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「てめぇで最後か………!『紅剣』、うらぁああああああああ!!」



振るわれた炎を纏ったショートソードが、狼型の魔物、その最後の一体を切り裂き、絶命させる。


これで視界に入る範囲に、狼は残っていない。殲滅完了だ。そう思いホッと一息ついた瞬間。



「……………かはっ」



突然吐血してしまい、その場に倒れこむ。合計三十匹くらいとの戦闘は、俺の体をボロボロにしていた。


くそっ………、血を流しすぎた。それに骨も何本か折れているだろう。まさに死に体である。このままじゃ出血多量で死んでしまうので、治療の魔法を自分にかける。魔力が残ってたのが幸い………か。



あぁ、俺、このまま死ぬのだろうか。治療の魔法で傷は治っていくが、体に力が入らない。


あんな奴らにはめられて死ぬ……………か。ははっ、笑えねぇ。もし生き残れたとしたら、佐藤と坂嶋は絶対に…………、殺す。


そうやって憎悪に身を浸すと、体に少し力が入る。やはり負の感情のほうが、正の感情より人間を動かす原動力となるのか。そんなどーでもいいことを考えいたら、意識が朦朧としてきた。ちょっとは回復したとはいえ、傷は深い……な。



薄れ行く意識の中、これまで生きてきた俺の十六年の人生が、ビデオの巻き戻しのように、脳裏を流れていく。これが……………走馬灯ってやつか。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




俺、天導 楽斗の人生は、常人のそれとはかけ離れている。少なくとも、俺はそう思っているし、他人に話したところで冗談と思われるか、頭のおかしいやつだと誤解されること必須だろう。


通常、生まれてきた子供は、親からの愛を受けて育ち、幼稚園、小学校、中学校、高校……と健やかに大人への道を進んでいくのであろう。例外はいくらでもいるだろうが、おおむねの同学年の人間がそんな人生を送っているのはまちがいない筈だ。



俺が親からもらったのは、暖かい親愛ではなく、冷酷な悪意。


もともと、父親が愛人に生ませた子供だった俺は、両親にとって邪魔以外の何者でもなく、物心ついたときにはすでに、軟禁された生活を送っていた。


軟禁生活の中でやることと言えば、部屋にあった教科書や学問書での勉強と、自分の体を鍛えることくらい。幸い食事は一日三食与えられていたので、餓死することはなかった。


体を鍛えたのは、いつ殴られても大丈夫なように。両親と、その子供のサンドバックのような扱いをうけることもあったので、体を丈夫にすることは、必要不可欠だった。


正直、よく生きていたもんだ。俺が殺されなかったのは、両親に最低限の良心が残っていたからだろう。



俺がその生活から解放されたのは、俺が十二歳の時だった。


両親はとあるベンチャー企業の社長で、会社を大きくするために、色々と悪どいことをしていたらしい。そんな両親の被害者の一人が凶行に及び、俺以外の天導家の人間を殺害。そのまま警察に自首。


そうして警察の捜査が家に入り、軟禁中の俺が発見され、保護されることとなった。


警察官の人に支えられて、初めて見た空に感じた解放感に、こらえきれない涙を流したのを覚えている。


まぁ、そこからも色々と大変なことがあり、それをどうにか項にか乗り越えながら生きてきた。




それが、こんなことで終わる?




何の苦労もせずに手に入れた力で増長しただけの餓鬼どもの、子供っぽい嫉妬で、俺のこれまでは否定されるのか?





…………………………ふざけるな!そんなこと、俺は認めない。




死んでたまるか!もし死ぬとしても、その死に方を、人に誇れるものでありたい。


ゴミみたいな両親を見てきたから。あいつらみたいな死に方なんて、真っ平ごめんだっ!!





起き上がれ、俺の体。動き出せ、俺の心臓よ。




魂に火をくべて、破滅の運命をこわしつくせっ!





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……………く。う、うぅ………」



闇に落ちていた意識が、現実に引き戻される。


戻って………これたのか。良かった。


体の状態を確認すると、傷がだいぶ回復しているのが分かった。


…………それと同時に、自分がもう長くはないという事実を悟る。


人の意思で取り戻せる生命力は、所詮この程度と言うことか。ステータスカードのHPには、『10』と書かれている。残りHP10でこの森を抜けて王都に戻るのは…………無理だな。


固い地面から起き上がり、力なく笑ったその時。



『だ、誰か……………たすけてっ!!』



森の奥から聞こえた叫び。それを聞いたとたん、俺は、動かないはずの体で、声の方向に走り出していた。




二百メートルほどを、木々を掻き分けて進むと、そこには、俺が倒した狼型の魔物を二周りほど大きくした、黒いオーラをまとった怪物と、その怪物に追い詰められている、銀髪の少女がいた。って、銀髪の娘メッチャ可愛いっ!?



とりあえず、怪物と少女の間に、割って入る。この状況で、実は怪物の方が襲われていました、何てことはあり得ないだろうから、これでいい。



「あ、あの………。貴方は……?」



恐る恐る少女が声を掛けてきた。まぁ、怪物に襲われている最中にボロボロの男が乱入してきたら、怪しまれるに決まってるよな………。



「あー。ま、通りすがりの死にぞこないって所だな。安心しろ、敵じゃねぇから」


「は、はぁ………。………っ、そうじゃなくて!逃げてください!早く!」


「なんで………って、うわっ」



銀髪の少女と話をしている途中に、怪物が攻撃を仕掛けてきた。ギリギリ回避したけど、こいつ、強い。狼とは比べ物になんないくらいに。


くっそ、MPもほとんどねぇ、体もほとんど動かないとかどうすりゃいいんだ。



「………逃げてください。貴方まで、死にますよ?」


「やなこった。お前は俺が助ける。俺がそう決めたからな」



と、言ったものの、どうするか……………。

考えなしに飛び出すんじゃなかった。と言うか、俺が助けてほしい位なのに他人を助けようとするなんて、俺、そんなにお人好しだったけか。


ま、もう尽きかけの俺の命を、こんな可愛い娘のために使えるってなら、それも悪くない。



さて、この怪物を倒す手段だが………。あるにはあるんだが、その手段を使ったら、俺は確実に死ぬ。それほど危険な技なのだ、これから使うのは。王城の書庫でこれを見つけたとき、発案者の正気を疑ったものだ。





ーーーーーーーさあ、覚悟を決めろ。命をかける、覚悟を。






「『我が欲すは力、ただそれだけ

その為ならば、我が血を、肉を、骨を、魂さえも代償にしよう

例え痕に塵すら残らぬとしても、我はそれで構わない

我の全てを対価とし、我が願いを聞き届けよ』」




俺の体から、膨大な力が湧きだしてくる。これは、自分の存在を捧げ、一瞬だけ神にも等しい力を手に入れる技。



その名はーーーーー。





「『サクリファイス・バースト』」





ーーーー俺の放った一撃は、怪物を粉々の粉塵へと化し、俺自身の魂も、粉々に砕け散った。




くくくっ、最後の最後のに人助けが出来たんだ。もう………くいること……なん……て…………………………。






こうして、俺、天導 楽斗は、死んだ。

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