第四十九話 ポータル港で生湯葉ときのこ汁
よろしくお願いします
ヒューマン、エルフ、ドワーフ、オーク、ゴブリン、コボルト、ケンタウロス、ドリアード、スキュラ、ラミア、サイボーグ、ロボット、珪素生物、歩く岩、トレント、アリビト、ミツバチビト、タライに入った人魚(車いすのように)、半魚人、アラクネ、ミノタウロス……。猫耳と人間耳が2つずつ頭部に備わった耳が4つある奇妙な獣人なんかも居る。
ここはポータル港の巨大な通路、俺の頭上には[ハイファンタジー・ロウファンタジー方面]と書かれた案内看板がずらっと吊るさがり、ときおり風が吹くわけも無いのにぷらぷらと揺れている。エアコンがあるから当然だった。
思えば、遠くまで来たものだ。そしてこんなに近くて遠い場所もそうそう無いだろう。5秒で東京駅のど真ん中出ることだって可能なポータル港は不思議なところだ。
「行きますか。」
片手に持っていた世界樹ティーの缶をアルミ缶用のゴミ箱へ丁寧に放り込み、足元に置いておいたおもーい麻袋を背負い、ベンチから立ち上がった。
灰色の通路と申し訳程度に点在する緑の観葉植物、そして紺色の女性のような何かが立ち並ぶ広い通路を歩いて行き、俺は駅エリアから大きなデパートの地下街のような場所へと移動していた。目的地はテナントエリア。来週開店予定のお店へこの大荷物さんを運ぶのだ。
俺の正面に広がるテナントエリアは広い。モ●バーガーのようなチェーン店から定食屋まで揃っているのが地下街でありながら町並みを思い起こすつくりになっているのが不思議だが、ポータル側は一切管理する気は無いらしい。おかげで居酒屋の横にシュークリーム専門店とかあったりして反応に困る。
そんなごたまぜのテナントエリアに入って20分ほどは歩いただろうか、ようやく目的の建物──レストラン……居酒屋……酒場かな?──が見えてきた。名は[リーンシェイマ]。太陽光発電をするエルフの族長の娘はとうとうここに店を構えてしまった。
第四十九話 生湯葉ときのこ汁
「よっ……おっ……?」
建物のガラス戸を肩で押し開け、中には入ろうとしたら麻袋が詰まった。
「ニカール!これまずいよ!アラクネや車たらいの人魚が入れない!」
「大型用出入り口はあっちよ。」
「あっ、本当だ……。」
仕切り直しである。俺はガラスに木製の取っ手がついたドアから離れ、大きなドアのほうへと3歩ほど動いて今度こそ入場に成功した。
テナントの中は木製の酒場といった感じだろうか。コツコツと無味乾燥な音を立てていたポータルの通路から一転、全て木の板張りの床は歩くたびに軽くきしみ、あたたかみと不安定さを醸し出している。そして、テーブルは無い。全て靴を脱いで畳へ座るお座敷スタイルである。まさかの和風テイスト。
「内装を見るのは初めてだったけど、まさか和風でくるとは……。」
「いろいろ調べてみたんだけど、ゲン・タロの母世界の古式ゆかしいスタイルが新しくって、空気が良かったのよね。ほら、このタタ・ミの匂いが良いでしょ。こんな息苦しいポータル港でありながら草原を思わせる匂いがするじゃない?」
「まぁいぐさの匂いは俺も懐かしくなるからいいんだが……和風系の店はポータルに結構あるんだよな。差別化は大丈夫か。」
「大丈夫よ、お手軽な大衆食堂を目指してますし、珍しい食品も手に入りやすいですから、ね?ゲン・タロ」
俺はキラキラ光るどす黒い眼差しに耐え切れず、目をそらして麻袋の中身を持ちだした。
「そうだな、今回も頼まれてた蜜蝋の蝋燭を持ってきたよ。」
「やった、ありがとうね!真っ白の蝋燭でも良かったんだけど、やっぱりこれが一番だから。」
そういって彼女は黄色がかった白い太い、コーヒーの缶ほどの太さはある蝋燭を一本手に取り、オイルライターを懐から取り出して蝋燭に火をつけた。
薄暗かった店内に金髪のエルフの顔が蝋燭の火で浮かび上がる。彼女は非常に満足そうな顔をしておられる。
「わざわざ、蝋燭を使わなくても良いと思うんだけどな。LED電球でいいじゃないか。」
「あれはねぇ……明るすぎるのよ。足元がギリギリ見えるかどうかの薄暗さが良いのよ。それにこうやって蝋燭で手元を光らせるのはとてもロマンチックだし、見えにくいから周囲を気にせず集中出来ると思わない?」
