表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

1

「ど、どうなってんだよ……………これ」


「て、天導くん……………」



教室での昼休み中に、突然現れた幾何学模様が放つ光に飲み込まれた灯堂高校1年A組の面々は混乱の極みに陥っていた。

光が消えたと思ったら、自分達がいる場所は見馴れた教室ではなく、石で造られた見馴れぬ部屋。その部屋の壁、床、天井には、教室に浮かび上がった幾何学模様が刻まれている。



「な、なんだよこれっ!」


「僕たちは教室にいたはずだろぉ!??」


「もしかして……………、誘拐?」


「うわああああああああ!おかーさーん!!」



生徒達は教室が光った時以上のパニックに陥る。冷静な思考を残している者は、全体のほんの少数だ。



「花、体に異変はないな?」


「う、うん………。そ、それより………天導くん?そろそろ離してほしいなぁーって」


「ん?あぁ、悪い」



楽斗が抱き締めていた花を解放する。花の顔は熟れたリンゴのように真っ赤になっており、腰が若干抜けている。



「し、幸せすぎて……………死ぬ」


「なんか言ったか?」


「う、ううん。何でもないよ……」



挙動不審な花にいぶかしげな顔になる楽斗だが、石づくりの部屋、その部屋のひとつしかない扉の向こうから聞こえてきた、コツコツという音に警戒を高める。

やがて、扉が開かれてそこから入ってきたのは、おとぎ話に出てきそうな、ドレス姿の美少女。その美少女は部屋で狼狽えていた生徒達のことを確認すると、見惚れるような笑顔を浮かべ、口を開いた。




「ようこそいらっしゃいました!勇者様方。アースカイ王国は、あなた方を歓迎します!」








「「「「「「……………………………………………………………………………………はぁ?」」」」」」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おおっ!そなた達が伝説の勇者か。ワシがアースカイ王国の国王のアンデス・シャウス・アースカイじゃ」


「申し遅れました。アースカイ王国第一王女シスタ・シャウス・アースカイです」


「「「「は、はぁ……………」」」」



あのあと、ドレス姿の少女、シスタにつれられて1年A組ご一行は国王を名乗る齢五十ほどの男と面会していた。場所は、王城の最上階に位置する謁見の間である。やたらと天井が高くて、やたらと豪華な部屋の、一番奥。そこだけ床が高くなっているところに、国王はいた。国王はゆったりとした金糸の刺繍がされたローブに、たくさんの宝石があしらわれた王冠と、『THE・王様』といった格好をしている。



「さて、そなた達を呼んだ理由やらこの国の現状やら、話さねばならないことは色々あるが……………。まず、こちらの都合でそなた達を呼んだことを詫びよう。本当に申し訳ない」



国王はそう言って、王座のに座りながら深々と頭を下げた。国王の突然の行動に、周りにいた大臣や騎士達がざわつき始める。



「お、王よ。このような者どもに頭を下げるなど………」


「お辞めください!こんな何処の馬の骨かも分からぬ奴らに………」


「黙らんか!!ワシらのしたことは、言わば誘拐………。それに、力を貸してもらうのはワシらの方……、礼を尽くすのが道理と言うものだ。いいか?今後、勇者達に余計なことをたくらむと言うのなら………………、ワシの権限にて、死罪にしてくれよう。……………わかったな?」


「「「は、はいぃ………」」」



国王のあまりの迫力に、顔を真っ青にする大臣や騎士達。そしてその影響は、生徒達にも出ていた。よくわからずにキョトンとしていた生徒達の大半が、直立不動で震えている。まともに動けるのは、楽斗、蓮、勇正、遠藤。そして楽斗の側にいて、幸せそうにニコニコしている花くらいだ。



「さて、とりあえずそなた達を呼んだ理由なのだが………シスタ」


「はい。それでは勇者様方、わたくしの方から、この国の現状をふまえて説明させていただきます」



シスタ王女がペコリと一礼し、話出す。その内容を要約すると、このようになる。



この大陸には人族以外にも様々な種族が暮らしている。


まず、人族。

人族は大陸の中で最も多い人口を誇り、アースカイ王国、クライク帝国、セイスタ神聖国の三大国が中心である。聖神セインメントを崇める聖典教会が多く信仰されている。数百年前までは国と国の間の戦争が頻発していたが、三大国が和平条約を二百年前に結んだことで、小規模な小競り合いは続いているが、大規模な戦争は起こっていない。


続いては、亜人族。

亜人とは、獣人、エルフ、ドワーフなどの総称であり、自然をこよなく愛する種族だ。人族の領地から、大きな荒野を挟んだ先にある、『自然の楽園(ガーデン)』というところに住んでる。崇拝するのは精霊である。


