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2nd Nightmare  作者: 白川脩
プロローグ
1/57

新たな始まり


海上都市、第二東京ポートタウン。


海上に作られたこの港町は、名前の通り第二の東京と呼ぶに相応しい賑わいを見せていた。


しかし、それは2日前までの話。


突如発生したバイオハザードによって、町は瞬く間に崩壊した。


その町の地下にある下水道の濁った水の中から、ダイビングスーツに身を包んだ1人の少女が上がってくる。


「到着到着…ってね」


スーツを脱ぎ捨てそう呟いたのは、裏の世界で名の知れた仕事屋である大神結衣。


「…わざわざ下水道じゃなくても、他に道はあったんじゃないですかね」


遅れて到着し、疲れ切った様子でそうぼやいたのは、過去にバイオハザードによって崩壊した町から生存した経験がある綾崎梨沙であった。


「仕事を始める前から、見張りをかいくぐってピリピリするよりは良いじゃない。それとも空を飛びたかった?」


「…どっちも御免です」


「そーいう事。さて、まずは地上に向かうとしますか」


2人は、地上へのハシゴに足を掛けた。




同時刻…


町は自衛隊が設置した隔壁によって、完全に隔離されている。


「亜莉紗さん。準備はよろしいですね?」


「良くないです」


結衣達と同じ目的を持つ、峰岸恭子と上条亜莉紗は、最も見つかるリスクがあると考えられる、地上からの侵入を実行しようとしていた。


郊外に到着し、ボートのエンジンを切る。


「…早くなさい。ここに来るまでの間に、装備の確認はしたのではなくて?」


「装備は充分です」


「…?」


「心の準備です」


「さぁ、行きますわよ」


「嫌だ待って…!」


ここまで来るのに使用した小型ボートを人目につかない場所に乗り捨て、2人は町へと向かう。


「…早速居ますわね」


数人の見張りを発見し、立ち止まる恭子。


「自衛隊ってのも大変なんですね。こんな所で見張りだなんて…」


「興味本位でやってくる市民や、私達のような良からぬ人間が居ますもの」


「よ、良からぬ人間…。まぁ否定できないけど…」


「計画通りいきましょう。一番見張りが少ないのは南東部との事。そちらに向かいますよ」


「了解です」


2人はその場を静かに離れ、南東部へと向かった。




同時刻…


町に向かっている1機のヘリコプター。


「ね、ねぇ…。やっぱり止めない…?私は別の方法でも良いのよ…?」


「今更ビビってんじゃないわよ。上空からの侵入が、一番安全で一番楽なのよ」


神崎茜と沢村歩美は、上空からの侵入を計画していた。


「安全?あなた今安全って言いやがったわね?」


「地上は見張りに見つかるリスクがあるし、水中では道具の不備が少しでもあれば窒息死。そうでしょう?」


「見つかっても死にはしないわよ。それに、道具の不備はこっちにも言える事だわ。パラシュートが壊れたらどうするのよ」


「五点着地でもしてみれば助かるんじゃない?」


「この高さで着地も何も無いでしょうが…!下を見てご覧なさいよ…!」


「ゴチャゴチャうるさいわね。…そろそろ目的の場所につくわよ」


「あんたのパラシュートが壊れる事を祈ってやるわ…」


「それはどうも」


歩美はパラシュートを背負い、ヘリの淵に立って下を見下ろす。


「先に行ってるわよ」


歩美は茜にそう言って、空に身を投げた。


「正気の沙汰じゃないわね…」


茜も淵に立つが、下を見下ろして苦笑を浮かべる。


「…ええい、ままよ!」


覚悟を決めた茜は、パラシュートを背負い、勢い良く飛び降りた。



彼女達がこの町に来た理由。


それは、昨日の事であった。



場所は、歩美の仮住まいであるマンション。


そこに、今日町に侵入した6人が集まっていた。


「揃ってるわね。それじゃあ、明日の計画を説明するわよ」


「歩美先生。質問」


初っ端から結衣が、話の腰を折る。


「…まだ話し始めてすらいないけれど」


「何でこのメンバーなの?」


「追々話すわ。まずは話を聞きなさい」


「はーい」


歩美は机の上に、第二東京ポートタウンの地図を広げる。


「明日、私達はこの海上都市、第二東京ポートタウンに侵入するわ」


「1年前に作られた町よね。今、大変な事になってるんだっけ?」


茜が呟く。


「えぇ。昨日の午前9時33分、この町の中心にあるイベント会場が発祥地の大規模なバイオハザードが発生したわ。感染はあっという間に広がり、今となっては生きている人間は居ないと判断されている程よ」


