第9話
二体のクリーチャーの妨害によって、津神麗子を逃してしまった結衣と恭子の二人。
さながら処刑人のような風貌であるクリーチャー、ユースティティアが放った巨大な斧による一振りを、結衣はサイドステップで回避し、一対一の状況を作る為に恭子が居るその場から離れた。
「こっちだよ!ほらかかってきな!」
前に出した両手を自分の方に煽いで見せる結衣。
ユースティティアはゆっくりと結衣の方に身体を向け、その巨体を左右に揺らしながら彼女に歩み寄っていく。
結衣はリボルバーを構えて臨戦態勢に入ったが、ふと、何かを思い出し、リボルバーを下ろしてポケットに手を入れて何かを探す。
「(げっ…。これだけか…)」
取り出した物は、2発の銃弾。
それが、彼女が今現在所持している、全ての予備弾薬であった。
「(装填されてるのは2発…合計4発でこのデカブツを仕留めるとなると、無駄な発砲は避けないとね)」
取り出した2発の銃弾もシリンダーに装填し、再び正面に居るユースティティアに向ける。
そして、頭部を狙い、引き金を引いた。
発射された弾丸は、ユースティティアの頭部を貫く。
着弾の衝撃で少し頭を後ろに仰け反らせたが、ダメージを負った様子は見られなかった。
「(頭に44マグナムぶち込んだってのに手応え無しか…。どうしたもんかね)」
リボルバーを下ろし、撃破の手立てを考える。
その時、結衣の足を狙って、ユースティティアが左手に巻いてある鎖を投げた。
「ッ…!」
反射的に身体が動き、バク転をして間一髪で鎖を避ける。
「(捕まったら一貫の終わり…ってね。良い方法が思い浮かぶまでは防戦か…)」
額に浮かんだ冷や汗を手で拭い、じりじりと後退しながら再び戦法を考える。
「(幸い動きはトロい。距離さえ気を付ければ…)」
結衣がそう思った瞬間、再び鎖が飛んでくる。
警戒する事ができていた結衣は、側転をして鎖を回避する。
「(遠距離なら遠距離で鎖が飛んでくる…。油断はできないな…)」
何か利用できる物が無いか、辺りを見回す結衣。
意図せず視界に入ったのは、恭子の姿であった。
「(恭子の怪力があれば、こいつを仕留めるくらい造作も無いけど…)」
恭子の加勢を望みはしたものの、彼女とリーパーが繰り広げている至近距離での尋常ではない速さの攻防を見て、それは望み薄だと悟った。
「(仕方ねぇ…。何とかやってみますか…!)」
リボルバーをしまい、駆け出す結衣。
途中、再び鎖が結衣の足を狙って投げられたが、跳躍してそれを避け、スピードを落とさず距離を詰めていく。
目の前にまでやってきた所で、待ち構えていたらしいユースティティアが、結衣の首を飛ばそうとその巨大な斧を横に振る。
その一振りを、しゃがみこんで避ける結衣。
続けざまに、斧が結衣の真上から振り下ろされる。
しゃがんでいる体勢のまま横に転がり、攻撃を回避して素早く立ち上がる。
そして、地面に叩き付けられた巨大な斧に飛び移り、柄の部分まで走って跳躍し、麻袋で覆われているユースティティアの顔面に強烈な飛び蹴りをお見舞いした。
その衝撃で巨体が後ろに仰け反り、大きな隙が生まれる。
更にその際、ユースティティアは持っている巨大な斧を手離した。
帰着した結衣は敵が見せた絶好の隙を見逃さずに、リボルバーを取り出して接近する。
「(頭がダメなら心臓だ…!)」
そして、ユースティティアの左胸に銃口を突き付け、引き金を引いた。
至近距離で射出された弾丸は結衣の狙い通り、ユースティティアの心臓を貫いた。
ぐらりと、その巨体が揺れ、その場に跪く。
「(やったかな?)」
リボルバーを構えたまま様子を見る結衣。
突然、彼女の右足に、鎖が巻き付いた。
「ッ…!」
