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第5話 呪われし勇者と機械兵

「続きまして。北東は雪原地帯よりやってまいりました。クラスマ王国からの勇者様のご登場です!ご準備の間しばしお待ちを……」


 マスターの合図で酒場の目はステージに集まる。


「クラスマ?おい…今クラスマ王国って言ったか?」


「よくこれたな……どんな奴だ」


 不穏な、どよめきと仲間内同士で目くばせが横行する。


 戦争状況に疎いシスタニア出身のマヤは不思議で仕方なかった。


「なぁディーゼル。クラスマ王国ってなんかだめなのか?」


 ぶしつけに質問するマヤ。


「お前しらねーのか。機械兵が攻めてくる最先端の王国だよ」


「機械兵?なんだそれは」


「おまえさ、のんきにお祈りばかりやってからだぞ。新聞を読め新聞を」


 ディーゼルは焼き鳥の串をマヤに向けて笑う。きったねえな向けるな。


「おっさん、ステーキおかわりしていいか?」


「ああ勝手に頼めよ、天引きな」


 アカネちゃん何人前喰う気だ? アカネの周りにには空になった皿が重なる。


「で、なんだっけ。お前が胸がない話だったかな」


 ディーゼルが話を戻す。


「うるせー死ね。機械兵の話だよ」


「おおそうだった。いいかよく聞け。およそ10年前マテリアルドラゴンが――」


「それはしってるぞ、なぞの剣士が退治したんだろ?」


「謎じゃねーよ俺なんだよ!」


 声を荒げるディーゼル。


「おっさんこのタラコ茶漬け頼んでいいか?」


「ああいいよ、なんでもいいからお前の5万から天引きだ、いいか、お前のお金なんだから。かってにどうぞ」


 ディーゼルはアカネの頭をガシっと掴み言い聞かせる。


 それを聞いてニシシと笑いメニューの端から端を頼むアカネ。


「まぁとにかくだ、北からマイナスの魔力を道源とする機械兵の侵略があってだな。

 初の被害にあった王国がクラスマ王国なんだ。辛うじて逃げた国王は、住民を見捨てたとかなんとかでえらく叩かれてよ。まあ実際その王家は滅んだと聞いてたのだが、そこの血を引く奴が今日来てるってことになるな」


「民を見捨てて逃げたが、帰る場所もないってことか…… あ、すいませんベリーワイン『ロック』で」

 

「かしこまりました」


 マヤはディーゼルの説明をしり目に、ウエイターにワインを注文する。


「今回は微妙な勇者だろうな、おそらく金もねぇし、武力もそこまでじゃねーだろ、金と武力は比例するからな……パスしたほうがいい」


「「「大変長らくお待たせしました!次の勇者様の準備が整いました! 張り切ってどうぞ!」」」


 するとドラムロールとファンファーレが流れステージに照明が集まる。


「さあ悪魔の血筋の勇者だ、どんな奴か楽しみだぜ」


 ディーゼルはアカネの頼んだ唐揚げをひょいとつまんで喰う。


 するとステージ袖からトコトコと少年がステージに入ってきた。

 サラサラ金髪で幼い顔立ち、目は大きく、キリッとした太眉で、いたずら好きなそうなガキンチョの登場に静まりかえる酒場の面々。

 少年は掌に書いたカンニングを確認すると、スゥ……ハァ……と深呼吸をし、口を開いた。


「オレは、クラスマ国からきた、 シュバイニー=クイン! 希望する職業は、ぶとうか!それから…まほーつかい!」

 

