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異世界のグルメ  作者: ミントドリンクwithココア
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第六話 ファンタジー世界でグラタン

第五話はR-18G指定のこちらで投稿しました。

http://novel18.syosetu.com/n8353cx/

よろしくお願いします。

 右手には鬱蒼とと茂った森が広がり、左手には眼下に広がるこれまた緑色。青々と茂ったそれらの木々には大音量のロックコンサートを開催中の何かのセミがポロンポー、ポロンポーと鳴いている。鳩じゃないんだよなぁ、これ。

 馬車で揺られガタガタと、日干しレンガで舗装された道路を馬車は登っていく。俺の横では相変わらず女の御者が無表情で2頭立ての馬車を操作している。本日の目標は山間部、ドワーフ達の地下都市だ。


 そこはフェスタリット大陸中央部にあるドワーフ達が治める地下都市だが、元は難民達の集まりであった。5年前にたまたま訪れた俺とカテキン──ドラゴン寿司を作った馬鹿──がこの山で簡単な地質調査をしたところ、銀鉱脈の存在を確認。俺とカテキン、それに他の2人の友人の協力でリザードに追われたドワーフの難民達は開拓民にクラスチェンジ。ツルハシなどの手掘りの採掘道具から麻のパンツまで全部俺達が投資し、山道を日干しレンガで舗装出来る程度には育ったわけだ。おかげで俺達は製鉄も出来るドワーフの都市に無茶振りが山程出来て大満足。


「それにしても開通するとはね。」


 道路の舗装は彼らの悲願でもある。こちらとしてもいくらか投資したので感慨深いものだ。


 異世界のグルメ -第六話 炭酸水とグラタン-


 片手で数えられる程度の馬車や荷車を引く大型亜人達とすれ違いつつ、俺はドワーフの町へとたどり着いた。真正面に広がる物は山というよりは丘か。木がびっしりと根を張る斜面には地下から巨大な煙突がいくつも伸びており、何本もの製鉄およびコークを作る黒煙や白煙が空を汚している。その斜面の正面には丸太で作られた柵と門。そして銀や金属を精錬する金槌の音が未だ門をくぐっていないというのに聞こえてきた。


 ガタゴトと馬車は揺れながら門の前で歩みを止める。門番は4名、どいつもドワーフで、2名は俺よりも大きい、2mほどはあるハルバード──小さな斧の刃がついた槍──を掲げ、残りの2人はジャベリン──投げ槍のこと──と盾を持っている。


「ようこそ、ケラトナスへ。」


 フェスタリット大陸の古いドワーフ語で旗を意味する言葉、俺の顔を知らないドワーフの開拓民も相当増えたものだ。


 柵の内側は割りと重武装、どう見ても先端を50度ぐらいにあげて対空用にしたバリスタ──滑車で縄を引っ張り、槍などを射出する攻城兵器──が見える範囲だけで6つは用意されており、脇には弾用の長さ1m、太さは俺の腕ほどの槍が1機につき5本は置いてある。仮想敵はドラゴンか、ワイバーンか、最近の勇者はずいぶんと寡黙になったものだ。


 さらには移動可能な投石器に、移動不可能な超巨大投石器。元々物騒でハルピュイアが攻めてきたりしてたとはいえ、随分重武装。しかし何よりも変わらないものはある。集落全体がニンニク臭いのだ。


「あぁ、あそこので止めてくれ。」

「わかりました。」


 馬車は門の近くにあった交易商向けの大きな宿屋の馬車置き場をスルーさせ、別の武器屋の馬車置き場へと止った。


 武器屋は平屋だが、裏では簡単な竹の柵で囲まれたの金属加工場から絶えることのない金槌の音。俺は平屋のほうをスルーし加工場へと直接歩いて行った。


「タロー!元気そうだな!」

「オラタデエスア!そっちこそ……ヒゲが一部消失してるぞ?どうした。」

「火吹きトカゲにやられたよ!最近しつこくてな!」

「空を飛んでて寿司になってるようなトカゲか?」

「そうそう!スシとやらは噂で聞いたがうまいのかね!」

「割りといけたよ!エールにはあわんけどな!」

「そりゃ残念だ!昨日も肉が手に入ったばっかりだってのに!」


 俺は雑談を交わして笑いながら、目的の物の具合を問いかけた。


「で、間に合ったか?」

「あぁ!スリング用の鉛弾8,000個な!間に合わせたよ!相変わらず大口取引を持ってきてくれて感謝するよタロー!」


 スリングとは、手のひら大の加工した皮の両端を革紐でしっかりと結わえて作られた投擲用の武器である。非常に原始的だがそのおかげかどのようなファンタジー世界でもよく使われる。鉄兜すらものともしないほどの威力を持つ武器だ。ポストアポカリプスの世界でも銃弾が欠乏していてなおかつ瓦礫以外の物資が無く、弓の加工技術が失われた場所ではよく使われている。


