軽くコンコンと叩く梨沙。


「見つからなきゃ大丈夫さ。梨沙ちゃん、醤油と味噌、どっちが良い?」


「はい?」


「ふっふっふ…。お宝見つけちゃった~」


そう言って結衣が見せてきたものは、キッチンで見つけた即席ラーメンであった。


「あぁ…。じゃあ醤油でお願いします」


「よしよし任せたまえ。即席ラーメン作りなら、玲奈にも勝てる自信があるのでね」


「誰が作っても一緒でしょう…」


「そんな事は無い!私が作ったラーメンはプレミア品だ!」


「そーですか…」


袋の裏面に書いてある作り方を何度も確認しながら即席ラーメンの調理を始めた結衣を傍らに、梨沙はバスルームへと向かう。


「(折角だし、少しお湯に浸かるか…)」


シャワーだけで済ませようと思っていた梨沙であったが、思っていた以上に綺麗であったバスルームを見た彼女は、お湯に浸かって疲れを取りたいと思い、湯船にお湯を溜める準備を始める。


後はお湯が溜まるのを待つだけとなった所で、梨沙は緊張が解れたのか、突然強い疲労感に襲われた。


「(疲れたな…。思えば色々あったし…)」


戦闘技術を身に付けてからは初めての実戦、桜庭姉妹の護衛など、今までの事を振り返る梨沙。


中でも一番強く浮かんだのは、展望台の階段にて繰り広げた、雲雀との戦闘であった。


「(あの時、ナイフが少しでもズレていれば死んでいたわね…。よくよく考えてみると、結構怖かったかも…)」


胸元のボロボロになっているペンダントを手に取り、それを見つめる。


そこで、突然結衣が扉を開けて入ってきた。


「梨沙ちゃーん」


「ひゃあッ!?」


ペンダントに意識が向いていた梨沙は、結衣の突然の登場に驚き、思わず悲鳴を上げてしまう。


「おぉ…なんかごめん…」


「す、すみません…ビックリしちゃって…」


気まずそうに、苦笑を浮かべる2人。


「…それ、どうしたの?」


壊れているペンダントを見た結衣が、そう訊いた。


「…津神の手下と戦った時、私を守ってくれたんですよ」


「守ってくれた?」


「はい。これが無かったら、私の胸元にナイフが突き刺さってましたからね」


「え、そのペンダントが、ナイフを受け止めたって事?」


「信じられませんか?」


訊き返された結衣は、梨沙の顔とペンダントを交互に見る。


その後、吹き出すように笑い出し、梨沙の顔を見ながらこう言った。


「そんな目で見つめられちゃ、信じるしかないよ。奈々ちゃんは、キミの命の恩人だね!」


「そうですね。町を出たら、もう一度会って話をしたいです」


「会えるさ。きっとね。…ところで」


「はい?」


「ガスコンロってどうやって使うの?」


「………」


梨沙は呆れ返って苦笑を浮かべ、結衣と共にリビングへと戻った。



「結衣さん、麺は固めですか?柔らかい方が良いですか?」


「チタン合金ぐらい固めで」


「………」


結局梨沙が全て調理する事になり、最初に意気揚々と調理をしようとしていた結衣は、ソファーに座り込んでテレビを眺めていた。


「不思議なもんだねぇ…。ニュースで取り上げられてる町の中に居ながら、ニュースでその町を見るってもんは」


テレビに映っている上空からの町の様子を見て、結衣が呟く。


「過去の騒動とは比較にならない程、取り沙汰されてますよね。…はい、どうぞ」


「お、サンキュ」


調理を終えてラーメンを持ってきた梨沙もソファーに座り、テレビに視線を移す。


「今回の騒動は、犯人が津神だからじゃないのかな。あいつ、指名手配犯らしいし」


「だとしても、過去の騒動を揉み消して、今回はありのまま報道するなんておかしいと思いませんか?」


「今回が特別なのさ。今までは、裏取引で持ち込まれた生物兵器が原因って事になってたでしょ?」


「えぇ。疑問なのは、沢村さんの名前が出なかった事です。あの人に、事実を揉み消す力があるんですか?」


「いんや、あいつは隠蔽じみた事は何もやっちゃいない。知り合いから聞いた話だと、何でも国の新しい兵器の開発が関わってたらしいよ」


「…初耳です」


「ホントかどうかは知らないけど、だとしたら辻褄が合うんだ。国が秘密裏に進めた兵器開発の実験であった過去の騒動は揉み消され、津神麗子が個人で勝手に引き起こした今回の騒動、つまり、国が関わっていない今回はありのまま報道された。…って所かな」


「国は沢村さんに全ての罪を押しつける事もできたのでは?」


「下手に犯人が存在するよりも、犯人が居ない方が都合が良いんだよ。裏取引の事故で生物兵器が広がり、その時に犯人も巻き込まれて死んだ。そうすれば、責任は全てその死んだ犯人に押し付けられる。死人に口無しってね」


