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アースカイ王国の王城がある、王都ソラリアの北部には、広大な森がある。
森の名は、ノウズ樹海。
危険な魔物や魔獣、毒性植物などが生息する危険地帯で、その危険度は奥地にいくほど高まる。
一説では、この森の最深部に、四大強種の一柱、精霊族の隠れ里があると言われており、人族はこの地を魔境として恐れるが、亜人族は、聖地と崇めている。
ただ、森の浅いところでは、貴重な薬草がとれたりするので、それを目当てに冒険者たちが集まることもあるらしい。
………と、ここまでが、城の兵士から聞いた情報。やっぱり現地の人間の話ってためになるよな。
そんな危険満載の森に、我ら召喚組男子はいる。魔物との戦闘経験を積むために、二週間に一度ほど行われる訓練だ。女子は城での訓練。男女で日にちをずらしているらしい。
女子の目がない男子だけという状態に、羽目を外しているアホも少しいる。
…………いくらチート持ちだからって、油断しすぎだな。こいつらが死ぬ分にはどうでもいいが、巻き込まれちゃ叶わない。
不足の事態ってのは、いつでも起こりうるからな。
「おーい、天導。おいてかれるぞー」
「ん、悪い。すぐいく」
森の木々を眺めてボーッとしていたら、俺だけ遅れてたみたいだ。
俺を読んだのは、豪山。身長190cmオーバーで、アメフト部の期待の星だった男だ。
天職は確か………【金剛の勇者】だったな。規格外の膂力と桁外れな耐久性を誇る。なんかもうストレートに強いチートだ。
模擬戦で戦った時も、スピードで撹乱して、時間切れ似持ち込むのが精一杯だった。巨大な斧を二本持った、巨斧二刀流スタイルは、スピードこそ遅いが、一撃でも食らえば、即、お陀仏である。
そんな豪山と軽く話しながら森の中を進む。話す話題はもっぱら模擬戦のことや、異世界に来てからの出来事。誰々と誰々がこっちに来てから付き合い始めたとか、逆にどっかのカップルが別れたとか、そんな他和いもない話。
豪山は、一緒にいて不快にならない、友達としてはかなりいいやつだ。脳筋なのがたまにキズだが。
いやぁー、もしドラゴンと戦うことになったらどうする?って質問に、「レベルを上げて、殴りまくる」という解答をされた時は、唖然としたね。まさかレベルを上げて物理で殴るを地でいくやつがいるとは………。というか、お前の武器斧だろ!殴んなよ!
「ん、あ、あー、そいやぁさ、お前はどうなんだよ、天導」
「何がだ?」
「ほら、その、異世界来てからの恋愛事情的な…………。お前って何げにモテるんだろ?そういったうわついた話、ねぇのかなって……」
豪山が何かを探るように聞いてくる。てか、何で俺の恋愛事情なんか…………。……………はっ!ま、まさか……………。
「……豪山。そんなに俺の恋愛事情が気になるのか?」
「お、おう。興味津々だぜ」
「そうか………」
豪山………。お前………。
「ホモだったのか………!」
「違うわあああああああああああああああああ!!」
「え?違うの?」
「何その意外そうな顔!オレはホモじゃねぇ!」
「なるほど、つまり男だけでなく女もいける両刀使い…………と言うことだな?」
「さらに悪化しやがった!?」
ギャーギャー騒ぐ豪山をみて、ケタケタと笑ってやる。それを見て、やっとからかわれていることに気づいたようだ。
「天導………」
「くはははははっ。悪い悪い。で?なんだったっけ。えーっと………あぁ、俺の恋愛事情ね。まぁ、あるにはあるぞ」
「やっぱりあるのか…………。で?誰と、何をしたんだ?」
んー、その質問のしかたかぁ………。正直に答えてもいいのだろうか?
