その十 ふたりのうけとめた言葉
青潟大学附属中学校舎はいかにも「白亜の塔」って感じの建物だった。
冷暖房は完備されているし、生徒玄関にはロビーだってある。図書室も普通教室五部屋分くらいの広さだ。一年近く過ごしていると、そんな快適さも慣れちゃうもの。ちっとも珍しくなくなってしまう。
けどこうやって公立中学の校舎をじいっと見てみると、青大附属の環境がいかに恵まれているかよくわかる。
私は本品山中学の校門前に立っていた。
木造三階建の、見るからに寒そうな校舎。
土台には、ねずみのかじったらしき穴らしいものがところどころ見え隠れしていた。校門も、腕で一抱えある大木を二本並べて代用している。黒大理石で、『青潟市立本品山中学校』とつり出してあったけれど、やはり青大附属と比較すると見劣りする。お金かけてないのね、と言いたくなるような雰囲気が漂っていた。
門の影に自転車を隠し、私はコートを深く着なおした。
青大附中の制服が見えなくなるようすっぽり隠した。
ここから青大附中まで自転車で三十分。貴史としゃべった分、加奈子ちゃん到着までのタイムラグはあるかもしれない。私もかなり目一杯ペダルを漕いだつもりだ。もし待ち合わせしているとしたら、絶対間に合うだろう。読みはあった。
時計の針に目をやり時刻を確認。奥の方にちんまり覗く生徒玄関を眺めた。
学年別に分かれているというわけではなさそうだ。
玄関入り口付近では男子生徒が数人たむろっていた。すその長い学生服をたっぷりめに着こなし、なにやら白い息を吐いている。タバコの煙かもしれない。学校の玄関で吸うとはいい根性している。私好みのタイプではなかった。
時間を確認すると四時過ぎだった。立村くんと加奈子ちゃんは本品山中学の前で待ち合わせをしているはずだった。隠れ場所を探してみたがなかなか見つからない。私は自転車ごと移動することにした。向かいのグラウンド隅に、ちょうど運動部の部室らしき建物が立っている。プレハブの、触ると壊れそうな造りだった。壊れたベンチも放置されていた。運が良し。自転車と一緒に隠れた。
──本当に来るのかな。
ぐるぐると頭の中を立村くんとの会話が駆け巡る。
──立村くん、菱本先生に呼び出された件、終わったのかな。
──大急ぎで自転車を漕いだって、たぶんここには間に合わないよ。
──加奈子ちゃん、どうして待ち合わせしようなんて言い出したんだろう。
──貴史の言うとおり、立村くんを振るつもりだとしたら、直接はっきり言ってしまえばいいのに。三ヶ月以上ひっぱることないじゃない。いくら加奈子ちゃんが内気だからって言ったって、私が立村くんの立場だったら苦しいよ。きっと。なんで立村くんは加奈子ちゃんのことを好きになってしまったんだろう。ずっと評議委員で一緒にいた私を『清坂氏』と呼んでくれたのは、なんだったの? やっぱり貴史と仲良しだから、ただそれだけなの?『裏・ノート』に誘ってくれた時、私にだけしか話したくないって言ってくれたのは、何にも意味なんてなかったの?
私と貴史以外には打ち明けたくないと話してくれた『裏・ノート』のことを思い出す。
加奈子ちゃんと私は正反対の性格、雰囲気だ。もし立村くんのタイプが加奈子ちゃんタイプだったとしたら、私は明らかに外れている。もしかしたら貴史と同じなんだろうか。こずえに対して貴史が、
「いい奴だとは思うけれど、それだけ」
そんな感覚とおんなじだったのだろうか。
──けど加奈子ちゃんは立村くんと付き合う気はさらさらないはずよ。だって、彼氏を迎えに行くくらい、その浜野って奴のことが好きなんでしょ。こんな遠いとこまでよ! 好きでなかったらそんなことできないじゃない!いくら立村くんにつきあい激しくかけられたって、本気の相手あきらめられるわけ、ないじゃない!
