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『レース開始10分前』
私と槍は、大きな船に乗っている。
今いる場所から、川を下っていた。
それにしても、大きな川
そして、激流……
アリー、大河アイルは大きいよ。
大河と付くのは、理由がある。
でも、俺も見るまでは思わなかった。
私もよ。
この大きな船、凄いね。
大河をものともしない。
「大地の血」と「宙の脳みそ」の賜物だね。
……不思議ね。
科学って!
アリー、そろそろだ。
緊張してないか?
ないわ!
でも、緊張感はある。
……今日はいい天気ね。
暖かい。
桜風は吹いてる。
気まぐれな風だから……
わかってるわ。
……始まる。
服従の言葉……
槍に姿を変えられし男衆、私に力を!
魔女の呪いに架けられし我は……
呪いの主、アリーの命に我従う。
共に我等は、一つであると……
……だったよね。
こら大変よ。
だったよねは、余計!
堅物達に怒られる……
「スタート1分前、飛行空間に上昇!」
よし、槍始まるよ!
うん!
アリー、跨がれ。
……いいわ!
……大丈夫?
うん……
アリー、上昇する!
お願い!
うぁー……
足が地面から離れていく。
槍と私が空に舞い上がっていく!
……地上が、小さくなっていくわ。
この感覚いまでも、不思議……
アリー、このレースのおさらいをするよ。
処女喪失戦
天候 晴れ
風向 西……桜風だな!
風速 5m
飛行距離 5000m
浮遊範囲 100mから200m
そこにゴールポケットがある。
ゴールポケットは、直径100mの円……
そこに飛び込むレース!
わかってる!
ゴールポケットは
あの白いリング!
別名、エンジェルリング!
エンジェルリング……か
槍になった男衆は、目が見えない。
アリー、キミが俺の目だ。
うん……
狼煙玉が上がってくる。
これが、割れたら始まる……
……割れる!
『バーン!』
アリー!
行くよ!
うん、カズキ、行こう!
アリー、俺に抱きついて
空気の壁にバランスを崩す!
わかってる!
カズキ、スピードを落として……
他の出方を見る。
わかった。
今、俺はどの辺りだ?
10人中、4番手くらい……後ろは6人!
地上約180m……
位置はいい!
カズキ、大丈夫?
うん、余裕だよ。
風もあまり強くない。
アリー、俺を抱いたかい?
しっかり、しがみついた。
空気との接点を減らさないと!
よし!
『レース 1000m通過』
……ん?
後ろから、1人並んでくる魔女がいる。
風壁にされそう。
今、私達は西風……桜風に煽られてる。
東に流されながら、前に進んでいる。
つまり、西風の壁に私達を利用しようとしている!
アリー……
それは、立派な戦術だ。
どうする……
スピード上げるかい?
それとも、控える?
……バック30で牽制する。
並びかける魔女の真後ろに位置を取る!
バック30……
なるほど!
アリー、それを使うか。
魔女レースにおいて……
魔女の後ろに付いてレースをするのは反則!
それをする!
……ふん!
アリーが方向操作をする。
進行方向を後ろの魔女に併せる。
バック30……30m以内に後方侵入は反則になる。
どいだい、牽制出来た?
うまくいった!
牽制どころか、警告をつけたわ!
位置を変えた。
位置を変えて、前に出るみたい。
『レース 3000m通過』
カズキ、余力はある?
全然……大丈夫!
そろそろ、スパートのための位置取りをして
わかった。
……槍を下に押すよ。
少し高度を下げる。
エンジェルリングの真ん中辺りを確保!
スパートはまだよ。
私の前には、アナログ時計で言うところ……
私達を中心に、5時、10時、11時……
その位置に、3人を確認した。
後方5人との距離は開いた。
後ろは、考える必要はない!
わかった。
これが、今の位置取りか!
カズキ、本当に大丈夫?
うん、ありがとう。
でも、俺は大丈夫だから!
『レース 残り1000m』
カズキ、スパートよ!
わかった!
いくぞ!
!!!
……凄い!
俺にしっかり掴まれ!
落ちるなよ!
うん!
……凄い
……本当に凄い
私は何もしない、していない!
だけど!
カズキ、アナタは……
「青色ローブ、アリー1着でリングイン!」
実況の声がする。
1着って言ってたけど……
アリー、俺は本当に1着かい?
うん、余裕の1着よ。
カズキ、本当に大丈夫?
疲れはない?
念は大丈夫?
アリー、俺は大丈夫だよ。
アリー、ごめんね。
キミの仕事、今回はなかったね。
今回は?
今回もの間違いよ。
……ありがとう、カズキ
とうしたの?
私を選んでくれて。
アナタなら、どの魔女に抱かれても……
俺の主は、アリーだけだ。
アリー、俺が嫌い?
バカ!
好きよ。
だから、伴侶の契りを交わした。
私の呪いを架けた。
アリー、俺はキミだけだ。
……さあ、ヴィクトリーフライだ。
堂々とするんだぞ!
カズキ……ありがとう。