「お互い様だよ、こんな量を用意してくれる加工場はなかなか見つからないんだ。さて、こっちも代金としてスクイール銅貨を4,000枚、スクイール銀貨を45枚持ってきてある、俺達の取引じゃまず大丈夫だとは思ってるが、確認してくれ。」

「いいぜタロー!そっちも8,000個の鉛弾を確認してくれるんだな!?」

「……金だけでも確認してくれねぇかな?」

「タローの持ってきた金だ!大丈夫だろ!」


 そりゃ確かにあんたとは難民時代からの付き合いだけどさ、という声は飲み込んで、俺達は品物と金を確認しない信用取引でモノを交換することにした。


 この数の銅貨を集めるのはちょっとばかし苦労したが、こればっかりは仕方が無いよな。ところでこれだけ銅貨を持ち込むとこの大陸でインフレが起きそうなものなのだが、異世界商人共がポータル港に貨幣を持ち帰っているせいでむしろデフレが起きてる始末。ちなみにスクイール通貨は古代リス民族がフェスタリット大陸を制覇した時に生産した物で、1500年前からずっと使われ、鍛造され続けている奇妙な通貨である。ポータル港内の古物屋で1500年前に作られた銅貨が飾られているのを見て驚いたものさ。もちろん非売品だった。


「じゃああんたの馬車から金と交換で鉛弾載せるよ!飯でも食って待っててくれや!最近はハルバードが良い具合だぜ!」

「わかった、そうさせてもらうよオラタデエスア。」


 ハルバードが良い具合とはね、PDAの翻訳回路のアップデートをしたほうがよさそうだ。俺はそう思いながら大きな宿屋に備え付けられた食堂へと足を運んだ。


「それにしても、大きくなったもんだ。」


 鍛冶場黒煙は絶えず、柵で集落を囲めるほどにまで成長した。彼らに投資したかいがあったものではあるが、それと同時にポータル港のほうもよくわからない。文化汚染は嫌うポータル管理局だが、現地の技術の範疇におさめてしまえば何やったって自由ってのは一体何が目的なのやら。無敵の象徴だったドラゴンを倒せるようにまでなってしまったフェスタリット大陸を見ていると本当にそう思う。


 何人か見覚えのある異世界商人とすれ違いつつ、食堂へとたどり着いた。床も壁もテーブルなどは全て木製で、それぞれのテーブル席にはいくらかの香辛料入りの陶器が置かれている。場所によってはガラス製の花瓶が置いてあり、そこにはよくわからないけど花が飾られていた。客の大半の要望にすぐ答えられるよう、カウンターの上には蛇口月のタルが1つ置いてある。間違いなく中身はエール。見なくてもわかる。ついでにカウンターの裏には蒸留酒や果実酒の瓶も置かれているんだ。


 食堂は別種の亜人達でそこそこ繁盛しているようで、ウェイトレスの女ドワーフが忙しそうにホールを歩きまわっている。だが俺の姿を見つけると、そのおばちゃんは満面の笑みを見せながらこちらへと小走りでよってきた。そして俺のケツを音が出るぐらい手で一叩き。