豪山なら言いふらすようなこともしないだろうし………。うん。答えよう。
「王城に勤めている娘で二人………だな」
「ふ、二人ぃ!?で、な、ななな何をしたんだよ………」
「何って…………ナニ?」
「フオゥ!?ま、ままままままマジ………で?」
「マジだけど………」
こいつ何をそんなに驚いてるんだ?確かに日本ならおかしいかもしれないが、ここは異世界。一夫多妻が一般的だって教わったじゃないか。
……………あ、もしかして。豪山って………。
「……………………童貞?」
俺の言葉に、ビクッとなる豪山。図星か。
「そっかー。豪山って童貞だったんだー」
「…………………わ、悪いかよぉ………」
「ん?全然悪くないよ?別にその歳で童貞でもおかしいことなんてこれっぽっちもない。皆無だ。だからさ、誇れよ。…………童貞だと言う事実を」
にっこり笑って、豪山にそう言う。そこには100%の悪意しかない。
俺の言葉に、ショックで崩れ落ちる豪山。わあ、いい反応。
俺は精神的なダメージに倒れながらプルプルと震える豪山を静かに見下ろす。
自分がいま、すごくゲスい顔をしていることを自覚しながら…………。
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その後、ショックから回復した豪山といっしょに、散発的に現れる魔物を倒しながら進む。まぁ、出会い頭に俺が魔法で葬っているので、豪山の出番はほとんどない。
さっき話込んでいたせいで、先に行く先頭集団にだいぶ離されてしまった。森の比較的浅い所だから、チート持ちの豪山がいれば大抵のことはなんとかなるだろう。
と、また魔物か。今度も狼型の魔物。なんかやけにいっぱいいるよな、狼。
「『雷光』」
手のひらを唸っている狼にむけ、魔法を発動。放たれた雷撃がその肉体を蹂躙し、その命を奪う。
断末魔の悲鳴をあげることもなく、狼はその体を塵に変えた。あとには指先ほどの結晶だけが残る。
その結晶を拾い上げて、腰に吊るした袋に入れる。だいぶ貯まってきたな。
この結晶体は魔物を倒すことで得られる魔石という物質だ。その名の通り魔力を宿しており、魔道具の燃料となるものだ。イメージ的には、魔道具が電化製品で、魔石が電池………みたいな感じだ。
魔石の回収を終え豪山の方を振り向くと、不思議そうな顔をした豪山が質問を投げ掛けてきた。
「なあ、天導」
「ん?どうかしたか?」
「いや、ちょっと気になったんだが…………なんでお前、魔法使えるんだ?確か、スキル無しなんだろ?」
「あぁ、その事か。たまに聞かれるな」
ほんと、俺が魔法を使うのを見た人全員に言われてる。説明が面倒なので、基本的に秘密にしてあるのだが…………今は話の話題として、簡単に説明してやろう。
「んーまぁ、俺も感覚でやってるから詳しいことはわからんが……。やってることを一言で言えば、『魔法の模範とその応用』だな」
「………どゆこと?」
ま、これだけで理解しろってのも酷な話か。
俺のやっていることを理解するには、まずこの世界の魔法がどういうものなのかを知らなければならない。
この世界の魔法は言うならば、詠唱というキーワードで、スキルが構築し発動するもの……という感じだ。
もうちょっと詳しく言うと、魔法の発動にはいくつかの段階があり、詠唱をすることで、スキルがMPと引き換えに段階を一瞬で踏んで、魔法を発動させているのだ。
なら、その段階を自力で踏覇すれば、スキル無しでも魔法が使えるってことだ。
ま、言うほど簡単じゃなかったけどな。何度も試行錯誤して、徹夜での練習を繰り返したからできた。普通じゃないやり方は、本当に疲れる。
ここまで来たら魔法の構築に手を加えて、自分好みにカスタマイズすることは簡単だった。さっき使った『雷光』は、雷を手のひらを向けた方向に落とすという魔法。雷属性の『ライトニング』を改造、改良したものだ。
後は、ステータスの知力値の存在だろうか?知力値は魔法の構築に深く関係がある。知力値が高ければ高いほど、魔法の構築がスムーズかつ複雑にできる。
……と言ったことをかいつまんで豪山に説明する。話が難しかったのか、頭からプスプスと煙を出している。
「よ、よくわからん………」
「ははっ。ま、お前は脳筋だからしかたねーよ。それに、あと十四年もすれば、魔法使えるんだぞ?」
「十四年………?………って、そこまで大事にする気はねぇ!………ん?」
と、豪山をからかっていると、正面から、猛スピードで走ってくる男子たちの姿が。その後ろには……………………………大量の狼型の魔物。
「「何があったああああああああああああ!!」」
あの量はヤバイ!いくらチート持ちがいるからって、多勢に無勢。すぐに体力がつきて殺られる。
やっぱり、戦いは数だったよ………アニキ!
俺と豪山も一緒になって走る。でも、悲しきかな。チート持ちと万年レベル1の俺とでは、ステータスが違う。あっという間に他の連中に置いていかれそうになる。
かといって、後ろの狼共をどうにかできるとも思わない。散発的に魔法を放つが、倒せるのはほんの一部だけ、まさに焼け石に水だ。
「くそ!身体強化はもう限界だしな……。目くらましでもつくる………って、うおぉ!!」
痛っ!なんだよ。なにかが足に…………。
転んだ体勢から、足を見る。そこには、俺の足に変形して絡み付く、土が………。
チッ、やられた。十中八九男子生徒のやつらのうちの誰かだろう。
そいやぁ、佐藤の天職が、【大地の勇者】だったな……。こんな直接的な手段に出てくるとは………。油断しすぎだったな。
これを仕組んだ奴は後で殺すとして、この状況をどう切り抜けようか……。
「クハハハッ!殺ってやるよ狼ども。獣風情が、俺を殺せると思うな!『雷光・蜘蛛巣』!」
とりあえず、全滅させてやらぁ!