貴史の推理を改めて噛み砕いた。大丈夫、チャンスはある。私だってあきらめない。
手をすり合わせ、息をかけながら私は門の近くに立って待った。門からは十メートルくらい離れているので、よっぽど目のいい相手でなければ気が付かないだろう。念のためにしゃがみこんだ。
私が五分、十分と時計を見直した時だった。
生徒玄関あたりでたむろっている連中のの動きが急にばたつき出した。ひとりはきょろきょろしたり、またひとりは意味もなくくるくるその場で回り出したり。そのうち、数人が一緒に両手を振り出した。その方向は、と見やるとそこには、サッカーボールを抱えていたままたったと玄関から飛び出してきた男子がひとりいる。そいつは片っぽのかかとで地面を数回擦り、周囲の連中に片手を挙げ、挨拶を交わした後、校門に向かって走り出した。勢いよかったのに突然、ぱたっと止まった。サッカーボールをかかえてそいつは私の方に向き直った。
──まずい、見られた?
息を呑んだ。うまく隠れるような格好で私は門にしがみついた。そうすると見えなくなってしまう。もう少し近づこうとして、私はしゃがみこみ、地面を這うようにした。反対側からだと目だつけど、校門の陰なら大丈夫。顔だけは見られないように、ダッフルコートのフードをかぶりなおした。
もう一本の門柱の陰に誰かがいる気配がする。
見覚えあるコートに、ふわっとした天然パーマのあどけない笑顔がちらついていた。
十分見分けられる距離だったけど、向こう側は気付いていないみたいだった。だいたい十メートルくらい離れているだろうか。
誰だか、すぐにわかった
加奈子ちゃんだった。髪の毛を解いていた。
ここで立村くんと待ち合わせをするはずだと聞いている。
ということは、立村くんもここに来るということだろうか?
それはまずい。どこか隠れ場所を探さねば。
あせる気持ちとは裏腹に、私はダッフルコートを着込んだまま、自転車と校門にはさまれる格好で様子を伺っうだけだった。どうしよう、気付かれたり、しないよね。
加奈子ちゃんは耳もとで軽く手をひらつかせ、サッカーボールの彼に飛びついた。
いきなり彼の胸にしがみついた。遠目から見ると、抱き合っている風にも見えた。
加奈子ちゃんはほとんど声を出さなかった。カップル、ふたり、仲良く手を握り合っていた。ちっともためらったりせず加奈子ちゃんはちろちろと目配りをした。誰も見ていないと思ったのか、彼の顔にいきなり頬をすりつけた。そして私がしゃがんでいる反対側の校門までゆっくりと近づいて来た。だいたい二メートルくらい離れているだろうか。かろうじて一言だけ聞き取れた。
いきなり爪先立ちで、相手の耳になにやらささやいた様子。
「俺んちに来るだろ」
加奈子ちゃんは頷いた。
身体全体を左右に揺らすようにして、くいっと彼を見上げた。
表情が確認できないのが残念だ。
「今日は大丈夫、だよな」
いきなりうつむいた。けど嫌がっている雰囲気ではない。
私が息を止めている間に、二人は改めて手をつなぎ直し校門を出て行った。視線は全く周囲に向けられていなかった。それが幸いだった。どうして私の怪しい格好に気付かなかったのだろう。ふたり、私のいる反対側へ曲がっていった。加奈子ちゃんの自転車をそいつは押して、取った手は握り締めたままでいた。そのうちいきなりそいつは自転車にまたがり、加奈子ちゃんを後部へ乗せた。横座りした加奈子ちゃんは相手の背中にほっぺたをくっつける格好で、かばんを抱きしめていた。
しゃがんでいる私の姿を、たぶん見られなかっただろう。信じたい。
──加奈子ちゃん、一体何考えているんだろう?