油断していた結衣の目は、ユースティティアが素早く投げた鎖を認識する事ができなかった。
恐ろしい力で引っ張られた結衣の身体は転倒し、ずるずると手繰り寄せられていく。
「(ちっ…。背に腹はなんとやら…ってね!)」
結衣は引きずられている状態で、足に巻き付いている鎖をリボルバーで撃ち、何とか危機を回避した。
素早く立ち上がって距離を離し、わかってはいるものの、シリンダーに装填してある銃弾の数を確認する。
「(あと1発…。さて、どうするかな…)」
心臓を撃ち抜いても結局致命傷を与えられなかった事に加え、残っているリボルバーの銃弾も最後の1発となってしまった結衣は、万策尽き果てたと言った様子。
そんな彼女にはお構い無しに、落とした斧を拾い上げ、歩み寄ってくるユースティティア。
「(畜生め…。いよいよ年貢の納め時ってか…。冗談じゃねぇや…!)」
気勢だけは保ち、リボルバーを構える。
しかし、有効な手立ては浮かばず、彼女はじりじりと後退していくだけであった。
恥を承知で恭子の元に逃げ込もうと結衣が走り出そうとしたその時、ユースティティアの眉間に、突然風穴が1つ開く。
ユースティティアは思わず足を止め、眉間に開いた風穴を左手で確かめるように触る。
誰かが狙撃をしているという事に結衣とユースティティアが気付いた瞬間、今度は巨大な斧を持っている右手にも銃弾が飛んできた。
思わず斧を手放すユースティティア。
「(狙撃…?梨沙ちゃんは有り得ないし…亜莉紗でも…ないよな)」
銃弾が展望台の方から飛んできている事に気付いた結衣は、そちらを確認する。
結衣が見たのは、遠目でもわかる綺麗な銀髪の人物が、こちらにスナイパーライフルを構えている姿であった。
「誰だ…?」
思わず呟く結衣。
その時、いつの間にか斧を拾ってこちらに近付いていたユースティティアが、結衣の背後から彼女の頭に斧を振り下ろす。
「おーっと…!」
素早いサイドステップで斧を避け、リボルバーを構える。
その時、結衣はユースティティアの身体に、気になるものを発見した。
「(なんだ…?あの皮膚の色…?)」
それは、今まで見る事が無かった角度で初めて見えた、右肩にある黒いシミのような箇所であった。
「(なーるほど。あそこだな…)」
狙いを付けて、引き金を引こうとする。
しかし、それよりも、ユースティティアが地面に叩きつけた斧を持ち直し、結衣が居る方向に向かって斧をなぎ払うように振る方が早かった。
「ッ…!」
不覚にも反応が遅れ、その場に背中から倒れるような形で、辛うじて攻撃を避ける結衣。
同時に、結衣の足をユースティティアの鎖が捕らえた。
「マジかよ…!」
怪力で引っ張られ、抵抗できずに手繰り寄せられる結衣。
再び鎖をリボルバーで撃ち抜こうとしたが、今度はそれよりも早く、結衣の身体がユースティティアの目の前にまで手繰り寄せられた。
持ち上げられ、逆さまで宙吊りになる結衣。
「(畜生…!せっかく弱点と思われる箇所を発見したってのにぃ…!)」
鎖に狙いを付けようとするが、宙吊り状態で身体が揺れ、上手く狙いが定まらない。
最後の1発という事も頭にあり、結衣は中々引き金を引けなかった。
そんな事をしている内に、鎖で吊っている結衣の身体を両断する為に、ユースティティアが斧を振り上げる。
絶体絶命の危機であったが、結衣に焦った様子は見えなかった。
斧が振られる寸前で、その理由は判明する。
展望台の狙撃主が、ユースティティアの右腕のシミを撃ち抜いた。
「そら来た…!」
ユースティティアが思わず手放した結衣はニヤリと笑い、空中で素早く身体を反転させて足から着地し、すぐさまリボルバーを構える。
右腕のシミの箇所を撃ち抜かれたユースティティアは、患部を左手で押さえ、今まで見せなかった大きなリアクションで、痛みに悶えている。