「蝋燭のあたたかみか……あまり意識したことは無かったな。」
「試してみる?メニューの試作品がいくつかにお酒があるわよ。」
「ぜひ、お願いするよ。」
「すぐ持ってくるから待っててね。あ、はい蝋燭。」
ニカールはパタパタと店の奥へ走っていった。俺は靴を脱ぐ前に、蝋が零れそうになっている蝋燭を慎重に運び、座敷の上にある銀製の蝋燭置きへ蝋燭をぶっさして固定した。
そして、靴を脱ぎ、50cmほどの段差を乗り越えて畳の上にあぐらをかいて座った。仕切りで隔てられている座敷の広さは4畳分といったところだろうか。テーブルやちゃぶ台の類が無いのは準備中ではなく、大型亜人を想定してのことだろう。それでもラミアが2人入るにはちょっと狭いかな。
銀製の蝋燭立ては見事なミントの細工が掘られたいわゆる皿燭台と呼ばれる平たい皿のようなものである。ゆらゆらと揺れる火は俺からすれば特に珍しいものでもない。毎回仕事のたびに世話になっているのだからな。ただ、ポータルじゃ確かに基本は電気による光なので珍しいといえば珍しい。
座敷席は多分6箇所。カウンターはあって、椅子は無いのだが、ポータル港のテナントはカウンター席が基本なのでおそらくまだ用意出来ていないのだろう。
そんなことを考えていたらパタパタとニカールがお盆の上に赤く塗られた膳と、小さな土鍋と魔法石、魔法石が収まる卓上マジックコンロに小皿と醤油差しを持ってきた。
「はい、まずはこれー。」
そう言いながら彼女は横に45cm、縦に30cmほどの膳を俺の前に置き、卓上マジックコンロの上に一人用土鍋をセットして蓋をあけて見せた。
・生湯葉
豆乳をグツグツと煮込むと表面に膜が出来る。これが湯葉である。今回は鍋とコンロつきなので出来立て湯葉を食べることが出来る。マジックコンロに使われている魔法石は魔力を流しこむことで火力と発熱時間を調節可能な便利な品。
「へぇ、湯葉?」
「ゲン・タロの伝統料理よね。」
「合ってるけどどこか間違ってるような……。よくあることか。」
「よくあることね。お酒を持ってくるわー。」
パタパタと奥へ向かうニカールを見ながらカセットコンロのようなマジックコンロへ手を近づけてみる。コンロにはすでに魔力が通っているらしく、温かい。
「はい次これー!じしんさくっ!リーンシェイマ・モヒートよ!」
・リーンシェイマ・モヒート
モヒートはラム・ソーダ水・ライム・ミントの葉を混ぜて作るカクテル。リーンシェイマ部分はミントの葉が多いのと、緑色のペースト状のナニカがグラスの底に沈んでいるという問題点である。グラスのほうは青みがかった色のガラス製タンブラー。
「ミントかな?」
「ミントね。」
思わず苦笑いしてしまいながら、このモヒートを手にとった。グラスが青く底は緑なのでわかりにくいが、中は透明だろう。3枚も入っているミントの葉が少々邪魔なのが難点か。
そしてモヒートのグラスを傾け、一口……。やや苦味混じりの酸味と炭酸水にそこはかとなく現れるミント臭。ミント臭。モヒートの割にミント臭強いな?普通はライムかラムの味が強い炭酸水になると思うんだけど。
「コレ、ミントが強くないか?」
「実はねー、底に沈んでる緑のペースト、ミントシュガーっていう新種のミントなのよ。その葉っぱを噛んでみて?甘いわよ。」
「へぇ?」
そう言われたなら噛んでみるしかないだろう。3枚浮いている一枚を口の中へ吸い込んで迎え入れ、噛んでみた。確かに甘い……。サトウキビを丸かじりした時と同じ程度には甘い。
「確かに甘い……ってことはこれ、かき混ぜればもっと甘みのあるモヒートになるのか。」
「ミント臭くなるのが欠点ってところね。」
「ただ……これならミントのリキュールというか、ミントシュガーを使ったお酒があるんじゃないか?」
「多分あると思うんだけど……エルフが居ない世界だから私は直接行けなかったのよね、このペーストは異世界業務スーパーの冷凍品だし。だからちょっと行ってきてもらえない?」
「後で世界の名前も頼むよ……。」
「あ、ほら、湯葉ちょうどいいわよ。私、もう一品取りに行ってくるわ。」