「俺んち」って、あいつの部屋に? あの加奈子ちゃんが。
そりゃあ、私だって榎本の部屋に平気でのこのことついていったことはあるし、貴史の部屋はほとんど喫茶店代わりに使っている。
人のことはいえないかもしれないけど。けど。
加奈子ちゃんみたいに、相手の男子にすりすりしたり、手をつないだりなんて、したことなかった。しようと思ったこともなかった。
二人がいなくなったのを見届けて私は一息ついた。
この前の榎本が話していた、品山小学出身の浜野というのは、たぶんあの「彼」のことだろう。あれくらい目に毒なほどいちゃついていたら、榎本も加奈子ちゃんの顔を覚えるに違いない。かなり前から加奈子ちゃんは本品山中学に彼氏をあの調子でお迎えに行っていたようすだ。公認状態だったのだろう。またからかいたくても、浜野という奴が元番長だけあって、後の報復が怖いというのもあったのだろう。
──まあ、好き好きやっているのはいいけど。
うちのクラスで、加奈子ちゃんが彼氏もちだなんて誰も想像していなかっただろうにな。
私はゆっくりと立ち上がり、自転車をひいて校門から出た。もうここには用がない。榎本に見つかったらまた面倒なことになりそうだ。それに加奈子ちゃんはあんなにべたべたしていられる彼氏がいるのだ。立村くんと付き合う気なんてさらさらないだろう。待ち合わせしていたとしても、まず入れないってことだけだ。
あれだけ甘えている彼氏がいるのだ。
たぶん加奈子ちゃんと立村くんは付き合っていない。
その点が確認できただけでも十分だった。
フードを脱いで、ペダルを片足踏もうとした時だった。
「清坂氏、どうしてここにいる?」
聞きなれた声が、背中に響いた。
「立村くん、え、私、あの」
振り向くとそこには、立村くんが自転車を同じように引いて立ちすくんでいた。
「さっきからあそこにいただろう」
声に表情はなかった。淡々とした、手折られそうな響きがした。ほっそりとした肩が、さらに下がり、わずかに私の方を斜に見つめていた。
唇をきっちり結んでいたさまが、はっきりと読み取れた。
今までにない立村くんの瞳だった。
かすかに潤んでいた。
「あのね、私の友達で、ええと、塾に行っていた時の友達で、用事があって迎えにきたのね。でも、もう帰っちゃったみたいだから、ちょっとぶらぶらしていたんだ。あ、そうだよね、立村くん、この辺に住んでいるんだよね。本当よ。本当にそれだけなんだから」
支離滅裂な言い訳をどこまで立村くんが信じてくれたかどうかはわからない。言いながらも身体ががたがた震えてならなかった。せめて貴史が居れば、すぐに話をそらしてくれるのに。フォローしてくれるのに。貴史を頼っているなんてばっかみたい。。
教室で見せる落ち着いた表情はそのままだけど、隠し切れないのは瞳だった。涙らしきものは残っていないし、慰めていいのかもわからなかった。
「さっき、杉浦さんがいただろう」
「あ、うん、いたよね」
びくびくしながら口だけは軽やかに答えた。
見た通りのことを話すしかなかった。
「加奈子ちゃん、彼氏いたんだあ。知らなかったよ。声掛けなくてよかった」
少しだけ、微笑んでくれた。
「明らかに彼氏はサッカー部よね。がっちりタイプが加奈子ちゃんの好みだったんだね。ちょっとびっくりしちゃった」
知らなかったふりをして話を続けた。
息が苦しくなり、言ってはいけない言葉が勝手に飛び出した。
「立村くん、加奈子ちゃんに振られちゃったね」
冗談っぽく続けたつもりだった。
私に顔を見られたくないかのように、すっと立村くんは横を向いた。
──図星だ。
──本当に、図星だ。
──こんなこと私は知りたくなかったよ。
──でも、言っちゃった。
──泣きたいなら勝手に泣いてよ。