 ホールからはクスクスと笑いが発生する。


「あとそうろ! と剣士が欲しいです! よろしくお願いします」


 ダハハハハハと爆笑する一同。


 「マスター! ひっこめろ! ガキの使いじゃねーんだ!」


 「おいマスター! はやくママとパパよんでやれ。俺たちはホンモノの勇者希望だ! 子守なら教会紹介してやれ!」


 酔っ払った大人たちは次々にヤジをとばす。酔いのせいか、ブレーキが利かない。


 まあこの酔っ払いどものヤジも、あながち間違ってはいない気がするが……大人が子供相手にあまり心地のいいものではない。


「おい、僧侶さんよ。あれはタイプか?」


 にやつきながらマヤを茶化すディーゼル。勇者の演説は続く。


「パパとママはいないんだ……だからオレ強くなって。王国を取り戻すんだ!」


「あの子独り身なの……かわいそうに」


 マヤは心配した。こんな小さな男の子が一人でこの町まで来たのかと思うと、心が痛い。

 しかし勇者は勇敢演説を続ける。


「信じてください! 機械兵が人間に化けて僕の街に潜んでたんだ! それ僕見ちゃって……誰も信じてくれない! この目で見たんだ!」


「機械兵が人間に化けるだぁ?聞いたこともねえなぁ」


「ああ機械は機械だろ、ガシャガシャ音が鳴るしな」


 ホールからは否定的なヤジ。しかしクインの目は嘘をついているようには見えない説得力がある。


――


「クイン、とかいったっけ? あーし信じるよ」


 白髪のロングヘアーに、ルーズなだぼだぼのソックスを履いているにも関わらず、かわいいネコのキャラクターのあしらったサンダルという奇抜なコーディネートをした17,8のギャルが、ツカツカとステージに上がる。


 壇上に上がるや否やクインの目線までしゃがみ込み抱擁(ほうようした。


「あーしね。魔法使えるんさ。あんたのパーティにいれてくれっか?」


 抱きかかえられ一瞬驚くが、パッと笑顔になるクイン。


「うん!いいぞ!」


 ギャルな魔法使いをすんなり受け入れるクイン。クインの目には涙がたまってキラキラと輝く。仲間が初めてできてうれしいのだろうか。


「おい、あれ、裏手にあるバーの『低能アゲハ』だろ……」


「呪われたガキンチョ勇者と、ノータリン魔法使いアゲハのパーティか」


「これはスルーだ。ああおぞましい」


 ホールから冷ややかな目線が集中する。マヤはよく状況が呑み込めずにいたので早速質問を飛ばす。


「おい、詐欺剣士。あのイケイケの魔法使い何者?」


「アゲハっつってな。ここを出て2通り先にあるバーで働いてる子だよ。

 まあなんつーか。おつむが弱い。それをいいことにそのバーはよく闇取引で利用されるんだよ」


「へー。なんでまた勇者に立候補なんか」


「わからねえ。なんか怪しいな」


 そういうとマヤにお酌をするディーゼル。酒を注ぐ手がアカネにグイッと引かれこぼしそうになる。


「おいガキンチョなにすんだ」


「うち、あの勇者についていく。決めた」


 そういうとズカズカステージに近づいていくアカネ。


「おいおいおい! マヤ! 止めてくれ」


 止めるディーゼルを無視しあっという間にステージへ。もう止められない。


「勇者。あんた……オトンとオカン、おらんのやってな」


「あなたは武闘家? パーティに入ってくれるの?」


「ええで。ウチも帰る場所はない。クインの帰る場所取り戻しに行こや」


「うん! ありがとう!」


 ガシっと握手を交わす2人。肉親の不在に共感したのか。同情したのか。アカネは、すがすがしい笑顔でクインと握手をしていた。ちょうど姉弟のように……


「クイン、剣士も必要やないか?ちょうどええのがおんねん」


「剣士!? いるの?」


 そういうとディーゼルを指さすアカネ。


「おいおいおいおい……勘弁してくれ」


 マントで顔を隠し、机の下に隠れるディーゼル。

 アカネは策があるのかニタっと笑う。


「おいおっさん! 5万ゴールドの貸しがあるやろ! ボディーガードとして今から働いてもらうで!」


「くそ! ガキ! いい加減にしろよ!」


「あれ、マテリアルドラゴン倒したの嘘なんか? おっさんの剣術で一発解決やろ?」


「おいマヤ! 助けてくれ」


 ディーゼルは目の前のシスターに救いを求める。が、こればっかりはあんたの負けよ。


「いいんじゃない?楽しそうじゃん」


――


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 ホールの後方から女性の悲鳴が上がる。さっきの黄色い声援ではなく、(おぞ)ましい、恐怖の声がホール中に響き渡る。一斉に振り向く。

 そこにはムカデのように伸びる機械的な触手に首を掴まれ、足をばたつかせる魔法使いの姿があった。


「突然そこに座っていた人が!」


 あちこちで声がする。

 ムカデの触手の主は、深いフードをかぶった男。周りの剣士も一斉に剣を抜く。


「やはり出てきたな、クイン。まっていたぞ」

 ムカデ男が口を開くと、掴まれていた魔法使いの女性は壁にたたきつけられる。


 パーティ会場は一気に修羅場へと変貌していく。

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