「なるほど…」


会話が一段落つき、2人はラーメンを一口啜る。


「…待ってください。沢村さんは、どうして国の仕業という事を隠しているんです?それに、結衣さんや、その知り合いの方だって…」


「相手は国だよ?私達がどんなに奮闘したって、どうにもならない。それに、証拠が無いのさ。国が歩美に生物兵器の製作を依頼し、その実験を行ったっていう証拠がね」


「そんな…でも、事実なんですよね…?」


「都合の悪い事実は改変されて伝えられる。今の世の中そんなもんだよ」


吐き捨てるようにそう言って、箸で掴んだ麺を口に運ぶ。


「………」


梨沙は騒動についての文面を淡々と読み上げているニュースキャスターをぼんやりと見つめた後、ラーメンの残りを食べ始めた。



食事を終え、片付けをしてからバスルームへと向かう梨沙。


「梨沙ちゃんマメだねぇ…。もう居ない住人の為に皿洗うなんて」


「クセみたいなものですよ。それよりも、お風呂沸いてますよ。良かったら、お先にどうぞ」


「良いよ、梨沙ちゃんが先に入りなよ。お風呂、入りたがってたじゃない」


「そう言ってくださるなら、お言葉に甘えさせて貰いますね」


バスルームに向かう梨沙。


結衣はソファーに深々と座り込み、一息つく。


「(飯食ったら眠くなってきたなぁ…)」


大きな欠伸をして、壁に掛けてある時計を見て時刻を確認する。


「(5時過ぎ…か。そろそろ奴等が動き出してもおかしくないけど…)」


その時外から、おぞましい雄叫びが聞こえてくる。


昨晩聞いたものと同じであり、それは紛う事なくイリシオスのものであった。


「(おいでなすったか…。日没にはまだ少し時間があるみたいだけど…)」


窓から見える夕日を見て、眩しそうに目を細める結衣。


「(まぁ、ここに居る事がバレなきゃ大丈夫か…。そんな事より…)」


結衣は立ち上がって、バスルームの方を見る。


「(親睦を深めるとしますかぁッ…!)」


怪しい笑みを浮かべて、バスルームへと歩いていった。



「はぁ…」


危機が迫っている事など知る由も無く、無防備に湯船に浸かっている梨沙は、身体が癒されていく感覚に思わず息を吐き出す。


しばらく何も考えずにぼーっとしていたが、何となく体勢を変えて、湯船のへりに腕を乗せて、その上に顎を乗せる。


すると、曇りガラスでできている出口の扉の向こうに、人影が見えた。


「…結衣さん?」


「梨ー沙ーちゃーん…」


いつもより低い結衣の不自然な声調に、嫌な予感を覚える梨沙。


「…どうしました?」


「入るよー」


「はぁッ!?」


梨沙の返答を待たずに、結衣は扉を開けて梨沙の前に現れる。


「いやぁ、ここはやっぱり背中を預け合う者同士、裸の付き合いをと思いましてね」


「そんなの良いですからぁ!出てってくださいよ!」


「しーっ!あんまり騒ぐと外に居る連中に気付かれちゃうよ?」


「ッ…!(こいつ…そこまで計算済みか…!)」


「にっひっひ…。往生しなよ~?」


「くぅッ…!」


顔を真っ赤にする梨沙を見て、結衣は実に満足そうな笑みを浮かべて、湯船に入った。


「はぁ~。疲れが取れるねぇ…」


「ゆ、結衣さん…。やっぱり2人じゃ狭いですよ…」


「大丈夫だよ。ほら、もっとこうやってくっついて入れば…」