彼女はパタパタと麻のワンピースのスカートを揺らしながらまた奥へと引っ込んでいった。
さて、湯葉か。俺は膳に添えられていた箸を手に取り、土鍋の真ん中に箸を差し込み、表面を掴んだ。あまりに手応えが無いので掴めたか心配だったが、箸を上げると大豆色の膜が山のように盛り上がって現れた。俺は左手で小皿を取り、べろんと現れた生の湯葉を小皿の上に載せた。
重力で折りたたまれた湯葉からはだし汁がこぼれるかのように材料の豆乳が染み出している。箸で切ろうと思っても湯葉はそう簡単に切れるもんじゃないのでこのハンカチみたいな湯葉は直接噛みつくしか無いな。
俺は醤油もつけず、湯葉を一口かじった。くにゃくにゃとしていて、それでいて絹のハンカチのような舌触り。味のほうは完全に豆乳の大豆味である。大豆味、つまり豆腐味。となれば次は醤油をかけるべきだろう。軽く小皿の中を一回しした後、もう一度俺は湯葉をまるごと口の中へ放り込んだ。
大豆の味とぺるんとした奇妙な食感に大豆で作った醤油の味が良く合っている。というか今口の中にあるもの全部大豆由来だった。
そしてもう一度、土鍋に箸を突っ込んだ。もう豆乳の表面には膜がはっていて、湯葉が出来ている。ほかほか温かい豆乳が滴る生湯葉を小皿に載せ、醤油を回してさばきたての刺し身を食べるかのような心持ちで生湯葉をまた口の中いっぱいに頬張った。
「うん……うまい。」
さらにモヒートのグラスを傾けて一口こくんと飲んだ。ミント臭がちょっと合わないなぁこれ。ミントが無ければむしろベストだった。
湯葉をさらっては醤油で食べを2回ほど繰り返すと、パタパタと足音がし、今度はお椀と小皿を手に持ってニカールがやってきた。
「どう?生湯葉。ゲン・タロ達が日本人っていうから用意してみたんだけど。」
「懐かしい味がするよ、ポータル受けはちょっと厳しいかもしれないけどね。」
「見た目は面白いし、エルフ向けにならなんとかなるんじゃないかなぁって、ほら、醤油以外の味も用意したのよ。」
そういって彼女が膳の上に置いたのは赤に細い緑の物体が混じった物だった。細葱……いや、ニラかな?
・ニラダレ
刻んだニラを唐辛子やニンニク、その他調味料を混ぜあわせたものと和えて、一晩置いて作ったタレ。本来はご飯や肉に載せて食べるものだが冷奴などにも問題無く合う。
「ニカール特製ニラダレです!ミントは入ってないわよ。これを湯葉で包んで食べるとおいしーのよ。」
「へぇ、じゃ早速。」
湯葉を土鍋からまた回収し、今度はぺろぺろの湯葉に赤く輝くニラを包み込み、口の中へ入れてみた。湯葉の豆乳の優しい味がした後に噛むと、濃厚なニラの香りが爆発した。強烈な辛味が舌を引き裂き、ニラ独特の臭気が鼻から溢れだしている。二度、三度と噛むとニラダレは湯葉と絡み合い緩和されていく……。
「これ、自家製のニラダレ?ご飯が欲しくなるんだけど。」
「そうよーでも今ご飯は炊いてないなー。ざんねーん。」
「美味しいよ、これ。」
「でしょでしょ。それで今回のじしんさくっパート2もどうぞ!」
そういってニカールが差し出してきたお椀の蓋が開かれると、ベージュ色のスープだった。味噌汁だ。しかも中には具材がたっぷりである。
・きのこ汁
しいたけ、しめじ、まいたけ、レインボーベネディクトの四種のきのこに加え、ごぼう、さつまいも、油揚げの入った美味しいお味噌汁。なお、レインボーベネディクトとは虹の根元でのみ生育可能なキノコと言われており、滝の側面や滝の裏側で栽培する方法がベネディクト氏によって開発されたという意味のキノコである。
「普通のお味噌汁と思いきや、ミラーボールのように輝いている異質なものがあるんだけど……。」
「レインボーベネディクトっていうキノコよ。ベニパルマ大陸のドワーフが栽培している不思議な光るキノコなの!見た目は異質だけど、美味しいわよ?」
本当に?と言いたくなるが、170歳児の屈託のない笑顔に有無を言わさず飲めと意思表示されてしまった。飲むしかないのだろう。味噌汁を口元へ持って行き、まずは香りを確認する。……煮込みキノコの香りがする。土臭くないけど土臭いキノコの香りだ。まずは一口、汁をすすってみる。
「ずずっ……。ぷは。」
