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第7話 決着!時空の神クロノス

「クイン、お前、雷神族なのか……」


 マヤがクインに問うと、うつむき答えようとしない。アゲハが割って入る。


「雷神だとか、かんけーなくない?」


 はっとしてアゲハを見上げるクイン。アゲハはまっすぐ見つめ笑顔で言い放つ。


「人間とか、雷神とかそんなの関係ないよ。生まれてきた時から誰だって平等でしょ!」


 

「クハハハハハ。平等? だと」


「ニャハハハハハ。笑わせるな下等生物が」


 ムカデ男とスタンピートは、腹を抱えて笑う。


「何がおもろいねん!」


 アカネは茶化されるのが嫌いだ。息も絶え絶えだが闘志は死んでいない。


「おい、まだかディーゼル」


 小声で聞くが、ディーゼルは何かを唱えながら首を横に振る。



「さあ、おしゃべりはこの辺にして、クイン。こっちにこい」


 ムカデ男が笑顔でこちらに手を伸ばす。


「しつこいねん!ムカデヤロオオオ!」


 アカネが力を振り絞り突撃する。


「アカネ!!」


 マヤの声も我聞かず。力を緩めることなく大きく跳躍していくアカネ。


「スタンピート、うるさいハエは叩かんといかんよな?」


「ニャヒ」


 スタンピートはニヤッと笑うと、飛び掛かるアカネの正拳をひらりと交わしボディに一撃ねじ込む。


「カッハアアア!」


 処女の可憐な口から大量の吐血がホールを染める。


「うるさい、小娘一番嫌い。死んで」


 スタンピートが右腕をチェーンソーに切り替える。電動ノコギリのキリリリという音が緊張感を高める。


――

「どけええええガキンチョオオオオオォォオォ!!!!!!!!」


 ディーゼルの大声を張り上げると、先ほどまで見ていたディーゼルの愛刀『天叢雲剣』とは、形が変わり、2メートルほどの長さに変化していた。振りかぶり真一文字に振りぬくディーゼル。刃の切っ先は見えないスピードまで上がる。

 同時にチェーンソーを振りかぶるスタンピートだが、自分も体の不安定さに疑問を持った。身体は胸の高さでちぎれ吹き飛ぶ。一皮一枚でつながる胴体はだらりとぶら下がる。


「大丈夫かガキンチョ。おいマヤ!運べるか!」


「お、おう。なんだ今の力!?」


「秘策ってやつだよ。下がってろ」


 アカネに駆け寄り「回復魔法(リカイフル)』を詠唱するマヤ。


「くそ、もう魔力が……」


 自分の思うほどの回復が行えない、アルコール+先ほどの戦闘でどうやら精魂尽き果てた。


「スタンピート。もう先に帰れ。足手まといだ」


 ムカデ男が触手でスタンピートのだらりと下がった胴体をグイッと持ち上げ力ずくで下半身に押し込む。下半身と胴体の接合部がウネウネとワイヤーが絡まり辛うじてつながったようだ。


「失礼しました。デミル様」


 スタンピートはガチャガチャと自分の部品を散らかしながら壁の亀裂から逃げようとする。


「逃がすか!」


 ディーゼルが踏み込むが、ムカデの触手が目の前を遮る。


「おいクソ剣士、どうやって剣の鋭さを上げた。人間界の金属ではヒビも入らないはずだが」


「ムカデ銀髪。やっとその顔が見れた。機械もそうやって焦るんだな」


 ディーゼルはニヤリとわらいウネウネと伸び縮みする『天叢雲剣』を構える。


「焦る? 焦ってなどいない。殺すぞ」


 瞬間、触手がディーゼルの足元を払う。


「ぬあっ!?」


「クハハハ。形勢逆転だな。ソォレ」


 横たわるディーゼルの横腹をけり上げると。ディーゼルはホールの隅にあるバーカウンターまで吹き飛ばされる。次々にグラスやワインが割れる。


「ディーゼル!」


――


「もうオレがやるしかない。おかあさんも、おとうさんも。今できたばっかりのパーティも……。 

 すべて台無しになった……なんでこんな目に……絶対許せない……」


 クインは涙を浮かべ握りこぶしを作る。怖気づいたわけじゃない。闘志が目に宿る。

 その瞬間バチバチと髪が逆立ち身体に電撃を纏っていく。


「クイン! 待って! やめて!」


 アゲハが止めるが、しかしクインの意思は固い。ニタニタ口角を上げていたムカデは、クインの好戦的な行動に鋭い目つきに変わっていく。


「クイン! 待ちなさい!」


 マヤがクインを止める。魔力はもうカラッケツだが僧侶としての務めからか、自然に声が出た。


 振り向くクイン。その目は8歳とは思えぬ覚悟に満ち溢れたものだった。だめだ。止められないやつだ。


「ワアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 稲光(いなびかり)がより一層強くなりホール全体を眩く照らす。クインは稲妻のスピードでムカデに距離を詰める。