「タロー!元気そうじゃないか!」

「いてっいたたっ、痛いよクルネデソナリ。そっちもドラゴンを落とせるぐらい元気そうで何より。」


 挨拶のハグもそこそこに、クルネデソナリはまくし立て始める。


「カウンター席だろ!?それでもって注文は酒じゃなくて水って言うんだろ?でも今日はまってほしいんだよ、新商品があるのさ!」

「新商品?とうとうフルーツジュースでも扱うようになったのか?」

「いんや、シュワシュワする水だよ、仲間内じゃスパークリングウォーターって呼んでる。これがうちの目玉になるかタローにも教えてほしいのさ。」

「スパークリングウォーター……ね?いいよ、わかった。後普通に飯も食べたいんだけど今日は何?」

「ハルバードのグラタンにガーリックトーストさね!ささ、座って座って!すぐ持ってくるよ!」


 スパークリングウォーター?ってことは炭酸水か?だけどそんな難しい物を作る環境なんてあっただろうか……。


・炭酸水 -セットメニューでスクイール銅貨3枚-

 炭酸の弱い炭酸水、炭酸水は自然環境でも見つかるがビールの発酵槽で副次的に作り出すことが可能である。ただしその製法は量産には向いていない。

・ガーリックトースト(のようなナン) -セットメニューでスクイール銅貨3枚-

 パンというよりもナンに近い。水と小麦粉を混ぜあわせて発酵させた後、平たく伸ばした物を粘土で作ったオーブンで焼いた物。焼き上がった後に半分に切ったニンニクをこすりつけてニンニクの風味を移す。枚数は1枚。


・ハルバードのグラタン -セットメニューでスクイール銅貨3枚-

 槍のハルバード、ではなく現地の言葉でSpring birdとなるものを誤訳した。ハルバードはピンクがかった白い羽毛を持ち、ぶっちゃけ鶏である。ペシャメルネソースを鶏肉や野菜と混ぜあわせ、上にチーズを適量ふりかけた後オーブンに突っ込んで焼きあげた物。皿と量は結構大きく、グラタン皿というよりカレー皿に近い。味に飽きたらカウンターに備え付けられている胡椒か塩を適度に振ろう。


・ノビルの酢和え -セットメニューでスクイール銅貨3枚-

 この近辺に生えていたネギに似た野草の葉と球根をさっと茹でてお酢で和えたもの。なお、ノビルとは雑草の一種であり、地上には紙巻煙草よりも細いネギのような葉を伸ばし、親指の爪ほどの大きさで玉ねぎのような白い球根があるのが特徴。



「いただきます。」

「はいどーぞ召し上がれ!」


 食堂の中を忙しそうに歩きまわるクルネデソナリに歓迎されつつ、俺はノビルの酢和えへとフォークを差し込んだ。まずは球根を一口、茹でて弱くなったとはいえたっぷりと口の中へヒリヒリとしたネギ臭が広がる。これが雑草とはね。いや、野草か。


 彼らは難民時代これを食べていたが妙に気に入ったのかこれを栽培する畑が存在する。確かにこの辛味はビールが合う気がする。ついでに酢じゃなくて味噌ならなお良かったと思うのだが、大豆から作る味噌はこの世界には無いんだよ、文化汚染しちゃおうかな。


 食欲増進の辛味はともかく、口の中のリセットも兼ねて炭酸水を一口ゴクリ。弱いな、結構弱い。現代で市販されている炭酸水は口の中から喉の奥までグワァーッ!とシュワシュワ感が一気に広がるが、こちらはC○レモン並に弱い。ヒリヒリしたりむせたりしない分飲みやすいといえば飲みやすいが、炭酸はもっと強いほうが好きだな。


 そしてグラタンへ、スプーンをつっこんでみるとグリルドチーズがパリッと割れる感覚も無く無抵抗でグラタン皿の底を突いた。これは時代が時代なのでチーズたっぷりというわけでもなく、マカロニが入っているということも無いんだ、しょうがないね。だが、スプーンですくって取り上げられた鳥肉はぶつ切りゴロゴロ系。力仕事ばかりのドワーフ相手にここまで登ってきた旅人相手の食堂だ、こうでなくっちゃね。


 ぶつ切り系鳥肉を一口。


「はふっあちゅっ。」


 ここのはオーブンまで大火力、中までしっかり火が通ったバッチリプリプリ鳥肉だ。ちょっと予想以上に熱くて舌ベロをやけどしてしまったがそれはしょうがない、グラタンだしな。俺はガーリック・ナンを鷲掴みするとまずは半分にぶちリとちぎり、もう半分をばりっとちぎった。そしてグラタンのペシャメルネソースにこれをひたし、軽くすくって持ち上げ、ナンの上に乗っかったソースを転がすようにグラタン皿の上で揺らして少し冷やす。そしてパクリと一口。濃厚なミルクの味と小麦の味、そして遅れてきたのはガーリック。ニンニクのせいかちょっと曲がり角で衝突した感はあるが相性はさほど悪く無い。


