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キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り響き授業の終わりを告げる。学生達は皆、授業の重圧から逃れられたことに喜びと安堵の笑みを浮かべる。
今は四時限目が終わり、昼休みになる時間。生徒達は机で弁当をひろげたり、学食へ駆け込んだりと思い思いの行動をとり、昼食の準備をする。それが、灯堂高校の昼休みの光景だった。
それは一年A組でも例外ではない。ただこのクラスはとある理由で全員が教室で昼食をとっていた。もちろん例外もいるが。
その例外の代表である 天導 楽斗は、カバンからカロリー○イトとライトノベルを取り出すと、そくささと教室を出ようとして………………一人の女子生徒に呼び止められた。
「あっ!天導くん。お昼ご飯、いっしょに食べない?」
そう声をかけてきたのは、ライトブラウンの髪を肩甲骨辺りまで伸ばした美少女だった。その美少女が教室を出ようとしていた楽斗に駆け寄る。
「ダメ……………かな?」
「………………………ハァ、わかったよ。天宮」
少女の名は 天宮 花。料理が上手く、面倒見がよいと、男子生徒から絶大な人気を誇る学校のアイドルである。
その学校のアイドルは楽斗の言葉に不満げな表情を浮かべた。
「天導くん…………。わたしのことは、花って呼んでって言ったよね?」
「あー悪い、忘れてた。えっと……花。………これでいいか?」
「うん!」
楽斗に名前で呼ばれて嬉しそうに満面の笑みを浮かべる花。それを見た他の男子生徒がポーと惚けたような表情になる。そして、そんな笑みを向けられている楽斗に殺気のこもった目を向ける。
そんな視線などものともしない楽斗は、花につれられて机をいくつかくっつけて作った大きな机に近づこうとして……………三人の男子生徒に道を阻まれた。
「おいこら天導。てめぇ誰の許可とって天宮さんといっしょに飯食おうとしてんだ?アァ?」
「おかしなこと言うな、遠藤。そんなの花の許可にきまってんだろ?」
「あーーー!こいつまた天宮さん呼び捨てにしたーーー!ふざけてんのかこのやろう!!」
「そーだそーだ!なんてうらやま………けしからん!」
「うるせぇ…………。というか邪魔だからどいてくれると助かるんだが……。あと坂島、欲望が漏れまくりだからな?全然隠せてないからな?」
楽斗の行く手を阻んだのは、楽斗によく突っかかってくる三人組、遠藤 孝志、佐藤 健二、坂島 敦である。彼らは花によく話しかけられ、なおかつ女子からの人気もそこそこ高い楽斗をねたんで、こうして絡んでくるのである。楽斗にとってはうっとおしいことこの上ない連中だ。
「天宮さん。こんなオタク野郎こいっしょに飯食うなら、俺らと食べませんか?」
「……………わたしは天導くんといっしょに食べるからごめんね?」
「だ、そうだ。残念だったな。遠藤、佐藤、坂島」
遠藤が楽斗の持つライトノベルに目を向けながら花に言う。その視線には侮蔑の色が込められれていた。だが花にはあっさりと断られ、楽斗に至ってはさっさと席につこうとしている。
ちなみに楽斗は本好きであってオタクではない。学校の放課などの短い時間でも読めるような本がライトノベルなだけである。
楽斗は遠藤からの侮辱を受けてもまるで動じずに、肩をすくめるだけである。そんな楽斗の態度が気に食わないのか遠藤がドスの利いた声を出す。
「天導ぉ………。あんまふざけた態度とってるとマジでボコルか」
「そこまでだ!」
遠藤が切れる寸前に、鋭い制止の声がかかる。声の主は楽斗と三人組の間に入ると、四人の顔を見回して口を開いた。
「遠藤、そうやって直ぐにカッとなるな。皆の迷惑になるだろ?」
「……………チッ、わかったよ。ったく、相変わらずいい子ちゃんだなぁ、綾先」
四人の間に割って入ってきたのは 綾先 蓮。成績優秀、スポーツ万能で正義感に溢れている絵に書いたようなイケメンである。そして花の幼馴染。女子からの人気は楽斗よりも上だ。まぁ、楽斗の人気は彼の内面によるものが大多数を占めるので、不特定多数に人気のある蓮には負ける。
「それに、天導もだ」
「あ?」
すでに花といっしょに席に座っていた楽斗が「何かようかしらん?」と蓮に顔を向ける。その目は「話し掛けるなめんどくせぇ」と雄弁に語っている。
「天導。前々から思っていたが、こういうことに花を巻き込むのはやめろ。それに、お前にも非はあるんじゃないか?」
「……………なぁ、花。さっきのやり取りで俺に何か非があったか?ないよな」
「うん、天導くんは何も悪くないよ。つっかかってきた三人が悪いんだもん」
「だとよ」
「で、でも花を巻き込んだのは事実………」
「わたしは別に気にしてないよ。あっねぇねぇ天導くん、カロ○ーメイトだけじゃ足らないでしょ?久しぶりの採点もかねてわたしのおかず、食べてくれる?」
「ん?いいぞ。お安い誤用だ」
花は自分の弁当箱からハンバーグを一切れはしでつかむと楽斗の口に「あーん」しようと……………する前に楽斗がひょいとそれを指でつまんで食べてしまう。
もぐもぐとハンバーグを食べる楽斗と、楽斗に「あーん」をすることができずにずーんと落ち込む花。それを見たクラスメイトの反応はというと…………?
「天導のヤロォ………。天宮さんの手作りハンバーグだと…………?」
「畜生っ!この世に神はいねぇのか…………!」
「「「「「テンドウ、コロス。ゼッタイ、コロス」」」」」
「あー!花ちゃん、天導くんに料理食べてもらってる、いいなーー」
「アンタ………、料理できないでしょ…………?」
……………………………実にさまざまである。
「おっ美味い。ずいぶん上達したなぁ。これなら90点くらい上げてもいいな」
「ホント?やったぁ!」
ちなみに、この二人は同じ家庭科部に入っており、その関係は師弟みたいなものである。
「…………おい、てんど」
「こらっ、その辺にしておきなさい」
「風音……」
「そーだぜ。天導はなんも悪くなかっただろ?」
「勇正…………。わかったよ。天導」
「ん?なに?まだなんか文句あんの?」
「いや、お前は別に非があるわけじゃなかった。疑ってすまない」
「いーよ別に、気にしてないから。まぁ、遠藤達はムカつくけど」
「「「おいっ!!」」」
花と蓮の幼馴染の 水戸ヶ谷 風音、豪山 勇正の言葉で矛を収める蓮。しかしその瞳は楽しそうに笑いあう楽斗と花を複雑そうに眺めている。
そんなどこまも平和な光景。だがそれは、あっけなく崩れ去ってしまう。
「っ!な、何だ!?」
ひとりの男子生徒が叫び声をあげる。突然、教室の壁、床、天井に幾何学模様が浮かび上がったのだ。
幾何学模様を見て楽斗は、最近読んだライトノベルを思い出した。
ーーーーーーーーーーーそういえば、異世界召喚の魔法陣って、こんなかんじだったな。
当然パニックに陥る生徒たち、蓮や先生が「落ち着いて!」と声をかけるが一向に効果はない。そのうちに幾何学模様は発光をはじめ、徐々にその光量を上げていく。
「て、天導くん……………」
「大丈夫だ」
胸にしがみついてくる花を抱きしめ、その頭を安心するように何度もなでる。こうしているうちにどんどん光は強くなり、視界と意識を塗りつぶしてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「「「「「「「「「「「「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」」」」」」」」」」」」