「チェックメイト…ってね!」
そう言って結衣が発砲した銃弾は、患部を押さえている左手を優に貫通し、その先のシミに命中する。
ユースティティアは大きく怯み、その巨体を勢い良く転倒させ、そのまま動かなくなった。
「ふいぃ~…。何とかなったか…」
リボルバーをくるっと1回転させてからしまい、恭子の方を見る。
恭子は、血溜まりの中にあるリーパーのものであったと思われる骨を踏みつけ、丁度こちらに顔を向けた所であった。
結衣と目が合った彼女は、お互いの無事を確認してにっこりと笑う。
しかし、結衣は彼女の笑顔と足元を交互に見て、苦笑いを浮かべた。
「怖ぇ…」
二体のクリーチャーを撃破した恭子と結衣。
「どうする。奴を追うとするかい?」
「もう遠くへ行ってしまったでしょう。今更慌てて追いかけた所で、彼女に追い付く事はできませんわ」
「それもそうだよなぁ…」
肩を落として溜め息をついた後、結衣は踵を返して展望台の方へと向かう。
「結衣さん?」
「梨沙ちゃんが気になる。様子を見に行ってみるよ。それに…」
「それに?」
「…さっき私を援護してくれた人物が気になるんだ。銀髪のスナイパーなんて見た事がねぇ」
「それなら、心当たりがありますわよ」
「…え?」
恭子の言葉に驚き、思わず足を止めて彼女に顔を向ける結衣。
「先程、津神麗子の手下と遭遇しましたの。スナイパーライフルを持つ、綺麗な銀髪の少女でしたわ」
「銀髪…って事は、多分そいつで間違いないだろうけど…。どうして津神麗子の仲間が私を助けるんだ?」
「それはわかりかねますが…」
恭子は困った様子でそう答えた後、何かを見つけ、こう答えた。
「…彼女に訊けば、何かわかるでしょう」
「彼女?」
恭子の視線の先を辿る結衣。
そこには、展望台から走ってくる、亜莉紗の姿があった。
「恭子さーん!結衣ー!」
二人の元に到着した亜莉紗は、満身創痍と言った様子で、手を膝につけて肩で息をする。
「無事で…良かったぁ…」
「亜莉紗さん。彼女はどうなりました?」
訊かれた亜莉紗は、顔を上げて恭子を見ながらこう訊き返す。
「彼女?幾島さんの事ですか?」
「幾島…?」
「あの銀髪の女の子の名前ですよ。幾島深雪。あの子なら、もう大丈夫です」
「大丈夫とは?」
「和解したんです。津神麗子とも、縁を切るそうですよ」
亜莉紗はそう言ったが、恭子は怪訝な様子。
「にわかには…ですわね」
「本当ですよ!あの子、津神さんに任せられた事を遂行できなかったから殺されるって言って、泣いてましたもん」
「嘘の涙という可能性は?」
「そ、そんな事ないですよ!絶対に!」
「ふん…。まぁ良いですわ。それで、その彼女はどこに?」
「多分、そろそろ来ると思うんですけど…」
展望台を見つめる三人。
しかし、すぐには現れなかった。
「あ、あれぇ…?おかしいなぁ…」
「お人好しも大概にしとけよ。…そんじゃ、またな」
展望台へと歩き出す結衣。
「ちょ、ちょっと!結衣!本当なんだからねー!」
亜莉紗の言葉に、結衣は足を止める事無く背を向けたまま、呆れた様子で片手を挙げてその手を小さく振って見せた。
展望台の前に到着し、扉を開けて中に入る結衣。
すると右側の階段から、亜莉栖とイヴ、そしてスナイパーライフルを肩に掛けた銀髪の少女、幾島深雪が現れた。
「おっと…!」
反射的にリボルバーを構える結衣と、それを受けて素早くスナイパーライフルを構える深雪。
その間に、亜莉栖が割り込んだ。
「待って、結衣。深雪はもう悪い人じゃない」
「あ、亜莉栖ちゃん…?」
「改心した。私が保証する」
「………」
亜莉栖の言葉に苦笑を浮かべ、半信半疑の視線を深雪に向ける。