きのこ汁って染みるよなぁ。しかもこれ、さつまいもが入っているせいか妙に甘みを感じる。まいたけ、煮こまれていると臭みが薄まってぷにコリ感が楽しいんだ。
問題は、キラキラ光り輝くレインボーベネディクトである。切り離して、煮こまれてなお輝くマッシュルーム……。それが切られることなく、丸のママ入っている。見た目は本当に光り輝く白マッシュルーム。
そっと箸で口の中へ滑りこませた。この時点で特に変化はない。噛むと、ゴムみたいな弾力で歯が弾き返される。もう1回。もう1回……。固くて噛み千切れ無いんだけどこれ。噛むたびにしいたけのだし汁より濃厚なきのこ味がするのは問題無いんだけど、飲み込むタイミングにこまるぞ。
「レインボーベネディクトってね。硬いんだって。」
「しっふぇる。」
「実はね?包丁で切れなかったの。しょうがないかって思って丸のママ放り込んだんだけどどう?単分子包丁買ったほうがいいかな?」
「きっふぇもかみちぎれないから意味ないんひゃないか?」
幸い、サイズはそれほどでもない。まるでガムのように何度か噛み続けたが、諦めて味噌汁と一緒に飲み込んだ。
「これ、本当に食べ物なのか?」
「みたいよ?噛みタバコみたいにはむはむ噛んで、飲み込むんだって。100回噛むと柔らかくなって食べられるとか……。」
「もうちょっと調理法を確立した物を出すべきだと思うよ?」
「結構美味しいじゃない?あのキノコ。」
「まぁ、味のほうは悪くないけど、食べるのが面倒だよ……。」
「もー、これだから100歳も超えてない若造は。すぐ面倒とか言っちゃう。」
「エルフと比べると生き急がないと時間が足りないんだよ。」
ごぼう、シャキシャキした食感がふんにゃり気味のきのこ汁に活力を与えてくれる。ずずりと味噌汁を吸い込み皮付きさつまいももついでに口の中へ。炭水化物も入っているんだなぁ。これで肉があれば完璧な汁だが、あぶらげをしにゃしにゃと頂いておく。
そして、ふと湯葉のことを思い出した。箸ですくい取り……きのこ汁にin!大豆色がきのこ汁に広がっていく。
「湯葉入り味噌汁って……美味しいの?」
「豆腐みたいなものだしな。あ、豆腐はわかる?」
「畑の肉の使い方はこっちに来てから調べられるだけ調べたからもちろん。」
「そういや、肉、無いよね?本格的に店が始まったら出すの?」
「ううん、出さないわ。エルフのお墨付き、究極のベジタリアン居酒屋をするのよ。エルフだしそれっぽいでしょ?」
「確かにそれっぽい。」
きのこ汁の中に放り込んだ湯葉も馴染んだことだろう、軽く箸を回してキノコに湯葉を巻きつけ、湯葉をまるごとバクリと食べた。湯葉って本当に大豆の味しかしないからなぁ。この絹みたいな妙な食感がくせになるんだ。くにゅぷりというか、こりこりというか……。
モヒートを手に取り、軽くマドラーでかき混ぜてミントシュガーのペーストを浮かせ、そのまま飲んでみた。ライムの味は弱まり、甘みとミントの強い酒が出来上がっている。
「結局、ミントに戻ってきたんだな。」
「最近は肉食もやめちゃった。目新しい物はあっても自分のルーツからはなかなか離れられないみたいね。」
「あぁ、すごいわかる。この豆乳、いちいち作ってるのか?」
「ううん、別のテナントで大豆屋さんがあって、そこの豆乳を使ってるのよ。」
「へぇ……豆腐屋じゃなくて、大豆屋?」
「そ、大豆屋。豆腐にナトーとか、そういうのも扱ってるけど大豆の油に大豆の化粧水とか。そういうのを扱ってるのよ。」
「わざわざポータルでそういうのを売るのか……。」
「結構、繁盛してるみたいよ。主要な客はやっぱりエルフだけどね。」
「畑の肉さまさまだな。そういや、村のほうで出してたソイミートは使わないのか?」
「良いどんぐりがなかなか見つからないのよー。業務スーパーの剥きどんぐりは微妙に質が悪くてお客さんに出すのは難しそうだし。」
「そういやつなぎに使ってたっけ……どんぐりなぁ。どこかあったかなぁ。」
「そういうリスがいっぱいいる世界があったら教えてね。」
「あぁ、そうする。」