「許さない!!!」


 クインのショートソードがムカデの腹部にささる。先ほどのトカゲ兵ならショートして倒せた技だ。


――しかし


「なんだ……おまえの全力の答えがこれでいいのか?」


 ムカデはニヤリと笑いクインに問う。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 クインの怒りなのか悲しみなのか、人間とは思えない咆哮で電撃がより一層強くなる。


「クイン! やめてえええええええ」


 アゲハの悲痛な叫び声がむなしく反響する。


「わかっただろ。無駄だ、いくらお前が本気を出しても。お前がいくら助けを求めても、いくらやっても。無駄なことが世の中にはあるのさ。生まれた環境が悪かっただけ、と言えばわかりやすいか。クハハ。お勉強しような。お前はまだ若い。この状況をよく観察しろ。な? わかるか? 死ぬしかないのさ。諦めな」


 ムカデはクインの握りしめるショートソードを優しく包み込むと、勢いよく抜いた。

 そして、にっこりと笑うと電撃で逆立つ髪を優しくなでる、

――そして流れるように、クインの首をゆっくり掴み、締めあげながら持ち上げていく。


「ぐうううあああ……ああああ……」


「見てみな。クソガキの拳法使いも、賞味期限切れの一発屋剣士も、何もできないビッチも、魔力の尽きたよいっぱらいシスターも、結局何もできない。これが現実」


 耳元でささやく。


「だったら……そ……そうやって……人を……殺していい……のかよ」


「お前の正義はなんだ。なあ聞かせてくれ。なぜお前らは機械を奴隷として扱うのだ?」


「……ど……れい……?」


「まあいい、もうあきた。落ちな」


「グアアア」


 より一層締めあげるムカデ。


――その時、ムカデが力をこめた右腕が力を失う。クインが気絶し床に横たわるとき、力の抜けた原因……いや、腕がもがれた原因がわかった。


「クインを離せ!」


 アゲハがバーの営業で使う『アイスロック』の魔術。普段はカクテルに使うが、危害を加えるために使うのは初めてのようだ。ガタガタと足が震える。


「ほう……なかなか純度の高い、『冷氷魔法(アイスナ)』を使うんだな」


「氷漬けにしてやる! ここで滅びろ! クソヤロオオオおおおお!」


 アゲハの周りが瞬間にして氷に包まれる。構えた両手から白い霧がシャワーのように噴き出しムカデを狙う。


「いい加減に邪魔をするな!!!!」


 吹き付けるアゲハの背後に回り込むムカデ。触手で体を支え、飛び上がると背中に向かって蹴りを入れる。


「キャア!」


 壁まで吹き飛ばされ気絶するアゲハ。


「しぶといパーティだ。めんどくさいなぁ……」


 ムカデはゴキゴキと首を鳴らすと唯一意識のあるマヤに目を移す。


「お前は今のところ一番レベルが高いようだ。次いであの剣士か。殺す前に名を聞こう」


「うるせえ……」


 マヤは息絶え絶えで答える。座り込むマヤは反撃する気力もない。


「答えないのか、じゃあ死んでくれ」


 ニコリと笑い、ちぎれた腕をウネウネ修復するムカデ。背後にはブンブンと今にも薙ぎ払おうと、触手がうねる。


「だめだ、死ぬ……」


 マヤは絶望した。そして走馬燈が過る。

 幼き頃の思い出。セリナと修業した日々。グランマの入れたレモンティの香り。癒した戦士たちの激励の言葉。とおさんの笑顔。かあさんの微笑み……神様……神様……



『呼んだか?』


 ムカデの触手がマヤの腹部へ突き刺さろうとした刹那。すべての空間が静止した。


『呼んだかと聞いている。小娘。我名は時空の神クロノス』


「え……なにこれ……」


 目の前にシルクハットを被った神々しい人物が立っていた。放つ光で顔は見えないが、腕を組みフワフワと宙に浮かぶ。

 迫りくるムカデの触手はピタリと止まり事なきを得たってことなのか。無意識に手を伸ばすマヤ。