「この子の言葉を信じたい所だけど、お前さんの口からも聞きたいな」
「何を」
「改心しました…ってね」
「………」
結衣を睨み付ける深雪と、薄ら笑いを浮かべる結衣。
すると、深雪が結衣のリボルバーをちらっと見てから、彼女にこう言った。
「安全装置、外れてないよ」
「ハッタリか?覚えとけ素人。リボルバーになぁ、安全装置なんてねぇんだよ」
「ふーん。じゃあ、そのリボルバーはハッタリ?」
「あ?」
「弾、入ってないでしょ」
「…何故?」
「リボルバーの装填数は正面からシリンダーを見ればわかるんだよ。覚えとけ素人」
「………」
結衣は薄ら笑いを苦笑いに変え、リボルバーを下ろした。
「…素人呼ばわりしたのは謝っとくよ」
「…こっちも謝っとく。大神結衣に素人呼ばわりは流石に失礼だ」
「んー?どこかで会ったかな?」
「この世界に関わる者なら、大神姉妹の名前は知ってて当然」
「そりゃ光栄だ」
結衣は上機嫌に笑いながら、梨沙と別れた左側の階段へと歩き出す。
「…おっと、忘れてた」
立ち止まり、再び深雪に顔を向ける結衣。
そして、先程までの敵対的な笑みではなく、純粋な明るい笑みを浮かべてこう言った。
「援護、ありがとね!」
「………」
深雪は鼻で笑って歩き出しながら、何も言わずに片手を軽く挙げて返答する。
結衣は再び歩き出し、左側の階段へと向かった。
その頃…
「ん…あれ…?」
梨沙との戦闘に敗れ、気を失っていた雲雀が目を覚ます。
「随分と遅いお目覚めね」
彼女の近くで、階段の段の部分に腰掛けていた梨沙が、自分のナイフの手入れをしながらそう言った。
「き、貴様ッ…!って、何で私は生きてるんだ…?」
「何でだと思う?正解は、私がトドメを刺さなかったから、よ」
「…はぁ?」
「訊きたい事が色々とあるし。良かったわね、命拾いして」
そう言って、ニヤリと笑う梨沙。
その笑みを見た雲雀の顔が、見る見る内に赤くに染まっていった。
「き、貴様ッ…!私を愚弄する気か…!」
「そんなつもりじゃないんだけど。…まぁ良いわ、好きに解釈してもらっても」
「くぅッ…!」
「さて…」
手入れを終えてナイフをしまい、立ち上がる梨沙。
「答えてもらうわよ。津神麗子はどこへ行ったの?」
「し、知らん…!」
「本当に?」
「知らん!」
「本当は?」
「知らんと言っているだろう…!」
「ぶっちゃけ」
「しつこいぞ貴様ッ…!」
「…はぁ。もういいわ」
梨沙は溜め息をついた後、階段を降り始める。
そんな彼女を、雲雀は立ち上がって呼び止めた。
「おい貴様!何故私を生かしておく!」
「別に、殺す必要も無いし」
「殺す必要が無い…?私はまた貴様の首を狙う事になるんだぞ?」
「上等よ。その時はまたさっきみたいに、そのすっからかんの脳を揺らしてやるわ」
「ちっ…」
「それじゃ」
階段を降りていく梨沙。
「おい!待て!」
再び、雲雀が呼び止める。
「何よ」
「貴様、名は?」
「ジョン・スミス」
「ふざけるなッ!」
憤る雲雀に、梨沙は面倒臭そうに答える。
「はぁ…。綾崎よ。綾崎梨沙」
「綾崎か…。その名前、忘れないぞ…!」
「そりゃどーも」
梨沙は棒読みでそう返し、階段を降りていった。
一番下まで降りた所で、丁度こちらに向かってきていた結衣と鉢合わせる。
「おぉ、梨沙ちゃん。無事みたいだね」
「なんとか。…津神麗子は居たんですか?」
「逃げられちったよ。一応、恭子と一緒に対峙はしたんだけどね」
「…え?恭子さんと?それなのに逃げられたんですか?」
「恥ずかしながらね。予想以上の腕だったよ」
「はぁ…」
「それで…あの子はどうなった?」
梨沙が降りてきた階段を見ながら訊く結衣。
梨沙は正直に"逃がした"とは言えず、言葉を濁す。
「まぁ…その…逃げられた…です」
「ありゃ?」