「それって、沢村さんが作ったウィルスですか?」


そう訊いたのは亜莉紗。


「市民のゾンビ化という点を見て、恐らくそうでしょうね。他にも、あなた達も知ってるクリーチャーの姿も確認されているわ」


「そこに、何をしにいくんです?」


梨沙が訊く。


「騒動の犯人と思われる人物の身柄の拘束よ。名前は津神麗子。私と同じ、裏の商売人よ」


それを聞き、眉を顰める恭子。


「津神麗子…。主に麻薬を取り扱っていると聞きましたが…何故彼女が生物災害を?」


「奴は私が作ったウィルスを手に入れ、とあるクリーチャーの製作に成功したらしいわ。今回の騒動を起こした理由は、その実験だと思うの。現に、町の中にはそのクリーチャーが何体か居るみたいよ」


「そのクリーチャーって、どんなのさ?」


結衣が訊くと、歩美は1枚の書類を取り出し、机の上に広げられた地図の上に置いた。


「D-00イリシオス。俊敏な動きと強靭な肉体、そして不死との事よ。わかってる事は、奴らは夜しか活動しないという事。私達は昼間に捜索すれば、安全という事ね」


「あなたにしては随分弱気ね。不死だかなんだか知らないけど、私達には倒せない相手なのかしら?」


茜が書類に載っている写真を見ながら、嘲笑気味にそう訊く。


「不死だって言ってるでしょう。並大抵の銃で撃ったとしても、怯みすらしないらしいわ。まぁ、身体を真っ二つにでもすれば、流石に死ぬとは思うけれど」


「不死じゃないじゃない」


「それほどしぶといって事よ。とにかく、こいつを見掛けても何とかしようだなんて考えないで、すぐに逃げなさい。良いわね?」


歩美の言葉に、茜以外の全員が頷いた。


「とりあえず、情報はこんな所ね。次に、侵入経路よ」


歩美はイリシオスの書類をしまい、地図に注目を促す。


「まず1つ目は、地上からの侵入。隔壁を乗り越える方法よ。崖際の南東部は見張りが薄いから、そこを狙うわ」


「シンプルですね」


亜莉紗はそう言ったが、結衣は別の見解を持った。


「それでも、キツいと思うけどね。そこに着くまでに見張りをかいくぐらなきゃいけないワケだし、神経使うと思うよ」


「結衣の言う通り、楽ではないわ。隔壁は、このフックを使って登る予定よ」


亜莉紗は歩美が用意した引っ掛けフックを見て、苦笑を浮かべた。


「…辛そうですね」


「どれが一番辛いかは人によると思うけれどね。…次に水中からの侵入よ」


歩美はそう言って、町の地下を通っている下水道を指差す。


「見張りに見つかる可能性は一番低いと思うけれど、体力的には一番大変な侵入方法になると思うわ。酸素ボンベとダイビングスーツは用意してあるから、それを使って下水道から侵入よ」