 余韻を残しつつさらにグラタンからゴロゴロ転がりそうなジャガイモを1つ掬いあげ、ナンの上にのせて冷やすとパクリともう一口。


「ほふっほふっ。」


 グッドです。完璧に芋の味。次は塩を振りかけようかな。軽くリセットの気持ちでノビルの葉の和物を口の中へ、ネギ臭く、酢の味ばかりでどことなくヌタを思い出す仕上がりだ。球根のほうがやっぱり好きだな。炭酸水飲もう。


「どうも酒の肴を飯と勘違いしているドワーフが多いのがここの問題なんだよな……。」


 誰にも聞こえないよう呟き──視界の端で白くて長い耳を持つ兎人が俺のほうに顔を向け片手の親指を上げて頷いているのが見えた──特に何もせずナンをひとかじり。ニンニクと麦の味がする。出来ればもう少しバターが効いているとモアバターって感じなのだが、バターという奴はとにかく暑い所とは相性が悪い。この付近は地下工房なども存在するせいで気温が普通より高く、バターの保管には向いていないんだ。輸送もしやすいチーズが好まれている。


 かといってチーズが豊富ってわけでもない、手間もかかるし乳製品は大抵高価だからね。ほんのりとチーズ風味のグラタンソースを口の中にスプーンで運び込み、悪くないとぷち満足。もう一度ソースをすくいあげると玉ねぎの破片に、また鳥肉。まとめて食べると口の中に牛乳を用いたペシャメルネソース特有の甘みと香ばしさが広がるが、ちょいとパンチが足りない。もごもごとスプーンが往復させている時に塩コショウの存在を思い出した。


 俺はノビルの球根を口の中へ放り込み、ねぎねぎしているソレを噛み砕きながらテーブルに置かれたペッパーミルと岩塩のミルを手元に寄せると、四分の一は残っているグラタン全体へまばらにかかるようにミルを回して中に入っている乾燥胡椒や岩塩の塊をすり潰してかけてやった。


 胡椒はこの近くで生産されているため、俺の世界であった昔の欧州のように莫大な輸送費と人権費がかかるようなことは無い、お手軽で安価な香辛料として扱われている。


 塩コショウをかけたグラタンを軽くスプーンでかき混ぜると、一口分のソースと玉ねぎの破片を放り込む。塩をかけたことにより少々甘みが増したが、ナンにつけて食べる分には悪くない塩っ気だ。ナンをスプーンに見立てて鳥肉の塊をすくい、ナンごと食べる。悪くない。


 ナンをもうひとすくいと行きたいところだが、問題発生だ。もう一切れしか残っていない。今からナンを1枚頼むのは腹具合にも残ったグラタン的にもよろしくない。となるとこれは、ごちそうさまだな。ノビルの和え物をガッと口の中に放り込み咀嚼し、15回ぐらい噛んで満足したら腹の中へ。後はナンをソースの中に放り込み、スプーンで適当にかき混ぜてやったら、飢えた犬のようにガツガツとかっこんだ。


 そして、余韻を全てそそぐように炭酸水のグラスを鼻よりも高い位置へ持ち上げ全て流し込んだ。


「ゲェップ……ごちそうさまでした。」


 またな、とクルネデソナリに挨拶をして俺は食堂を出ると、正面からオラタデエスアが歩いてくるのが見えた。


「おお、タロー!商品は全部積み込んだよ!」

「ありがとう、クルネデソナリ。悪いね。」

「いいってことさ、なんたってあんたはお得意様なんだからな!ところで……一体どこの暴れん坊の王様があんなものを欲しがるんだい?」

「いろいろな場所の人が俺の商品を求めてるのさ、今日はありがとう、クルネデソナリ。」

「あぁ!わかったよタロー!あんたの仕事は深く詮索しないさ!」


 やれやれという髭面を見せた男ドワーフとハグをして別れの挨拶をし、俺は馬車へと乗り込みさっさとこの世界からおさらばだ。


「ははは……言えるわけないよな、別世界の300人のゴブリン達がドワーフの要塞を襲って奪いたいから投石用の弾が大量に欲しいだなんてさ。」


 そう独り言ちるのを特に気にすることもなく馬車はドワーフの町を出発した。次の目的地は芸術の都パノラパ行きのポータルさ。

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