──私はどうせお姉ちゃんに怒鳴られながら部屋で泣くしかないんだから。
──きゃあって叫び出したい気分よ。
──でも、こうやって今、私は立村くんの側にいるのよね。
──ひそかにほっとしているいやな性格よね。
──でもここで、「あんたが好きよ」なんて、言えるわけないじゃない。
「俺も前から知っていたよ」
ほんの少し黙った後、立村くんはこちらを向きなおした。瞳は自然な輝きに戻っていた。動揺の影が薄くなったようだた。
「そういえば、立村くんって、本品山中学の学区内に住んでいるんだよね」
「青大附属落ちていたら、本品山中学に行くはめになっていたと思う。たぶん」
その後、ひとり、呟いた。
「よりによって、相手が浜野だとはな」
立村くんの様子はその後も変わることがなかった。無口なままで立村くんは自転車を押していった。顔面蒼白、今にも倒れそうだった。小さな咳をしながらも、私を気遣うように時折立ち止まってくれた。
「途中まで送ってくよ。倒れそうだもん」
「そんな、いいよ」
口実をつけて、立村くんと一緒にいたかっただけだった。
私の想像以上に立村くんは加奈子ちゃんのことを想っていたのだろう。だから三ヶ月以上も待っていたのだろう。その思いが真剣なものだったから、加奈子ちゃんも無碍に断れなかったのかもしれない。
立村くんと浜野は、雰囲気顔立ち、性格も正反対だ。加奈子ちゃんが全く立村くんになびかなかったのは、好みが浜野タイプだったからだろう。
はたして加奈子ちゃんが二人のいざこざを知っているかどうかはわからない。加奈子ちゃんは自分に恋人がいることをきちんと示して、あきらめてもらおうとしたのだろう。精一杯の、誠意だったのだろう。
人が振られたところを見たのは、これが初めてかもしれなかった。
私は立村くんの表情を側で見据えたまま、寄り添っていった。
「立村くん、今日のこと、絶対誰にも言わないから。私しか、見ていないんだから」
答えはなかった。何も話したくないのかもしれない。ゆっくりと自転車を押していった。
「それにしても加奈子ちゃん、本品山に彼氏いるって言えばよかったのにね。みんな隠しているから、訳わかんなくなっちゃうでしょうにね。やだやだ、ほんとに」
橋を渡り、左に曲がり、遠くまで続くサイクリングロードを歩いていった。ここはなんどか私も通ったことがあった。気持いい車輪からの振動。身体の中に流れこむ風。それが今はすべて消えていた。一歩ずつ確かめながら進んでいくうち、榎本から聞いた話を思い出した。
──もしかして、ここが、決闘の現場だったの?
ぱさぱさと座りごこち悪そうな雑草が、なだれる坂に波打っていた。川は相当深いに違いない。真っ黒な水の流れだった。真下には白っぽいコンクリートがまんべんなんく敷き詰めてあり、川面まで六メートルくらいはあるだろう。川とコンクリートの境には、金網で柵が張り巡らされている。たぶん、このあたりが品山小学校の通学路だったのだろう。川に落ちないような配慮もされていたのだろう。
川には落ちない。でも、あのコンクリートまで自転車ごとたたきつけられたら、へたしたら死ぬかもしれない。でも普通ならば、草のところでひっかかるかなにかして、軽い擦り傷切り傷ですみそうだった。
立ち止まり見下ろした。
相当自転車の運転が得意で、かつスピードを出せる腕の持ち主でないと、突き落とすことは難しいだろう。一緒にこけたらもっと大事だ。
「清坂氏、もう知っているんだろう」
かすかな声が耳もとで聞こえた。
目をそらしたまま私は、立村くんの声を聞いた。
振り向けなかった。聞こえないふりをした。
「杉浦さんからも、全部話は聞いているんだろう」
首を振りたいけれど、本当のことを知っているからできなかった。