「げ、下水道…ですか…」


露骨に嫌な表情を浮かべる梨沙。


「下水道とは言っても、そこまで汚れてはいないと思うわよ。公害関連には、力を入れてたらしいわ」


「そうですか…」


返事はしたものの、梨沙の表情に変わりは無かった。


「最後は、上空からの侵入よ。ヘリを1機借りて、下からは気付かれない程度の高度から、パラシュートを背負って町に降下するわ」


「とっても楽しそうな侵入ね…」


苦笑する茜。


「楽しいかどうかは別として、便利ではあるわね。町のどこに降下するか、自分で選べるからね。予定では、中心部のイベント会場の近くにあるビルの上に降下するわ」


「この罰ゲームみたいな侵入方法は、誰がやるんです?」


梨沙が冗談っぽく、そう訊く。


「実は、もう見立ては立ててあるわ。それぞれの運動神経や体力を考慮すれば、こうなるのよ」


歩美は振り分けを発表した。


「地上は、峰岸恭子と上条亜莉紗。水中は、大神結衣と綾崎梨沙。上空は、私とあんたよ」


「はぁ!?何で私が上空なのよ!?」


反論する茜であったが、歩美は聞く耳を持たない。


「見張りの目を誤魔化す侵入技術は、恭子が長けているわ。亜莉紗は、彼女のサポートに向いているハズ」


「わ、私がサポートですか…?」


「便利な道具を色々もっているでしょう?それを使って上手く侵入しなさい」


「は、はぁ…」


納得はできなかったが、亜莉紗は歩美相手に反論をする気にもなれなかった。


「水中は体力が必要だと言ったわね。これはそのままよ。結衣と梨沙、2人が一番適任ね」


「………」


「…あなた、何か言いたそうね」


「…別に」


梨沙は大きな溜め息を吐いた。


「それでもって…」


「どうして私があんたと空を飛ばなきゃいけないのよ」


喰い気味に訊いてくる茜に、歩美は平然と答える。


「あまりよ」


「あ、あまり…?」


「振り分けは教えたでしょ?全員適任だから、残った私達が、残った侵入経路につくのよ。当然じゃない」


「納得できないわね…」


「もう決まった事よ。武器や道具を奥の部屋に用意してあるわ。各自、明日に向けて準備を始めなさい。以上よ」


「待って」


話が終わろうとしたが、梨沙が止める。


「最初に結衣さんが訊いた質問の答えがまだです。何故このメンバーなのか、教えてください」


「知る必要があると思う?」


「は?」


「冗談よ。と言っても、私が直接頼んだのは、結衣と茜と恭子だけなのだけれど」


「梨沙ちゃんは私の独断だよ」


そう言った結衣を、梨沙は訝しげに見る。


「…どうして私なんです?」


「背中を預けるなら、キミが一番だと思ってね」


「妹さんが居るじゃないですか」


「それなんだけど…あいつ、ちょっと怪我しちゃってね…」


「怪我…?…だとしても、以前、私はもう血生臭い事はお断りだと話したハズですよね?」


「じゃあどうして、今日ここに来たのさ?」


「それは…」


「それは?」


「………」


梨沙は上手く答えられず、押し黙ってしまう。


「…そのナイフ。彩さんから貰ったんだっけ?」


結衣がそう言って指差したのは、梨沙の腰元の大振りなナイフ。


「ど、どうしてそれを…」


「本人から聞いたのさ。梨沙ちゃんが、強くなりたいって言って私の所に来たって言ってたよ。本当の事かな?」


「………」


「確かに、戦う事によって得られる結果は大体がマイナスのモノ。でも、戦う事によって、守れるモノもある。キミはそれに気付いたんでしょ?だから、戦う事を決意した」


「…あの子は私が守る。いつ何があったとしても。…悪いですか?」


「とんでもない。…ぐだぐだ言ってきたけど、私が言いたいのは、キミを信用してるって事さ。よろしくね。梨沙ちゃん」


「…随分と強引に纏めましたね」


「纏めるのは苦手でねぇ…」


「ふふ…。そうですか」


結衣の話を聞き、梨沙は納得する。


しかし、あと1人、まだ納得していない人物が居た。


「あのー…。恭子さん。どうして私にこの話を…?」


「それは、あなたが優秀な人材だからに決まっているではありませんか」


「え、本当ですか!?」


「嘘ですよ」


「えぇ…」


「ひょっとして、私に何か文句を仰いたいという事ですの?」


「文句はありますけど…」


「お聞きしますよ。内容によっては…まぁ殺させて頂きますけどね」


「な、何でもないですぅッ!!」


亜莉紗はすぐに、納得した。


「歩美」


奥の部屋へ行こうとした歩美を、茜が呼び止める。


「何?」


「1つ気になってた事があるのよ。今回の計画、特兵部隊が絡んでいないのはどうして?」


「別件よ。和宮町の殲滅作戦とやらで手が放せないらしいわ」


「…そういえば、そんな事を言っていたような気もするわね」


「まぁ、今回の計画はそこまで人数を必要としていないから、別に良いんだけどね」


「そんな事ないわよ。寂しいじゃない」


「…寂しいって事は無いでしょうか」


「あなただって、あの子が居た方が良いでしょう?」


「………」


「あ、否定しないのね…」


「…さっさと準備しなさい。先に奥の部屋に行ってるからね」


「あ、逃げた!待ちなさい!」


一同は装備を整える為、奥の部屋へと向かった。


序章 終



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