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神様の恋煩い  作者: 和をん
水と火の秘恋の章
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水と火の秘恋の章:2度目の接触

直接的な表現ではないですが、暴力を示す言葉がありますので、ご注意ください。

天井近くにある排気口から光が漏れる。

その度に思う。


ああ、今日も生きてしまった、と。




がちゃり、と鎖の音がした。

ゆっくりと首を上げる。


何かの夢を見ていたような気もするが、きっと気のせいだろう。

気のせいでなくとも思い出さない方がいいのはわかっていた。


俺が見る夢が不吉でないわけがないのだから。


四方を壁に囲まれただけの「部屋」は

土の神が俺を閉じ込めるためだけに作ったものだった。


薄暗く、じめじめした重い空気だけが部屋を満たす。

時折微かに聞こえる鳥や草や空気の音が、耳についていらいらとする。

心ががさがさして、俺は何か聞こえてくる間はじっとするしかない。

外の音は危険だ。


俺がここにいる理由を考えてしまうから。


いつ発狂するともわからない、この場所で、

泣けばご飯を抜かれ、

ドアを叩けば水をかけられ、

声を上げれば丸一日殴られる。


生きていることが不思議だった。

なぜ生まれてしまったのか不可解だった。

これほどに疎まれる存在が、なぜこの世に生まれるのだろう。


俺が生まれたのは俺のせいではないのに、

俺がその咎を背負わなければならないのか。


俺が生まれたいと言った訳じゃない。

生んでから、こいつは違ったなんて言うなら

最初から生まなきゃいいのに。



窓から光がこぼれる。

久方ぶりに見た昨日の昼間の光はすごくきれいでまぶしくて、痛かった。


あの青い少女も。


壁にぐったりと背をもたせかけて、俺は漏れてくる光に浮かぶホコリを何とはなしに眺めていた。

昨日殴られたからか、体中が軋む。

まるまっていたから顔はなんとか防いだが、その分背中とお尻を思う存分蹴りあげられた。


「いて」


身じろぎすると同時に思わず声が漏れた。

痛いと感じる余裕があることに笑える。


「・・・痛いのか?」


その時の衝撃をどう伝えたら良いだろう。

俺は思わず息を呑んで、それから天井を仰ぎ見た。

幻聴が聞こえてしまうほどに、俺は頭がやられてしまったのだろうか。

それは俺を打ちのめすのに十分で、おもわず壁にずるずると崩れ落ちた。

しかも、その幻聴があの少女のものに聞こえてしまうことに、思わず舌打ちしたい気分だ。


「痛いのなら、これを塗るといいぞ」


まるで部屋の中が見えているかのように、正確にその袋は伸ばしていた足にぽとり、と落ちた。

薄暗い光の中で浮かぶその茶色の巾着が、俺はまだ狂っていない、ということを教えてくれる。


「痛み止め、だ。私の母が作ったものだから効き目は確かなはずだ」


ふっ、と嗤ってしまった。

右手でひもをひっぱる。

緑色の粘土のような固まりが口から顔をのぞかせる。


「効き目うんぬんより、俺は手が使えないんだけどな」


「な、なに!? 手も怪我していたのか? どうしよう、塗り薬しか持ってきてない」


小さな声で呟いたにも関わらず、相手はその言葉を確実に拾っている。


「いや、手は怪我していない。それより、早くそこからいなくなってくれ」


「・・・・・・」


「傷より、あんたの存在の方が気に触る」


「・・・わかった。存在は、許してくれ。また来る」


水の、柔らかな空気が消える。

そこは静かで、暗くて、じめじめした陰気なものしかなかったはずなのに。

彼女の存在が、それを消し去っていたことを彼女がいなくなって初めて気づいた。


自分で放ったはずの言葉は天井から外に出ずにゆるゆると自分に落ちてきたみたいだ。

苦しくて痛くて、なんで。


巾着を握りしめる。


構わないでくれ、と泣き叫びたい。

けれど、同じくらい、構ってほしいと心が叫んでいる。

ぎゅっと、巾着ごと膝を抱えた。

感情が乱れると炎が出てしまう。

炎の気配に土の神は敏感だ。

絶対に知られてはいけない。


彼女が、あの美しい女神がくれたこの巾着を

手放したくはなかったから。


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