「もう、菱本先生が文集を作ろうが何しようが、どうでもよくなった。放課後呼び出されたんだ。評議委員会がすべての行事を仕切りすぎているから、文集委員関係については口出しするなって言われた」
評議委員会のことだったら、まだ私も言葉を挟むことが許されそうだった。
「どういうこと? 結局、文集を作るつもりでいるの」
「予想通り、班ノートをまるごと一冊の文集にまとめるらしい。年度ごとに。D組の分は卒業するまで三冊が出来上がるってわけさ。ただ、俺たちがいろいろと小細工をしてきたことが、どこかで知られてしまったらしい」
「私は言ってないよ」
「信じている。清坂氏は絶対、そんなことしないってわかっているよ。どちらにせよ、『裏・ノート』はやめようと思っているところなんだ。清坂氏には、変なこと頼んで悪かったと思っている。もっと、俺も清坂氏みたいに頭が切れればな。最後の最後であんなことにならなくてもすんだのにな」
「あんなことって?」
「杉浦さんが知っていたとはな、思わなかった」
それきり立村くんは口を閉ざした。
私も振り向かずに、金網越しの水面を見つめていた。
金網にぶら下がって、小学校低学年くらいの男子たちが奇声を発していた。落ちなければいいけれど。そのうち何人かは柵にけりを入れて、ぶら下がっている友だちをびびらせている。もちろんお遊びだとはこちらでもわかっている。そんなに危険ではない。私も貴史たちとよくやったもの。心配はしない。
──立村くん、ああいう風にじゃれることって、なかったんだろうな。
私から見れば、どうして六年間いじめられるのかそのわけがぴんとこなかった。おちついた端正な顔立ちは別にむかつかない。運動能力も人並み以上ある。偉そうな言い方もしないし。人の顔色を見すぎるところは、確かにあるかもしれないとは思う。けどそれは、私たちのことを友だちとして好きだからってこと、よくわかっている。
班ノートにはそりゃ、『気が弱い』『引っ込み思案』とか書いていたけど、青大附属でそんなところが目立っているとは正直思わない。
けど、私の見ている立村くんの姿は、青大附属だけのものだとしたら。
私は小学校時代の立村くんを知らない。
同じように、貴史といやな奴らをのして走り抜けてきた小学校の頃の私を、立村くんは見ていない。
あの頃のお互いを見ていないだけだとしたら。
足を引っ張られるような重み、その正体がどこにあるのか、見えた。
「立村くん、私、加奈子ちゃんから何も聞いていないよ。だから、安心して」
息をのどの奥まで吸い込み、私はしゃがみこんだ。立村くんの顔を見ないで話すことにした。
「もし、もしもよ。立村くんが班ノートに書いてあったことが、みんな本当のことだとしたら、そりゃあ、ショックだと思うの。いじめられて、出刃包丁を持ち出して学校に通って、卒業式の決闘で復讐しようとするなんて、青大附属の立村くんを見ているだけだったら考えられないもの。でもね、もし、それが本当のことだとしても、それは今の立村くんとは別のものだもの。私が見ているのは、今ここにいる、立村くんだけだもの。英語がものすごくできて、貴史と大の仲良しで、私と評議委員一緒にやってくれている立村くんしか知らないもの。それにたぶん」
なにかが心で解けた。
「そうじゃない立村くんだったとしても、私なら仲良くしていられたよ。きっと」
背中で感じる温かい気配。ほのかな温もり、空気の揺れが伝わった。
──何かするの?
──手なんか握らないでしょうね。
──あたりまえよ、加奈子ちゃんに振られた後なんだから。
私が想像していることはなんにもしなかった。
「清坂氏と、小学校一緒だったらよかったと思うことあるよ。ありがとう」
私は振り向かなかった。
立村くんが自転車を漕ぎ出しその場を去るまで、そのまま背を向けたままでいた。