『おいおい触るな。微妙に時は進んでいる怪我をするぞ』


 あっけにとられる。状況が呑み込めない。


『お前が我を呼んだのであろう?』


 はっとしてポケットにしまい込んでいた懐中時計を見る。時間は秒針だけとてもゆっくり動いている。


『どうしたい。小娘。あまりに絶望していたが。……はて? この魔力。シスタニアのシスターか』


「あ……あの……」


『我を封印してくれた、ジュセマスターに似ている。なんというめぐり合わせ』


「時が止まってる……」


『止まってはいない。微妙に進んでいる。現に見ろ、あそこの雷神がこちらに歩み寄ろうとしている。何という勇敢な目だ』


「あの……私は死んだのですか」


『死んではいない。私の力で空間を捻じ曲げている。ジュセの血脈を持つものよ。名を何と申す』


「マヤ……マヤ=ルナバーン……」


『マヤか。ではマヤ。我を呼び何を求める』


「あ、あの……えっと」


『ほほう……なんと珍しい要望。承知した。お前の死ぬ前の望みがそれとは現世の人間も愉快なものよ』


「え?! 何も言ってないんですけど」


 すると、時空がぐにゃりと歪み、シルクハットの男は吸い込まれ消えていく。


「なに!? えええちょちょちょちょちょ!!」


 ムカデの触手が動き始めるスピードが速まっているのがわかるが、自分で動いて回避しようにも動けなかった。触手に(おのの)いたのか、いや、まだ時空が遅いだけだ。


「しぃぃいいいいい……ねぇええええええええ……」


 スローモーションで聞こえるムカデ男の叫び。

 スロー再生がだんだん早くなる。動けない。死ぬ。貫かれる。終わった。

 マヤは目を閉じ再び祈りに入った。


――が、しかし現実は違っていた。


 ムカデの触手を素手で抑え、はじき返す男が目の前に立っていた。髪は長く金髪で美しくなびく。

 歳は25.6だろうか、長身でしなやかな肉体をしている。

 圧倒的なパワーで触手をはじき返すとくるりと反転し、回し蹴りをムカデに叩き込む。


「ガアァッ!!」


 きりもみ回転をしながらホールの反対側へ吹き飛ぶムカデ男。

 男は振り向きマヤに手を差し伸べる。


「大丈夫?僧侶さん」


「……だれ?」


 マヤに質問をするが、殺気に気付いたのか、クルリと砂塵に目をやる男。


「誰ぇええだあああ貴様ぁああああああああ」


 ムカデは回し蹴りで壊れた顔面を修理しながら砂塵からでてくる。感情を爆発させ怒り狂う。


「アースパワー109パーセント……」


 男がつぶやくと髪の毛が逆立ちバチバチと電撃を纏い始める。


「貴様あああああ! さっきのクソガキか!!!」


「だったら? エレクトロ!スタン!!」


 男がガシっと拳を合わせると電撃が更に強く激しくうねる。


「がああああああああああああああああああ!」


 ムカデ男がとんでもないスピードで迫り狂う。1撃目の触手は薙ぎ払われた。それを軸に、2撃目、3撃目と人間業とは思えないコンビネーションで迫る。


――がしかし。

 ひょいひょいと寸前ですべてかわす男。コンビネーションの隙間を見つけては電撃を纏う鋭いストレート、フック、アッパーが刺さる。

 見る見るうちに破壊されていくムカデ男。


「……ラスト」

 男がつぶやくと、右足に電撃が集まる。


「ぶっころおおおおおおおおおす!!!」

 最後の力を振り絞り跳躍するムカデ。


 それに合わせるようにして電撃を帯びた回し蹴りを叩き込む。

 ムカデ男は肩から袈裟切りに千切れ吹き飛ぶ。


「クイン……なの?」


 マヤが問うと こちらに振り向きニコッと笑った。


「そうだよ。僧侶さん」


 マヤは今まで聞いたことのない自分の心臓の鼓動の速さに戸惑った。


「ありがとう。マヤ」


 抱きしめられるマヤ。自然と涙があふれていた。

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