「本当ですよ」
「別に疑っちゃいないけど…。結構デキる子だった?」
「それなりでしたね。ただ、思っていたよりも…」
「?」
「バカでした」
「そ、そう…」
二人は階段の元から離れ、外へと移動する。
すると、建物から出ようとした時、歩美と茜の二人が扉を開けてやってきた。
「歩美?何でここに居んの?」
「恭子の様子が気になったから、直接見に来ただけよ。さっき話はしてみたけれど、特に問題は無いと思うわ」
「そっか…。そんで、津神麗子の事なんだけどさ…」
申し訳なさそうに話を切り出した結衣に対し、歩美は彼女の話を遮るように口を開き、嫌味たっぷりにこう言った。
「聞いたわ。逃げられたんですってね。目の前に居ながら。それも二人居て」
「…ぐうの音も出やしない」
「…ま、彼女の実力を知る良い機会にはなったでしょう」
「なんでぇ気持ち悪ぃな。いやに優しい言葉だ」
「…そういう事を言うのであれば、こっちも言葉を選びなおすわよ」
「冗談冗談…」
展望台に用は無いので、4人は外へ出た。
「あれ?恭子達は…?」
外に出てすぐに、先程までそこに居た恭子達が居なくなっている事に気付いた結衣がそう呟く。
「恭子ちゃん達なら、私達と話した後、先に進んだわよ」
茜が答えた。
「先に進んだって、どこに向かったんです?」
「なんでも、私達が捜索していたイベント会場の建物の地下に、津神麗子の秘密基地があるとか。一緒に居た銀髪の可愛い子がそう言ってたのよ」
「地下に?」
「えぇ。元々倉庫だった部屋を改築して、研究所のように使っていたらしいわ。彼女の話では、津神さんはそこに居るかもだって」
「研究所って…津神麗子がどんだけの権力の持ち主かはわからないですけど、公共の施設の地下にそんな怪しいモン作れるんですかね…?」
「勿論極秘情報でしょうね。それに、彼女は歩美と同じくらい…いえ、下手をすればそれ以上の金と権力、そして武力を持っているハズよ。流石に警察を抱え込む…ってのは考えづらいけど、施設の管理会社を抱え込むくらいなら造作も無いんじゃないかしら」
「なるほど…。空恐ろしい話ですね…」
「全くよね。…ところで」
「はい?」
「みーちゃんの事、どう思う?」
「み、みーちゃん…?」
「あの銀髪の子よ。結衣ちゃんはどう思ってるの?」
「あぁ…。まぁ、にわかには信じられませんが、改心したって言ってましたからね。一応、信用はしても良いんじゃないかと」
「違うわよ」
「はい?」
「胸よ」
「は?」
「控え目の服だからちょっとわかりづらいけど、あの子絶対大きいわ。私の心眼によれば、恐らくDは固い所ね」
「………」
「それにしても、どうして狙撃の子達は胸を隠したがるのかしら…。そしてまたその胸が大きいのよね…。結衣ちゃん、どう思う?」
「(知らねぇよ…)」
結衣はただただ、苦笑を浮かべるばかりであった。
その後、4人は公園の出口まで歩いていき、そこで再び別れる事になった。
「私達は少し寄り道をしていくわ。あなた達は先に、津神麗子の研究施設に向かいなさい」
「寄り道?どこ行くんだよ」
「余計な詮索は止めなさい。用が済み次第、私達もすぐに研究施設に行くわ。…それと、これ。どうせもう底を突いているんでしょ?」
何かを取り出し、それを結衣に渡す歩美。
それは、結衣が使用しているリボルバーの弾薬であった。
「おぉ、気が利くねぇ。珍しく」
「一言余計よ。もっと必要なら、イベント会場の裏口前に補給物資が置いてあるわ。その中にあるから使いなさい」
「ん?聞いてた場所と違くない?」
「諸事情よ。深い意味は無いわ。それじゃあね」
「はいよ」
結衣と梨沙はイベント会場がある町の中心部へ、歩美と茜は中心部とは反対方向へと歩き出した。
第9話 終