この二種族は互いに共存しており、良好な関係を築いている。

だが、最近になって、大陸の北方に住む魔族が二種族に対して攻めいるようになった。


魔族は高い魔力を持ち、個々の戦闘能力が高いうえ、魔物を率いる能力を持っているため、被害は増える一方である。

そこで、攻めてくる魔族を打ち倒すために切り札として召喚されたのがーーーー


「勇者様方と言うことです」


「………なるほど、事情は理解しました」



シスタの言葉に答えたのは蓮だった。楽斗は完全に傍観をきめこんでいる。と言うか、長々とした話に飽きてきたようで、顔を背けてあくびをしている。緊張感の欠片もない。



「ひとつ、聞かせてください。…………僕達は、元の世界に帰れますか?」


「……………それは………」



蓮が押し殺した声で訪ねる。シスタは一瞬、国王の方に視線を寄せたが、すぐに蓮に戻し、深く頭を下げた。



「申し訳ございません。勇者様方を元の世界に戻すことは、不可能です」


「…………ッ!………そう………ですか」



蓮がショックを受けたように顔色を暗くする。他の面々も似たような表情をしており、中には泣き出してしまうものもいる。



「あー。ちょっといいか?」



謁見の間に突如訪れた針で刺すような静寂を破ったのは、楽斗の気の抜けた声だった。



「話が止まっちゃったんで、俺も質問していいか?」


「え、えぇ。どうぞ」



楽斗の物怖じしない問いかけに、少しうろたえるシスタ。王女として常に周りから敬われてきた彼女にとって、楽斗の純度100%のため口は完全に未知のものだった。



「あんたらの話を聞く限り、俺らって戦争用の兵器的な扱いなんだろ?でもな、俺ら向こうの世界では戦争どころか、喧嘩すらほとんどしたことないんだわ。まぁ中には武道経験者とかもいるかもしれんが…………それでも、命のやり取りなんて、出来るとは思わないんだが……………。そこんとこ、どうなん?」


「その事ですか………。あれを持ってきなさい」



シスタの命令で、台車に乗った何かが運ばれてくる。彼女はその何かをひとつ手に取ると、それを全員に見せた。

それは、何も書かれていないカード。



「勇者様方を召喚したあの魔法陣は、異世界より強力な能力を持つものを探し出して召喚するもの。つまり勇者様方はあの魔法陣に選ばれた時点で、高い能力を保有しているとわかるのです。そして、その能力を確かめる道具が、このーーーーーーーーーーーーー『ステータスカード』なのです。勇者様方、これを使ってご自分の力をご確認下さい。ステータスカードは手に持って『ステータス』と念じることで使えます」



シスタが説明したカードが、生徒たちに配られ、皆それぞれが自分のステータスを確認し始める。



「おぉ!本当に勇者って書いてある!」


「なんかゲームみたいだな。ドラ○エとか」


「えっとなになに………癒しの勇者………って回復役かよ!」


「……………なんで私が猛毒の勇者なのかしら?」


「毒舌だからじゃない?」



十人十色な反応を見せる生徒たち。蓮や花も自分のステータスを読み込んでいた。ちなみに二人のステータスはこうである。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


綾先 蓮 / Lv 1


HP 300/300

MP 150/150

攻撃力 100

防御力 100

速力 100

知力 100

精神力 100

運  10


天職 【聖光の勇者】


スキル


[剣術] [聖魔法] [勇者の(ブレイブソウル)] [聖光斬]


固有スキル


[限界突破]


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


天宮 花 /Lv 1

HP 150/150

MP 350/350

攻撃力 50

防御力 50

速力 65

知力 150

精神力 130

運 25


天職 / 【極炎の勇者】


スキル


[極炎魔法] [魔法激化] [勇者の(ブレイブソウル)] [召喚・獄焔竜]


固有スキル


[詠唱代行]


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ちなみに、二人のステータスはこの世界の平均値を大きく上回っており、流石は勇者召喚陣に選ばれただけのことはある。

生徒たちが自分たちに大きな力があると分かり、色めき立つ中、蓮が静かに口を開いた。


「………みんな、聞いてくれ」



蓮が生徒たちの方に振り向き、うつむき加減に語り出す。騒いでいた生徒も蓮の真剣な雰囲気に静かになった。



「いきなり、異世界とか勇者とか言われて混乱してると思う。僕もそうだ。はっきり言って、僕たちがこの人たちの言うことを聞く義務もなければ、義理もない。でも……」



蓮が顔を上げ、しっかりと前を見据える。その瞳には、揺るぎのない決意が宿っていた。



「僕たちには、力があるんだ。困っている人たちを助けることのできる力が」



蓮の言葉が、生徒たちの心にスルリと入っていく。一瞬で心を掴む、圧倒的なカリスマ。生徒たちは皆、固唾を飲んで蓮の言葉を聞いている。



「だったら、助けよう!これは僕たちにしか出来ないことなんだ。僕たちが希望となって……………世界を、救おうッ!!!」





「「「「「ッ!!ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」」」」」





大絶叫。大興奮。希望に満ちた叫びが、次々に上がる。国王や王女、大臣に騎士までもが明確な勇者の誕生に顔をほころばせ、手を叩いている。


そんなお祝いムードのなか、一人だけ何もせずに固まっているものが。



「あの………、どうかなさいましたか?」



シスタが固まっているものーーーー楽斗に声をかける。楽斗はシスタをちらりと一瞥すると、無言でステータスカードを見せた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


天導 楽斗 / Lv 1

HP 60

MP 200

攻撃力 35

防御力 25

速力  40

知力  70

精神力 50

運   100


天職 / 【¢£%@¢%】


スキル


[]


固有スキル


[???]


ーーーーーーーーーーーーーーーーー





「…………………ステータスバグってんだけど………なんで?」


「………………ふぇ?」





…………………………………………………………………………






「「「「「はあぁ!!??」」」」」



ほぼ全員が驚愕の声をあげる。



「ハ、ハハハ、ハハハハハ…………………ハァ」



面倒なことになりそうだ。と、楽斗はため息をはいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