「ひゃあッ!近い!近いですって!」


「あははっ!可愛いなぁ梨沙ちゃんは」


「………」


そんな平和な2人を傍らに、外ではイリシオス達が雄叫びを上げて仲間に居場所を知らせながら、獲物を探して徘徊している。


その雄叫びを聞いて、2人は忘れかけていた状況を思い出す。


「大丈夫でしょうか…。万が一バレて集団で襲われでもしたら、ひとたまりもないですよ…?」


「でっけぇ物音でも立てない限りは大丈夫だよ。それにほら、流石にこんな百合百合空間なら、奴等も空気読むでしょ」


「それはないです…」


「まぁ大丈夫大丈夫!今はこの至福の一時を堪能しようじゃない」


そう言って、身体を伸ばす結衣。


その時、突然梨沙の表情が暗くなった。


「ん?どったの?梨沙ちゃん」


「いえ、何でもありません。何でもないです。…何でもないですッ!」


「え、えぇ…?何で怒ってるの…?」


結衣の言葉には答えずに、梨沙は俯いてぶつぶつと何かを呟き始める。


「男勝りでがさつな性格のクセに何でそんなにスタイル良いのよ…私なんか…私なんか2年くらい前からちっとも成長を感じられないのに…年齢を重ねれば自然と大きくなるって雪平さんは言ってたけど全然そんな事ないし…それにこういう人に限ってスタイルの良さなんてどうでも良いとか言ったりするし…私みたいな人の気持ちを考えてほしいし…マジふざけんなし…」


「あぁ…なんか…ごめん…。本当に…」


結衣は自分の胸元を隠すように肩までお湯に浸かって、苦笑を浮かべた。



その後、入浴を終えた2人は家の周辺の様子を確認する為、2階へと上がった。


「ゆっくり休むにゃ、安全の確認をしてからじゃないとね」


ベランダに出ようとする結衣を、梨沙が引き止める。


「待ってください。ベランダに出るのは危険じゃないですか?」


「大丈夫だよ…とも言い切れないね。確かにキミの言う通りだ。窓からこっそり見てみますか」


「その方が良いかと」


「ところで梨沙ちゃん」


「何です?」


「髪を卸すと雰囲気変わるね。何かちょっと大人っぽい」


「胸は小さいですけどね」


「…やっぱり気にしてる?」


「いえ別に」


刺々しい声でそう言って、梨沙は窓から外の様子を確認する。


「(やべ…。すっげー拗ねてるよこの子…。今後は気を付けよう…)」


ツンツンしている梨沙に、ただただ苦笑を浮かべるしかない結衣。


「…結衣さん」


外の様子を見た梨沙の表情が暗いものへと一変し、結衣の名前を呼ぶ。


「ほいほい。何か見つけた?」


「イリシオスがこの家の周りに居るっていう事は別に驚くには値しない事なんですけど…。ちょっと多すぎませんか…?」


「ほえ?」


結衣も梨沙の隣に行き、外の様子を確認する。


梨沙の言葉通り、辺りには異常な数のイリシオス達が集まっていた。


「なんだなんだ…?次々と集まって…」


その時、2人が見ていたイリシオス達の中の1体が雄叫びを上げ、それに少し遅れて1階からガラスが割れる音が聞こえてきた。


それを聞いた2人は顔を見合わせて困ったように苦笑を浮かべ、それぞれ武器を取り出した。


第10話 終



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