プロローグ
「アジャラカモクレン・・・チャーハンオオモリ・・テケレッツのパー」
噺家、猫丸亭三毛が唱えた呪文で客席から笑い声が上がる。
「・・今日はチャーハンかよ。この前は牛丼大盛りだっただろ・・」
ここは浅草、とある寄席。
高座にのぼる父を客席から見上げる息子、藤田涼の姿がそこにあった。
「親父、今日はどんな落ちで来るんだ・・・」
猫丸亭三毛の今日の演目は「死神」
呪文や演出、舞台は演者によって多少異なるもののおおまかなあらすじとしては金に困っている男の前に死神が現れ死神の姿が見えるようになる呪いをかける。
死神が病人の枕元に座っていたらその病人は助からない、反対に死神が病人の足元に座っていれば助かる。足元に座っている死神に対して呪文を唱え追い払えと言うのだ。
男は大金を手にしたがすぐに貧乏へと逆戻りしてしまう。そこへ依頼が舞い込んだ。聞けば治せば三千両もの大金が手に入る。
死神は枕元にいるからこの患者は助からない・・どうにかして手段はないものか、男は居眠りしている死神の隙を尽き布団を半回転させ死神が足元に来たところで呪文を唱え死神を追い払ってしまう。
大金を手にした男が歩いていると死神に会い洞窟へと連れて行かれる。
洞窟にはたくさんの蝋燭がゆらめている。「人間の寿命だ」と言われ男は自分の蝋燭を見せられる。見るとそこには今にも消えそうな短い蝋燭が・・・
どうやら男は金に目がくらみ自分の寿命を先程の患者に売り渡したのだと言う。
もちろん蝋燭が消えれば男は死ぬ。
死神から渡された新しい蝋燭を短い蝋燭の火から継ぎ足そうとするが・・
「ほら・・手が震えてるよ、あぁ・・・消える・・」
猫丸亭三毛がその場に倒れ込む。
客席が一旦静まり次の瞬間大きな拍手に変わった。
夏の暑さにふさわしいくらい猫丸亭三毛の噺は涼しく、寄席の空気も一体となった。