自分のルーツからは離れられない。本当にそうだと思う。異世界には本当に様々な世界がある。未来にだって行けるポータル港では様々な文化と食卓に触れることが出来るんだ。世界樹の実だって食べられるし、ドラゴンのステーキだって食べられる。やろうと思えば不老不死の薬だって飲めるだろう。SF映画でしか見たことのないような奇妙な保存食だって食べられる。
だけど、俺は戻ってきちゃうんだ。白米、きゅうりのぬか漬け、もやしと豆腐のお味噌汁に、焼いた白はんぺん、カリカリのベーコン。戻ってきちゃうんだよな。異世界より、日常の食事のほうがありがたくて、大好きなんだ。
「そういえばミントシュガーだけど、これだけ甘いならミントシュガー単体でお酒が作られているかもな。」
「ミントのお酒……全てがミントか。いいわねぇそれ。ミントエールだとか、ミント100%のリキュールかぁ。もしあったら実家にお土産でもって帰れないのが悲しくなるぐらい美味しそうな気がするわ。それもあったらお願いね。」
「あぁ、探してくるよ。ついでにミントシュガーを生成した砂糖の類もあるだろうなぁ。」
「あーあ、エルフ禁止の世界に限ってこういうお宝があるんだもんね!」
「ついてないな、ほんと。」
「そういえば、ミントの蝋燭って無いのかしら。」
「空気までミントにする気かい?」
「どうせならそうしたいわ。うちの村はもうずっとミントだったからね……。」
「うーん、アロマキャンドルやミントの香油を加湿器に突っ込むって手法はあるが……。」
「あぁ、加湿器って手があったわね。5ブロック先に香油を扱う店があるからそこで買えばいいわねー。」
「改めて、ポータル港にはどんな店でもあるよなぁ……ちょっとした町だ。」
「ここに無い店なんてあるかしら。ほとんどのサービスはあるし、教会もあるわよね。」
「全身が灰になっても復活出来るからな、復活した時はちょっと腕がピリピリして痛むけど。」
「やだそれ、体に悪そうねー。」
「あんまり好き好んでやるものじゃあないね。」
俺達は軽く笑った。俺はまた湯葉をすくい取り、ニラダレをつけて食べ、きのこ汁で辛味を緩和する。ご飯、絶対に扱ってほしい。
「で、ゲン・タロ。異世界で様々なご飯を食べているあなたからして、どんな感じでしょーか。」
「この店?ミント押しがちょっと強い以外は良いよ。」
またグイっとモヒートを飲んだ。ミントが強い。
「難しいわねぇ。あ、そうそう。ミントアイスとかもあるのよ。新作ジャヌサもね。どうせだし全部試してもらうわよー。」
「アイスはともかくジャヌサはもう勘弁してくれ……。」
「美味しいわよ?毎日朝1杯のジャヌサは健康に良いしね!ミントの力が体内に循環して、悪い物を押し流す力があってね……。」
「もうそれは何度も聞いたって……。」
アハハと笑顔で彼女は笑い、俺は湯葉をまた食べた。湯葉用の豆乳もほとんど無くなったようだし、きのこ汁もフィニッシュとばかりに俺はガッと飲み干した。
「じゃ、明日ミントシュガーの世界に行ってみるよ。」
「お願いね、ゲン・タロ。来週の開店記念にはお友達もよろしくお願いしまーす。」
「あぁ、呼べるだけ連れてくるよ。」
不思議な和風ミント空間のガラス戸をくぐると、無機質な灰色の世界に逆戻りだ。先程まで軽く足の沈んだ感覚のあった床は素足でもタップダンスでも出来そうなほどの硬い床になっている。
「もう少し、人間味のある世界にすりゃいいのにな。」
エルフ、ドワーフ、オーク、ゴブリン、コボルト、ケンタウロス、ドリアード、スキュラ、ラミア、サイボーグ、ロボット、珪素生物、歩く岩、トレント、アリビト、ミツバチビト、タライに入った人魚(車いすのように)、半魚人、アラクネ、ミノタウロスに獣人、そういった人達が目の前を通り過ぎていく。
そこにヒューマンもまじりポータルのよくある光景へと俺は溶けこんだ。
さぁて、オフィスに戻ったら明日向かうミントシュガーの世界を調べようかな、エルフは居ないとのことだが、果たしてどんな食べ物が俺を待っているのか、割りと楽しみだ。
今まで閲覧していただきありがとうございました
あとがき:
少々縛りを用意しすぎた気がするのとNARUT●の話を思い出したのでそのうちこっそり主人公だけ変えてまた同じような話をやると思います。
なお、50話の投下は未定です。やる気になったら書きます。




